スタートアップの基礎知識

VCから調達すべき会社、しない方がよい会社

資金を集める前に、必要な会社の大きさを考える

VCから出資を受けた会社が、売上を積み上げて育った会社より優れているわけではありません。VCはベンチャーキャピタルの略で、成長企業に出資する投資家です。そのお金を使う意味は、持分を分けるなどの条件を引き受けて、調達しなければ届かない成長に挑戦することにあります。

AIで1人ができる仕事が増えるなら、会社に必要な人数や資金も変わるかもしれません。ソロプレナーとは、1人を中心に事業を営む起業家のことです。全てを1人で抱える必要はなく、専門家への依頼や業務委託も組み合わせられます。人を集め、お金を集めてから始めるという順番を、一度問い直してみる価値があります。

Dorseyとa16zは、何を争っていたのか

2021年12月、Twitter(現在のX)で、ジャック・ドーシーと、VCのa16z(アンドリーセン・ホロウィッツ)側の応酬が話題になりました。主な争点は、Web3の所有者が本当に利用者なのか、という問題です。ここでいうWeb3は、ブロックチェーン上のトークンなどを通じて、利用者や開発者がサービスの所有に参加するインターネットの構想です。

a16zのChris Dixonは、その前の同年9月の「Why Web3 Matters」で、利用者と開発者が所有するインターネットという考えを説明していました。一方、Dorseyは12月の原投稿で、Web3を所有しているのはVCと、そのファンドへの出資者であるLPだ、と批判しました。これはDorseyの評価であり、全てのWeb3事業の所有構造が同じだと確かめた統計ではありません。

DorseyはDixonへの返信でも、投資ファンドがメディア帝国を目指していると批判し、その後はMarc Andreessenにブロックされた画面まで投稿しています。単に「VCは必要か、不要か」という一般論を戦わせていた、と整理すると、当時の争点を取り違えます。

その論点を端的に描いたのが、Pieter Levelsが投稿した風刺画です。「Web3」の水を大きなVCが飲み込み、「Retail」と記された個人投資家側には滴しか届かない。Dorseyはこの投稿を「💯」を添えて引用しました。分散という看板の下で、利益は誰に渡るのか、と問いかける絵です。

元投稿で風刺画を見る

風刺画の投稿者はPieter Levelsです。Levelsは作者を紹介する返信で、原画作者としてErcan Baysal(@3AYSAL)を挙げています。Web3の文字などを加えた人はここでは特定しません。絵は利益配分への批判を表したもので、実際の配分割合を示す資料ではありません。

技術が分散しても、所有権まで分散するとは限らない

複数のコンピューターで記録を共有すること、利益や議決権を広く分けること、大企業に属さず事業を営むこと。この3つは、それぞれ別の問題です。BISの研究者による2021年のDeFiの分析も、ブロックチェーンを使う金融サービスで、運営方針を決める権利や初期のトークン配分が集中し得ると指摘しています。

したがって、ブロックチェーンを使っただけで、経営者が資本から自由になるわけではありません。トークンの販売で事業資金を集めるなら、資金調達の方法が変わったのであり、資金が不要になったわけではない。これはトークンを株式と同じ法的性質とみなす話ではなく、誰かから事業のためのお金を受け取るという経済上の整理です。

それでも、小さな事業者が必要に応じて協力する、自立・分散型の働き方は目指せます。そのとき確かめるべきなのは、流行の言葉よりも、誰が顧客を持ち、誰が価格を決め、誰に利益が残るかです。AIや販売プラットフォームを使う小さな会社も、その料金や利用条件への依存を点検する必要があります。

AIは、VCを必要としない事業を増やすか

少人数でできる仕事が広がる可能性には、限定的ながら実験の裏付けがあります。P&Gの専門職776人を分析した2025年公表の研究では、新商品の案を考える課題で、AIを使う1人が、AIを使わない2人組と同程度の品質の案を出しました。参加者を無作為に分けた実験で、単なる成功者の体験談とは違います。

ただし、対象は大企業の従業員による1日の課題です。1人で営業、納品、資金繰りまで長期間こなせることや、起業資金が不要になることを示した研究ではありません。AIを使うチームにも効果があり、「人と組む必要がなくなった」とは読めません。

