国際税務の基礎知識

贈与・相続で非居住者に移転した場合の納税猶予とは

条文の定義

贈与、相続又は遺贈によって非居住者に有価証券等が移転した場合の課税(第60条の3。詳細は国外転出(贈与・相続)時課税とはを参照)について、第137条の3は納税を猶予する仕組みを定めています。誰が猶予を受けるかは、次のように定められています。

……(以下この条において「対象資産」という。)につきこれらの規定の適用を受けた者(その相続人を含む。)が……政令で定めるところにより当該年分の所得税に係る確定申告期限までに当該贈与納税猶予分の所得税額に相当する担保を供した場合に限り……当該贈与の日から贈与満了基準日……の翌日以後四月を経過する日まで、その納税を猶予する。

猶予を受けるのは、贈与の場合は贈与をした居住者本人、相続・遺贈の場合は被相続人の全ての相続人です。詳しくは次の項で確認します。

骨格

論点 条文の定め
猶予を受ける主体(贈与の場合) 贈与をした居住者本人(死亡により効力を生ずる贈与を除く)。死亡していれば相続人を含む
猶予を受ける主体(相続・遺贈の場合) 被相続人の全ての相続人(対象資産を取得した非居住者である相続人を含む)。死亡により効力を生ずる贈与を含む
猶予の要件 確定申告書への記載・明細添付、担保の提供。相続は相続人が担保、非居住者全員が納税管理人届出
猶予の期限 五年経過日と受贈者等の帰国等該当日のいずれか早い日(満了基準日)の翌日以後四月経過日
期限の延長 五年経過日等までに届出書を提出すれば五年が十年に読み替え
毎年の届出 継続適用届出書に相当する届出書を翌年三月十五日までに提出
本人死亡時の承継 猶予中の納付義務は適用贈与者等の相続人が承継
事情変化への対応 第153条の3・第153条の4・第153条の5の更正の請求

贈与の場合と相続の場合で、納税猶予を受けるのは誰か

第60条の3の課税も第137条の3の納税猶予も、居住者の側に置かれた制度です。贈与の場合、猶予を受けるのは受贈者ではなく贈与をした居住者本人(死亡していればその相続人を含む)です。ただし、贈与をした者の死亡により効力を生ずる贈与は、相続又は遺贈の場合として扱われます。相続又は遺贈の場合、猶予を受けるのは被相続人の全ての相続人であり、対象資産を取得した非居住者である相続人もこれに含まれます。猶予を受けている贈与者本人が猶予中に国外転出をしようとする場合は、その時までに納税管理人の届出をしなければなりません。本人自身が国外転出をする場合の納税猶予は第137条の2にあり、国外転出時課税(出国税)の納税猶予とはで扱います。今回の猶予は資産を渡した居住者側に生じる点で異なります。

猶予はいつまで続き、毎年何を提出しなければならないか

猶予の期限は、満了基準日の翌日以後四月を経過する日です。満了基準日は、贈与又は相続開始の日から五年を経過する日と、受贈者等が帰国するなど政令で定める場合に該当した日といういずれか早い日をいいます。延長を受けるには、五年経過日(先に帰国等に該当した場合はその前日など、条文が定める日又は期限)までに、延長を受けたい旨等を記載した届出書を提出しなければならず、いつでも出せるわけではありません。猶予中は、対象資産を有する各年12月31日について継続適用の届出書を翌年3月15日までに提出しなければならず、提出がなければその期限から四月を経過する日をもって猶予の期限とされます。本人が期限までに死亡した場合、納付義務は相続人が承継します。

相続人が複数いるとき、何を確認すればよいか

相続又は遺贈により非居住者に資産が移転した場合、担保を供する主体と納税管理人の届出をする主体は同じではありません。担保を供するのは相続人であるのに対し、届出をするのは当該相続又は遺贈により対象資産を取得した非居住者の全てです。相続人ではない受遺者が非居住者として対象資産を取得している場合は、その受遺者自身の届出も要件に含まれます。相続人の範囲と対象資産を取得した非居住者の範囲は必ずしも一致しないため、誰が担保を供し誰が届出をする立場にあるかを、条文の主体ごとに確認する必要があります。

