何が、いつ、誰の手で決まったのか
令和8年度の与党税制改正大綱が、令和7年12月19日に決定されました。表紙に記されている決定主体は「自由民主党・日本維新の会」です。前年までの自由民主党・公明党という組み合わせから変わっています。
大綱は「第一 令和8年度税制改正の基本的考え方」「第二 令和8年度税制改正の具体的内容」「第三 検討事項」の三部構成で、全体は150ページを超えます。第一が方向性、第二が個別の項目、第三が今後の宿題という並びは、例年どおりです。
「大綱」は2つある
年末に報道される「税制改正大綱」は、正確には2つあります。ひとつは与党が決定する与党税制改正大綱で、令和8年度分は令和7年12月19日に決定されました。もうひとつは政府が閣議決定する「税制改正の大綱」で、こちらは令和7年12月26日です。ニュースが「大綱が決まりました」と伝えるのは、多くの場合、前者です。
この2つは取り違えないほうがよいと思います。与党大綱は与党の意思決定であって、そのまま法律になるとは限りません。閣議決定の大綱は政府の意思決定で、これが法案のかたちになります。さらにその先に、国会に提出される法律案があり、成立した法律があります。「決まった」という言葉が、どの段階を指しているのかで、確からしさがまったく違います。この記事では、方向性は与党大綱、個別の項目は閣議決定の大綱で確認しています。
大綱の柱は7本
第一に置かれた柱は、次の7本です。並んでいる順番そのものが、この大綱の力点を示しています。
| 柱 | 見出し(原文) |
|---|---|
| 1 | 物価高への対応 |
| 2 | 「強い経済」の実現に向けた対応 |
| 3 | 地方の伸びしろの活用・暮らしの安定 |
| 4 | 公平かつ円滑な納税のための環境整備 |
| 5 | 自動車関係諸税の総合的な見直し |
| 6 | 防衛力強化に係る財源確保のための税制措置 |
| 7 | 揮発油税等の当分の間税率廃止及びいわゆる教育無償化に係る財源確保 |
物価高が先頭に立ち、自動車関係諸税と揮発油税が、それぞれ独立した柱として立てられています。個別の減税項目が細かく並ぶ年とは、大綱の顔つきが違います。
いちばん大きいのは、課税最低限178万円
個人の所得税で目玉になっているのは、いわゆる「年収の壁」です。大綱は、基礎控除などの引上げ後の課税最低限を168万円としたうえで、そこから「178万円」までの差額10万円をさらに引き上げる、という組み立てを採っています。178万円という数字の出どころについて、大綱は「課税最低限を昨年12月11日の自由民主党・公明党・国民民主党による三党合意の趣旨を踏まえた「178万円」に先取りして引き上げる」と書いています。
気をつけたいのは、金額そのものよりも、どの控除がどう動いて178万円になるのか、という点です。基礎控除、給与所得控除、扶養親族の所得要件は、それぞれ別の規定です。これらが同時に動きますと、年末調整の書類の書き方、源泉徴収される税額、そして配偶者やお子さんを扶養に入れられるかどうかの判定が、まとめて変わります。パートやアルバイトで働く時間を調整していらっしゃる方は、この一年でご自身の手取りの分岐点が動いた可能性があります。
設備投資 ── 即時償却か、7%の税額控除か
企業向けで最も大きいのは、特定生産性向上設備等投資促進税制の新設です。経済産業大臣の確認を受けた生産性向上設備について、即時償却か税額控除かを選べるしくみです。
対象になる資産の金額の線引きは、次のとおりです。
| 資産の種類 | 取得価額の要件(原文) |
|---|---|
| 機械装置 | 1台又は1基の取得価額が160万円以上のもの |
| 工具・器具備品 | 1台又は1基の取得価額が120万円以上のもの |
| 建物 | 一の取得価額が1,000万円以上のもの |
税額控除を選んだ場合の控除率は、取得価額の7%(建物等については4%)で、控除できるのは当期の法人税額の20%までとされています。即時償却はその年に一気に費用にできますが、翌年以降の償却費はなくなります。税額控除は償却費を残したまま税額を直接減らせますが、上限があります。どちらが有利かは、その年の利益の見込みと、翌年以降の資金繰りで変わります。設備を買う前に決めておくべきことです。
建物が対象に入っている点は、見落とされやすいところだと思います。減価償却の期間が長い資産を即時償却できる余地が生まれるためです。
あわせて、中小企業者等の少額減価償却資産の特例も動きます。1件あたりの取得価額の上限が、現行の30万円未満から40万円未満に引き上げられ、適用期限が3年延長されます。パソコンや業務用の機器の買い替えでは、この10万円の差が効いてきます。
研究開発税制では、重点産業技術試験研究費制度が新しく設けられます。控除率は重点産業技術試験研究費の額の40%(特別重点産業技術試験研究費の場合には50%)で、控除限度は当期の法人税額の10%です。
暗号資産 ── 雑所得から、分離課税20%へ
この年の大綱で、個人の税金の扱いが最も大きく変わるもののひとつが暗号資産です。これまで暗号資産の売却益は雑所得として総合課税され、給与や事業の所得と合算されて累進税率がかかっていました。所得が大きい方ほど税率が上がり、住民税と合わせて相当な負担になる場面がありました。
大綱は、これを「他の所得と分離して20%(所得税15%、個人住民税5%)の税率により課税する」としています。上場株式の売却益と同じ考え方に近づくことになります。
