何が、いつ、誰の手で決まったのか
令和3年度税制改正の大綱は、令和2年12月21日に閣議決定された政府の大綱です。何を狙った改正かは、原文の前文にそのまま書かれています。
ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現を図るため、企業のデジタルトランスフォーメーション及びカーボンニュートラルに向けた投資を促進する措置を創設するとともに、こうした投資等を行う企業に対する繰越欠損金の控除上限の特例を設ける。また、中小企業の経営資源の集約化による事業再構築等を促す措置を創設する。加えて、家計の暮らしと民需を下支えするため、固定資産税の評価替えへの対応、住宅ローン控除の特例の延長等を行う。具体的には、次のとおり税制改正を行うものとする。
ここに挙がった項目が、この年の骨格です。大綱の読み方は令和8年度税制改正大綱のポイントPlease also take a look.
大綱の柱
本文は八つの章に分かれています。章の名前と決まったことは次のとおりです。
| 章 | その章で決まったこと |
|---|---|
| 個人所得課税 | 住宅ローン控除の3年間延長の特例が拡充され、退職所得課税が見直されます。 |
| 資産課税 | 住宅取得等資金の贈与税の非課税限度額が上がり、土地の固定資産税が据え置かれます。 |
| 法人課税 | 二つの投資減税、繰越欠損金の控除上限の特例、中小企業向けの準備金制度が創設されます。 |
| consumption tax | 自動車重量税のエコカー減税の燃費要件が改まり、航空機燃料税の税率が下がります。 |
| 国際課税 | 外国組合員に対する課税の特例と、過大支払利子税制が見直されます。 |
| 東日本大震災からの復興支援のための税制 | 福島復興再生特別措置法の改正に伴う特別償却又は税額控除の制度ができます。 |
| 納税環境整備 | 税務関係書類の押印が原則として不要となり、電子帳簿等保存制度が緩みます。 |
| 関税 | 暫定税率416品目等の適用期限が令和4年3月31日まで延長されます。 |
大綱に添えられた「令和3年度の税制改正(内国税関係)による増減収見込額」の合計は、平年度で560億円の減収です。前後の年度は令和2年度税制改正の大綱、令和4年度税制改正の大綱をご覧ください。
住宅ローン控除の13年の特例を延ばし、狭い住宅にも広げる
個人所得課税の章の先頭は、いわゆる住宅ローン控除です。控除期間を3年間延長する特例が、契約の時期で区切り直された上で使えます。
住宅の取得等で特別特例取得に該当するものをした個人が、その特別特例取得をした家屋を令和3年1月1日から令和4年12月31日までの間にその者の居住の用に供した場合には、住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除及び当該控除の控除期間の3年間延長の特例を適用できることとする。
「特別特例取得」とは、消費税等の税率が10%である場合の住宅の取得等で、契約が定められた期間内に締結されたものをいいます。居住用家屋の新築は令和2年10月1日から令和3年9月30日まで、既存住宅の取得等は同年12月1日から翌年11月30日までです。
もう一つの拡充が床面積です。この特例は、床面積が40㎡以上50㎡未満の住宅の用に供する家屋にも適用できることとされます。ただしその場合、13年間の控除期間のうち合計所得金額が1,000万円を超える年には適用されません。
資産課税の章では、直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置も動きます。令和3年4月1日から同年12月31日までに契約を締結した場合の非課税限度額が、税率10%が適用される新築等で1,500万円に上がります。
デジタルと脱炭素への投資に、特別償却か税額控除を用意する
法人課税の章の柱は二つの投資減税です。いずれも産業競争力強化法の改正を前提とし、認定を受けた計画に沿った投資であることが条件です。税額控除には、二つ合計で当期の法人税額の20%の上限があります。
デジタルトランスフォーメーション投資促進税制
事業適応計画の認定を受けた青色申告法人が、改正法の施行の日から令和5年3月31日までに、その計画に従ってソフトウエアの新設若しくは増設をした場合などが対象です。
取得等をして国内にある事業の用に供した事業適応設備の取得価額の30%の特別償却とその取得価額の3%(グループ外の事業者とデータ連携をする場合には、5%)の税額控除との選択適用ができることとする。
「事業適応設備」には、ソフトウエアとともに事業適応の用に供する機械装置及び器具備品も含まれます。対象は300億円が上限です。
カーボンニュートラルに向けた投資促進税制
中長期環境適応計画の認定を受けた法人が対象です。改正法の施行の日から令和6年3月31日までに、その計画に記載された中長期環境適応生産性向上設備又は中長期環境適応需要開拓製品生産設備を国内の事業の用に供した場合に適用されます。
その取得価額の50%の特別償却とその取得価額の5%(温室効果ガスの削減に著しく資するものにあっては、10%)の税額控除との選択適用ができることとする。
対象は500億円が限度です。地方税では、特別償却が法人住民税及び法人事業税に適用されます。
投資をする企業に、繰越欠損金の控除上限を広げる
