国際税務の基礎知識

国外転出時課税の取消し(帰国・贈与・相続)とは

条文の定義

国外転出時課税は、国外転出の時にいったん有価証券等を譲渡したものとみなして課税する制度です(詳細は国外転出時課税(出国税)とはを参照)。第60条の2は、この課税を受けた人が一定の事由に該当したときは、その課税がなかったものとすることができる、と定めています。取消しの事由の一つである贈与について、条文は次のように定めています。

「当該個人が、当該国外転出の日から五年を経過する日までに当該国外転出の時に有していた有価証券等又は締結していた未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る契約を贈与(公益信託の受託者に対するものを除く。以下この号において同じ。)により居住者に移転した場合当該贈与による移転があつた有価証券等、未決済信用取引等又は未決済デリバティブ取引」

贈与のほか、帰国と、本人の死亡による相続・遺贈も、それぞれ同様に取消しの事由として第60条の2に定められています。取消しの対象になるのは、その事由が生じた時点まで引き続き有している有価証券等に限られます。なお、国外転出の後に株式交換や新株予約権の行使など、条文が定める事由により取得した有価証券等についても、引き続き所有していたものとみなす定めがあります。また、贈与・相続によって有価証券等を非居住者に移転する場面で新たに課税が生じる制度は別のものであり、そちらは国外転出(贈与・相続)時課税とはで扱っています。

骨格

論点 条文の定め
取消しの対象となる事由 帰国、居住者への贈与、本人の死亡による相続・遺贈の3つ(第60条の2)
取消しの期限(原則) 国外転出の日から5年を経過する日まで(第60条の2)
納税猶予の延長を受けている場合 上記の「5年」は「10年」と読み替える(第60条の2)
取消しの対象から外れる部分 事由が生じた時点までに既に手放した有価証券等、および隠蔽・仮装に基づく金額は対象外(第60条の2)
相続・遺贈の場合の広がり 「相続(限定承認に係るものを除く。以下この号において同じ。)又は遺贈(公益信託の受託者に対するもの及び包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。以下この号において同じ。)」による移転が対象であり、相続人・受遺者の全員が居住者になった場合など、条文に定める場合に限られる(第60条の2)
修正申告による手続 事由に該当した日から四月以内に、税務署長に修正申告書を提出できる(第151条の2)
更正の請求による手続 事由に該当した日から四月以内に、税務署長に更正の請求ができる(第153条の2)
納税猶予そのものの手続 納税管理人の届出・担保・継続適用届出書などは別の制度

帰国すれば、それだけで課税は取り消されるのか

帰国は、取消しの事由の一つとして第60条の2に定められています。ただし対象になるのは、帰国の時まで引き続き有している有価証券等に限られます。国外転出後にすでに譲渡や決済を終えてしまった部分は、帰国しても取消しの対象にはなりません。また、取消しの期限は国外転出の日から5年を経過する日までであり、納税猶予の延長を受けている場合はこの期間が10年に読み替えられます。5年か10年かは納税猶予の適用状況によって変わるため、延長の届出をしているかどうかは国外転出時課税(出国税)の納税猶予とはで確認する必要があります。帰国とは、条文上「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有することとなること」をいい、単に短期間の居所を持っただけでは帰国に当たりません。この定義とあわせて、居住者の判定は所得税法上の居住者とは(住所の判定)で確認したいところです。

贈与や相続でも同じように取り消せるのか

贈与についても、居住者への移転であること、贈与による移転があった有価証券等であることなど、条文が定める要件を満たす場合に取消しの対象になります。相続・遺贈の場合は、本人の死亡によって有価証券等の移転を受けた相続人・受遺者について、条文に定める一定の場合に該当することが必要であり、相続人・受遺者が複数いる場合の扱いも第60条の2に細かく定められています。誰が、いつまでに、どのような状態になれば取消しの対象になるかは、事案ごとに条文の文言と照らして確認する必要があります。また、贈与でも相続・遺贈でも、取消しの対象になるのは、その移転があった有価証券等そのものに限られ、移転前にすでに一部を譲渡していた場合、その譲渡済みの部分までが取消しの対象に含まれるわけではありません。誰が居住者に当たるかという点も、この取消しの成否を左右する要素の一つです。

取消しの手続はいつまでに、何を使えばよいのか

取消しの効果は放置していても自動的に反映されるわけではなく、税務署長に対する手続が必要です。第151条の2は、取消しの事由に該当した日から四月以内に修正申告書を提出できる旨を定めています。第153条の2は、同じく四月以内に更正の請求をできる旨を定めています。修正申告と更正の請求のどちらを使うかは、既に提出した確定申告の内容が、取消し後の所得金額と比べて過大になるのか過少になるのかによって条文上分かれています。いずれの手続も、期限は取消しの事由に該当した日を起点として数えるのであって、国外転出の日や当初の確定申告期限を起点とするものではない点に注意したいところです。納税猶予を受けている場合の譲渡・決済・限定相続等に関する手続は、これとは別の起算点が条文に定められており、国外転出時課税(出国税)の納税猶予とはで扱う範囲になります。

実務で迷いが生じるところ

  • 相続人・受遺者が複数いて一部だけが帰国した場合や、遺産分割の結果で構成が変わった場合に、取消しの要件をどの時点の状態で判定するかは、第60条の2の相続・遺贈に関する定めを条文で確認する必要があります。
  • 隠蔽・仮装があった部分がどこまで取消しの対象から除かれるかは、第60条の2のただし書の文言を確認する必要があります。
  • 修正申告と更正の請求のどちらの要件に当てはまるかは、国税通則法および所得税法の確定申告に関する定めと照らして個別に確認する必要があります。

