海外に資産を持っている人に、その内容を毎年申告させる制度があります。国外財産調書と財産債務調書です。
税金の申告ではありません。財産(と債務)の一覧を出す義務です。本税の額そのものは変わりません。しかし、後で修正申告になったときの加算税が5%ずつ動きますし、国外財産調書には刑事罰まで用意されています。
国外財産調書
内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(国外送金等調書法)第5条第1項。
居住者(所得税法……第2条第1項第3号に規定する居住者をいい、同項第4号に規定する非永住者を除く。……)は、その年の十二月三十一日においてその価額の合計額が五千万円を超える国外財産を有する場合には、……当該国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した調書(以下「国外財産調書」という。)を、その年の翌年の六月三十日までに、……所轄税務署長に提出しなければならない。ただし、同日までに当該国外財産調書を提出しないで死亡し、又は同法第二条第一項第四十二号に規定する出国をしたときは、この限りでない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰が | 居住者(非永住者を除く) |
| いつ時点 | その年の12月31日 |
| いくらから | 国外財産の価額の合計が5,000万円超 |
| いつまでに | 翌年の6月30日まで |
| 出さなくてよい場合 | 6月30日までに提出しないで死亡したとき、又は「出国」したとき(ただし書) |
「5,000万円超」は国外財産の合計です。所得の多寡は要件になっていません。
ここでいう「出国」は、日常語の出国ではありません。所得税法2条1項42号は、居住者について「国税通則法第百十七条第二項(納税管理人)の規定による納税管理人の届出をしないで国内に住所及び居所を有しないこととなること」と定義しています。納税管理人を届け出て海外に移った人は、この「出国」に当たりません。したがって提出義務は残ります。海外に引っ越したから出さなくてよい、という話ではありません。
財産債務調書 ── 入口が2つある
同法第6条の2。こちらは国内外を問わない財産の一覧で、「財産の種類、数量及び価額並びに債務の金額」を書きます。入口が2つあることを見落としがちです。
入口①(第1項) ── 第1項各号に掲げる確定申告書を提出すべき者・提出することができる者(各号に限定があります)で、
その年分の総所得金額……及び山林所得金額……の合計額が二千万円を超え、かつ、その年の十二月三十一日においてその価額の合計額が三億円以上の財産又はその価額の合計額が一億円以上の国外転出特例対象財産……を有する場合
入口②(第3項) ── 所得要件は一切ありません。
所得税法第二条第一項第三号に規定する居住者(第一項……の規定により財産債務調書を提出すべき者を除く。)は、その年の十二月三十一日においてその価額の合計額が十億円以上の財産を有する場合には、第一項の規定にかかわらず、……財産債務調書を、その年の翌年の六月三十日までに、……提出しなければならない。この場合においては、同項ただし書の規定を準用する。
| 入口 | 所得要件 | 財産要件 |
|---|---|---|
| 第1項 | 総所得金額+山林所得金額が2,000万円超 | かつ 財産3億円以上 又は 国外転出特例対象財産1億円以上 |
| 第3項 | なし | 財産10億円以上 |
第3項は「所得が少ないから関係ない」が通じません。確定申告書の提出義務すらない居住者でも、12月31日に10億円以上の財産があれば提出義務があります。給与も年金も少ない資産家、含み益だけが大きい創業者が、ここに引っかかります。
「国外転出特例対象財産」は、所得税法60条の2の有価証券等・未決済信用取引等・未決済デリバティブ取引に係る権利です。出国税の1億円と同じ範囲を見ています。
免除事由が国外財産調書と違います。財産債務調書のただし書は死亡だけです(6条の2第1項ただし書、第3項後段の準用)。「出国」は免除事由になっていません。
なお、国外財産調書を出している場合、そこに記載した国外財産については、財産債務調書には価額を除く事項の記載を要しません(同条第5項)。価額は書きます。
出す/出さないで、加算税が5%動く
同法第6条。対象が限定されています。「国外財産に関して生ずる所得で政令で定めるものに対する所得税」と「国外財産に対する相続税」に関する修正申告等だけです。国内の売上計上漏れのような、国外財産と無関係な修正申告では動きません。
- 第1項 ── 提出期限内に提出された国外財産調書に、修正申告等の基因となる国外財産の記載があるとき、過少申告加算税・無申告加算税を5%軽減
- 第3項 ── 期限内に提出がない場合、又は提出された調書にその国外財産の記載がない場合(重要なものの記載が不十分な場合を含む)、5%加重
出していれば5%引き、出していなければ5%増し。差は10%です。