ここからの経営上の仮説は、最初の有料顧客に届くまでの仕事を少人数で進められれば、外部株式に頼らず試せる事業が増えるのではないか、というものです。まず1人を中心に小さく販売する案を作り、採用と調達を先行させる案と比べる。AI利用料だけでなく、成果物の確認、顧客対応、専門家への依頼にかかる費用も入れて比較します。

反対に、工場や在庫が必要、開発から入金まで長い、短期間で多数の顧客に届ける必要がある、といった事業では、作業の一部をAIに任せても資金需要は残ります。「AIを使えるか」だけでは、VCを入れるかは決まりません。

お金を入れると、成長の速度が変わるか

出資を検討する意味があるのは、例えば、先に研究開発を進めなければ売上が立たない、顧客獲得の仕組みが確認できていて投資を増やせば市場を広げられる、といった場合です。一方、需要を確かめないまま広告を増やす、採用しても仕事を任せられない、といった問題は、お金だけでは解決しません。

判断する点 VC調達を検討しやすい状況 自力成長を先に検討する状況
資金の使い道 開発や市場拡大を具体的に前進させる 小さな実験と売上の再投資で検証できる
成長の余地 大きな市場への展開を狙う 絞った市場で収益を積み上げたい
経営者の希望 持分を分けてでも成長を早めたい 判断の自由と持分の維持を重視する
出口 投資家の回収方針と成長計画が合う 希望する売却規模や時期が合わない

これは判断の整理であり、業種別の合否表ではありません。「自力成長」も、経営者が私財を投入し続ける意味ではありません。自己資金、顧客から得る売上の再投資、借入、VCからの出資は分けて考えます。借入には返済が必要です。VCから出資を受けなければ資金繰りを考えなくてよい、とはなりません。

調達する案と、しない案を並べてみる

仮の事業として、最初から複数地域で販売する案と、1地域で売上を作ってから広げる案を比べます。前者には営業担当の採用や販売体制への先行支出が必要です。後者は少ない資金で始められても、展開が遅くなります。その間の競争条件の変化や、後から広げる費用も含めて判断します。

重要なのは、資金を使った後に何が確認できるかです。有料契約が成立する、量産できる、別の地域でも採算が合うなど、次に進む条件を置きます。資金を使い終わってもそれが確認できなければ、追加調達できるとは限りません。

創業時の選択を永久に固定する必要もありません。小さく始めて需要を確かめた後に出資を受けることも、先行開発を出資で賄い、事業化後は売上で成長を支えることも考えられます。

売れる会社でも、投資家と出口が合わないことはある

ここからは単純な仮例です。VCが1億円を出資して20%を持ち、その後の希薄化がなく、会社全体の株式が3億円で売れたとします。全株主が同じ条件で比例配分を受けるなら、VCの受取額は6,000万円です。創業者には魅力のある売却でも、VCには投資額を下回る回収になります。

実際には優先株や契約で配分が変わります。しかし、会社が売れることと、株主全員が同じ売却条件を望むことは別だと分かります。経産省のスタートアップM&Aガイダンスも、投資家の属性による目的の違いや、M&Aへの考え方の個別差を整理しています。出資前に売却規模、IPOとM&Aの扱い、ファンドの残りの期間、売却時の同意事項を確認します。

仮例で、20%の持分から出資元本1億円と同額を受け取るには、株式全体の売却額が5億円必要です。費用、税、投資期間を考慮しない計算であり、「5億円で売れれば投資家は満足する」という基準ではありません。

持分を分けてでも、必要なものは何か

VCが提供する価値は資金だけとも限りません。金融庁が公表した2024年のVCへの推奨・期待事項の概要には、人材紹介などの経営支援や、M&Aを含む出口の方法・時期の検討も挙げられています。ただし、全VCが同じ支援を保証するものではありません。誰が何を支援し、開発が遅れたときや出口を変えたいときにどう話し合うかまで確かめます。

AIを使って小さく稼ぎ、必要な専門家と組み、持分を維持する道もある。出資と支援を受けて、自社だけでは届かない市場へ進む道もある。判断軸は、持分と選択の自由を分ける以上に、事業を前へ進められるかです。資金調達の発表からではなく、目指す事業と、その先のIPOやM&Aから逆算してください。

本稿は2026年9月9日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

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