外国法人や非居住者が日本で事業活動をするとき、その事業の利益に日本が申告課税できるかは、まず「日本に恒久的施設があるか」で決まります。国際税務の入口にあたる概念です。
英語の Permanent Establishment を略して PE と呼びます。
なお「PEがなければ日本の税金はかからない」ではありません。PEの有無にかかわらず課される国内源泉所得があります(所得税法164条、法人税法141条)。
しかも、源泉徴収だけで課税関係が終わるものと、源泉徴収されたうえで確定申告が必要になるものがあり、どちらに当たるかは所得の種類ごとに条文で決まっています。たとえば国内にある不動産の貸付けによる対価や、国内にある土地等の譲渡による対価は、PEがなくても総合課税の対象です(所得税法164条第1項第2号、161条第1項第5号・第7号)。源泉徴収されたことをもって「終わった」と考えると、無申告になります。
PEの有無が左右するのは、主として事業利得に対する申告課税の範囲です。
条文の定義
所得税法第2条第1項第8号の4。法人税法第2条第12号の19も、対象を外国法人に絞ったうえでほぼ同じ文言です。
恒久的施設 次に掲げるものをいう。ただし、我が国が締結した所得に対する租税に関する二重課税の回避又は脱税の防止のための条約において次に掲げるものと異なる定めがある場合には、その条約の適用を受ける非居住者又は外国法人については、その条約において恒久的施設と定められたもの(国内にあるものに限る。)とする。
イ 非居住者又は外国法人の国内にある支店、工場その他事業を行う一定の場所で政令で定めるもの
ロ 非居住者又は外国法人の国内にある建設若しくは据付けの工事又はこれらの指揮監督の役務の提供を行う場所その他これに準ずるものとして政令で定めるもの
ハ 非居住者又は外国法人が国内に置く自己のために契約を締結する権限のある者その他これに準ずる者で政令で定めるもの
3つの型
| 通称 | 内容(要旨) | 政令 | |
|---|---|---|---|
| イ | 支店PE | 支店、工場その他事業を行う一定の場所 | 法人税法施行令4条の4第1項/所得税法施行令1条の2第1項 |
| ロ | 建設PE | 建設・据付工事、その指揮監督の役務提供を行う場所 | 同条第2項・第3項 |
| ハ | 代理人PE | 非居住者・外国法人に代わって、その事業に関し、反復して一定の契約を締結し、又は本人による重要な修正なく日常的に締結される契約の締結のために反復して主要な役割を果たす者 | 同条第7項〜第9項 |
政令は、支店PEの場所を「事業の管理を行う場所、支店、事務所、工場又は作業場」「鉱山、石油又は天然ガスの坑井、採石場その他の天然資源を採取する場所」「その他事業を行う一定の場所」の3つに整理しています。第3号が包括規定なので、看板のある支店だけが対象ではありません。
建設PEは、国内法では1年を超えて行われるものが対象です。契約を分割して1年以内に収める形については、該当回避が分割の主たる目的の一つと認められるときに期間を加算して判定する規定が置かれています(同条第3項)。同項にはただし書があります。
最初に確認すべきこと ── 条約が国内法に優先する
定義のただし書が、実務では最も重要です。
その条約の適用を受ける者については、租税条約に国内法と異なる定めがあれば、条約の定義が優先します。なお、条約の適用を受けられるかどうか自体が別の関門です。
上に書いた政令の内容は、条約が適用されない場合の国内法の姿です。条約は国ごとに文言が違い、締結時期によって世代も異なります。建設PEの期間が国内法と違う条約もあります。BEPS防止措置実施条約(MLI)による修正を受けているかどうかも国ごとに違います。
条約の正文は外務省の条約データベースで確認できます。MLI適用後の内容は財務省が公表している資料で確認してください。
相手国が分からないうちは、PEの有無は判定できません。ここが出発点です。
準備的・補助的な活動は除かれる
場所があっても、そこでの活動が事業の遂行にとって準備的又は補助的な性格のものにとどまる場合には、PEから除かれます(法人税法施行令4条の4第4項、所得税法施行令1条の2第4項)。ただし後述の細分化防止規定の適用がある場合は別です。
条文は、商品の保管・展示・引渡しのための施設や在庫、購入や情報収集だけを目的とする場所などを列挙したうえで、柱書のただし書で「準備的又は補助的な性格のものである場合に限るものとする」と限定しています。列挙に当たることは、除外されるための必要条件であって十分条件ではありません。
さらに第5項が、活動を複数の場所に切り分けたり関連する者と分け合ったりして、それぞれを準備的・補助的に見せる形を封じています。
実務で迷いが生じるところ
条文を読んだだけでは決まらない論点がいくつもあります。代表的なものを挙げます。
- 倉庫はPEか。保管だけの施設は除外の列挙に入っていますが、そこでの活動が「準備的又は補助的」にとどまるかが別に問われます
- 子会社はPEか。別法人であることと、親会社のPEになるかは別の問題です。子会社の従業員の動き方、子会社の事務所の使われ方が問われます
- 販売代理店はPEか。独立して通常の方法で業務を行う代理人は除かれますが、除外にはただし書があります
- 駐在員事務所はPEか。連絡と情報収集だけなら除かれる余地がありますが、実際の活動内容で判定されます
- リモートワークの社員はPEか。自宅が「事業を行う一定の場所」に当たるかという論点があります。さらにその社員が契約締結に関わっているなら、場所とは別に代理人PEの論点が立ちます
- 工事が1年を超えそうなときはどうするか。条約の期間基準を先に確認する必要があります
いずれも、条文の文言をどう当てはめるかの問題です。事実関係と条約の内容がそろって初めて判定できます。
PEがあると認定されると、恒久的施設帰属所得を含む国内源泉所得について申告義務が生じ、遡って課税されることもあります。判断に迷う形があるときは、動く前にご相談ください。
根拠条文
- 所得税法第2条第1項第8号の4(定義)
- 法人税法第2条第12号の19(定義)
- 所得税法施行令第1条の2(恒久的施設の範囲)
- 法人税法施行令第4条の4(恒久的施設の範囲)
- 所得税法第161条第1項、法人税法第138条第1項(国内源泉所得)
- 所得税法第164条(非居住者に対する課税の方法)
- 法人税法第141条(課税標準)
- 各租税条約の恒久的施設に関する規定
本稿は法令の条文をe-Gov法令検索で確認して作成しています。一般的な解説であり、個別の判定には相手国との租税条約の内容と実際の活動内容の確認が必要です。