すべての暗号資産が対象になるわけではない
分離課税の対象になるのは「特定暗号資産」です。大綱は、これを「金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産等に限る」と限定しています。つまり、登録された業者が扱っている銘柄かどうかで、扱いが分かれます。お持ちの暗号資産がどちらに当たるのかは、最初に確かめるべきところです。
対象から外れて総合課税に残るものについては、扱いがむしろ厳しくなります。大綱は、譲渡益について譲渡所得の特別控除額を控除しないこと、5年を超えて保有した資産について譲渡所得の金額を2分の1とする扱いを適用しないこと、そして損失について他の総合課税の対象となる所得との損益通算を適用しないことを、それぞれ定めています。分離課税に入るものと、入らないものとで、差がはっきりつく形になります。
損失を3年繰り越せるようになる
これまで暗号資産の損失は、その年のうちに使い切れなければ切り捨てでした。大綱は、譲渡等をした日の属する年分の特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額の計算上控除してもなお控除しきれない金額があるときは、一定の要件のもとで、その年の翌年以後3年内の各年分で繰越控除ができるとしています。相場の振れが大きい資産ですから、この3年繰越しは実際の負担にかなり効いてきます。
あわせて、「暗号資産デリバティブ取引(特定暗号資産に係るものに限る。)に係る雑所得等」が、先物取引の課税の特例の対象に加えられます。現物と証拠金取引の扱いが揃う方向です。
そのかわり、取引は把握される
税率が下がる一方で、取引の把握は厳しくなります。大綱は、暗号資産取引業者が「その年中に特定暗号資産の取引を行った居住者等の氏名、住所及び個人番号……その他の事項を記載した報告書を、その取引があった日の翌年1月31日までに、税務署長に提出しなければならない」としています。証券会社が特定口座の年間取引報告書を出すのと同じ形が、暗号資産にも入ります。
いつから始まるのか
適用開始日は、金融商品取引法の改正法の施行日の属する年の翌年1月1日です。その日以後に行う特定暗号資産の譲渡等から、分離課税になります。報告書の提出義務は、さらにその翌年1月1日以後の取引が対象です。暦年で区切られますので、年をまたぐ売却の時期には注意が要ります。
個人の所得税の「金融・証券税制」には、このほかNISA、同族会社と特定法人の社債、勤労者財産形成住宅貯蓄、特定口座内保管上場株式等、生命保険料控除の特例、エンジェル税制が並んでいます。
国際課税 ── ミニマム課税と、外国子会社合算税制
国際課税では、2つの制度に手が入ります。
ひとつはグローバル・ミニマム課税です。各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税について、繰延税金資産・繰延税金負債の調整のしかたが見直されます。具体的には、令和3年12月1日以後に締結された税額控除等に係る繰延税金資産や、特定の外国の法令にもとづく繰延税金資産・負債を、計算の対象から除くという内容です。制度そのものの骨格ではなく、計算の細部を詰める改正です。
もうひとつは外国子会社合算税制(いわゆるタックスヘイブン対策税制)です。手が入るのは次の点です。
- 解散した外国関係会社についての特例が新しく設けられます。清算に入った会社を、最大3年間、従来の枠組みで扱えるようにするものです
- ペーパー・カンパニー特例の資産割合要件が簡素化されます
- 外国法人税の税率の計算のしかたが明確化されます
- 居住者に適用される制度についても、同じ見直しが行われます
適用は、外国関係会社の令和8年4月1日以後に開始する事業年度からです。海外に子会社をお持ちの会社では、決算期によって適用開始が1年ずれますので、まず自社の子会社の事業年度を確認するところから始まります。
ファンドに効く ── 外国組合員課税特例の見直し
国際課税の「その他」に置かれていますが、実務への影響が大きいのが、外国組合員に対する課税の特例の見直しです。日本のファンドに海外の投資家を迎えるときの、入口の条件が変わります。
この特例は、投資事業有限責任組合などを通じて日本に投資する外国の投資家について、一定の条件を満たせば、日本での申告を求めないというものです。ファンドの器としてどの組合を使うかによって、当事者の課税関係が変わりますので、器の選択と切り離せない論点です。
変わるのは、次の3点です。
| 要件 | 現行 | 改正後 |
|---|---|---|
| 投資組合財産に対する持分割合 | 25%未満 | 有限責任組合員等から構成される一定の委員会を設置する投資組合に限り、50%未満 |
| 業務執行を行わないこと | その業務の執行を行う者の自己取引等の承認等を除く | 利益相反取引の承認等を除く |
| 恒久的施設に関する要件 | 投資組合事業に係る恒久的施設帰属所得以外の恒久的施設帰属所得を有しないこと | 廃止 |
持分割合の上限が25%未満から50%未満に上がることで、1社の海外投資家が出せる金額の幅が広がります。委員会を設けているファンドに限られる点が条件です。また、投資家が組合の運営に関与できる範囲について、利益相反取引の承認まで踏み込んでも「業務執行を行っていない」と扱われることになります。ガバナンスに関与したい投資家にとっては、実務的な意味の大きい変更です。
