国際税務の基礎知識

PE帰属所得(AOA)とは

恒久的施設(PE)があると分かりました。次の問いは「では、いくらがそのPEの所得か」です。この配分ルールが実務でAOA(Authorised OECD Approach)と呼ばれるものです。ただし「AOA」も「OECD」も、法人税法の条文には一度も出てきません。条文は別の組み立てで書かれています。

条文の定義

法人税法第138条第1項第1号。

一 外国法人が恒久的施設を通じて事業を行う場合において、当該恒久的施設が当該外国法人から独立して事業を行う事業者であるとしたならば、当該恒久的施設が果たす機能、当該恒久的施設において使用する資産、当該恒久的施設と当該外国法人の本店等……との間の内部取引その他の状況を勘案して、当該恒久的施設に帰せられるべき所得(当該恒久的施設の譲渡により生ずる所得を含む。)

「恒久的施設帰属所得」という語は、この138条には出てきません。この略称は142条1項の括弧書きで定義されます。用語の出どころを取り違えないでください。

PEそのものの譲渡益も含みます。括弧書きが明示しています。

「内部取引」とは何か

同条第2項。

前項第一号に規定する内部取引とは、外国法人の恒久的施設と本店等との間で行われた資産の移転、役務の提供その他の事実で、独立の事業者の間で同様の事実があつたとしたならば、これらの事業者の間で、資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引資金の借入れに係る債務の保証、保険契約に係る保険責任についての再保険の引受けその他これらに類する取引として政令で定めるものを除く。)が行われたと認められるものをいう。

社内の付替えが「取引」になります。法律行為ではなく「事実」を捉えています。

除外の構造に注意してください。資金の借入れに係る債務の保証と再保険の引受けは、法律が直接掲げている除外です。政令に委ねられているのは「これらに類する取引」だけで、その政令=法人税法施行令第181条(債務の保証等に類する取引)は「資金の借入れその他の取引に係る債務の保証(債務を負担する行為であつて債務の保証に準ずるものを含む。)」と定めるにとどまります。再保険は政令には出てきません。

対価は独立企業間価格による

内部取引を認識したあと、その値段をどう決めるか。法人税法ではなく、租税特別措置法に書いてあります。

租税特別措置法第66条の4の3第1項(外国法人の内部取引に係る課税の特例)。

……本店等……と恒久的施設との間の……内部取引……の対価の額とした額が独立企業間価格と異なることにより、……益金の額に算入すべき金額が過少となるとき、又は損金の額に算入すべき金額が過大となるときは、……当該内部取引は、独立企業間価格によるものとする

移転価格税制と同じ片側規制です。日本側の所得が過少になる方向のときだけ働きます。同条2項が独立企業間価格の算定方法を定めています。

課税標準

法人税法第141条。PEの有無で条が分かれ、PEがある場合はさらに2本立てです。

一 恒久的施設を有する外国法人 各事業年度の次に掲げる国内源泉所得

  第百三十八条第一項第一号に掲げる国内源泉所得

  第百三十八条第一項第二号から第六号までに掲げる国内源泉所得(同項第一号に掲げる国内源泉所得に該当するものを除く。)

二 恒久的施設を有しない外国法人 各事業年度の第百三十八条第一項第二号から第六号までに掲げる国内源泉所得

イがPE帰属所得、ロがPEに帰属しない国内源泉所得です。イとロは計算する条文が違います。イは142条以下、ロと2号は142条の10が「第142条から第142条の2の2までの規定に準じて計算した金額とする」と定めています。

所得の計算

法人税法第142条。条見出しは「(恒久的施設帰属所得に係る所得の金額の計算)」です。

外国法人の各事業年度の前条第一号イに掲げる国内源泉所得(以下この款において「恒久的施設帰属所得」という。)に係る所得の金額は、外国法人の当該事業年度の恒久的施設を通じて行う事業に係る益金の額から当該事業年度の当該事業に係る損金の額を控除した金額とする。

第2項は、内国法人の所得計算の規定のうち「第二款から第九款まで……及び第十二款」を「準じて計算」すると定め、適用しない条文を長い括弧書きで列挙しています。

実務で効くのは次の3つです。

  • 第5款第5目(完全支配関係がある法人の間の取引の損益) ── グループ法人税制は準用されません
  • 37条2項(完全支配関係がある内国法人に対する寄附金の全額損金不算入)だけが除外で、37条1項の一般寄附金の限度計算は準じて適用されます
  • 57条2項(欠損金の繰越し)は「残余財産の確定に係る部分に限る」という限定付きの除外

