外国税額控除は、当年で決着しません。使いきれなかった枠も、引ききれなかった税額も、3年間持ち越せます。本稿は法人(法人税法69条2項・3項)を扱います。個人にも同型の規定があり、単位が「前年以前三年内の各年」になります(所得税法95条2項・3項)。
2本の繰越し
| 条文 | 発動する場面 | 過去から持ってくるもの | |
|---|---|---|---|
| ① | 69条2項 | 外国税額が三枠の合計(法人税+地方法人税+地方税の控除限度額)を超えた | 過去の余っていた枠(繰越控除限度額) |
| ② | 69条3項 | 外国税額が法人税の控除限度額に満たない | 過去の引ききれなかった税額(繰越控除対象外国法人税額) |
入口の判定基準が違います。①は三枠の合計、②は法人税の控除限度額単独です。同じ「限度額」の語で並べると判定を誤ります。
① 三枠の合計を超えたとき(2項)
内国法人が各事業年度において納付することとなる控除対象外国法人税の額が当該事業年度の控除限度額、地方法人税法第十二条第一項……に規定する地方法人税控除限度額及び地方税控除限度額として政令で定める金額の合計額を超える場合において、前三年内事業年度(当該事業年度開始の日前三年以内に開始した各事業年度をいう。……)の控除限度額のうち当該事業年度に繰り越される部分として政令で定める金額(……「繰越控除限度額」という。)があるときは、政令で定めるところにより、その繰越控除限度額を限度として、その超える部分の金額を当該事業年度の所得に対する法人税の額から控除する。
法人税の枠を超えても、地方法人税・住民税の枠に収まっていれば2項は発動しません。「地方税控除限度額として政令で定める金額」は令143条が地方税法施行令の道府県民税・市町村民税の限度額の合計と定めています。
② 法人税の限度額に満たないとき(3項)
内国法人が各事業年度において納付することとなる控除対象外国法人税の額が当該事業年度の控除限度額に満たない場合において、その前三年内事業年度において納付することとなつた控除対象外国法人税の額のうち当該事業年度に繰り越される部分として政令で定める金額(……「繰越控除対象外国法人税額」という。)があるときは、政令で定めるところにより、当該控除限度額から当該事業年度において納付することとなる控除対象外国法人税の額を控除した残額を限度として、その繰越控除対象外国法人税額を当該事業年度の所得に対する法人税の額から控除する。
引き当てられるのは「残額」までです。
入口の文言に地方分が出てこないからといって、3項に地方分が無関係ではありません。繰り越してくる金額の中身は政令が決めており、そこに地方分が入ります。次に見ます。
政令の3つの用語で組まれている
計算の実体は令144条の3つの定義語です。
| 用語 | 条文 | 定義 |
|---|---|---|
| 国税の控除余裕額 | 令144条5項 | 控除対象外国法人税の額が法人税の控除限度額に満たない場合の、法人税の控除限度額 − 控除対象外国法人税の額 |
| 地方税の控除余裕額 | 令144条6項 | 場合分けあり。法人税+地方法人税の枠を超えないときは地方税の控除限度額そのもの。超えるがその超過分が地方税の枠に満たないときは、地方税の控除限度額から超過分を引いた額 |
| 控除限度超過額 | 令144条7項 | 控除対象外国法人税の額が法人税・地方法人税・地方税の控除限度額の合計額を超える場合の、その超える部分 |
①の「繰越控除限度額」は控除余裕額から、②の「繰越控除対象外国法人税額」は控除限度超過額から作られます。そして控除限度超過額の定義(7項)には三枠合計が入っています。②の計算にも地方分が政令経由で入るのはこのためです。
使う順番は決まっている
令144条1項。
……国税の控除余裕額又は地方税の控除余裕額を、最も古い事業年度のものから順次に、かつ、同一事業年度のものについては国税の控除余裕額及び地方税の控除余裕額の順に、……控除限度超過額に充てるものとした場合に……
令145条1項も「控除限度超過額を最も古い事業年度のものから順次……国税の控除余裕額……に充てる」と定めます。古い年度から。同一年度なら国税の枠から。迷う余地はありません。
損金算入を選んだ年があると、余裕額が消える
令144条2項。事故が多いところです。
内国法人が前三年内事業年度のうちいずれかの事業年度において納付することとなつた控除対象外国法人税の額をその納付することとなつた事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入した場合には、当該内国法人の当該事業年度以前の各事業年度の国税の控除余裕額及び地方税の控除余裕額は、前項に規定する国税の控除余裕額及び地方税の控除余裕額に含まれないものとして、同項の規定を適用する。
その年だけではありません。「当該事業年度以前の各事業年度」です。一度でも損金算入方式を選ぶと、それ以前に積んだ余裕額が丸ごと使えなくなります。令145条2項が②側にも準用しています。
申告要件
法人税法69条26項。
第二項及び第三項の規定は、繰越控除限度額又は繰越控除対象外国法人税額に係る事業年度のうち最も古い事業年度以後の各事業年度の申告書等に当該各事業年度の控除限度額及び当該各事業年度において納付することとなつた控除対象外国法人税の額を記載した書類の添付があり、かつ、これらの規定の適用を受けようとする事業年度の申告書等に……書類の添付があり、かつ、……書類を保存している場合に限り、適用する。
「最も古い事業年度以後の各事業年度」です。繰越しが生じた年だけでなく、そこから当年までの各年に添付が要ります。途中で1年抜けると連続性が切れます。書類保存がなかった場合の宥恕は28項です。
合併・分割があったとき
法人税法69条9項が、適格合併・適格分割・適格現物出資について、被合併法人等の控除限度額と控除対象外国法人税の額を引継法人のものとみなすと定め、計算は令146条によります。「どうなるか分からない」ではなく、規定があります。
実務で迷いが生じるところ
- 地方法人税・住民税の枠はどう算定するのか。令143条から地方税法施行令へ進みます
- 税額控除と損金算入の選択替えをしたい。令144条2項の射程(当該事業年度以前)を先に確認してください
- 添付が1年抜けていた。26項の連続要件と28項の宥恕の当てはめです
- 高率負担部分は繰り越せるか。控除対象外国法人税の額から除かれているので、入りません
- 個人の場合は。所法95条2項・3項。単位は暦年で「前年以前三年内の各年」です
「今年は枠が余ったから、去年払いすぎた分を取り戻せないか」。この問いに答えるのが69条3項です。逆に「今年は税額が多すぎて引ききれない」なら2項。3年という時間の中で設計する話です。海外展開の初期は枠が余り、軌道に乗ると足りなくなります。決算のたびに見る論点です。
根拠条文
- 法人税法第69条(外国税額の控除)第1項・第2項・第3項・第9項・第26項・第28項
- 法人税法施行令第143条(地方税控除限度額)、第144条(繰越控除限度額)第1項・第2項・第5項〜第7項、第145条(繰越控除対象外国法人税額)、第146条(適格合併等が行われた場合の繰越控除限度額等)
- 地方法人税法第12条第1項(外国税額の控除)── 法法69条2項が引用
- 所得税法第95条第2項・第3項
地方税法施行令および財務省令は本稿では扱っていません。個別の判定には各年度の控除余裕額・控除限度超過額の確認が必要です。
本稿は2026年8月31日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。