恒久的施設の要件が廃止される点も見逃せません。これまでは、その投資家が日本に別の拠点を持っていると特例から外れることがありました。日本に支店を持つ海外の機関投資家が、日本のファンドに入りやすくなります。
Additionally,任意組合や匿名組合を使った場合の扱いは、それぞれ別の条文で決まります。ファンドの器を選ぶ段階で、この特例が使えるかどうかまで見ておく必要があります。航空機リースのように、組合を使って資産に投資するしくみでも、同じ検討が必要です。
暮らしと商売に効く、そのほかの改正
柱の7番目に「租税特別措置の適正化」という言葉がありました。その中身が、資産課税と消費課税の章に具体的に書かれています。納税者に直接ひびくものを3つ挙げます。
ひとつめは、教育資金の一括贈与の非課税措置が終わることです。大綱は、令和8年3月31日までとされている教育資金管理契約にもとづく信託等が可能な期間を、延長せずに終了するとしています。同日までに拠出された資金については、引き続きこの措置が使えます。お孫さんの教育資金をまとめて贈与することを考えていらっしゃる場合、期限が動かないという前提で段取りを組む必要があります。
ふたつめは、国際観光旅客税の引上げです。現行の1,000円から3,000円になります。対象は令和8年7月1日以後の出国です。海外へ出かける回数が多い方には、地味に効いてきます。
みっつめは、海外通販への消費税です。これまで課税されていなかった1万円以下(税抜)の海外から発送される商品が、課税の対象に加わります。あわせて、売上高50億円超のプラットフォーム事業者が売上げを計上したものとみなすしくみも入ります。適用は令和10年4月1日以後で、少し先の話です。
事業をなさっている方には、インボイスの経過措置も関係します。適格請求書以外からの仕入れについて控除できる割合が、令和8年10月から70%、令和10年10月から50%、令和12年10月から30%と段階的に下がっていきます。免税事業者からの仕入れが多い事業では、この時期に合わせて取引条件を見直す判断が必要になります。
相続と事業承継では、個人事業承継計画の提出期限が2年6か月、非上場株式等の納税猶予の特例承継計画の提出期限が1年6か月、それぞれ延長されます。承継の準備が間に合わないという声に応えたかたちです。
自動車・防衛・揮発油税
自動車関係諸税については、自動車税および軽自動車税の環境性能割を、令和8年3月31日をもって廃止するとされています。あわせて、電気自動車などに対する新しい負担のしくみが検討の対象に入っています。買うときに課税するやり方をやめて、持っている間・使っている間の負担に寄せていく、という方向です。
防衛力強化の財源としては、所得税額に対する税率1%の新しい付加税として、防衛特別所得税(仮称)を課すこととされています。同時に、復興特別所得税の税率を1%引き下げます。納める側から見た合計の負担を動かさずに、財源の名前を入れ替えるかたちです。
揮発油税などの当分の間税率の廃止と、教育の無償化については、租税特別措置の適正化と税負担の公平性の確保によって確保した税収を、その安定財源に充てるとされています。どの優遇措置が縮小されるのかは、第二の具体的内容と、その後の法案で確かめることになります。
ご自身に関係があるかを見分けるには
大綱が公表された直後に確かめておきたいことを、3つ挙げます。
- 気になる項目が、第一(基本的考え方)だけに書かれているのか、第二(具体的内容)にも書かれているか。第一にしか出てこない項目は、その年には実現せず、翌年以降に回ることがあります
- いつから適用されるのか。「令和8年分以後の所得税から」なのか「令和8年4月1日以後に開始する事業年度から」なのかで、影響が出る時期がまったく違います
- 第三の検討事項に何が積まれたか。ここに載った項目は、翌年の大綱で本文に上がってくることが少なくありません
そのうえで、ご自身やご家族、会社に当てはまるかどうかの判断は、成立した法律の条文と、国税庁が公表する取扱いを見て決めることになります。大綱の段階では、まだ方向が示されただけです。
その後どうなったか
この大綱を受けた所得税法等の一部を改正する法律案は、令和8年2月20日に国会へ提出され、令和8年3月31日に成立・公布されました。施行日は、別段の定めがあるものを除き、令和8年4月1日です。同じ日に、関税定率法等の一部を改正する法律案なども成立しています。
出所
- 令和8年度税制改正大綱(自由民主党・日本維新の会、令和7年12月19日決定)/自由民主党「「強い経済」への決断と実行 令和8年度与党税制改正大綱を決定」
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱」(令和7年12月26日閣議決定)一 個人所得課税/三 法人課税/五 国際課税
- 財務省「第221回国会(令和8年常会)提出法案」(所得税法等の一部を改正する法律案の提出日・成立日・公布日・施行日)
本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
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