消費税は、売った側が納めるのが原則です。リバースチャージ方式は、それをひっくり返して買った側に納税義務を負わせる仕組みです。
条文はこの一文
消費税法第5条第1項。条見出しは「(納税義務者)」です。
事業者は、国内において行つた課税資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。……)及び特定課税仕入れ(課税仕入れのうち特定仕入れに該当するものをいう。以下同じ。)につき、この法律により、消費税を納める義務がある。
2つの部分でできています。
1. 課税資産の譲渡等から「特定資産の譲渡等」を除く ── 売った側は納めません
2. 「特定課税仕入れ」を納税義務の対象に加える ── 買った側が納める
この差し替えがリバースチャージです。
何が対象か ── 特定資産の譲渡等
消法2条1項8号の2。
特定資産の譲渡等 事業者向け電気通信利用役務の提供及び特定役務の提供をいう。
| 対象 | 定義 | 典型例 |
|---|---|---|
| 事業者向け電気通信利用役務の提供(8号の4) | 国外事業者が行う電気通信利用役務の提供のうち、役務の性質又は取引条件等から受ける者が通常事業者に限られるもの | 事業者限定のネット広告配信など |
| 特定役務の提供(8号の5) | 国外事業者が行う演劇その他の政令で定める役務の提供(電気通信利用役務の提供に該当するものを除く) | 海外アーティスト・スポーツ選手の招へいなど |
どちらも「国外事業者が行う」ものに限られます。内国事業者からの仕入れはリバースチャージになりません。
消費者も買えるサービスは入りません。8号の4は「通常事業者に限られる」ものだけです。海外のサービスを買っていれば全部リバースチャージ、ではありません。
内外判定は、仕入側の目線で行う
消費税法第4条第4項。
特定仕入れが国内において行われたかどうかの判定は、当該特定仕入れを行つた事業者が、当該特定仕入れとして他の者から受けた役務の提供につき、前項第二号又は第三号に定める場所が国内にあるかどうかにより行うものとする。
「第二号又は第三号」です。2つあります。
- 3号(電気通信利用役務の提供)=「役務の提供を受ける者の住所若しくは居所……又は本店若しくは主たる事務所の所在地」。買った側の所在地
- 2号(役務の提供一般)=「当該役務の提供が行われた場所」。特定役務の提供(海外アーティストの国内公演など)はこちらで、役務提供地基準です
「買った側で判定する」と一律に覚えると、特定役務の提供で間違えます。
同項にはただし書が続き、国外事業者がPE(所得税法2条1項8号の4又は法人税法2条12号の19に規定する恒久的施設)で行う特定仕入れのうち国内において行う資産の譲渡等に要するものは国内で行われたものとする、といった調整が置かれています。
仕入税額控除の側にも書いてある
消費税法第30条第1項。条見出しは「(仕入れに係る消費税額の控除)」です。
事業者……が、国内において行う課税仕入れ(特定課税仕入れに該当するものを除く。以下この条及び第三十二条から第三十六条までにおいて同じ。)若しくは特定課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物については、……
特定課税仕入れは、控除の対象に別枠で書かれています。
課税標準と控除税額の計算も別建てです。課税標準は消費税法28条2項が「特定課税仕入れに係る支払対価の額」と定め、30条1項は控除する消費税額を「当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額」としています。税抜きの割戻し計算をしません。
売上側で税額を立て、仕入側で同額を控除します。理屈のうえでは、全額控除できる事業者なら差引きはゼロです。ただし後述の経過措置により、課税売上割合95%以上の事業者はそもそも申告の対象外になります。実際に負担が出るのは、経過措置の外にいる事業者です。
売った側には表示義務がある
消費税法第62条。条見出しは「(特定資産の譲渡等を行う事業者の義務)」です。
特定資産の譲渡等(国内において他の者が行う特定課税仕入れに該当するものに限る。)を行う事業者は、当該特定資産の譲渡等に際し、あらかじめ、当該特定課税仕入れを行う事業者が第五条第一項の規定により消費税を納める義務がある旨を表示しなければならない。
