スタートアップの税務

赤字なのに消費税を払うのはなぜ?――スタートアップの納税・還付と資金繰り

採用と開発に投資して赤字なのに、決算時に消費税の納付が必要になる。スタートアップでは十分に起こり得る状況です。消費税は会社の利益に税率を掛ける税ではなく、売上と仕入れに係る税額を基礎に計算します。給与中心の会社と、外注・設備投資中心の会社では、同じ赤字でも納税や還付の見込みが異なります。

1.給与に消費税の控除がないため、赤字でも納税になる

一般課税(本則課税)では、原則として売上に係る消費税額から、控除できる仕入税額を差し引きます。従業員の給与は課税仕入れに当たらないため、給与を払っても仕入税額控除は生じません。一方、事業者への外注費や人材派遣料は、取引内容に応じて課税仕入れになります。国税庁「仕入税額控除の対象となるもの」

国内の課税売上が税抜3,000万円、給与が2,500万円、全額控除できる国内課税経費が税抜1,000万円という説明用の会社を考えます。すべて標準税率10%、税抜経理、ほかの損益や税額調整がない仮定です。

項目 損益計算の金額 消費税の計算
売上 3,000万円 売上税額300万円
給与 △2,500万円 控除なし
課税経費 △1,000万円 仕入控除税額100万円
結果 500万円の赤字 200万円の納付
利益:3,000 − 2,500 − 1,000 = △500万円
消費税等:300 − 100 = 200万円の納付

国税・地方消費税を合わせた概算です。実際の申告では区分計算、端数処理、中間納付等があるため、上記の単純計算と一致しないことがあります。

採用を外注に置き換えるべきだという意味ではありません。雇用と業務委託は実態に応じて判定するもので、消費税だけで自由に呼び分けることはできません。経営判断としては、人件費予算を増やしたときに、法人税の利益予測とは別に消費税予測も更新することが重要です。

2.設立直後の免税を、資本金だけで決めない

基準期間がない新設法人は、各期首の資本金の額または出資の金額が1,000万円以上なら、その期の免税を受けられません。境界は「1,000万円超」ではなく「1,000万円以上」です。1,000万円未満でも、インボイス登録、特定期間の課税売上高等、特定新規設立法人などの条件により課税されます。国税庁「基準期間がない法人」

例えば設立時900万円でも、増資後の翌期首が1,000万円以上になれば翌期の判断が変わります。資本政策の資料には、調達総額だけでなく資本金への組入額、増資日、各期首の金額も残します。免税を想定して販売価格を設計した後に登録や増資を決める場合は、税を価格に転嫁できるか、既存契約の表示が税込か税抜かも確認したいところです。

免税事業者は、仕入先に消費税相当額を支払っていても、仕入税額の還付を受けられません。設備投資が大きいから自動的に還付されるわけではないのです。国税庁「免税事業者と仕入税額の還付」

3.本則・簡易・2割特例は、別々に比較する

本則課税では実際の課税仕入れを使います。簡易課税では、基準期間の課税売上高5,000万円以下などの条件と届出を満たした場合に、売上税額に事業区分別のみなし仕入率を掛けて控除額を求めます。簡易課税は原則として事前の届出が必要で、一定の継続適用もあるため、決算後に毎年自由に有利な方式を選ぶ制度ではありません。国税庁「簡易課税制度」

2割特例は、インボイス登録を機に免税から課税になった対象事業者が、売上税額の2割を納める仕組みです。対象期間は2023年10月1日から2026年9月30日までの日が属する課税期間で、2026年9月30日を過ぎた取引が一律対象外になるという意味ではありません。基準期間の売上等により元々課税となる場合など、使えないケースがあります。国税庁「2割特例の概要」

方式 主な計算の基礎 投資が増えた場合の注意
本則課税 実際の売上税額と控除可能な仕入税額 要件を満たせば還付となる場合がある
簡易課税 売上税額とみなし仕入率 実際の設備購入税額は控除額に直接反映しない
2割特例 対象者・期間の範囲で売上税額の2割 実際の支出増を基にした還付計算ではない
免税 納税義務が免除される状態 仕入税額の還付なし

給与中心の年に有利な方式が、大型開発や設備投資の年にも有利とは限りません。また、本則でも課税売上割合等によって控除額が制限される場合があります。全額控除の基本条件は課税売上高5億円以下かつ課税売上割合95%以上です。国税庁「仕入控除税額の計算方法」

4.2026年10月の変更は「50%」ではなく「70%」

インボイスを発行できない事業者等からの課税仕入れについて、2026年度改正後の経過措置は、2026年10月から70%、2028年10月から50%、2030年10月から30%、2031年10月以後は控除なしという段階です。古い解説にある「2026年10月から50%」をそのまま使わないようにしてください。1事業者からの税込仕入額の適用上限も、2026年10月1日以後開始の課税期間から年・事業年度1億円に見直されています。国税庁「令和8年度税制改正特集」

2026年10月
70%
2028年10月
50%
2030年10月
30%
2031年10月
0%

例えば税抜100万円、消費税相当額10万円の対象仕入れで、経過措置以外の制限がない場合、70%控除なら控除額は7万円です。請求額110万円全体の70%を控除するのではありません。取引先の登録状況と、経過措置の適用が分かる帳簿・請求書等の保存を確認します。

また、2027年・2028年に設けられる3割特例は対象となる個人事業者向けで、法人には適用されません。法人の資金繰り表で「2割の次は3割」と機械的に延長しないことが大切です。国税庁・3割特例の対象

5.還付は、入金まで含めて資金計画にする

本則課税で売上税額80万円、適法に控除できる仕入税額200万円なら、差額120万円が還付計算の出発点です。しかし「投資額×10%」をそのまま還付金にしないでください。課税事業者である期間、国内外の取引区分、インボイス等の保存、控除方式を確認してから計算します。給与や免税取引までまとめて投資額に含めれば、見込みは大きくずれます。

免税から課税を選択する届出には期限があり、原則は対象期間開始の前日まで、新規開業ではその期間末日までの特例があります。選択後は原則2年間免税に戻れず、一定の固定資産取得では拘束が長くなることもあります。国税庁「新規開業又は法人の新規設立のとき」還付する年度だけでなく、その後の売上増と納税も含めて比較する必要があります。

月次の資金繰り表では、売上代金の入金、経費や設備代金の支払、消費税の納付・還付を別行にします。還付見込額は売掛金の入金と同じ日には使えません。申告準備や確認に備え、還付が遅れるケースでも給与支払が続けられる現金余力を見ます。海外SaaS・広告サービスを利用する場合の区分はデジタルサービスの消費税で別途扱っています。

売上がゼロでも消費税の還付はありますか?

状況によります。課税事業者であることに加えて、支出の性質、課税売上との関係、計算方式などの確認が必要です。「売上ゼロ・開発支出あり」だけでは還付額は確定しません。

簡易課税を選んだ後、大きな投資をしたら本則に戻せますか?

継続適用や届出期限の制約があるため、投資後に自由に変更できるとは限りません。発注前に、適用中の届出と投資・売上の複数年計画を確認してください。

まず税理士に何を渡せばよいですか?

定款・増資履歴、決算月、登録通知と届出控え、売上と給与・外注・設備投資の予算、主要な契約書です。これらを基に、納税義務の有無と計算方法を先に確定します。国内税務のご相談でも対応しています。

制度・資料は2026年10月31日時点で確認。数値例は説明用の仮定です。

本稿は2026年10月31日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

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