あとから事情が変わったとき、どの更正の請求を使えばよいか

猶予の後に事情が変わった場合の更正の請求は、場面ごとに3つの条文に分かれます。第153条の3の本体は、非居住者である受贈者等が帰国するなど第60条の3が定める場合に該当し、課税がなかったものとされる場面の更正の請求であり、猶予の有無を問いません。期限は帰国等に該当した日から四月以内です。猶予期間中の譲渡・決済等でその価額が贈与等の時の価額を下回るときなど別の場合は、この規定が準用され、起算日は譲渡・決済等をした日に変わります。また、猶予を受けている贈与者から贈与により資産の移転を受け、猶予を受けている旨と基準日の通知を受けた非居住者(その相続人を含む)は、猶予の基準日までに譲渡・決済等(限定相続等を含む)をしたときは、その日(限定相続等による承継相続人は相続開始を知った日)から二月以内に贈与者へ通知しなければなりません。相続・遺贈で移転を受けた非居住者にこの義務はありません。相続又は遺贈により有価証券等を取得した居住者がそれを譲渡した後、被相続人側の申告内容が変わって取得費が変わった場合は第153条の4が、被相続人に生じた条文が定める遺産分割等の事由(本稿では引用しない)によって資産が増減した場合は第153条の5が対象になり、いずれも事由が生じた日から四月以内が期限です。

実務で迷いが生じるところ

  • 受贈者等が贈与等の日から五年以内に帰国した場合、満了基準日と猶予の期限がいつ確定するかは、第137条の3と第60条の3の定めをあわせて条文で確認する必要があります。
  • 継続適用届出書に相当する届出書や、期限延長のための届出書を提出し忘れた場合に猶予の期限がいつになるかは、第137条の3の届出に関する定めを条文で確認する必要があります。
  • 事情変化がどの更正の請求(第153条の3、第153条の4、第153条の5)に当たるかは、帰国・取得費の変更・遺産分割等のいずれの事由が生じたのかを先に特定したうえで条文を確認する必要があります。