根拠条文

  • 所得税法 第60条の2第6項第一号(帰国による取消し)/引用した文言:「当該個人が、当該国外転出の日から五年を経過する日までに帰国(国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有することとなることをいう。以下この項及び次条第六項において同じ。)をした場合当該帰国の時まで引き続き有している有価証券等又は決済していない未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引」
  • 所得税法 第60条の2第6項第二号(贈与による取消し)/引用した文言:「当該個人が、当該国外転出の日から五年を経過する日までに当該国外転出の時に有していた有価証券等又は締結していた未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る契約を贈与(公益信託の受託者に対するものを除く。以下この号において同じ。)により居住者に移転した場合当該贈与による移転があつた有価証券等、未決済信用取引等又は未決済デリバティブ取引」
  • 所得税法 第60条の2第6項第三号本文(相続・遺贈による移転の範囲)/引用した文言:「当該国外転出の日から五年を経過する日までに当該個人が死亡したことにより、当該国外転出の時に有していた有価証券等又は締結していた未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る契約の相続(限定承認に係るものを除く。以下この号において同じ。)又は遺贈(公益信託の受託者に対するもの及び包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。以下この号において同じ。)による移転があつた場合において、次に掲げる場合に該当することとなつたとき当該相続又は遺贈による移転があつた有価証券等、未決済信用取引等又は未決済デリバティブ取引」
  • 所得税法 第60条の2第6項第三号イ(相続・遺贈による取消し)/引用した文言:「当該国外転出の日から五年を経過する日までに、当該相続又は遺贈により有価証券等又は未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る契約の移転を受けた相続人及び受遺者である個人(当該個人から相続又は遺贈により当該有価証券等又は未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る契約の移転を受けた個人を含む。ロにおいて同じ。)の全てが居住者となつた場合」
  • 所得税法 第60条の2第6項ただし書(隠蔽・仮装に基づく部分の除外)/引用した文言:「ただし、当該有価証券等の譲渡による事業所得の金額、譲渡所得の金額若しくは雑所得の金額、当該未決済信用取引等の決済による事業所得の金額若しくは雑所得の金額又は当該未決済デリバティブ取引の決済による事業所得の金額若しくは雑所得の金額(以下この項において「有価証券等に係る譲渡所得等の金額」という。)につきその計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、かつ、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき確定申告書を提出し、又は確定申告書を提出していなかつたことにより、当該個人の当該国外転出の日から五年を経過する日までに決定若しくは更正がされ、又は期限後申告書若しくは修正申告書を提出した場合(同日までに期限後申告書又は修正申告書の提出があつた場合において、その提出が、所得税についての調査があつたことにより当該所得税について決定又は更正があることを予知してなされたものでないときを除く。)における当該隠蔽し、又は仮装した事実に基づく有価証券等に係る譲渡所得等の金額に相当する金額については、この限りでない。」
  • 所得税法 第60条の2第7項(5年から10年への読み替え)/引用した文言:「国外転出の日の属する年分の所得税につき第一項から第三項までの規定の適用を受けた個人で第百三十七条の二第二項(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)の規定により同条第一項の規定による納税の猶予を受けているものに係る前項の規定の適用については、同項中「五年」とあるのは、「十年」とする。」
  • 所得税法 第60条の2第11項(株式交換等により取得した有価証券等のみなし継続所有)/引用した文言:「第六項から前項までの規定の適用については、個人が国外転出の時後に次に掲げる事由により取得した有価証券等は、その者が引き続き所有していたものとみなす。」
  • 所得税法 第60条の2第12項(政令への委任)/引用した文言:「第六項から前項までに規定するもののほか、第一項から第五項までの規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。」
  • 所得税法 第151条の2第1項(修正申告の特例)/引用した文言:「第六十条の二第一項(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)に規定する国外転出の日の属する年分の所得税につき確定申告書を提出し、又は決定を受けた者(その相続人を含む。)は、当該確定申告書又は決定に係る年分の総所得金額のうちに同条第六項本文(同条第七項の規定により適用する場合を含む。)の規定の適用がある同条第六項に規定する有価証券等に係る譲渡所得等の金額が含まれていることにより、当該国外転出の日の属する年分の所得税につき国税通則法第十九条第一項各号又は第二項各号(修正申告)の事由が生じた場合には、第六十条の二第六項各号に掲げる場合に該当することとなつた日から四月以内に限り、税務署長に対し、修正申告書を提出することができる。」
  • 所得税法 第153条の2第1項(更正の請求の特例)/引用した文言:「第六十条の二第一項(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)に規定する国外転出の日の属する年分の所得税につき確定申告書を提出し、又は決定を受けた者(その相続人を含む。)は、当該確定申告書又は決定に係る年分の総所得金額のうちに同条第六項本文(同条第七項の規定により適用する場合を含む。)の規定の適用がある同条第六項に規定する有価証券等に係る譲渡所得等の金額が含まれていることにより、当該年分の所得税につき次に掲げる場合に該当することとなるときは、同項各号に掲げる場合に該当することとなつた日から四月以内に、税務署長に対し、更正の請求をすることができる。」

本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

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