海外を拠点に活動するスポーツ選手や芸能人の税務は、受け取る所得が「事業の対価」なのか「役務の報酬」なのかで、乗る条文が変わります。
取り違えると、適用される条約の条項も、源泉徴収後に申告が要るかどうかも変わります。
非居住者でも、日本での活動には日本の課税がある
非居住者に対する課税は国内源泉所得の範囲に限られます(所得税法5条2項・7条1項3号、164条)。日本での試合・興行・出演は、161条1項の列挙に乗ります。
関係するのは主に2つの号です。
| 号 | 内容(要旨) | 典型的な受け取り手 |
|---|---|---|
| 第6号 | 国内において人的役務の提供を主たる内容とする事業で政令で定めるものを行う者が受ける、その人的役務の提供に係る対価 | 興行を行う法人・事業者(個人事業として行う場合も含まれ得ます) |
| 第12号イ | 給与その他人的役務の提供に対する報酬のうち、国内において行う勤務その他の人的役務の提供に基因するもの | 本人 |
第6号の「政令で定める事業」は、所得税法施行令第282条が定めています。第1号がこう書いています。
一 映画若しくは演劇の俳優、音楽家その他の芸能人又は職業運動家の役務の提供を主たる内容とする事業
(第2号は自由職業者、第3号は専門的知識・技能を有する者の事業で、第3号には除外の括弧書きがあります。)
源泉徴収と、その後
所得税法第212条第1項が、非居住者に対する161条1項4号から16号までの国内源泉所得の支払について源泉徴収義務を定めています。税率は第213条第1項第1号の20%(復興特別所得税を含めて20.42%)が原則です。
ただし212条1項には「政令で定めるものを除く」という括弧書きがあります。所得税法施行令第328条第1号は、芸能人・職業運動家の役務提供に係る6号・12号イの対価又は報酬で「不特定多数の者から支払われるもの」を、源泉徴収を要しない国内源泉所得としています。
そして、源泉徴収の後が違います。
- 第6号は、所得税法164条第1項により総合課税です。源泉徴収されたうえで申告が必要になります
- 第12号イは、同条第2項の分離課税の側にあります
「20.42%引かれたから終わり」と一律に考えると、6号側で申告漏れになります。
見落とすと事故になる点 ── 条約で免税でも、源泉はゼロにならないことがある
多くの租税条約には、芸能人・運動家についての特別の条項が置かれています。書き方は条約ごとに違います。
そのうえで、租税特別措置法第41条の22(免税芸能法人等が支払う芸能人等の役務提供報酬等に係る源泉徴収の特例)が、二段構えの規定を置いています。
- 同条第3項 ── 免税芸能法人等が6号の対価の支払を受ける場合、213条1項1号の「百分の二十」を「百分の十五」と読み替える
- 同条第1項 ── その免税芸能法人等が、国外においてその免除される対価のうちから選手・芸能人等に報酬を支払うときは、その免税芸能法人等自身に源泉徴収義務が生じる
条約で免税とされる法人への支払でも、支払時の源泉徴収がゼロになるわけではありません。
実務で迷いが生じるところ
- 賞金・ファイトマネーはどの号に当たるのか。6号・12号イのほか、事業の広告宣伝のための賞金なら13号に当たり、213条1項1号ロにより50万円を控除した残額に税率を乗じます
- スポンサー料や肖像権使用料はどうか。使用料(11号)に当たるかという別の論点があります
- 海外のマネジメント会社に一括で払う場合はどうか。6号の射程と、措置法41条の22の適用の有無を見る必要があります
- 年の途中で海外移籍した場合はどうか。居住者・非居住者の切り替わりと、12号ハ(退職手当等)の扱いが関わります
- 移籍金の扱いはどうか。契約の性質から見ることになります
- 海外での賞金に外国の税が課された場合はどうか。外国税額控除と条約の両方を見ます
契約書を作る前に、誰がどの名目で受け取る形にするかを決めてください。受け取ってからでは、条文の適用は変えられません。
根拠条文
- 所得税法第5条第2項・第7条第1項第3号(非居住者の課税所得の範囲)
- 所得税法第161条第1項第6号・第11号・第12号・第13号(国内源泉所得)
- 所得税法施行令第282条(人的役務の提供を主たる内容とする事業の範囲)
- 所得税法第164条(非居住者に対する課税の方法)
- 所得税法第212条(源泉徴収義務)・第213条(徴収税額)
- 所得税法施行令第328条(源泉徴収を要しない国内源泉所得)
- 租税特別措置法第41条の22(免税芸能法人等が支払う芸能人等の役務提供報酬等に係る源泉徴収の特例)
- 各租税条約の芸能人・運動家に関する規定
本稿は法令の条文をe-Gov法令検索で確認して作成しています。一般的な解説であり、個別の判定には契約内容と相手国の条約の確認が必要です。