ほかに23条の2、25条の2〜27条(受贈益等)、33条5項、39条の2、41条、41条の2、46条、60条の2、61条の2第17項が除外されています。

別段の定めは10条ある

142条のあとに、PE特有の規定が続きます。4つではありません。

条見出し
142条の2 還付金等の益金不算入
142条の2の2 中間申告における繰戻しによる還付に係る災害損失欠損金額の益金算入
142条の3 保険会社の投資資産及び投資収益
142条の4 恒久的施設に帰せられるべき資本に対応する負債の利子の損金不算入
142条の5 外国銀行等の資本に係る負債の利子の損金算入
142条の6 法人税額から控除する外国税額の損金不算入
142条の6の2 外国法人に係る分配時調整外国税相当額の損金不算入
142条の7 本店配賦経費に関する書類の保存がない場合における本店配賦経費の損金不算入
142条の8 恒久的施設の閉鎖に伴う資産の時価評価損益
142条の9 特定の内部取引に係る恒久的施設帰属所得に係る所得の金額の計算

142条の4は「不足額」を否認する規定です。方向を読み違えないでください。

外国法人の各事業年度の恒久的施設に係る自己資本の額(……)が、当該外国法人の資本に相当する額のうち当該恒久的施設に帰せられるべき金額……に満たない場合には、……負債の利子……の額として政令で定める金額のうち、その満たない金額に対応する部分の金額……は、……損金の額に算入しない

帰属資本に対応する利子を否認するのではありません。帰属すべき資本に自己資本が足りない分に対応する利子が落とせなくなります。

142条の7も要所です。本店配賦経費は、書類を保存していなければ損金不算入です。

PEにも外国税額控除がある

法人税法第144条の2(外国法人に係る外国税額の控除)。PE帰属所得の中に国外源泉所得が入り得るからです。142条の6が「法人税額から控除する外国税額の損金不算入」を定めているのと対になっています。

文書化義務

法人税法第146条の2。この条に条見出しはありません。第三編第六章の章名「恒久的施設に係る取引に係る文書化」がこれに当たります。

恒久的施設を有する外国法人は、……他の者との間で行つた取引のうち、……当該取引から生ずる所得が当該外国法人の恒久的施設に帰せられるものについては、……作成しなければならない

2 ……本店等と恒久的施設との間の資産の移転、役務の提供その他の事実が……内部取引に該当するときは、……作成しなければならない

外部取引の帰属(1項)と内部取引(2項)の2本立てです。移転価格の同時文書化(措法66条の4第6項)には金額基準の免除(同条7項。50億円未満かつ無形資産3億円未満)がありますが、146条の2にはそれに当たる免除規定が置かれていません。

非居住者個人にも同じ構造がある

所得税法第161条第1項第1号が同旨を定めます。ただし用語が違います。法人税法の「本店等」に対し、所得税法は「事業場等」です。計算は所得税法第165条(総合課税に係る所得税の課税標準、税額等の計算)によります。

船舶・航空機の運送業には特則

法法138条第3項。国内外にわたる船舶・航空機の運送事業では、その事業から生ずる所得のうち「国内において行う業務につき生ずべき所得として政令で定めるもの」がPE帰属所得になります。AOAの一般ルールではなく、政令の配分です。

実務で迷いが生じるところ

  • 本店の管理部門のコストをどこまで配賦できるか。142条の7の書類保存が前提になります
  • 本店から支店への資金供給は借入れか資本か。142条の4の「帰せられるべき資本」の算定です
  • 本店の保証を受けている場合、保証料は。138条2項と令181条で内部取引から除かれます
  • 内部取引の値段はどう決めるか。措法66条の4の3が独立企業間価格によるとしています
  • PEを閉鎖するときは。142条の8の時価評価損益が働きます
  • 条約に帰属主義の規定があるときはどうなるか。条約の事業所得条項との関係を確認します

AOAは「支店を別会社として決算する」作業です。機能・資産・リスクをどう置くかで所得が動きます。日本に支店を置く、あるいは海外に支店を置く判断をする段階で、この配分の設計が要ります。進出の形(子会社か支店か)を決める前にご相談ください。

根拠条文

  • 法人税法第138条(国内源泉所得)第1項第1号・第2項・第3項
  • 法人税法第141条(課税標準)第1号・第2号
  • 法人税法第142条(恒久的施設帰属所得に係る所得の金額の計算)第1項・第2項
  • 法人税法第142条の2〜第142条の9(別段の定め)、第142条の10(141条1号ロ及び2号の所得の計算)
  • 法人税法第144条の2(外国法人に係る外国税額の控除)
  • 法人税法第146条の2(第三編第六章「恒久的施設に係る取引に係る文書化」)
  • 法人税法施行令第181条(債務の保証等に類する取引)
  • 租税特別措置法第66条の4の3(外国法人の内部取引に係る課税の特例)第1項・第2項
  • 所得税法第161条第1項第1号、第165条(総合課税に係る所得税の課税標準、税額等の計算)

政令・財務省令の詳細、および租税条約の事業所得条項は本稿では扱っていません。個別の配分には機能とリスクの分析が必要です。

本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

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