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アジアの税制をどう比べるか――会社の利益とオーナーの手取りを分けて考える

海外進出や移住を考えると、まず気になるのは税率です。しかし、法人税が低い国に会社を置けば、オーナー個人の手取りも同じように増えるとは限りません。会社がどこで事業を行い、利益をどう受け取り、株主がどこで暮らすかによって、課税される場所と範囲が変わるからです。

本稿は2026年9月17日に確認できた公的資料を基礎に、日本、シンガポール、香港、韓国、台湾、タイの制度の骨格を比較します。香港・台湾は比較上の税務管轄として扱います。アジア全域の網羅や、同じ所得額を置いた税額ランキングではありません。特別な投資優遇の適用を前提とせず、現行税率の一律表示よりも、進出・移住の判断を左右する違いに焦点を当てます。

最初に見るのは「誰の、どの所得か」

比較には三つの段階があります。第一に、現地法人の事業利益。第二に、その利益を給与・配当などとして受け取る個人の所得。第三に、物品やサービスの販売にかかる消費課税です。この三つを一枚の税率表に押し込めると、税のかかる対象が違うのに、同じ数字として比べてしまいます。

国・地域 法人・事業利益の見方 個人の海外所得で見る点 一般的な消費課税
日本 法人税だけでなく地方の法人課税も確認 居住者区分と所得の範囲を確認 消費税・地方消費税
シンガポール 国内所得と受領した国外所得、免税要件を区別 国外所得は原則免税の枠組み。国内源泉かの判定が先 GST
香港 利益の源泉地が重要。一定の国外所得には別規定 給与・事業など所得別に香港との関係を確認 一般的なVAT・売上税なし
韓国 法人課税と個人課税を分けて比較 居住者区分、外国人に関する課税範囲を確認 VAT
台湾 域内に本店のある企業は域外所得も課税対象 通常の所得税に加え、海外所得の基本税額を確認 営業税(付加価値型等)
タイ タイ法人か外国法人か、事業の所在を確認 国外所得の発生年・居住状況・持込みを確認 VAT。一部事業は別の課税

表は計算結果ではなく、確認箇所を示したものです。日本の法人負担に地方税を含める必要は、財務省の法人実効税率比較の注記からも分かります。比較先の税率が国税だけなら、そのまま大小を判定できません。

日本では非永住者以外の居住者は、原則として国内外のすべての所得が課税対象です。海外の銀行に受け取ったという事実だけでは、課税範囲から外れません。韓国も、国内の住所と183日以上の居所による居住者区分を先に確認します。「海外口座を使うこと」と「税務上の居住地を移すこと」を分ける点は、比較の土台になります。国税庁「納税義務者となる個人」韓国国税庁「居住者の区分」

基本税率の例――シンガポールと香港

数値の感覚をつかむため、両地域の基本税率を示します。2026年9月17日確認の公表制度で、控除・還付、優遇税率、大規模企業グループの追加課税を反映した最終負担ではありません。

税目 シンガポール 香港
法人の事業所得 17%(YA 2026も基本税率は同じ) 標準16.5%。二段階制は課税利益200万香港ドルまで8.25%、超過部分16.5%
一般的な消費課税 GST 9%(2024年1月1日以後) 一般的なVAT・売上税なし

香港の二段階制は2018/19課税年度以後の制度で、関連事業体では原則一つだけが適用対象となるなど制限があります。シンガポールには部分免税や年度ごとの法人税還付があるため、17%を会計利益に掛ければ納税額になるわけではありません。IRAS「法人税率・免税等」香港IRD「利得税」香港IRD「二段階税率FAQ」IRAS「GST一般ガイド」

シンガポールと香港も、同じ仕組みではない

シンガポールの個人について、IRASは居住者が受け取る国外源泉所得を原則免税と説明しています。ただし、シンガポールのパートナーシップを通じた所得などには例外があります。海外の会社から支払われたというだけで、国外源泉所得になるわけでもありません。仕事を実際にどこで行ったかを先に確かめる必要があります。IRAS「海外から受け取る所得」

法人では、国外所得の受領と免税要件を別に検討します。個人の説明をそのまま資産管理会社に移すことはできません。また、会社の税務上の居住地には経営・管理の場所が関わります。設立証明書があることと、租税条約の恩典を受けられる居住法人であることは同じではありません。IRAS「法人の課税所得」IRAS「会社の税務上の居住地」

香港では、事業利益の源泉地を重視する仕組みが基本です。一方、多国籍企業グループの構成事業体が香港で受領する一定の国外所得には、国外所得免税制度の規定があり、経済的実体などが問題になります。「香港法人なら海外収入はすべて無税」という整理は粗すぎます。香港IRD「属地主義」香港IRD「国外所得免税制度」

台湾とタイは、海外所得の入口が違う

台湾では、域内に本店を持つ企業の課税対象に域外所得も含まれる一方、個人の海外所得は基本税額の検討が必要です。「通常の個人所得税の対象外」という説明と、「最終的な追加納税が生じない」という説明は区別しなければなりません。台湾財政部「所得税法」台湾財政部「基本税額に関する統計解説」

タイは、国外所得を国内に持ち込むときの扱いが重要です。歳入局の案内は2024年以後に生じた国外所得と、それ以前の所得を分けています。入金額の全部が所得とは限らず、所得が発生した年の居住状況も確認対象です。古い預金、運用益、元本が混ざった口座から送金するなら、入金履歴をたどれる状態が判断の出発点になります。本稿では個別の免税措置や改正案まで含めた無税の判定はしていません。タイ歳入局「国外源泉所得の案内」

消費課税は、利益がなくても関係する

消費課税の確認は、黒字になってからでは遅い場合があります。販売先、取引の種類、登録義務、仕入税額の控除が、請求書と資金繰りに直結するためです。シンガポールはGST、韓国とタイはVAT(韓国の導入は国税庁の沿革参照)、台湾は付加価値型などの営業税を持ちます。香港には一般的なVAT・売上税がありませんが、個別の取引に一切税がないことを意味しません。IRAS「GST」タイ歳入局「VAT」台湾営業税法香港政府の投資FAQ

オーナー経営者の比較表には、資金の出口を入れる

例えば海外子会社が利益を留保する場合と、その利益を日本に暮らす株主へ配当する場合は、比較の終点が違います。前者は再投資に使える資金、後者は個人が使える資金を比べます。両者を混ぜると、留保による課税時期の違いを、恒久的な税負担の違いと取り違えます。

検討の順番は、事業の実態、法人の課税、利益の払い出し、個人の居住地、二重課税の調整です。最後に会計・申告の維持費を加えます。税率表はその途中の資料です。会社と家族の活動を具体的に置いて初めて、「その国が有利か」ではなく「この計画でいくら残るか」という比較になります。

本稿は制度比較の一般的解説です。個別の税額は所得区分、保有関係、居住状況、適用年度、租税条約などにより異なります。

本稿は2026年9月20日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

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