青色欠損金の繰越控除には、繰越控除前の所得の金額の50%という上限があります。大綱はこの上限を広げる特例を設けます。対象は、改正法の施行の日から1年を経過する日までに事業適応計画の認定を受け、事業適応を実施する法人です。
その特例対象欠損金額については、欠損金の繰越控除前の所得の金額(その所得の金額の50%を超える部分については、累積投資残額に達するまでの金額に限る。)の範囲内で損金算入できることとする。
「特例対象欠損金額」とは、令和2年4月1日から令和3年4月1日までの期間内の日を含む事業年度に生じた青色欠損金額です。「累積投資残額」は、計画に従って行った投資の額から、既にこの特例により50%を超えて損金算入した金額を控除した残りをいいます。
中小企業が他社の株式を買うときに、準備金を認める
中小企業等経営強化法の改正を前提に、青色申告書を提出する中小企業者で、改正法の施行の日から令和6年3月31日までに経営力向上計画の認定を受けたものが対象です。その計画に従って他の法人の株式等を購入により取得し、事業年度終了の日まで有している場合に使えます。取得価額が10億円を超える場合は除かれます。
その株式等の価格の低落による損失に備えるため、その株式等の取得価額の70%以下の金額を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立てたときは、その積み立てた金額は、その事業年度において損金算入できることとする。
積んで終わりではありません。この準備金は、株式等を有しなくなった場合等に取り崩すほか、積み立てた事業年度終了の日の翌日から5年を経過した日を含む事業年度から5年間で均等に取り崩し、益金に算入します。
押印をやめ、帳簿の電子保存の入口を広げる
納税環境整備の章は押印から始まります。
提出者等の押印をしなければならないこととされている税務関係書類について、次に掲げる税務関係書類を除き、押印を要しないこととするほか、所要の措置を講ずる。
除かれるのは、担保提供関係書類及び物納手続関係書類のうち実印の押印及び印鑑証明書の添付を求めている書類と、相続税及び贈与税の特例の添付書類のうち財産の分割の協議に関する書類です。令和3年4月1日以後の提出分に適用されます。
電子帳簿等保存制度では、電磁的記録等による保存制度とスキャナ保存制度の承認制度が廃止されます。要件も次のように緩みます。
- 自己が一貫して電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類は、概要書等の備付け、画面等への速やかな出力、ダウンロードの求めへの対応を要件に保存を行えます。
- スキャナ保存のタイムスタンプの付与期間が3日以内から記録事項の入力期間と同様になり、受領者等の自署が不要となります。
- 電子取引の検索要件は、判定期間の売上高が1,000万円以下である保存義務者がダウンロードの求めに応じる場合には、全て不要とされます。
緩めるだけではありません。これらの電磁的記録について、隠蔽し又は仮装された事実に基づく申告漏れ等があった場合、重加算税の額に本税の10%に相当する金額が加算されます。
土地の固定資産税を据え置き、短い勤続の退職金の計算を改める
令和3年度に限り、課税標準額を令和2年度と同額にする
令和3年度は固定資産税の評価替えの年です。大綱は、負担調整措置の仕組みを令和3年度から令和5年度まで継続するとした上で、令和3年度限りの措置を置きます。
宅地等(商業地等は負担水準が60%未満の土地に限り、商業地等以外の宅地等は負担水準が100%未満の土地に限る。)及び農地(負担水準が100%未満の土地に限る。)については、令和3年度の課税標準額を令和2年度の課税標準額と同額とする。
評価額が上がっても、令和3年度の課税標準額は令和2年度と同じに据え置かれます。
勤続5年以下の退職金の2分の1課税を絞る
対象は、支払者の下での勤続年数が5年以下である者がその勤続年数に対応するものとして支払を受けるもので、特定役員退職手当等に該当しないものです。大綱はこれを「短期退職手当等」と呼びます。令和4年分以後の所得税に適用されます。
ご自身に関係があるかを見分けるには
- 住宅を買う契約をこれから結ぶ方は、個人所得課税の章をご覧ください。控除期間13年の特例は、契約の時期と居住の時期で区切られます。
- 40㎡以上50㎡未満の住宅を検討している方は、個人所得課税の章をご覧ください。控除には合計所得金額の要件が付きます。
- ソフトウエアや設備への投資を計画している法人の方は、法人課税の章をご覧ください。投資減税は計画の認定を受けていることが前提です。
- 令和2年4月1日以後に始まる事業年度で欠損金が生じた法人の方は、法人課税の章をご覧ください。認定の申請期間は施行日から1年間です。
- 他の法人の株式の取得を考えている中小企業の方は、法人課税の章をご覧ください。準備金は後に取り崩します。
- 紙の帳簿の保存に負担を感じている方は、納税環境整備の章をご覧ください。要件が緩む一方、重加算税は重くなります。
- 土地をお持ちの方は、資産課税の章をご覧ください。据置きは令和3年度限りの措置です。
出所
- 「令和3年度税制改正の大綱」(令和2年12月21日 閣議決定)
本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
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