ただし第3項の加重には除外があります。死亡した者に係る修正申告等は対象外(3項柱書)。相続で取得した国外財産(相続国外財産)について、本人の責めに帰すべき事由がない不提出・記載漏れも対象外(3項各号括弧書き)。相続税の修正申告等については、5項が一定の相続人を除外しています。
同条第7項は、税務職員から国外財産の取得・運用・処分に係る書類の提示・提出を求められ、60日を超えない範囲で指定された日までに応じなかったとき(本人の責めに帰すべき事由がない場合を除く)、第1項の軽減を適用せず、第3項の「百分の五」を「百分の十」に読み替えます。相続国外財産に係る一定の場合は5%にとどまります。
期限に遅れたら終わり、ではありません。同条第6項に、期限後に提出した国外財産調書であっても、その提出が更正・決定を予知してされたものでなく、かつ、国税通則法65条6項の調査通知がある前にされたものであるときは、期限内に提出されたものとみなすという規定があります。
財産債務調書の加算税特例は、6条と同じではない
同法第6条の3。3点、範囲が違います。
| 国外財産調書(6条) | 財産債務調書(6条の3) | |
|---|---|---|
| 5%軽減の対象 | 所得税・相続税 | 所得税・相続税(1項) |
| 5%加重の対象 | 所得税・相続税 | 所得税のみ(2項は6条3項を「財産債務に係る所得税」について準用) |
| 書類不提示による10%加重(6条7項) | あり | 準用されていない(3項が準用するのは6条6項・8項のみ) |
加重されるのは所得税だけで、相続税には及びません。また、6条の2第5項により財産債務調書への記載を要しない国外財産は、6条の3第1項の「財産」から除かれています。
罰則 ── 不提出そのものに罰があるのは国外財産調書だけ。ただし別の入口がある
同法第10条。
国外財産調書に偽りの記載をして税務署長に提出したときは、その違反行為をした者は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
2 正当な理由がなくて国外財産調書をその提出期限までに税務署長に提出しなかったときは、その違反行為をした者は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。ただし、情状により、その刑を免除することができる。
第10条が名指ししているのは「国外財産調書」だけです。財産債務調書の不提出・虚偽記載それ自体に対する罰則は、置かれていません。
ただし「財産債務調書なら刑事罰と無縁」ではありません。同法第7条第2項は、当該職員の質問検査権の対象に「国外財産調書又は財産債務調書の提出に関する調査」を掲げており、これに対する不答弁・偽りの答弁・検査の拒否妨害忌避(第9条第3号)、物件の提示提出の要求に正当な理由なく応じないこと(第9条第4号)は、いずれも一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金の対象です。第11条には両罰規定もあります。
刑名は「懲役」ではなく拘禁刑です。
実務で迷いが生じるところ
- 何が「国外財産」に当たるのか。資産の種類ごとに所在の判定基準があります
- 価額はどう評価するのか。時価か見積価額かという論点があります
- 海外の年金や保険は入るのか。財産の範囲の問題です
- 相続があった年はどうするのか。5条2項(国外財産調書)、6条の2第2項(3億円/1億円基準)、同条第4項(10億円基準)に、相続で取得した財産を除いて判定できる規定があります
- 非永住者は本当に出さなくてよいのか。5条1項の括弧書きは非永住者を除いています。ただし非永住者でなくなった年からは対象です。財産債務調書のほうには、この除外はありません
- 債務はどこまで書くのか。財産債務調書は財産だけの一覧ではありません
移住を考えている人にとっては、この2つの調書が「日本側に自分の資産をどこまで見せているか」の記録になります。納税管理人を置いて出るのか置かずに出るのかで、その年の提出義務まで変わります。動く前にご相談ください。
根拠条文
- 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律第5条(国外財産調書の提出)
- 同法第6条(国外財産に係る過少申告加算税又は無申告加算税の特例)── 第1項・第3項・第5項・第6項・第7項
- 同法第6条の2(財産債務調書の提出)── 第1項・第2項・第3項・第4項・第5項
- 同法第6条の3(財産債務に係る過少申告加算税又は無申告加算税の特例)
- 同法第7条第2項(当該職員の質問検査権等)
- 同法第9条・第10条(罰則)、第11条(両罰規定)
- 国税通則法第65条第6項(調査通知)、第117条第2項(納税管理人)
- 所得税法第2条第1項第3号・第4号・第42号(出国の定義)、第60条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)
個別の判定には財産の内容と評価の確認が必要です。
本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。










