非居住者が日本の会社の株式を売ったとき、日本で課税されるのか。原則として課税されないが、条文が列挙する場合には課税されるという構造になっています。
海外移住後に自社株を売る、あるいは海外投資家に株式を譲渡する場面で、最初に確認する条文です。
どの条文を見るか
株式の譲渡による所得は、所得税法第161条第1項第3号の「国内にある資産の譲渡により生ずる所得として政令で定めるもの」に当たるかどうかで決まります。
その政令が、所得税法施行令第281条です。同条第1項は8つの号を挙げており、株式の譲渡が入るのは主に第4号と第5号です。
第4号 ── 事業譲渡類似の株式譲渡
四 内国法人の発行する株式……の譲渡……による所得で次に掲げるもの
イ 同一銘柄の内国法人の株式等の買集めをし、その所有者である地位を利用して、当該株式等をその内国法人若しくはその特殊関係者に対し、又はこれらの者若しくはその依頼する者のあつせんにより譲渡をすることによる所得
ロ 内国法人の特殊関係株主等である非居住者が行うその内国法人の株式等の譲渡による所得
ロの範囲は、同条第6項が2つの要件で絞っています。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 保有割合(6項1号) | 譲渡年以前3年内のいずれかの時において、特殊関係株主等が発行済株式等の25%以上を所有していたこと |
| 譲渡割合(6項2号) | 譲渡年において、特殊関係株主等が最初に譲渡をする直前の発行済株式等の5%以上を譲渡すること |
両方を満たした場合に限られます。いわゆる事業譲渡類似株式の譲渡と呼ばれます。
ただし同条第7項に、みなし規定があります。分割型分割、株式分配、資本の払戻し等について、条文の定める割合が5%以上となるときは、上の第2号の要件を満たす譲渡をしたものとして第6項を適用する、というものです。通常の売却をしていなくても第2号の要件を満たしたことになる場合があります。
第5号 ── 不動産関連法人の株式
五 法人(不動産関連法人に限る。)の株式……の譲渡による所得
同条第8項が定義しています。
第一項第五号に規定する不動産関連法人とは、その株式の譲渡の日から起算して三百六十五日前の日から当該譲渡の直前の時までの間のいずれかの時において、その有する資産の価額の総額のうちに次に掲げる資産の価額の合計額の占める割合が百分の五十以上である法人をいう。
列挙されているのは、国内にある土地等(1号)と、その土地等の割合が50%以上である法人の株式(2号)、さらにその株式を持つ法人の株式(3号・4号)です。3号・4号には「その法人自身も、資産の価額の総額のうち国内の土地等とこれらの株式の合計が50%以上であるものに限る」という括弧書きが付いています。
3号と4号は互いを参照する書き方になっており、各階層がこの50%基準を満たす限り、保有の連鎖が何層に及んでも判定の対象になります。
対象となる譲渡は同条第9項が絞っており、基準日(譲渡年の前年12月31日)における特殊関係株主等の保有割合が、上場株式等は5%超、それ以外は2%超であり、かつ譲渡をした者がその特殊関係株主等である場合の譲渡に限られます。割合の分母となる発行済株式等からは、その法人が有する自己の株式又は出資が除かれます。
「土地そのものではなく、土地を持つ会社の株式を売る」形が、ここで捕捉されます。
最初に確認すべきこと
「365日前からいずれかの時」という書き方に注意してください。譲渡の直前だけを見るのではありません。
そして、ここまではすべて国内法の話です。株式譲渡益に対する課税権を租税条約がどう配分しているかは、条約ごとに違います。国内法で第3号に当たるとなっても、条約に国内源泉所得について異なる定めがあれば、所得税法162条第1項により、その異なる定めがある限りにおいて条約の定めによることになります。
相手国と、その条約の株式譲渡に関する条項を見るまで、結論は出ません。
実務で迷いが生じるところ
- 25%・5%・2%は、誰の保有分を合計するのか。「特殊関係株主等」の範囲は、4号ロについては同条第4項、5号については同条第10項に、別々に定められています。組合(ファンド)を通じて保有する場合には、さらに括弧書きの限定があります
- 不動産関連法人の50%は、どの時点の何の価額で測るのか。「資産の価額の総額」の意味が問題になります
- 移住してから売れば日本の課税を避けられるのか。この条文と、国外転出時課税と、条約の3つを同時に見る必要があります
- 自社株を海外の持株会社に移してから売る形はどうか。第4号ロと第5号の両方の射程が問題になります
- 買い手側に源泉徴収の義務は生じるのか。株式譲渡対価は所得税法161条1項5号(土地等の譲渡対価)とは別の号です
- 申告はどこにするのか。納税管理人の届出が関わります
株式の譲渡は、実行してしまうと戻せません。海外に出てからの売却、海外投資家への譲渡を検討する段階でご相談ください。
根拠条文
- 所得税法第161条第1項第3号(国内にある資産の譲渡により生ずる所得)
- 所得税法施行令第281条(国内にある資産の譲渡により生ずる所得)
- 所得税法第164条(非居住者に対する課税の方法)
- 所得税法第162条(租税条約に異なる定めがある場合の国内源泉所得)
- 所得税法第60条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)
- 各租税条約の譲渡収益に関する規定
個別の判定には持株関係と資産構成の確認が必要です。
本稿は2026年8月31日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。










