何が、いつ、誰の手で決まったのか
令和2年度税制改正の大綱は、令和元年12月20日に閣議決定された政府の大綱です。原文の表題の下には「令和元年 12 月 20 日 閣議決定」とだけ記されています。この年の優先順位は、本文の前に置かれた次の一段落に示されています。
持続的な経済成長の実現に向け、オープンイノベーションの促進及び投資や賃上げを促すための税制上の措置を講ずるとともに、連結納税制度の抜本的な見直しを行う。さらに、経済社会の構造変化を踏まえ、全てのひとり親家庭の子どもに対する公平な税制を実現するとともに、NISA(少額投資非課税)制度の見直しを行う。このほか、国際課税制度の見直しや、所有者不明土地等に係る固定資産税の課題への対応、納税環境の整備等を行う。具体的には、次のとおり税制改正を行うものとする。
大綱そのものの読み方は令和8年度税制改正大綱のポイントもあわせてご覧ください。
大綱の柱
本文は七つの章に分かれ、その後ろに付記が置かれています。章の名前と、その章で決まったことは次のとおりです。
| 章 | その章で決まったこと |
|---|---|
| 個人所得課税 | NISAとエンジェル税制が見直され、未婚のひとり親に対する税制上の措置が創設されます。低未利用土地等を譲渡した場合の特別控除も新設されます。 |
| 資産課税 | 所有者不明土地等に係る固定資産税の課税上の課題に対応する仕組みが設けられます。 |
| 法人課税 | オープンイノベーションに係る措置と5Gに係る措置が創設され、連結納税制度がグループ通算制度へ移ります。 |
| consumption tax | 軽量な葉巻たばこの課税方式が見直され、法人に係る消費税の申告期限の特例が創設されます。 |
| 国際課税 | 子会社からの配当と子会社株式の譲渡を組み合わせた租税回避への対応が定められます。 |
| 納税環境整備 | 申告と納付の電子化が進み、国外財産調書制度と国外取引等に係る更正決定等の期間制限が見直されます。 |
| 関税 | 暫定税率416品目等の適用期限が令和3年3月31日まで延長されます。 |
| 【付記】連結納税制度の見直し | グループ通算制度の適用法人、損益通算、適用開始と離脱の取扱いが、章を改めて具体的に示されます。 |
前後の年度は平成31年度税制改正の大綱、令和3年度税制改正の大綱をご覧ください。
連結納税制度をグループ通算制度へ移す
法人課税の章で最も大きいのは、連結納税制度の見直しです。原文はまず一行で方向を示します。
連結納税制度を見直し、次のグループ通算制度へ移行する。
適用法人及び適用方法は、親法人及び各子法人が法人税の申告を行う点と、青色申告の承認を前提とする点を除き、基本的に連結納税制度と同様とされます。適用法人は、電子情報処理組織を使用する方法により法人税及び地方法人税の確定申告書、中間申告書及び修正申告書を提出しなければならないこととされます。
グループとしての計算は損益通算という形で残ります。欠損法人の欠損金額の合計額を、所得法人の所得の金額の合計額を限度として所得法人の所得の金額の比で配分し、所得法人において損金算入します。税率は通算グループ内の各法人の適用税率によることとされ、中小法人の軽減税率の適用対象所得金額は、年800万円を所得法人の所得の金額の比で配分した金額とされます。
適用は令和4年4月1日以後に開始する事業年度からです。連結法人は、連結親法人が同日以後最初に開始する事業年度開始の日の前日までに税務署長に届出書を提出することにより、グループ通算制度を適用しない単体納税法人となることができます。
オープンイノベーションと5Gに投資したときの措置をつくる
法人課税の章の冒頭に置かれるのが、オープンイノベーションに係る措置の創設です。青色申告書を提出する法人で「特定事業活動を行うもの」が、令和2年4月1日から令和4年3月31日までの間に特定株式を取得し、その取得した日を含む事業年度末まで有している場合に、その特定株式の取得価額の25%以下の金額を特別勘定の金額として経理したときは、その事業年度の所得の金額を上限に、その経理した金額の合計額を損金算入できます。
相手先は、産業競争力強化法の新事業開拓事業者のうち設立後10年未満のものなどで、経済産業大臣の証明があるものに限られます。払込金額は1億円以上であることが要件で、中小企業者にあっては1,000万円以上、外国法人への払込みにあっては5億円以上とされます。特別勘定の金額は、特定株式の譲渡などの取崩し事由に該当すると取り崩して益金算入しますが、取得から5年を経過した場合はこの限りでないとされます。
もう一つが5Gへの投資です。認定特定高度情報通信等システム導入事業者(仮称)に該当する法人が、特定高度情報通信用認定等設備を取得等して国内にある事業の用に供した場合には、その取得価額につき、30%の特別償却と15%の税額控除との選択適用ができることとされます。税額控除における控除税額は、当期の法人税額の20%が上限です。一方で、研究開発税制などを適用できないこととする措置の要件は、国内設備投資額が当期償却費総額の10%を超えることから30%を超えることへと厳しくなります。
大綱に「暗号資産」という語が現れる
