事業のためにお金を借り、契約どおりに利息を払っている。それなのに、法人税の計算ではその利息の一部を経費にできないことがあります。架空の経費でも、社長の私的な支出でもありません。実際に負担した事業上の利息でも、税法が控除に上限を設けているのです。
日本では、国際的な資金調達に関わる制度として、過少資本税制と過大支払利子税制があります。名前は似ていますが、前者は主に資本と借入れのバランス、後者は所得と利息のバランスを見る仕組みです。なぜ二つあるのか、経営者が確認したい点を整理します。
どちらも、決算書の数字をそのまま比較するだけでは判定できません。
出資の配当と、借入金の利息で取扱いが違うからです
株主から出資を受けて事業を行い、利益が出たら配当する。その配当は、通常、支払う会社の損金にはなりません。一方、借入金の利息は、原則として所得計算上の費用になります。
そこで、海外の親会社が日本の子会社へ資金を入れる際、出資を小さくして借入れを大きくすると、日本子会社は利息の分だけ課税所得を減らせます。受取側の税負担が低ければ、グループ全体の税負担も下がり得ます。この仕組みを際限なく利用できないようにするのが、利息控除を制限する制度の背景です。
ただし、制度の目的が租税回避への対応だからといって、適用を受けた会社がすべて不当なことをしているわけではありません。設備投資が先行する会社や、利益が一時的に落ち込んだ会社でも、数値基準に該当する可能性があります。制度の説明と、個別企業の経営判断の評価は分けて考える必要があります。
過少資本税制は「資本に対して借入れが多すぎないか」を見ます
日本の過少資本税制は1992年度に導入されました。租税特別措置法66条の5に基づき、国外支配株主等からの負債などについて、資本持分に比して過大な部分に対応する利息を損金に算入しない仕組みです。基本となる倍率は原則3倍です。
説明を単純にするため、外国親会社が日本子会社を100%保有し、判定に使う資本持分が1億円、外国親会社からの借入金の年間平均残高が5億円で、他の借入れはないとします。基準となる金額を3億円とすれば、借入れのうち2億円がこれを超えています。
利率が一様で年間利息が2,000万円なら、単純化した計算では、その5分の2に相当する800万円が損金不算入となります。これは「2,000万円の利息を支払っていない」とする処理ではなく、実際に支払った費用のうち800万円を法人税の計算では差し引かない、という意味です。
実際には、税法上の資本持分・負債平均残高の計算、総負債に関する判定、第三者を介した資金供与や保証、比較可能な法人に関する特例なども関係します。登記上の資本金に3を掛けるだけで適用の有無が決まるわけではありません。基本的な説明は、「過少資本税制とは」もご参照ください。
過大支払利子税制は「稼ぐ力に対して利息が多すぎないか」を見ます
資本と借入れの比率だけを見ても、所得に比べて多額の利息を計上する問題をすべて捉えられるわけではありません。そこで日本では2012年度税制改正で過大支払利子税制を創設し、2013年4月1日以後開始事業年度から適用しました。その後、国際的なBEPSへの対応を踏まえ、2019年度改正で対象範囲や基準を見直しています。
現在の基本的な考え方は、対象純支払利子等の額のうち、調整所得金額の20%を超える部分を当期の損金に算入しないというものです。ただし、ここでいう所得は決算書の当期純利益そのものではなく、税法所定の調整を行った金額です。利息も、決算書の支払利息をそのまま全額持ってくるわけではありません。
例えば、調整所得金額が1億円、対象純支払利子等の額が3,000万円で、適用免除などがないと仮定します。1億円の20%は2,000万円なので、差額の1,000万円が当期の損金不算入額となります。借入残高が変わらなくても、所得が減ることで上限に達する場合があるのが、この制度の特徴です。
対象純支払利子等の額が2,000万円以下の場合などには適用免除があります。一方、現在の制度は、単に「海外の親会社へ払う利息だけ」を見る制度ではありません。関連者以外への支払いでも対象になり得ます。受取側の日本での課税関係等によって対象外となる支払利子もあるため、支払先が国内か海外かだけで判断せず、対象範囲を確認します。
詳しい要件は「過大支払利子税制とは」をご覧ください。借入額が大きい会社だけでなく、海外から資金を調達する会社や、大型投資で利益の推移が変わる会社も検討したい論点です。
| 比較する点 | 過少資本税制 | 過大支払利子税制 |
|---|---|---|
| 主な着眼点 | 資本に対する負債の大きさ | 所得に対する利息負担 |
| 基本的な基準 | 資本持分の原則3倍 | 調整所得金額の20% |
| 主な対象の捉え方 | 国外支配株主等との資金関係など | 対象となる利息を分類して純額を計算 |
| 経営上の注意点 | 資本を薄くした資金調達 | 利益の減少や利息負担の増大 |
否認された利息は、二つの制度で扱いが同じではありません
両制度に該当する場合、各制度で計算した金額を単純に足して二重に否認するわけではありません。損金不算入額の大小に応じた適用調整が設けられています。
また、過大支払利子税制には、当期に損金算入できなかった超過利子額を、後の年度の控除余地の範囲で損金算入する繰越制度があります。通常の繰越期間は7年間ですが、2022年4月1日から2025年3月31日までに開始した事業年度に生じた一定の超過利子額については10年間とされています。発生年度を区分して管理することが必要です。
過少資本税制によって損金不算入となった金額に、この繰越制度がそのまま使えるわけではありません。「今年は使えなくても、後で全部経費になるだろう」とは限らない点に注意が必要です。
適正な金利でも、利息総額の制限は残ります
もう一つ区別したいのが、移転価格税制との関係です。移転価格税制では、第三者同士であれば設定するであろう条件、例えば金利の水準などを検討します。一方、過少資本税制や過大支払利子税制は、利率が適正であっても負債や利息の規模に着目します。
したがって、金利の根拠資料をそろえれば他の制度も自動的に通過するわけではありません。契約条件の妥当性と、利息控除の上限の両方を確認する必要があります。また、日本で利息が損金不算入になっても、受取側の国が当然に課税を取り消すとは限りません。租税条約の相互協議等を検討できる場面もありますが、救済が自動的に保証されるものではありません。
日本だけの制度ではありません
OECDのBEPS行動4は、利息を利用した課税所得の移転に対し、所得に連動した利息控除制限を共通の対応として示しました。各国が採用する範囲、基準、免除、繰越しの仕組みは異なります。
例えば英国のCorporate Interest Restrictionでは、年間の純利息・金融費用が200万ポンドを超える会社・グループについて制限を検討します。固定比率方式は原則30%を用いますが、世界全体の純利息額による上限や、グループ比率方式も関係します。日本の20%と英国の30%だけを比べて、どちらが厳しいかを決めることはできません。
シンガポールでは関連者間の国際融資について独立企業間原則が重視され、利息の費用性や資金使途の確認も必要です。海外の制度を比較する際は、日本の二つの制度と同じ名称のルールがあるかだけでなく、どの仕組みで控除が制限されるのかを見ることが大切です。
資金調達を決める前に、利益が減った場合も試算します
借入契約の締結時には、予定金利だけでなく、利益が計画を下回った場合、金利が上がった場合、追加融資が必要になった場合も試算します。利息を支払う現金は出ていくのに、その全額を税務上控除できないと、資金繰りへの影響は決して小さくありません。
経営上の借入れの必要性があることと、税法上その利息をすべて控除できることは別問題です。どの法人が借り、誰から借り、何に使い、どの国で課税されるのか。資金の流れを整理した上で、複数の制度を重ねて確認することが、国際的な資金調達では欠かせません。
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