海外に住む人へ日本から支払をするとき、支払う側が所得税を天引きして国に納めます。忘れると、払った側が追徴を受けます。
誰が義務を負うか
所得税法第212条第1項。条見出しは「(源泉徴収義務)」です。
非居住者に対し国内において第百六十一条第一項第四号から第十六号まで(国内源泉所得)に掲げる国内源泉所得(政令で定めるものを除く。)の支払をする者又は外国法人に対し国内において同項第四号から第十一号まで若しくは第十三号から第十六号までに掲げる国内源泉所得(第180条第1項又は第180条の2第1項若しくは第2項の規定に該当するもの及び政令で定めるものを除く。)の支払をする者は、その支払の際、これらの国内源泉所得について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。
「支払をする者」です。受け取る側ではありません。支払った側が納税義務を負います。
非居住者と外国法人で、対象の号が違います。
| 相手 | 対象となる国内源泉所得 |
|---|---|
| 非居住者 | 161条1項4号から16号まで |
| 外国法人 | 161条1項4号から11号まで、及び13号から16号まで |
外国法人には12号(給与・報酬・年金等)が入っていません。法人に給与は発生しないからです。そして外国法人については、180条1項(恒久的施設を有する外国法人の証明書がある場合)等に該当するものが除かれます。
国外で支払っても、納める(2項)
前項に規定する国内源泉所得の支払が国外において行われる場合において、その支払をする者が国内に住所若しくは居所を有し、又は国内に事務所、事業所その他これらに準ずるものを有するときは、その者が当該国内源泉所得を国内において支払うものとみなして、同項の規定を適用する。この場合において、同項中「翌月十日まで」とあるのは、「翌月末日まで」とする。
海外の銀行口座から海外の口座へ振り込んでも、支払者が日本に拠点を持っていれば源泉徴収義務があります。
そして納期限だけが変わります。翌月10日 → 翌月末日。義務がなくなるのではなく、期限が延びるだけです。
税率は3段階(213条1項)
条見出しは「(徴収税額)」です。
一 前条第一項に規定する国内源泉所得(次号及び第三号に掲げるものを除く。) その金額(……)に百分の二十の税率を乗じて計算した金額
二 第161条第1項第五号に掲げる国内源泉所得 その金額に百分の十の税率を乗じて計算した金額
三 第161条第1項第八号及び第十五号に掲げる国内源泉所得 その金額に百分の十五の税率を乗じて計算した金額
2026年中に生ずる所得については、復興特別所得税が上乗せされます。復興財確法第28条第1項・第2項の改正前の規定です。
前項の規定により徴収すべき復興特別所得税の額は、……所得税の額……に百分の二・一の税率を乗じて計算した金額とする。
2.1%は所得税額に対して乗じます。支払額に対してではありません。だから 20% × 1.021 = 20.42% になります。付加税の内訳は2027年から変わりますが、合計税率は同じです(後述)。
| 所得税法の税率 | 対象(161条1項の号) | 付加税を含む税率 |
|---|---|---|
| 15%(3号) | 利子等(8号)、給付補塡金・利息・利益・差益(15号) | 15.315% |
| 10%(2号) | 土地建物等の譲渡対価(5号) | 10.21% |
| 20%(1号) | 上記以外のすべて | 20.42% |
1号は「次号及び第三号に掲げるものを除く」という受け皿です。5号・8号・15号以外は、すべて20.42%になります。
| 号 | 内容 | 税率 |
|---|---|---|
| 6号 | 人的役務の提供を主たる内容とする事業の対価 | 20.42% |
| 7号 | 国内不動産等の貸付けによる対価 | 20.42% |
| 9号 | 配当等 | 20.42%(上場株式等は措置法の特例あり) |
| 10号 | 貸付金の利子 | 20.42% |
| 11号 | 使用料(工業所有権・著作権等) | 20.42% |
| 12号イ | 給与・報酬 | 20.42% |
| 12号ハ | 退職手当等 | 20.42% |
| 8号 | 利子等(国債・地方債・内国法人の債券の利子等) | 15.315% |
| 15号 | 給付補塡金・利息・利益・差益 | 15.315% |
「利子」で一括りにできません。8号の利子等(債券の利子など)は15.315%、10号の貸付金の利子は20.42%です。同じ「利子」という言葉で、税率が違います。
人的役務の提供を主たる内容とする事業の対価は6号で、20.42%です。8号ではありません。
上の表に現れない号も、すべて20.42%側です。4号(組合契約事業から生ずる利益の配分)、12号ロ(公的年金等)、13号(広告宣伝の賞金)、14号(保険年金)、16号(匿名組合契約に基づく利益の分配)。このうち12号ロ・13号・14号は、次に述べる控除をした残額が計算の基礎になります。
