国際税務の基礎知識

国外転出時課税(出国税)の納税猶予とは

出国税は、まだ売っていない株式に課税されます。手元に現金がないのに納税が来る。それを先送りするのが納税猶予です。ただし条件が厳しく、届出を1回でも落とすと猶予が切れます。

猶予を受けるための条件

所得税法第137条の2第1項。条見出しは「(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)」です。

……納税猶予分の所得税額……に相当する所得税については、当該居住者が、当該国外転出の時までに国税通則法第117条第2項(納税管理人)の規定による納税管理人の届出をしかつ、政令で定めるところにより当該年分の所得税に係る確定申告期限までに当該納税猶予分の所得税額に相当する担保を供した場合に限り、……その納税を猶予する

2つの条件が「かつ」でつながっています。

条件 期限
納税管理人の届出 国外転出の時まで
担保の提供 その年分の所得税の確定申告期限まで

期限が違います。納税管理人の届出は出国前です。出国してからでは間に合いません。担保は確定申告期限(翌年3月15日)までです。

そして3項が申告要件を置いています。

第一項……の規定は、……個人の確定申告書に、同項の規定の適用を受けようとする旨の記載があり、かつ、……対象資産の譲渡又は決済の明細及び納税猶予分の所得税額の計算に関する明細その他財務省令で定める事項を記載した書類の添付がある場合に限り、適用する

「適用を受けようとする旨」の記載が要ります。4項に、やむを得ない事情がある場合の宥恕がありますが、書類の提出があった場合に限るという条件付きです。

猶予される期間は5年。届出で10年になる

1項は、猶予の終期を「満了基準日の翌日以後四月を経過する日」としています。満了基準日は、国外転出の日から5年を経過する日と、帰国等の場合に該当することとなった日の、いずれか早い日です。

そして2項。

前項の規定の適用を受ける個人が、国外転出の日から五年を経過する日……までに、同項の規定による納税の猶予に係る期限の延長を受けたい旨その他財務省令で定める事項を記載した届出書を、納税地の所轄税務署長に提出した場合には、同項中「五年」とあるのは、「十年」とする。

自動では10年になりません。5年を経過する日までに、延長の届出書を出す必要があります。

そして期限には括弧書きがあります。「国外転出の日から五年を経過する日(同日前に帰国等の場合に該当することとなつた場合には、その該当することとなつた日の前日)までに」。帰国等が5年より先に生じたときは、その日の前日までに縮みます。

毎年、継続適用届出書を出す

ここが最も落としやすいところです。6項。

第一項の規定の適用を受ける個人は、……各年の十二月三十一日において有し、又は契約を締結している適用資産につき、引き続き第一項の規定の適用を受けたい旨その他財務省令で定める事項を記載した届出書(……「継続適用届出書」という。)を、同日の属する年の翌年三月十五日(……「提出期限」という。)までに、納税地の所轄税務署長に提出しなければならない

毎年3月15日までです。猶予が続いている限り、毎年出し続けます。

出さないとどうなるか。8項。

継続適用届出書が提出期限までに……提出されない場合には、当該提出期限における納税猶予分の所得税額……に相当する所得税については、第一項の規定にかかわらず、当該提出期限から四月を経過する日……をもつて同項の規定による納税の猶予に係る期限とする

猶予が切れます。提出期限から4か月で納付期限が来ます。

本人が死亡した場合の括弧書きもあります。「当該提出期限から当該四月を経過する日までの間に当該所得税に係る個人が死亡した場合には、当該個人の相続人が当該個人の死亡による相続の開始があつたことを知つた日から六月を経過する日」。

救済はあります(7項)。提出期限までに提出がなかったことについて税務署長がやむを得ない事情があると認めるときは、届出書の提出があった場合に限り、期限までに提出されたものとみなされます。ただし「やむを得ない事情」の判断は税務署長です。

途中で売ったら、その分は猶予が切れる

5項は、満了基準日までに適用資産の譲渡・決済・贈与による移転その他政令で定める事由が生じた場合の規定を置いています。

……これらの事由が生じた適用資産に係る納税猶予分の所得税額のうちこれらの事由が生じた適用資産に対応する部分の額として政令で定めるところにより計算した金額に相当する所得税については、第一項の規定にかかわらず、これらの事由が生じた日から四月を経過する日をもつて同項の規定による納税の猶予に係る期限とする。

事由が生じた日から4か月を経過する日が、その部分の納付期限です。猶予されていた税額の全部ではなく、その資産に対応する部分だけが確定します。

「出国税を猶予したまま海外で売る」ことはできません。

猶予の取消し(9項)

税務署長は、次に掲げる場合には、納税猶予分の所得税額に相当する所得税に係る第一項の規定による納税の猶予に係る期限を繰り上げることができる

繰上げの場合は、国税通則法49条2項・3項(納税の猶予の取消し)が準用されます。

手続の全体像

時期 やること 落とすと
国外転出の時まで 納税管理人の届出 猶予が受けられない
確定申告期限まで 担保の提供 猶予が受けられない
確定申告書 適用を受けようとする旨の記載+明細の添付 猶予が受けられない(4項の宥恕あり)
毎年3月15日まで 継続適用届出書 4か月後に猶予が切れる(7項の宥恕あり)
5年経過日まで 延長の届出書(10年にする場合) 5年で終わる

5つの場面があり、それぞれ別の期限です。

実務で迷いが生じるところ

  • 納税管理人はいつまでに決めるのか。国外転出の時までです。出国してからでは間に合いません
  • 担保は何を出すのか。政令が定めます。金額は納税猶予分の所得税額に相当する額です
  • 自動的に10年になるのか。なりません。5年経過日までに延長の届出書が要ります
  • 毎年の届出を忘れた。8項により4か月後に期限が来ます。7項の宥恕は税務署長の判断です
  • 猶予中に株を売りました。5項によりその分の期限が来ます
  • 帰国したら。満了基準日は「5年経過日」と「帰国等の日」の早いほうです

出国税の納税猶予は、出国前の準備と、その後10年の管理の両方が要る制度です。特に毎年の継続適用届出書は、日本を離れてから何年も経つと忘れがちです。海外移住をご検討中で株式をお持ちの方は、出国の前にご相談ください。納税管理人の届出は出国後には間に合いません。

根拠条文

  • 所得税法第137条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)第1項〜第9項
  • 所得税法第60条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)
  • 所得税法第128条(確定申告による納付)、第129条(死亡の場合の確定申告による納付)
  • 国税通則法第117条第2項(納税管理人)、第49条第2項・第3項(納税の猶予の取消し)

担保の種類・提供方法を定める政令、財務省令が定める届出書の記載事項、第5項の「政令で定める事由」の細目、第10項以降は本稿では扱っていません。個別の手続には資産の内容と期限の確認が必要です。

本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

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