株式を1株も持っていないのに、海外の会社の所得が日本で合算されます。それを起こすのが実質支配関係です。持分ではなく、支配の実質で捕まえる規定です。
法律の条文は短い
租税特別措置法第66条の6第2項第5号。
実質支配関係 居住者又は内国法人が外国法人の残余財産のおおむね全部を請求する権利を有している場合における当該居住者又は内国法人と当該外国法人との間の関係その他の政令で定める関係をいう。
「その他の政令で定める関係」で終わっています。残余財産の請求権は例示です。中身は政令にあります。
政令が定める2つの事実
租税特別措置法施行令第39条の16第1項。
一 居住者等が外国法人の残余財産のおおむね全部について分配を請求する権利を有していること。
二 居住者等が外国法人の財産の処分の方針のおおむね全部を決定することができる旨の契約その他の取決めが存在すること(当該外国法人につき前号に掲げる事実が存在する場合を除く。)。
2号が実質です。契約その他の取決めで財産の処分の方針を決められれば、株式がなくても実質支配関係です。信託、匿名組合、株主間契約、現地名義人との合意。形式は問われていません。
しかも柱書は「次に掲げる事実その他これに類する事実が存在する場合」としています。2つの号は閉じたリストではありません。
ただし、2つの除外がある
ここを落とすと、範囲を広く取りすぎます。政令の柱書に、括弧書きの除外が2つ入っています。
除外1 ── 利益が外部に出ていく場合
(当該外国法人の行う事業から生ずる利益のおおむね全部が剰余金の配当……その他の経済的な利益の給付として当該居住者等(当該居住者等と特殊の関係のある者を含む。)以外の者に対して金銭その他の資産により交付されることとなつている場合を除く。)
利益がその居住者等の手に残らないなら、実質支配関係とはしません。支配していても、果実を取っていないなら合算の名宛人にはしない、という考え方です。「特殊の関係のある者を含む」ので、親族や関係法人に流れる分は「外部」に数えません。
除外2 ── すでに50%超で捕まっている場合
(当該関係がないものとして同条第二項第一号(イに係る部分に限る。)の規定を適用した場合に居住者及び内国法人並びに同号イに規定する特殊関係非居住者と当該外国法人との間に同号イ(1)から(3)までに掲げる割合のいずれかが百分の五十を超える関係がある場合における当該居住者等と当該外国法人との間の関係を除く。)
実質支配関係を外して数えても50%超なら、実質支配関係とはしません。外国関係会社の判定はイ(50%超)で足りるので、ロを重ねない、という整理です。
この2つの除外は、政令の柱書の括弧書きに入っています。号だけを読むと見落とします。
効果は4つに及ぶ
実質支配関係があると、次の4か所が動きます。
| 場面 | 効果 | 条文 |
|---|---|---|
| 合算の名宛人 | 実質支配関係がある内国法人は、それだけで合算の名宛人(持分ゼロでも構いません。10%以上を計算する必要すらない) | 措法66条の6第1項第2号 |
| 外国関係会社の判定 | 実質支配関係がある外国法人は、それだけで外国関係会社(=被支配外国法人) | 措法66条の6第2項1号ロ |
| 10%以上の判定 | 実質支配関係がある場合、株式等・議決権・請求権のいずれの割合も「零」 | 措法66条の6第1項1号イ・ロ・ハ |
| 合算額の計算 | 被支配外国法人に該当する場合、請求権等勘案合算割合は百分の百 | 措令39条の14第2項1号ロ |
1行目がこの制度の本体です。
二 外国関係会社との間に実質支配関係がある内国法人
持分の話が一切出てきません。実質支配関係があるだけで名宛人です。
そして4行目が効きます。
ロ ……外国関係会社が内国法人に係る被支配外国法人に該当する場合 百分の百
持分がゼロでも、適用対象金額の全額が合算されます。「支配しているなら全部あなたのものとして数える」という設計です。
3行目は、この2つとセットで読みます。持分を持っていても実質支配関係があると持分は「零」と数えられ、名宛人の判定は2号に、合算割合は100%に移る。持分ルートと支配ルートのどちらかに一本化する構造です。なお同じ「零」の扱いは、間接保有の計算(措令39条の14第3項1号の持株割合の括弧書き)にもあります。