「非居住者は全部20.42%」ではありませんが、多くは20.42%です。
ただし「所得税法の中だけを見れば」という限定が付きます。所得税法213条1項で下がるのは5号・8号・15号だけですが、この外に2つのルートがあります。
① 措置法の特例。租税特別措置法第9条の3(上場株式等の配当等に係る源泉徴収税率等の特例)は、一定の配当等について「……第二百十三条第一項第一号……の規定に規定する百分の二十の税率は、百分の十五の税率とする」と定めています。上場株式等の配当等は15.315%です。
ただし1号には限定があります。「その内国法人の発行済株式又は出資の総数又は総額の百分の三以上に相当する数又は金額の株式又は出資を有する個人(……「大口株主等」という。)以外の者が支払を受けるもの」。3%以上を持つ個人は、この特例から外れます。
② 租税条約。後述します。
なお1号には控除の括弧書きがあり、年金(12号ロ)は支払われる年金の額から5万円×月数を控除、賞金(13号)は50万円を控除、保険年金(14号)は対応する保険料等を控除した残額が基礎になります。
復興特別所得税には期限がある
2026年度改正後の復興財確法28条1項の括弧書きです。2027年1月1日以後に生ずる所得に対する所得税に適用されます。
その徴収(平成二十五年一月一日から令和二十九年十二月三十一日までの間に行うべきものに限る。)の際
復興特別所得税の課税期間は、令和29年(2047年)12月31日までに10年間延長されます。2027年1月1日以後に生ずる所得に対する所得税には、復興特別所得税1.1%と防衛特別所得税1%が上乗せされます。合計は所得税額の2.1%で変わらないため、20.42%・10.21%・15.315%という合計税率はそのままです。
租税条約があれば税率が下がる
国内法の20.42%が、そのまま最終ではありません。租税条約に限度税率の定めがあれば、条約が優先します。ただし条約の適用を受けるには、原則として「租税条約に関する届出書」の提出が必要です。
届出書がなければ、国内法の税率で徴収します。後から還付を受ける手続はありますが、まず支払前に相手方から届出書を受け取る段取りが要ります。
忘れるとどうなるか
源泉徴収は、支払った側の義務です。天引きを忘れて満額を送金してしまった場合でも、納付義務は消えません。支払者が自腹で納付し、相手方に求償するという流れになります。
さらに不納付加算税と延滞税がかかります。海外送金は金額が大きいことが多く、率が低くても実額は膨らみます。
実務で迷いが生じるところ
- 海外の口座に振り込むだけでも義務があるか。212条2項により、支払者が国内に拠点を持てば義務があります(納期限は翌月末日)
- 税率はいつも20.42%か。土地建物等の譲渡対価(5号)は10.21%、利子等(8号)と給付補塡金等(15号)は15.315%です。それ以外は20.42%です
- 人的役務提供事業の対価は。6号で、20.42%です
- 退職手当等は。12号ハで、20.42%です
- 「利子」はどちらか。8号の利子等は15.315%、10号の貸付金の利子は20.42%です
- 付加税は支払額に乗じるのか。所得税額に乗じます。2027年からは復興特別所得税1.1%と防衛特別所得税1%となり、合計2.1%は変わりません
- 条約で下がるのではないか。届出書の提出が前提です
- 相手が外国法人のとき。12号(給与等)は対象外で、180条1項の証明書がある場合等も除かれます
- 天引きを忘れて満額送ってしまいました。納付義務は残ります。加算税と延滞税もかかります
海外への支払は、契約書を作る段階で税率と届出書の段取りを決めておくのが安全です。送金してから気づくと、相手方から回収できないことがあります。海外への使用料・報酬・不動産代金の支払をご予定であれば、契約前にご相談ください。
根拠条文
- 所得税法第212条(源泉徴収義務)第1項・第2項
- 所得税法第213条(徴収税額)第1項各号
- 所得税法第161条第1項第4号〜第16号(国内源泉所得)
- 所得税法第180条第1項(恒久的施設を有する外国法人の受ける国内源泉所得に係る課税の特例)
- 租税特別措置法第9条の3(上場株式等の配当等に係る源泉徴収税率等の特例)第1号
- 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法第28条第1項・第2項
- 我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法第5条の26第1項・第2項(2027年1月1日施行)
租税条約の限度税率と届出書の手続、212条1項の括弧書きが除く「政令で定めるもの」の内容、措置法第9条の3第2号〜第4号の内容、加算税・延滞税の計算は本稿では扱っていません。個別の判定には支払の内容と相手方の居住地国の確認が必要です。
本稿は2026年9月7日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。










