国際税務の基礎知識

国外転出後に実際に売ったときの調整とは

条文の定義

国外転出時課税でみなし譲渡があったものとされた有価証券等について、転出先の国でも外国所得税を納付することになったときの調整は、複数の条文にまたがって定められています。中心となるのは、その外国所得税を納付することになった日を起点として更正の請求ができるとする、次の定めです。

「当該外国所得税を納付することとなる日から四月以内に、税務署長に対し、更正の請求をすることができる。」

本稿では、国外転出時課税の対象となった有価証券等を実際に譲渡した場合の取得費の扱い(第60条の2)、転出先の国でも課税された場合の更正の請求(第153条の6)、外国税額控除(第95条)との関係、そして紛らわしい第60条の4との違いを確認します。制度そのものの定義や1億円要件、納税猶予の手続は扱いません。

骨格

論点 条文の定め
みなし譲渡があったとされた金額のその後の扱い 第60条の2(その金額をもって取得したものとみなす)
転出先の国でも外国所得税を納付することになった場合 第153条の6(更正の請求の特例)
外国税額控除との関係 第95条(外国税額控除の一般規定)
外国で出国税を課された人が日本に来て売った場合 第60条の4(第60条の2・第153条の6とは向きが逆)
納税管理人の届出をして確定申告期限までに売った場合(納税猶予の有無を問わない) 第60条の2(前段の読替えを準用)
納税猶予を受けている場合のさらなる調整 本稿では扱わない。既存記事へ
国外転出・有価証券等・1億円要件などの定義 本稿では扱わない。既存記事へ

みなし譲渡で払った税金は、実際に売ったときも払い直しになるのか?

国外転出の時にみなし譲渡があったものとされた金額は、その後にその有価証券等を実際に譲渡したときの取得費として扱われる(第60条の2)。

この扱いは、国外転出の年分の所得税について第60条の2の適用を受けた個人(相続人を含む)が、国外転出の時に有していた有価証券等を実際に譲渡し、または決済した場合に働く。ただし、その国外転出の年分の所得税について確定申告書の提出や決定がされていない場合、みなし譲渡があったとされた金額が総収入金額に算入されていない有価証券等である場合、または帰国等によって国外転出時課税そのものが取り消された部分については、この取得費の付替えは働かない(正確な文言は根拠条文を参照)。納税猶予そのものの手続や担保、継続適用届出書については国外転出時課税(出国税)の納税猶予とはを参照。

納税管理人の届出をして、確定申告期限までに売った場合はどうなるか?

国外転出の時までに国税通則法の規定による納税管理人の届出をしている個人が、その国外転出の年分の所得税に係る確定申告期限までに、国外転出の時から引き続き有している有価証券等の譲渡や未決済信用取引等・未決済デリバティブ取引の決済、限定相続等による移転をした場合には、実際の譲渡価額等が国外転出の時の価額を下回るときなどの読替えが、納税猶予を受けているかどうかにかかわらず準用される(第60条の2)。読替えの具体的な内容は根拠条文を参照。この場合の更正の請求は第153条の2に定めがある(本稿では引用しない)。

転出先の国でも税金を取られたら、日本の申告はどうするか?

その国外転出の日の属する年分の所得税につき確定申告書を提出した者(その相続人を含む)が、第九十五条の二の規定の適用がある外国所得税を納付することとなることにより、当該年分の所得税につき第百五十三条の二に掲げる場合に該当することとなるときは、当該外国所得税を納付することとなる日から四月以内に、更正の請求をすることができます(第153条の6)。決定を受けた者はここでは挙げられていません。第九十五条の二がどのような場合の外国所得税を指すかは、第九十五条の二の本文(本稿では引用しない)を確認する必要があります。

外国税額控除は使えるのか?

外国所得税を実際に納付した場合の控除の一般的な規定は、外国税額控除として第95条にあります。控除限度額の具体的な計算は本稿では扱いません。ここで押さえておくべきは、第95条が「居住者が各年において外国所得税……を納付することとなる場合」という主語の限定を置いていることです。国外転出は「国内に住所及び居所を有しないこととなること」と定義されており(第60条の2)、国外転出後に外国所得税を納付することとなった場合に第95条がそのまま適用されるかどうかは、この主語の限定に照らして確認する必要があります。第153条の6は、通常の外国税額控除の規定とは別に、第九十五条の二の規定を挙げています。

