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海外法人が日本の会社を売るとき――「日本に拠点がない」だけでは税金は決まらない

海外の持株会社から日本子会社を売却する場合、日本に支店や事務所がなくても、日本の税金を検討する必要があります。売却後の手取りを見積もるには、売主の所在地だけでなく、売る株式の性質と適用される租税条約を順に確かめることが欠かせません。

「PEがなければ課税なし」は、どこまで通じるか

国際税務では「PEなければ課税なし」という言葉を耳にします。PEとは恒久的施設のことで、外国企業が事業を行う支店や事務所などの拠点を指します。ただし、この言葉を、海外法人に生じるあらゆる所得にそのまま当てはめることはできません。所得の種類によって課税の仕組みが違うからです。

たとえば、海外法人が商品を販売して得る事業の利益と、保有する日本企業の株式を売って得る利益は、同じ順序で結論が出るとは限りません。株式の売却では、国内法の資産譲渡に関する規定や、租税条約の「譲渡収益」の条項を確認する必要があります。国税庁も、外国法人への課税関係は、国内源泉所得の種類やPEへの帰属によって異なると説明しています。[1]

なお、「日本に支店登記がない」と「日本にPEがない」も同義ではありません。事業を行う場所や代理人の活動などを踏まえた判定が必要です。ここでは、本当に日本にPEがない外国法人を想定して、その先の検討を説明します。

まず国内法、次に租税条約を読む

最初に確かめるのは、日本の国内法で、その株式譲渡益が課税対象になるかどうかです。外国法人が日本企業の株式を売却する場合には、一定の大口保有・譲渡に関する類型や、不動産関連法人の株式に関する類型などが問題になります。単に「日本株だから課税」「海外売主だから非課税」と整理せず、保有割合や関係者の保有状況、譲渡の時期、対象会社の資産構成を要件に当てはめます。[2]

国内法で課税対象となる場合には、続いて、売主に適用される租税条約によって日本の課税が制限されるかを検討します。ここで読むべきなのは、配当や利子の税率表だけではありません。株式売却の利益をどちらの国・地域で課税できるかを定める譲渡収益の規定と、その例外です。

条約によって結論が変わり得るため、別の国にある持株会社についての説明を、そのまま自社に流用することはできません。また、条約が日本の課税を認めていても、それだけで具体的な税額が決まるわけではありません。国内法の課税要件や所得計算に戻って確認します。

見落としやすいのは、会社の中にある不動産

株式譲渡で注意したいのが、会社の価値を日本の不動産が大きく占める場合です。土地や建物そのものを売らず、その所有会社の株式を売る形でも、一定の要件の下で日本の課税対象になります。会社の業種が不動産業かどうかだけで判定するものではありません。

たとえば、事業会社が長年保有してきた土地を持っているとします。売却交渉では売上や利益に目が向きがちですが、税務上は、その土地が資産全体の中でどの程度の価値を占めるかも確認が必要です。さらに、別の会社を通じた間接保有を含むことがあるため、売却対象会社一社の貸借対照表で調査を終えないことが大切です。

判定する時点にも注意が必要です。日本の国内法では、不動産関連法人の判定について、株式譲渡の日から起算して365日前の日から譲渡直前までのいずれかの時を見る仕組みがあります。売却直前に資産構成が変わったからといって、過去の状態が無関係になるわけではありません。他方、条約の判定期間は、その条約と修正内容を別途確認する必要があります。[3]

決算書の簿価だけで、割合を計算しない

不動産が会社の価値のどれほどを占めるかを調べるとき、決算書は出発点になります。しかし、帳簿に載っている取得原価や償却後の金額と、判定に必要な資産の価値は一致するとは限りません。取得時期の古い土地などは、簿価と時価の差が大きいことがあります。

したがって、条文が求める評価対象と評価基準を確かめ、必要な時点の時価を裏付ける資料をそろえます。不動産だけを時価に置き換え、ほかの資産を無条件で簿価のままにする計算も避けたいところです。分子と分母で何を測るのかをそろえなければ、計算結果の割合だけが精密でも、判定の根拠は弱くなります。

これは、売主が株式譲渡益を計算するための取得価額の確認とは別の作業です。「不動産関連法人に当たるかを判定する資産価値」と「株式をいくらで取得したか」を分けて整理すると、必要な資料も明確になります。

条約の適用資格と、MLIによる修正も確認する

条約を使うには、売主がその条約上の居住者に当たることなどが必要です。設立国だけを見て終えるのではなく、該当する条約の定義に照らして確認します。また、特典制限や租税回避防止の規定があれば、その条件も検討します。

既存の租税条約には、BEPS防止措置実施条約、通称MLIによって修正されるものがあります。ただし、すべての条約に、すべてのMLIの規定が一律に加わるわけではありません。対象となる条約、両国・地域の選択、適用開始時期を確認する必要があります。財務省は、条約ごとの適用関係や統合条文を公表しています。[4]

統合条文は、修正を織り込んで読むための便利な資料です。ただし、それ自体が法的根拠ではなく、条約とMLIの正文が法的文書である点は区別します。大きな売却では、結論に関わる条項を正文まで確認し、どの事実を根拠に適用を判断したかを残しておくことが有用です。

売却前の組織再編は、売却とは別に検討する

会社売却の前に、株式を別の持株会社へ移したり、グループ内の組織を整理したりすることがあります。その場合、「最終的な売却に条約が使える」という検討だけでは足りません。先行する移転や再編についても、誰が何を移し、対価をどう受け取り、どの時点で課税関係が生じるかを確認します。

取引を工程ごとに分ける一方で、全体としての事業目的や実態も説明できるようにします。売却前に持株会社を変更するのであれば、再編自体の取扱い、売却益に対する条約の適用資格、租税回避防止規定の検討を並行して進める必要があります。

売却を検討し始めたら、株主構成とその変遷、対象会社・子会社の資産明細、価値を裏付ける資料、売主の管理や意思決定の実態、予定している再編と売却の工程表を整理しましょう。これらを国内法と条約の要件に対応させることで、税引後の手取りを根拠ある数字として交渉に織り込めます。

参照資料

  1. 国税庁 No.2883「恒久的施設(PE)」
  2. 国税庁「令和8年版 源泉徴収のあらまし」非居住者・外国法人に関する章
  3. 国税庁「平成30年度 法人税関係法令の改正の概要」
  4. 財務省「BEPS防止措置実施条約(MLI)」適用関係・統合条文

資料確認日:2026年9月17日。本稿は一般的な論点整理であり、特定の取引についての税務判断を示すものではありません。実際の取引日・事業年度に適用される法令と条約に基づく確認が必要です。

本稿は2026年9月20日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

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