1項3号・4号にも実質支配関係が組み込まれています。3号は実質支配関係がある外国関係会社を通じた10%判定、4号は同族株主グループの範囲に実質支配関係がある者を含める規定です。
「特殊の関係」の範囲
措令39条の16第2項が定めています。個人と法人の両方に及びます。
個人側(1号)は、イ親族/ロ事実上婚姻関係と同様の事情にある者/ハ使用人又は雇主/ニイからハまでに掲げる者以外の者で、その者から受ける金銭その他の資産によって生計を維持している者/ホロからニまでに掲げる者と生計を一にする、これらの者の親族です。
ニとホには限定が入っています。ニは「イからハまでに掲げる者以外の者」、ホは「ロからニまでに掲げる者と生計を一にするこれらの者の親族」。ホはイ(親族)を受けていませんし、任意の親族でもありません。
法人側は3つに分かれます。
| 号 | 関係 |
|---|---|
| 2号 | 一方の者が他の法人を支配している場合の当該他の法人(支配の連鎖を含む)。柱書に「次号及び第四号に掲げる関係に該当するものを除く」の括弧書きがあり、3号・4号と重複しません。また「一方の者」には「当該一方の者と前号に規定する関係のある者を含む」とあり、個人側の特殊関係者と合わせて支配を見る |
| 3号 | 二の法人のいずれか一方が他方の発行済株式等の50%超を直接又は間接に有する関係(親子) |
| 4号 | 二の法人が同一の者(個人の場合は、その個人+法人税法2条10号の政令で定める特殊の関係のある個人)によってそれぞれ発行済株式等の50%超を直接又は間接に保有される場合の当該二の法人の関係(兄弟。3号に当たるものを除く) |
「支配の連鎖」で一本化できません。3号・4号は支配ではなく株式保有の基準です。
2号の「支配している」の意義は法人税法施行令第4条第3項の準用によります(措令39条の16第3項)。3号・4号の「直接又は間接」の数え方は、措令39条の12第2項・第3項の準用によります(同条4項。「百分の五十以上の」を「百分の五十を超える」と読み替えます)。
「特殊の関係」は除外1の判定に効きます。利益が親族や関係法人に交付される場合、それは「以外の者」への交付には当たりません。
実務で迷いが生じるところ
- 株式を持たずに現地法人を運営しています。2号の「財産の処分の方針のおおむね全部を決定することができる旨の契約その他の取決め」に当たらないかを見ます
- 名義株の形にしています。形式ではなく取決めの内容で判定されます
- 現地パートナーに利益の大半を渡しています。除外1の検討です。ただし「おおむね全部」です
- すでに60%を持っています。除外2により、ロではなくイで判定します
- 信託を使っている。66条の6第16項に外国信託の受託者に関する規定があります
- 個人の場合は。措法40条の4に個人向けの規定があり、そちらにも実質支配関係が置かれています
実質支配関係は、資本関係図を見ても出てきません。契約書、取決め、実際の意思決定の流れを見ないと判定できない類型です。海外に持分のない法人や信託がある、あるいは現地名義人を立てている場合は、契約書一式をお持ちのうえご相談ください。
根拠条文
- 租税特別措置法第66条の6第2項第5号(実質支配関係)、第2項第1号ロ
- 租税特別措置法第66条の6第1項第1号イ・ロ・ハ、第1項第2号、第1項第3号・第4号
- 租税特別措置法第66条の6第16項(外国信託)
- 租税特別措置法施行令第39条の16(実質支配関係の判定)第1項・第2項
- 租税特別措置法施行令第39条の14(課税対象金額の計算等)第2項第1号イ・ロ(請求権等勘案合算割合、被支配外国法人)、第3項第1号
- 法人税法施行令第4条第3項(措令39条の16第3項による準用)
- 租税特別措置法施行令第39条の12第2項・第3項(措令39条の16第4項による準用)
個人に係る外国子会社合算税制(措法40条の4)、外国信託に関する取扱いの細目は本稿では扱っていません。個別の判定には契約その他の取決めの内容の確認が必要です。
本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。










