外国で払った税金は、払った分だけ日本の税金から引けるわけではありません。関門が2つあります。
1. そもそも控除の対象に入らない外国法人税がある(控除対象外国法人税の額。法人税法69条1項の括弧書き、法人税法施行令142条の2)
2. 対象に入っても、控除できる額に枠がある(控除限度額)
本稿は2つめを扱います。
条文の位置
法人税法第69条第1項。
……当該事業年度の所得の金額につき第六十六条第一項から第三項まで(各事業年度の所得に対する法人税の税率)の規定を適用して計算した金額のうち当該事業年度の国外所得金額(……政令で定める金額をいう。……)に対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額(以下この条において「控除限度額」という。)を限度として、その外国法人税の額(……を除く。以下この条において「控除対象外国法人税の額」という。)を当該事業年度の所得に対する法人税の額から控除する。
「国外所得金額」も政令に委ねられています。法人税法施行令141条の2が定めており、国外源泉所得に係る所得の金額の合計額(その合計額が零を下回る場合には零)です。
計算の形
法人税法施行令第142条第1項。条見出しは「(控除限度額の計算)」です。
……同項の内国法人の各事業年度の所得に対する法人税の額(……)に、当該事業年度の所得金額のうちに当該事業年度の調整国外所得金額の占める割合を乗じて計算した金額とする。
控除限度額 = その事業年度の法人税額 × 調整国外所得金額 ÷ 所得金額
分子と分母が何かで結論が変わります。条文はどちらも定義しています。
| 用語 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 法人税額 | 令142条1項 | 法人税法67条〜70条(特定同族会社の特別税率等)並びに措置法62条1項(使途秘匿金)・62条の3・63条(土地重課)等を適用しないで計算し、そこから法69条の2・措法66条の7第4項・66条の9の3第3項による控除額を差し引いた額。附帯税の額を除く |
| 所得金額(分母) | 令142条2項 | 法57条(欠損金の繰越し)・64条の4、措法59条の2・67条の12・67条の13を適用しないで計算した額 |
| 調整国外所得金額(分子) | 令142条3項 | 同じ不適用計算をした国外所得金額から、外国法人税が課されない国外源泉所得に係る所得の金額を控除した額 |
分子から「外国法人税が課されない国外源泉所得」を抜きます。現地で課税されていない国外所得は、限度額を膨らませる材料になりません。何が「課されない」かは令142条4項が2類型で定めています。ただし1号の括弧書きに「みなし納付外国法人税の額がある場合を除く」とあり、タックス・スペアリングの適用がある所得は抜きません。
90%の天井がある
令142条3項のただし書。ここが実務で落としやすいところです。
ただし、当該金額が当該事業年度の所得金額の百分の九十に相当する金額を超える場合には、当該百分の九十に相当する金額とする。
分子は所得金額の90%までです。所得のほぼ全部が国外所得でも、当期の控除限度額は法人税額の90%が上限になります。
ただし「日本の法人税が必ず1割残る」という意味ではありません。69条2項の繰越控除限度額があれば、当期の法人税額からさらに控除できます。地方法人税・住民税にも別の控除枠があります。
所得税は形が違う
個人(居住者)の控除限度額は所得税法施行令第222条です。2点、法人と違います。
……その年分の所得税の額(……附帯税の額を除く。)に、その年分の所得総額のうちにその年分の調整国外所得金額の占める割合を乗じて計算した金額とする。
同条3項ただし書。
ただし、当該国外所得金額がその年分の所得総額に相当する金額を超える場合には、その年分の所得総額に相当する金額とする。
| 法人(令142条3項) | 個人(所令222条3項) | |
|---|---|---|
| 分子の上限 | 所得金額の90% | 所得総額に相当する金額(90%基準はない) |
| 非課税国外源泉所得の控除 | する(本文に明文あり) | 条文に規定なし |
| 非永住者の特則 | ── | 国内払い又は国外からの送金分に限る(3項括弧書き) |
「個人も90%だろう」「個人も非課税分を抜くのだろう」と類推しないでください。所令222条3項の本文には、非課税国外源泉所得を控除する文言がありません。
限度額を超えたら/余ったら
- 超えた分は法人税法69条2項の繰越控除限度額、余った分は同条3項の繰越控除対象外国法人税額。いずれも前三年内事業年度が対象
- 計算は令144条(控除余裕額・控除限度超過額)・令145条による
- 個人も同じ形があります(所法95条2項・3項)。ただし単位は「前年以前三年内の各年」
申告要件がある
法人税法69条25項。明細書の添付と書類の保存が要件です。
第一項の規定は、確定申告書、修正申告書又は更正請求書(……)に……(以下この項において「明細書」という。)の添付があり、かつ、控除対象外国法人税の額を課されたことを証する書類その他の財務省令で定める書類を保存している場合に限り、適用する。この場合において、……税務署長において特別の事情があると認める場合を除くほか、当該明細書に当該金額として記載された金額を限度とする。
当初申告の記載額で固定されるわけではありません。修正申告書・更正請求書も対象です。記載漏れや過少記載があれば、必要な明細書と保存書類を確認し、更正の請求等による適用・増額を検討します。請求期限などの手続要件にも注意してください。繰越分の要件は26項、書類保存がなかった場合の宥恕は28項です。
実務で迷いが生じるところ
- 国外所得金額はどう区分するのか。共通費用の配分は令141条の3第6項・令141条の8第2項。非課税国外源泉所得がある場合の再配分が令142条5項です
- 地方税の控除限度額はどう絡むのか。令143条が地方税法施行令の道府県民税・市町村民税の限度額の合計と定めています
- 90%基準に当たったらどうするか。繰越しの設計の問題になります
- 明細書の金額を間違えたら。25項は修正申告書・更正請求書も対象です。期限や書類要件を確認し、更正の請求等を検討します
- 個人と法人で計算が違うのはなぜか。条文が別だからです。混ぜて説明している資料に注意してください
控除限度額は「いくら引けるか」ではなく「いくらまでなら引けるか」の枠です。枠の作り方が分かれば、国外所得の区分と費用配分をどう組むかという話に進めます。海外に子会社や支店がある会社は、決算前にご相談ください。
根拠条文
- 法人税法第69条(外国税額の控除)第1項・第2項・第3項・第25項・第26項・第28項
- 法人税法施行令第141条の2(国外所得金額)、第141条の3第6項・第141条の8第2項(共通費用の配分)
- 法人税法施行令第142条(控除限度額の計算)第1項〜第5項、第142条の2(外国税額控除の対象とならない外国法人税の額)
- 法人税法施行令第143条(地方税控除限度額)、第144条・第145条(繰越し)
- 所得税法第95条(外国税額控除)第1項・第2項・第3項
- 所得税法施行令第222条(控除限度額の計算)第1項〜第3項
地方税法施行令の原文は本稿では扱っていません。個別の計算には国外所得の区分の確認が必要です。
本稿は2026年9月7日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。