この大綱には、暗号資産という語と仮想通貨という語の両方が出てきます。暗号資産が使われるのは、いずれも「暗号資産デリバティブ取引」を指す場面に限られ、そのすべてが「資金決済法等改正法」の施行に伴う措置として置かれています。
個人所得課税の章では、次の一文が置かれます。
先物取引に係る雑所得等の課税の特例及び先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除の適用対象から、暗号資産デリバティブ取引に係る雑所得等を除外する。
あわせて支払調書の仕組みも整えられます。暗号資産デリバティブ取引の委託を受けた金融商品取引業者等の営業所の長は、その年中の差金等決済により確定した利益又は損失の額の合計額等を記載した支払調書を、その差金等決済があった日の翌年1月31日までに、税務署長に提出しなければならないこととされます。ただし、資金決済法等改正法の施行の日から令和2年12月31日までの間に行われるものについては、提出を要しないこととされます。国際課税の章でも、店頭デリバティブ取引に係る証拠金の利子の非課税制度の対象から、暗号資産デリバティブ取引が除外されます。
法人課税の章には仮想通貨という語がそのまま残ります。「時価の算定に関する会計基準」の導入に伴う整備の一つとして、次のように書かれています。
短期売買商品等(仮想通貨を除く。)の時価評価金額について、上記①と同様の見直しを行う。
この大綱の中では、新しい法律に合わせた場面で暗号資産、従来からの法人税の規定を指す場面で仮想通貨と、二つの語が同居しています。呼び名の移り変わりは暗号資産税制はこうしてできたで、税法上の位置づけは税法は「暗号資産」をどう定義しているのかでそれぞれ扱っています。
NISAを組み替え、ジュニアNISAを終える
個人所得課税の章の先頭はNISAです。つみたてNISAについては、非課税累積投資契約に係る非課税措置の勘定設定期間が令和24年12月31日まで5年延長されます。一般NISAについては、現行の勘定設定期間の終了にあわせ、「特定非課税累積投資契約(仮称)」に係る非課税措置が創設され、現行の非課税累積投資契約に係る非課税措置と選択して適用できることとされます。
新しい契約では、二つの勘定が同時に設けられます。一つは特定累積投資勘定(仮称)で、令和6年から令和10年までの各年のうち現行の累積投資勘定が設定される年以外の年に設けられ、受け入れられる公募等株式投資信託の受益権は、その年の取得対価の額の合計額が20万円を超えないものに限られます。もう一つは特定非課税管理勘定(仮称)で、受け入れられる特定上場株式等は、取得対価の額の合計額が102万円を超えないものに限られます。
ジュニアNISAは畳まれます。未成年者口座開設可能期間は延長せずに終了することとされ、その終了にあわせ、令和6年1月1日以後は、課税未成年者口座及び未成年者口座内の上場株式等及び金銭の全額について、源泉徴収を行わずに払い出すことができることとされます。
全てのひとり親家庭に同じ控除を置く
個人所得課税の章の「その他」に、未婚のひとり親に対する税制上の措置及び寡婦(寡夫)控除の見直しが置かれます。居住者が、現に婚姻をしていない者のうち一定の要件を満たすもの(寡婦又は寡夫である者を除きます)である場合には、その者のその年分の総所得金額等から35万円を控除することとされます。
要件は三つです。第一に、その者と生計を一にする子で総所得金額等の合計額が48万円以下であるものを有すること。第二に、合計所得金額が500万円以下であること。第三に、その者又は同一の世帯に属する者の住民票に、世帯主との続柄として未届の妻又は未届の夫その他これらと同一の内容である旨の記載がされていないことです。
寡婦(寡夫)控除も見直されます。子を有する寡婦の要件に合計所得金額が500万円以下であることが加わり、寡婦及び寡夫の要件に上記の住民票に関する要件が加わります。現行の寡婦控除の特例は廃止され、生計を一にする子を有する寡婦に係る寡婦控除及び寡夫控除の控除額は35万円に引き上げられます。いずれも令和2年分以後の所得税について適用されます。
ご自身に関係があるかを見分けるには
- 連結納税制度を適用している法人の経営者の方は、法人課税の章と付記をご覧ください。適用は令和4年4月1日以後に開始する事業年度からです。
- スタートアップへの出資や5G関連の設備投資を考えている法人の方は、法人課税の章をご覧ください。出資には払込金額の下限が置かれています。
- 暗号資産のデリバティブ取引をしている方は、個人所得課税の章をご覧ください。先物取引に係る雑所得等の課税の特例と損失の繰越控除の適用対象から外れます。
- NISAを使っている方は、個人所得課税の章をご覧ください。令和6年からの受入れには年ごとの金額の上限が定められています。
- ジュニアNISAを使っている方は、未成年者口座開設可能期間が延長されないこと、令和6年1月1日以後の払出しの扱いをご確認ください。
出所
- 「令和2年度税制改正の大綱」(令和元年12月20日 閣議決定)
本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
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