国際税務の判断は、国内法だけでは終わりません。相手国との間に租税条約があれば、条約が国内法と違う定めを置いていることがあります。
「日本の法律ではこうなっている」で結論を出すと、間違えます。
租税条約の定義
租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律(実施特例法)第2条が、用語を定義しています。
一 租税条約 我が国が締結した所得に対する租税に関する二重課税の回避又は脱税の防止のための条約をいう。
二 租税条約等 租税条約及び租税相互行政支援協定(……租税の賦課若しくは徴収に関する情報を相互に提供すること、租税の徴収の共助……を定める規定を有するものをいう。)をいう。
三 相手国等 租税条約等の我が国以外の締約国又は締約者をいう。
四 相手国居住者等 ……非居住者……又は……外国法人……で、租税条約の規定により当該租税条約の相手国等の居住者又は法人とされるものをいう。
五 限度税率 租税条約において相手国居住者等に対する課税につき一定の税率又は一定の割合で計算した金額を超えないものとしている場合におけるその一定の税率又は一定の割合をいう。
「租税条約等」には、情報交換や徴収共助の協定も含まれます。二重課税の話だけではありません。
なぜ条約が優先するのか
日本国憲法第98条第2項。
日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
そのうえで、個別の税法が条約の優先を明文で確認しています。
| 条文 | 何を置き換えるか |
|---|---|
| 所得税法2条1項8号の4ただし書、法人税法2条12号の19ただし書 | 恒久的施設(PE)の定義 |
| 所得税法162条1項、法人税法139条1項 | 国内源泉所得の範囲そのもの |
| 実施特例法3条の2 | 配当等・譲渡収益に対する税率(限度税率)と免除 |
所得税法第162条第1項の文言です。
租税条約において国内源泉所得につき前条の規定と異なる定めがある場合には、その租税条約の適用を受ける者については、同条の規定にかかわらず、国内源泉所得は、その異なる定めがある限りにおいて、その租税条約に定めるところによる。
最初に確認すべきこと ── 条約の内容は国ごとに違う
二重課税の回避のための租税条約は、基本的に二国間で結ばれます。同じ内容の条約が並んでいるわけではありません。
- 締結の時期によって条文の世代が違う
- 限度税率が違う
- PEの範囲が違う
- 特典制限条項(LOB)や主要目的テスト(PPT)があるかどうかも違う
- BEPS防止措置実施条約(MLI)による修正を受けているかどうかも違う
相手国が確定しないうちは、税務上の結論は出せません。
正文をどこで確認するか
租税条約の正文は、e-Gov法令検索には収録されていません(収録されているのは実施特例法などの国内法です)。
- 条約の正文 ── 外務省の条約データベース
- MLI適用後の内容 ── 財務省が公表している資料
解説記事の数字ではなく、正文で確認してください。
源泉徴収の段階で適用を受けるには、事前の届出がいる
実施特例法の施行に関する省令第2条第1項は、相手国居住者等配当等について軽減・免除を受けようとする場合、支払を受ける相手国居住者等が、源泉徴収義務者ごとに、条約の効力発生の日以後最初にその支払を受ける日の前日までに、源泉徴収義務者を経由して届出書を提出しなければならないとしています(無記名の株式・債券等には別の定めがあります)。
届出がないと、支払の際は国内法の税率で徴収されます。ただし条約の特典そのものを失うわけではありません。同条第8項・第9項が還付の請求を定めています。
特典制限条項のある条約については、同省令第9条の2以下に、特典条項に係る規定の適用を受ける場合の届出等が別に置かれています。
実務で迷いが生じるところ
- 日本はどの国と条約を結んでいるのか。一覧は財務省・外務省が公表しています
- 両国で居住者とされたらどちらの居住者になるのか。条約に振り分けの規定がありますが、個人と法人で仕組みが違い、条約によっては当局間の合意によります
- 第三国に会社を置いて条約の特典を使えるか。LOBやPPTが問題になります
- 条約に書いていない所得はどうなるか。多くの条約に「その他の所得」の条項がありますが、有無と内容は条約ごとに違います
- 届出書を出し忘れたらどうなるか。省令2条8項・9項の還付請求を検討することになります
- 条約と国内法で有利なほうを選べるのか。条約の定めの読み方の問題です
条約は「あるかどうか」ではなく「何が書いてあるか」で結論が変わります。相手国が決まった段階でご相談ください。
根拠条文
- 日本国憲法第98条第2項
- 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律第1条・第2条・第3条の2
- 同法の施行に関する省令第2条、第9条の2以下(特典条項に係る規定の適用を受ける者の届出等)
- 所得税法第162条、法人税法第139条(租税条約に異なる定めがある場合の国内源泉所得)
- 所得税法第2条第1項第8号の4、法人税法第2条第12号の19(恒久的施設の定義のただし書)
租税条約の正文は外務省の条約データベースで確認してください。個別の判定には相手国と取引内容の確認が必要です。
本稿は2026年8月31日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。










