日本を離れる人、日本に事務所を持たない外国法人が、日本の税務手続をどう処理するか。その受け皿が納税管理人です。地味な制度ですが、定めていないと不利益を受ける仕組みになっています。
条文の定義
国税通則法第117条第1項。
個人である納税者がこの法律の施行地に住所及び居所(事務所及び事業所を除く。)を有せず、若しくは有しないこととなる場合又はこの法律の施行地に本店若しくは主たる事務所を有しない法人である納税者がこの法律の施行地にその事務所及び事業所を有せず、若しくは有しないこととなる場合において、納税申告書の提出その他国税に関する事項を処理する必要があるときは、その者は、当該事項を処理させるため、この法律の施行地に住所又は居所を有する者で当該事項の処理につき便宜を有するもののうちから納税管理人を定めなければならない。
読みどころが3つあります。
| 条文の文言 | 意味 |
|---|---|
| 「有せず、若しくは有しないこととなる場合」 | すでに出た人だけでなく、これから出る人も対象 |
| 「定めなければならない」 | 任意ではない |
| 「住所又は居所を有する者で当該事項の処理につき便宜を有するもの」 | 要件は2つ。国内に住所又は居所があること、かつその事項の処理につき便宜を有すること。税理士に限られない |
届出
同条第2項。
納税者は、前項の規定により納税管理人を定めたときは、当該納税管理人に係る国税の納税地を所轄する税務署長(保税地域からの引取りに係る消費税等又は国際観光旅客税……に関する事項のみを処理させるため、納税管理人を定めたときは、これらの国税の納税地を所轄する税関長)にその旨を届け出なければならない。その納税管理人を解任したときも、同様とする。
定めるだけでなく、届け出るまでが手続です。解任したときも届出が要ります。
届け出ないとどうなるか
同条第3項以下に、届出をしなかった場合の規定が置かれています。
第3項は、国税局長又は税務署長が納税者に対し、納税管理人に処理させる必要があると認められるものとして財務省令で定めるもの(特定事項)を明示して、60日を超えない範囲内でその準備に通常要する日数を勘案して指定する日(指定日)までに届出をすべきことを書面で求めることができるとしています。
第4項は、国税局長又は税務署長が、国内に住所又は居所を有する者で特定事項の処理につき便宜を有するもの(国内便宜者)に対し、納税管理人となることを書面で求めることができるとしています。
第5項は、特定納税者が指定日までに届出をしなかったときに、求めた国内便宜者のうち条文が列挙する者を、特定事項を処理させる納税管理人(特定納税管理人)として指定することができるとしています。列挙されているのは、個人の場合で次の3類型です。
イ 当該特定納税者と生計を一にする配偶者その他の親族で成年に達した者
ロ 当該特定納税者に係る国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実について当該特定納税者との間の契約により密接な関係を有する者
ハ 電子情報処理組織を使用して行われる取引その他の取引を当該特定納税者が継続的に又は反復して行う場を提供する事業者
法人の場合は、発行済株式等の50%以上を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める特殊の関係のある法人、役員、その生計を一にする成年の親族などが挙げられています。
日本に残した家族や、取引プラットフォームの事業者が指定され得るという規定です。放置したままにしないでください。
最初に確認すべきこと
通則法117条第1項の義務は、「納税申告書の提出その他国税に関する事項を処理する必要があるとき」に生じます。出国そのものが引き金ではありません。
そのうえで、出国前の届出が効いてくる場面があります。
- 出国前後の確定申告の期限と手続(所得税法126条〈前年分〉・127条〈出国年分〉)
- 国外転出時課税の納税猶予。所得税法137条の2第1項は、①「当該国外転出の時までに国税通則法第百十七条第二項……の規定による納税管理人の届出をし」、②「かつ、……当該年分の所得税に係る確定申告期限までに当該納税猶予分の所得税額に相当する担保を供した場合に限り」猶予するとしています。同条第3項は、確定申告書への記載と明細書類の添付も要件としています
届出はいくつかある要件のひとつにすぎません。ただし、届出だけは期限が「出国の時まで」に置かれています。後から出しても間に合いません。
実務で迷いが生じるところ
- 誰を納税管理人にできるのか。条文は「便宜を有するもの」としか書いていません
- 納税管理人は納税義務を負うのか。手続を処理する立場と、税を負担する立場の関係が問題になります
- 家族や知人でもよいのか。条文の2要件(国内に住所又は居所/処理につき便宜)に当たるかという問題です
- 出国前と出国後で、確定申告の期限はどう変わるのか。届出の有無で扱いが分かれます
- 法人が日本の事務所を閉じるときはどうするか。個人だけの制度ではありません
- 納税管理人を解任・変更したいときはどうするか。届出が必要です
海外移住や海外赴任の相談で、最後に抜けやすいのがこの手続です。税額の計算に目が向いて、届出が後回しになります。出国の予定が立った段階でご相談ください。
根拠条文
- 国税通則法第117条(納税管理人)
- 所得税法第126条(確定申告書を提出すべき者等が出国をする場合の確定申告)・第127条(年の中途で出国をする場合の確定申告)
- 所得税法第137条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)
個別の手続には事実関係の確認が必要です。
本稿は2026年8月31日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

