日本の所得税は、その人が居住者か非居住者かで課税される所得の範囲がまったく変わります。海外に出る人、日本に来る人にとって、最初に確定させなければならないのがこの区分です。
条文の定義
所得税法第2条第1項に、3つの区分が置かれています。
【三】居住者 国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人をいう。
【四】非永住者 居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去十年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が五年以下である個人をいう。
【五】非居住者 居住者以外の個人をいう。
非居住者は「居住者でない人」としか定義されていません。したがって判定は、まず居住者に当たるかどうかを見ることになります。
課税される所得の範囲
所得税法第7条第1項が、区分ごとに課税所得の範囲を定めています。
| 区分 | 課税される所得 |
|---|---|
| 非永住者以外の居住者 | 全ての所得 |
| 非永住者 | 国外源泉所得(所得税法95条第1項に規定するもの。国外にある有価証券の譲渡により生ずる所得として政令で定めるものを含む)以外の所得+国外源泉所得のうち国内で支払われ、又は国外から送金されたもの |
| 非居住者 | 所得税法164条第1項各号の区分に応じ、同項各号・同条第2項各号に定める国内源泉所得 |
非居住者になれば、所得税の課税は国内源泉所得に限られます。これが「海外移住で税負担が変わる」と言われる仕組みの入口です。
ただし、ここで終わりません。一定の居住者について、国外転出の時に有価証券等の譲渡があったものとみなす規定があります(所得税法60条の2。国外転出時課税)。適用されない場合が同条第5項に定められており、対象資産の価額の合計が1億円未満である居住者や、国外転出の日前10年以内に国内に住所・居所を有していた期間の合計が5年以下である居住者は対象外です。相続税・贈与税や住民税も、それぞれ別の基準で納税義務者が決まります。「非居住者になれば日本の税は国内源泉所得だけ」ではありません。
住所の推定規定
判定の中心は「国内に住所を有するか」です。所得税法施行令が、推定の規定を置いています。
第14条第1項(国内に住所を有する者と推定する場合)。柱書は「国内に居住することとなつた個人が次の各号のいずれかに該当する場合には、その者は、国内に住所を有する者と推定する」としています。
一 その者が国内において、継続して一年以上居住することを通常必要とする職業を有すること。
二 その者が日本の国籍を有し、かつ、その者が国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有することその他国内におけるその者の職業及び資産の有無等の状況に照らし、その者が国内において継続して一年以上居住するものと推測するに足りる事実があること。
第15条第1項(国内に住所を有しない者と推定する場合)。柱書は「国外に居住することとなつた個人が……国内に住所を有しない者と推定する」としています。
一 その者が国外において、継続して一年以上居住することを通常必要とする職業を有すること。
二 その者が外国の国籍を有し又は外国の法令によりその外国に永住する許可を受けており、かつ、その者が国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有しないこと……
いずれの条も第2項があり、推定を受ける個人と生計を一にする配偶者その他その者の扶養する親族について、その家族自身の住所を推定する規定が置かれています。第2項は家族側の判定の在り処であり、本人の判定において家族の所在が効くのは第1項第2号です。
最初に確認すべきこと
これは「推定」であって「みなし」ではありません。
推定は、反対の事実が示されれば覆ります。住民票を移した、出国届を出した、といった形式だけで非居住者が確定するわけではありません。職業、家族の所在、資産の所在、滞在日数、生活の実態が総合的に見られます。
海外移住をめぐる課税トラブルの多くは、ここで生じています。形式を整えただけで安心しないでください。
実務で迷いが生じるところ
- 住民票を抜けば非居住者か。判定の枠組みは施行令14条・15条にあります。住民票の異動はそこに書かれていません
- 1年以上の海外赴任なら非居住者か。施行令15条第1項第1号の「継続して一年以上居住することを通常必要とする職業」に当たるかが問われます
- 家族を日本に残したらどうなるか。施行令14条第1項第2号・15条第1項第2号が、生計を一にする親族の所在に触れています
- 年の途中で出国したら、その年はどうなるか。居住者だった期間と非居住者だった期間の扱いという論点があります
- 日本と外国の両方で居住者とされたらどうなるか。租税条約に振り分けの規定があります
- 役員報酬や退職金はどう扱われるか。非居住者に対する課税は国内源泉所得の範囲で決まります
いずれも、事実関係の積み上げで決まる論点です。形式書類だけでは判定できません。
出国してから「実は居住者だった」と認定されると、全世界所得について遡って課税されることになります。移住や長期赴任を予定しているときは、動く前にご相談ください。
根拠条文
- 所得税法第2条第1項第3号(居住者)・第4号(非永住者)・第5号(非居住者)
- 所得税法第7条第1項(課税所得の範囲)
- 所得税法施行令第14条・第15条(住所の推定)
- 所得税法第60条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)
- 所得税法第95条(外国税額控除)第1項に規定する国外源泉所得
- 所得税法第161条第1項(国内源泉所得)、第164条(非居住者に対する課税の方法)
- 各租税条約の居住者に関する規定
個別の判定には事実関係の確認が必要です。
本稿は2026年8月31日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。