根拠条文

  • 所得税法第137条の3第1項(贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)/引用した文言:「贈与(贈与をした者の死亡により効力を生ずる贈与を除く。以下この項において同じ。)」
  • 所得税法第137条の3第1項(同上)/引用した文言:「これらの規定の適用を受けた者(その相続人を含む。)が」
  • 所得税法第137条の3第1項(同上)/引用した文言:「当該適用を受けた者が、政令で定めるところにより当該年分の所得税に係る確定申告期限までに当該贈与納税猶予分の所得税額に相当する担保を供した場合に限り、同款の規定にかかわらず、当該贈与の日から贈与満了基準日(当該贈与の日から五年を経過する日又は受贈者帰国等の場合(第六十条の三第六項第一号又は第三号に掲げる場合その他政令で定める場合をいう。第三項第一号において同じ。)に該当することとなつた日のいずれか早い日をいう。第六項において同じ。)の翌日以後四月を経過する日まで、その納税を猶予する。」
  • 所得税法第137条の3第2項(同上)/引用した文言:「相続又は遺贈(贈与をした者の死亡により効力を生ずる贈与を含む。以下この項において同じ。)」
  • 所得税法第137条の3第2項(同上)/引用した文言:「第六十条の三第一項から第三項までの規定の適用を受けた者(第四項において「適用被相続人等」という。)の全ての相続人が」
  • 所得税法第137条の3第2項(同上)/引用した文言:「当該相続人が政令で定めるところにより当該相続等納税猶予分の所得税額に相当する担保を供し、かつ、当該年分の所得税に係る確定申告期限までに当該相続又は遺贈により当該対象資産を取得した非居住者の全てが政令で定めるところにより国税通則法第百十七条第二項(納税管理人)の規定による納税管理人の届出をした場合に限り」
  • 所得税法第137条の3第3項(同上)/引用した文言:「次の各号に掲げる者が、それぞれ当該各号に定める日又は期限までに、前二項の規定による納税の猶予に係る期限の延長を受けたい旨その他財務省令で定める事項を記載した届出書を、納税地の所轄税務署長に提出した場合には、これらの規定中「五年」とあるのは、「十年」とする。」
  • 所得税法第137条の3第3項第一号(同上)/引用した文言:「前二項の規定の適用を受けている者贈与の日又は相続の開始の日から五年を経過する日(同日前に受贈者帰国等の場合又は相続人帰国等の場合に該当することとなつた場合には、その該当することとなつた日の前日)」
  • 所得税法第137条の3第4項(同上)/引用した文言:「第一項の規定の適用を受けようとする者の提出した確定申告書又は第二項の規定の適用を受けようとする相続人が提出した適用被相続人等の確定申告書に、これらの規定の適用を受けようとする旨の記載があり、かつ、……書類の添付がある場合に限り、適用する。」
  • 所得税法第137条の3第7項(同上)/引用した文言:「同日の属する年の翌年三月十五日(次項、第九項及び第十二項において「提出期限」という。)までに、政令で定めるところにより、納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。」
  • 所得税法第137条の3第10項(同上)/引用した文言:「第一項の規定の適用を受けている者が第六十条の二第一項(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)に規定する国外転出をしようとする場合には、当該国外転出の時までに、国税通則法第百十七条第二項の規定による納税管理人の届出をしなければならない。」
  • 所得税法第137条の3第15項(同上)/引用した文言:「当該適用贈与者等に係る納税猶予分の所得税額に係る納付の義務は、当該適用贈与者等の相続人が承継する。」
  • 所得税法第60条の3第8項第一号(贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例)/引用した文言:「当該有価証券等の譲渡に係る譲渡価額又は限定相続等の時における当該有価証券等の価額に相当する金額が当該贈与等の時における当該有価証券等の価額に相当する金額……を下回るとき。」
  • 所得税法第60条の3第9項(同上)/引用した文言:「猶予適用贈与者から贈与により有価証券等又は未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る契約の移転を受けた非居住者で当該猶予適用贈与者……からその贈与の日の属する年分の所得税につき第百三十七条の三第一項又は第二項の規定による納税の猶予を受けている旨及び当該納税の猶予に係る基準日の通知を受けたもの(その相続人を含む。)が」
  • 所得税法第60条の3第9項(同上)/引用した文言:「その者は、その譲渡若しくは決済又は限定相続等の日(当該限定相続等に係る相続人にあつては、その相続の開始があつたことを知つた日)から二月以内に、当該猶予適用贈与者に、……通知しなければならない。」
  • 所得税法第153条の3第1項(非居住者である受贈者等が帰国をした場合等の更正の請求の特例)/引用した文言:「第六十条の三第六項各号に掲げる場合に該当することとなつた日から四月以内に、税務署長に対し、更正の請求をすることができる。」
  • 所得税法第153条の3第2項(同上)/引用した文言:「前項の規定は、第六十条の三第八項(同条第十項において準用する場合を含む。)の規定の適用がある同条第八項に規定する猶予適用相続人並びに同条第十項第一号に規定する個人及び同項第二号に掲げる者について準用する。」
  • 所得税法第153条の3第2項(同上)/引用した文言:「「第六十条の三第六項各号に掲げる場合に該当することとなつた日」とあるのは「第六十条の三第八項又は第十項に規定する譲渡若しくは決済又は限定相続等による移転の日」と読み替えるものとする。」
  • 所得税法第153条の4第1項(相続により取得した有価証券等の取得費の額に変更があつた場合等の更正の請求の特例)/引用した文言:「居住者が相続又は遺贈により取得した第六十条の二第一項(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)に規定する有価証券等の譲渡をした場合において、」
  • 所得税法第153条の4第1項(同上)/引用した文言:「当該居住者(その相続人を含む。)は、それぞれ次の各号に定める日から四月以内に、税務署長に対し、当該譲渡の日の属する年分の所得税について更正の請求をすることができる。」
  • 所得税法第153条の5第1項(遺産分割等があつた場合の更正の請求の特例)/引用した文言:「その相続人は、当該遺産分割等の事由が生じた日から四月以内に、税務署長に対し、更正の請求をすることができる。」

本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

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