海外の会社や個人に支払をするとき、日本側に源泉徴収の義務が生じることがあります。徴収を忘れると、納税義務を負うのは支払った側です。
国際取引で事故が特に多い論点です。
条文の定義
所得税法第212条第1項。
非居住者に対し国内において第百六十一条第一項第四号から第十六号まで(国内源泉所得)に掲げる国内源泉所得(政令で定めるものを除く。)の支払をする者又は外国法人に対し国内において同項第四号から第十一号まで若しくは第十三号から第十六号までに掲げる国内源泉所得(……)の支払をする者は、その支払の際、これらの国内源泉所得について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。
対象となる号が、非居住者と外国法人で違います。まず相手が個人か法人かを確定させる必要があります。
税率(所得税法第213条第1項)
| 対象 | 税率 | 付加税を含む税率 |
|---|---|---|
| 原則(1号) | 20% | 20.42% |
| 国内にある土地等の譲渡による対価(161条1項5号/2号) | 10% | 10.21% |
| 利子等・給付補塡金等(161条1項8号・15号/3号) | 15% | 15.315% |
1号については、年金・賞金等に課税標準の控除を定める規定(213条1項1号イ〜ハ)があります。支払額にそのまま税率を掛ける形ではない類型があります。
また161条1項5号(土地等の譲渡対価)には「政令で定めるものを除く」という限定があり、所得税法施行令第281条の3は、その金額が1億円を超えず、かつ自己又はその親族の居住の用に供するために譲り受けた個人から支払われるものを除いています。この場合は国内源泉所得に当たりません。
2026年中に生ずる所得については、復興財確法第28条第1項・第2項により、源泉徴収すべき所得税額の2.1%に相当する復興特別所得税を併せて徴収・納付します。
2026年度改正により、2027年1月1日以後に生ずる所得に対する所得税には、復興特別所得税1.1%と防衛特別所得税1%が上乗せされます。合計2.1%は変わらないので、表の20.42%・10.21%・15.315%も変わりません。復興特別所得税の課税期間は、令和29年(2047年)12月31日までに10年間延長されます。
国外で支払っても、日本の源泉徴収義務が残ることがある
所得税法第212条第2項。
前項に規定する国内源泉所得の支払が国外において行われる場合において、その支払をする者が国内に住所若しくは居所を有し、又は国内に事務所、事業所その他これらに準ずるものを有するときは、その者が当該国内源泉所得を国内において支払うものとみなして、同項の規定を適用する。この場合において、同項中「翌月十日まで」とあるのは、「翌月末日まで」とする。
海外口座から海外へ送金しても、義務が消えるとは限りません。納期限も変わります。
租税条約による軽減・免除には、事前の届出が要る
租税条約に限度税率や免除の定めがあっても、自動的に適用されるわけではありません。
租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令第2条第1項は、相手国居住者等配当等について条約に基づく軽減・免除を受けようとする場合、支払を受ける相手国居住者等が、源泉徴収義務者ごとに、条約の効力発生の日以後最初にその支払を受ける日の前日までに、源泉徴収義務者を経由して届出書を提出しなければならないとしています(無記名の株式・債券等には別の定めがあります)。
届出がなければ、その支払の際は国内法の税率で徴収することになります。ただし条約の特典そのものが失われるわけではなく、同条第8項・第9項が還付の請求を定めています。手元資金と手間の問題は残ります。
なお、特典制限条項のある条約については、同省令第9条の2以下に、特典条項に係る規定の適用を受ける場合の届出等が別に置かれています。届出書1枚では足りない条約があります。
徴収を忘れるとどうなるか
国税通則法第67条第1項は、源泉徴収等による国税が法定納期限までに完納されなかった場合、納税の告知に係る税額等に百分の十の割合を乗じて計算した不納付加算税を徴収するとしています。同項にはただし書があります。
ただし同条第2項は、告知があるべきことを予知せずに法定納期限後に納付した場合は百分の五とし、同条第3項は、法定納期限までに納付する意思があったと認められる政令で定める場合に該当し、かつ法定納期限から1月を経過する日までに納付されたときは第1項を適用しないとしています。気づいた時点で早く納めるほど、負担は軽くなります。
そして、納付義務を負うのは支払った側です。所得税法第222条は、徴収しなかった所得税額に相当する金額を、徴収されるべき者に対して請求できる旨を定めていますが、現実に回収できるかは別の問題です。
実務で迷いが生じるところ
- 海外のフリーランスに払う報酬は対象か。どの号の国内源泉所得に当たるかで決まります
- クラウドサービスの利用料は使用料に当たるのか。契約の内容が問われます
- 相手が「うちは日本で税金を払っていない」と言ってきたらどうするか。源泉徴収義務は支払者の義務です
- 契約で「手取り額」を約束していたらどうなるか。グロスアップという論点があります
- 相手の居住地国が分からないときはどうするか。条約の適用可否が判断できません
- すでに何年も徴収せずに払ってきた場合はどうするか。さかのぼって告知を受ける可能性があります
送金する前に確認してください。支払ってしまうと、選べる手が減ります。海外への支払いの類型が決まった段階でご相談ください。
根拠条文
- 所得税法第161条第1項(国内源泉所得)
- 所得税法第212条(源泉徴収義務)
- 所得税法第213条(徴収税額)
- 所得税法施行令第281条の3(国内にある土地等の譲渡による対価)
- 所得税法第222条(不徴収税額の支払金額からの控除及び支払請求等)
- 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法第28条(源泉徴収義務等)
- 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令第2条
- 国税通則法第67条(不納付加算税)
- 我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法第5条の26第1項・第2項(2027年1月1日施行)
個別の判定には契約内容と相手方の確認が必要です。
本稿は2026年9月7日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。