表示は国外事業者の義務です。買う側の要件ではありません。表示がなかったからリバースチャージにならない、ということはありません。
免税事業者・簡易課税との関係
5条1項の主語は「事業者」です。消費税法第9条第1項(小規模事業者に係る納税義務の免除)は、基準期間における課税売上高が1,000万円以下である者(適格請求書発行事業者を除く)について、「課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れにつき、消費税を納める義務を免除する」と定めています。特定課税仕入れも明文で免除の対象に入っています。
経過措置で、大半の事業者は対象外になる
根拠は消費税法の本則ではなく、改正法の附則です。所得税法等の一部を改正する法律(平成27年3月31日法律第9号)附則第42条。条見出しは「(特定課税仕入れに関する経過措置)」です。
国内において特定課税仕入れを行う事業者の新消費税法適用日を含む課税期間以後の各課税期間(新消費税法第三十七条第一項の規定の適用を受ける課税期間を除く。)において、当該課税期間における課税売上割合(新消費税法第三十条第二項に規定する課税売上割合をいう。)が百分の九十五以上である場合には、当分の間、当該課税期間中に国内において行った特定課税仕入れはなかったものとして、新消費税法の規定を適用する。
そして簡易課税は、同附則第44条第2項(中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例に関する経過措置)が拾っています。
新消費税法第三十七条第一項の規定の適用を受ける課税期間については、当分の間、当該課税期間中に国内において行った特定課税仕入れはなかったものとして、新消費税法の規定を適用する。
| 事業者 | 特定課税仕入れの扱い |
|---|---|
| 課税売上割合95%以上 | なかったものとする(附則42条) |
| 簡易課税適用課税期間 | なかったものとする(附則44条2項) |
| それ以外(課税売上割合95%未満で原則課税) | 申告の対象になる |
「当分の間」であって、恒久措置ではありません。この2つの条文はe-Gov法令検索の消費税法のページに、改正法附則として収録されています。
実務で迷いが生じるところ
- 海外のクラウド利用料はリバースチャージか。8号の4の「通常事業者に限られる」に当たるかです
- 海外アーティストへの出演料は。8号の5の「政令で定める役務の提供」に当たるかを見ます
- 請求書に何も書かれていません。62条の表示義務の問題であって、該当性は定義で決まります
- 課税売上割合が低い会社の影響は。控除しきれない分が負担になります
- 免税事業者が海外サービスを買ったら。9条1項本文の適用関係の確認です
- 経過措置は今も生きているか。「当分の間」の措置です。改正法の附則を最新の条文で確認してください
- 課税標準はいくらか。支払対価の額(28条2項)。控除税額は支払対価×7.8%(30条1項)
リバースチャージは「知らないうちに申告が変わっている」類型です。海外SaaSやネット広告の利用が増えると、ある日から特定課税仕入れが発生します。課税売上割合が低い会社(不動産賃貸、医療、金融など)は影響が実額で出ます。海外との取引が増えている会社は、契約の棚卸しからご相談ください。
根拠条文
- 消費税法第5条第1項(納税義務者)
- 消費税法第2条第1項第8号の2(特定資産の譲渡等)・第8号の4(事業者向け電気通信利用役務の提供)・第8号の5(特定役務の提供)
- 消費税法第4条第3項・第4項(国内において行われたかどうかの判定)
- 消費税法第30条第1項(仕入れに係る消費税額の控除)
- 消費税法第62条(特定資産の譲渡等を行う事業者の義務)
- 消費税法第9条第1項(小規模事業者に係る納税義務の免除)
- 消費税法第28条第2項(特定課税仕入れに係る課税標準)
- 消費税法施行令第2条の2(特定役務の提供の範囲)
- 所得税法等の一部を改正する法律(平成27年3月31日法律第9号)附則第42条・第44条第2項
個別の判定には契約の内容と課税売上割合の確認が必要です。
本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。