第60条の4は、これらと向きが逆の規定

第60条の4は、国外転出時課税と紛らわしいですが、向きが逆の規定です。外国の法令で日本の国外転出時課税に相当する課税(外国転出時課税)を受けた有価証券等を有していた人が、日本の居住者になった後にその有価証券等を譲渡した場合、外国転出時課税の計算上収入金額に算入することとされた金額をもって、取得に要した金額とします(第60条の4)。日本から出ていく人の話ではなく、外国で出国税に相当する課税を受けた人が日本に来て売ったときの話です。制度の定義自体は国外転出時課税(出国税)とはを参照してください。

実務で迷いが生じるところ

  • 取得費の付替え(第60条の2)が働かない場合があること。国外転出の年分の確定申告や決定の状況、帰国等による課税の取消しの有無によって結論が変わるため、第60条の2のただし書の文言を条文で確認します。
  • 外国税額控除(第95条)の「居住者が……納付することとなる場合」という限定が、国外転出後に納付することとなった外国所得税にどう及ぶか。第153条の6が挙げる第九十五条の二の内容とあわせて条文を確認します。
  • 第153条の6の更正の請求の期限の起算点となる「外国所得税を納付することとなる日」が実際のいつを指すか。転出先の国の納税手続の実際の日付と条文の文言を照らして確認します。

根拠条文

  • 所得税法第60条の2第4項第一号(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)/引用した文言:「その有価証券等については、第一項各号に定める金額(第八項の規定により第一項の規定の適用を受けた場合には、当該有価証券等の第八項に規定する譲渡に係る譲渡価額又は限定相続等の時における当該有価証券等の価額に相当する金額)をもつて取得したものとみなす。」
  • 所得税法第60条の2第4項(ただし書)(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)/引用した文言:「ただし、同日の属する年分の所得税につき確定申告書の提出及び決定がされていない場合における当該有価証券等、未決済信用取引等及び未決済デリバティブ取引、同日の属する年分の事業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上第一項各号、第二項各号又は前項各号に掲げる場合の区分に応じ第一項各号、第二項各号又は前項各号に定める金額が総収入金額に算入されていない有価証券等、未決済信用取引等及び未決済デリバティブ取引並びに第六項本文(第七項の規定により適用する場合を含む。)の規定の適用があつた有価証券等、未決済信用取引等及び未決済デリバティブ取引については、この限りでない。」
  • 所得税法第60条の2第9項(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)/引用した文言:「前項の規定は、国外転出の日の属する年分の所得税につき第一項から第三項までの規定の適用を受けるべき個人でその国外転出の時までに国税通則法第百十七条第二項の規定による納税管理人の届出をしているものが、同日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに、同日から引き続き有している有価証券等又は決済していない未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る契約の譲渡若しくは決済又は限定相続等による移転をした場合について準用する。」
  • 所得税法第153条の6第1項(国外転出をした者が外国所得税を納付する場合の更正の請求の特例)/引用した文言:「第六十条の二第一項(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)に規定する国外転出の日の属する年分の所得税につき確定申告書を提出した者(その相続人を含む。)は、第九十五条の二第一項(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例に係る外国税額控除の特例)(同条第二項において準用する場合を含む。)の規定の適用がある同条第一項に規定する外国所得税を納付することとなることにより、当該年分の所得税につき第百五十三条の二第一項第一号(国外転出をした者が帰国をした場合等の更正の請求の特例)に掲げる場合に該当することとなるときは、当該外国所得税を納付することとなる日から四月以内に、税務署長に対し、更正の請求をすることができる。」
  • 所得税法第60条の4第1項(外国転出時課税の規定の適用を受けた場合の譲渡所得等の特例)/引用した文言:「居住者が外国転出時課税の規定の適用を受けた有価証券等の第六十条の二第四項(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)に規定する譲渡をした場合における事業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その外国転出時課税の規定により課される外国所得税(第九十五条第一項(外国税額控除)に規定する外国所得税をいう。次項及び第三項において同じ。)の額の計算において当該有価証券等の譲渡をしたものとみなして当該譲渡に係る所得の金額の計算上収入金額に算入することとされた金額をもつて、当該有価証券等の取得に要した金額とする。」
  • 所得税法第95条第1項(外国税額控除)/引用した文言:「居住者が各年において外国所得税(外国の法令により課される所得税に相当する税で政令で定めるものをいう。以下この項及び第九項において同じ。)を納付することとなる場合には、……」

本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

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