どの国にも居住者として登録せず、各国を渡り歩くことで、どの国の課税も受けない。Perpetual Traveler(PT)、永遠の旅人と呼ばれる考え方です。
「PT」に対応する条文は、日本の税法にありません。出発点になるのは、その人が日本に住所又は居所を有するかという事実の判定です。ただし、税目によっては国籍・過去の在住期間・資産の有無も要件になります。
日本の税法が使う語
所得税法第2条第1項第3号。
三 居住者 国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人をいう。
第5号が「非居住者 居住者以外の個人をいう」としています。「どこの国の居住者でもない」という区分は、この条文にありません。
日本の判定は、他国の判定とは独立しています。どの国の居住者にもならないことは、日本の非居住者になることを意味しません。逆に、複数の国で同時に居住者とされることもあります。
施行令には「推定」の規定がある
住所そのものの定義は、所得税法にも施行令にも置かれていません。判定の本体は生活の実態の認定であり、施行令が置いているのは限られた場面の推定です。
所得税法施行令第15条第1項(国内に住所を有しない者と推定する場合)。柱書は「国外に居住することとなつた個人が……国内に住所を有しない者と推定する」としています。
一 その者が国外において、継続して一年以上居住することを通常必要とする職業を有すること。
二 その者が外国の国籍を有し又は外国の法令によりその外国に永住する許可を受けており、かつ、その者が国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有しないこと……
条文は「国外において」と書いており、特定の一国に限定してはいません。問題は、移動を続ける形が「継続して一年以上居住することを通常必要とする職業」に当たるかという当てはめです。
そして推定は、反対の事実が示されれば覆ります。
日本の税は所得税だけではない
| 税目 | 判定の基準 | 条文 |
|---|---|---|
| 所得税 | 住所・居所(時点ごとに判定) | 所得税法2条1項3号・5号、施行令14条・15条 |
| 住民税 | その年の1月1日に住所を有するか。住所がなくても、事務所・事業所・家屋敷があれば均等割 | 地方税法24条・294条(各1項1号・2号)、39条・318条 |
| 相続税・贈与税 | 財産取得時の、取得者と被相続人の双方の住所・国籍等 | 相続税法1条の3第1項、1条の4 |
| 国外転出時課税 | 対象資産(有価証券等・未決済信用取引等・未決済デリバティブ取引)の合計が1億円以上で、かつ出国前10年以内の国内在住期間の合計が5年超 | 所得税法60条の2(特に5項) |
それぞれ基準が違います。
とくに相続税は要注意です。相続税法1条の3第1項2号イ(2)は、日本国籍を有する個人が相続開始前10年以内のいずれの時も国内に住所を有していなかった場合を挙げていますが、そこには「被相続人が外国人被相続人又は非居住被相続人である場合を除く」という括弧書きが付いています。自分が10年国外にいても、被相続人(たとえば日本に住み続けている親)の側の要件が満たされなければ、全世界財産が課税対象のままです。
見落とすと事故になる点
課税庁が住所ありと認定した場合、それを覆すのは生活実態の事実の積み上げです。「どこにも属さない」という設計は、その負担を自分で背負う設計でもあります。
そして、居所という概念があります。所得税法2条1項3号は「現在まで引き続いて一年以上居所を有する」個人も居住者としています。住所がなくても居所で居住者になる経路が、条文に用意されています。
実務で迷いが生じるところ
- 年間の滞在日数を各国で分散すれば非居住者になるのか。日数そのものを基準にする条文は所得税法にありません(ただし滞在日数は事実認定の材料にはなります)
- 住民票を抜き、賃貸も解約すれば足りるのか。施行令15条は職業・国籍・親族の所在に加え、国内の資産の有無等にも触れています
- 家族が日本に残っている場合はどうか。施行令14条第1項第2号・15条第1項第2号が生計を一にする親族に触れています
- 複数の国で居住者とされたらどうなるか。租税条約に振り分けの規定がありますが、条約がない国との間では働きません
- 銀行口座の居住地情報はどう扱われるか。金融口座情報の自動的交換の枠組みがあります
- 相続が起きたらどうなるか。相続税法1条の3の要件は、自分が動くだけでは外れません
PTという生き方に、日本の税法が用意した区分はありません。あるのは住所・居所という事実の判定と、税目ごとに違う要件です。
始める前にご相談ください。
根拠条文
- 所得税法第2条第1項第3号(居住者)・第5号(非居住者)
- 所得税法施行令第14条(国内に住所を有する者と推定する場合)・第15条(国内に住所を有しない者と推定する場合)
- 所得税法第60条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)
- 相続税法第1条の3(相続税の納税義務者)・第1条の4(贈与税の納税義務者)
- 地方税法第24条(道府県民税の納税義務者等)・第294条(市町村民税の納税義務者等)、第39条・第318条(賦課期日)
- 各租税条約の居住者・双方居住者に関する規定
本稿は法令の条文をe-Gov法令検索で確認して作成しています。一般的な解説であり、個別の判定には生活の実態の確認が必要です。










