税務調査には原則として事前通知があります。ただし、通知が来ない場合があります。根拠は国税通則法第七十四条の十、条文名はそのまま(事前通知を要しない場合)です。
無予告調査、事前通知なし調査などと呼ばれますが、条文はひとつだけです。
条文はこれだけ
第七十四条の十の全文は、次のとおりです。
前条第一項の規定にかかわらず、税務署長等が調査の相手方である同条第三項第一号に掲げる納税義務者の申告若しくは過去の調査結果の内容又はその営む事業内容に関する情報その他国税庁等若しくは税関が保有する情報に鑑み、違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合には、同条第一項の規定による通知を要しない。
一文です。読み解くと、判断の材料と、判断の中身に分かれます。
何を材料に判断するか
条文が挙げる材料は3つです。
1. 納税義務者の申告の内容
2. 過去の調査結果の内容
3. その営む事業内容に関する情報その他、国税庁等または税関が保有する情報
3つ目が広く、実質的には当局が持っている情報すべてが材料になります。
どう認めれば通知を省けるか
条文が挙げるおそれは、次の2つです。
- 違法または不当な行為を容易にし、正確な課税標準等または税額等の把握を困難にするおそれ
- その他、国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ
前段は「容易にし、…困難にするおそれ」で一続きの文です。そして後段が受け皿になっているので、当局の裁量は広く読めます。
なお、現金商売だから必ず無予告になる、という定めは条文にありません。業種を名指しした規定はどこにもなく、あるのは上記の判断枠組みだけです。
通知がないだけで、他は変わらない
ここが実務上いちばん大事なところです。
第七十四条の十が外すのは、第七十四条の九第一項の通知だけです。それ以外の規定は生きています。
| 規定 | 無予告調査での扱い |
|---|---|
| 74条の9第1項(事前通知) | 要しない |
| 74条の2〜74条の6(質問検査権の範囲) | そのまま適用 |
| 74条の11(調査の終了の際の手続) | そのまま適用 |
| 74条の13(身分証明書の提示) | そのまま適用 |
| 128条(罰則) | そのまま適用 |
つまり、通知がないからといって職員の権限が増えるわけではありません。令状もありません。質問検査権の範囲は事前通知のある調査とまったく同じです。
そして、調査が終われば第七十四条の十一の手続が必要です。更正決定等をすべきと認められない場合には、その旨の書面が来ます。
実務でよく相談を受ける点
- 突然来られたその日に、必ずその場で対応しなければならないのか。条文には「その場で応じよ」とは書かれていません。ただし応じない場合に第百二十八条の話になりうるので、線の引き方は慎重に判断する必要があります。
- 顧問税理士に連絡を取ってから、という申し出をどう扱うか。
- レジや金庫の現況確認をどこまで受けるか。
無予告で来られた場面は、その日のうちにどう動くかで後の展開が変わります。連絡いただければ、その場で対応の方針をお伝えします。
根拠条文
- 国税通則法第74条の2(当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権)
- 国税通則法第74条の6(当該職員の航空機燃料税等に関する調査に係る質問検査権)
- 国税通則法第74条の9(納税義務者に対する調査の事前通知等)
- 国税通則法第74条の10(事前通知を要しない場合)
- 国税通則法第74条の11(調査の終了の際の手続)
- 国税通則法第74条の13(身分証明書の携帯等)
- 国税通則法第128条
条文の見出しは e-Gov 法令検索の法令データで確認しています。
本稿は2026年8月31日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。










