何が、いつ、誰の手で決まったのか
令和5年度税制改正の大綱は、令和4年12月23日に閣議決定された政府の大綱です。原文の表題の下には「令和4年12月23日 閣議決定」とだけ記されています。この年の出発点は前文に表れています。
家計の資産を貯蓄から投資へと積極的に振り向け、資産所得倍増につなげるため、NISAの抜本的拡充・恒久化を行うとともに、スタートアップ・エコシステムを抜本的に強化するための税制上の措置を講ずる。また、より公平で中立的な税制の実現に向け、極めて高い水準の所得について最低限の負担を求める措置の導入、グローバル・ミニマム課税の導入及び資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築を行う。加えて、自動車重量税のエコカー減税や自動車税等の環境性能割等を見直す。租税特別措置については、それぞれの性質等に応じ適切な適用期限を設定する。具体的には、Ⅰのとおり税制改正を行うものとする。
この大綱には、税制改正の本体であるⅠのほかに、Ⅱとして「防衛力強化に係る財源確保のための税制措置」が独立して置かれています。大綱そのものの読み方は令和8年度税制改正大綱のポイントもあわせてご覧ください。
大綱の柱
Ⅰは七つの章に分かれ、そのあとにⅡが置かれています。章の名前と、決まったことは次のとおりです。
| 章 | その章で決まったこと |
|---|---|
| 個人所得課税 | NISAが抜本的に拡充され、極めて高い水準の所得に最低限の負担を求める措置が導入されます。 |
| 資産課税 | 相続時精算課税に基礎控除が設けられ、相続開始前の贈与を相続税の課税価格に加算する期間が延びます。 |
| 法人課税 | 研究開発税制とオープンイノベーション促進税制が見直され、法人が有する暗号資産の評価方法等が改められます。 |
| consumption tax | 適格請求書等保存方式に経過措置が置かれ、自動車重量税のエコカー減税が見直されます。 |
| 国際課税 | 国際最低課税額に対する法人税(仮称)が創設され、外国子会社合算税制等が見直されます。 |
| 納税環境整備 | 電子帳簿等保存制度が見直され、無申告加算税の割合が引き上げられます。 |
| 関税 | 暫定税率412品目の適用期限が令和6年3月31日まで延長されます。 |
| 防衛力強化に係る財源確保のための税制措置 | 法人税、所得税及びたばこ税に措置を講じ、令和9年度において1兆円強を確保することとされます。 |
大綱に添えられた「令和5年度の税制改正(内国税関係)による増減収見込額」の合計は、平年度で10億円の減収、初年度で90億円の減収です。前の年度は令和4年度税制改正の大綱をご覧ください。
NISAを恒久化し、非課税で持てる額を広げる
つみたてNISAの勘定設定期間を令和5年12月31日までとした上で、非課税措置が新しい形に改組されます。積立てのための特定累積投資勘定(仮称)は令和6年以後の各年に設けられ、上場株式等のための特定非課税管理勘定(仮称)が同時に設けられます。これらの勘定に係る配当等と譲渡等による所得には、所得税及び個人住民税を課さないこととされます。
受け入れられる金額には上限が置かれます。次のとおりです。
| Distinction | Amount |
|---|---|
| 特定累積投資勘定(仮称)にその年に受け入れる取得対価の額の合計額 | 120万円 |
| 特定非課税管理勘定(仮称)にその年に受け入れる取得対価の額の合計額 | 240万円 |
| 両方の勘定に受け入れている購入の代価の額等の合計額 | 1,800万円 |
| うち特定非課税管理勘定(仮称)に係る部分の合計額 | 1,200万円 |
受け入れる対象にも条件があり、特定非課税管理勘定(仮称)が受け入れられるのは特定上場株式等に限られます。増減収見込額では、この項目は平年度で150億円の減収と見込まれています。
生前の贈与と相続を、七年でつなぐ
相続時精算課税制度に、現行の基礎控除とは別に、課税価格から110万円を控除できる基礎控除が設けられます。特定贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算等をされる財産の価額は、この控除をした後の残額とされます。
あわせて、相続開始前の贈与を相続税の課税価格に加算する期間が延びます。相続又は遺贈により財産を取得した者が、相続の開始前7年以内(現行は3年以内)に被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合には、その財産の価額を加算することとされます。ただし、相続の開始前3年以内に贈与により取得した財産以外の財産については、その価額の合計額から100万円を控除した残額を加算します。いずれも、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用されます。
教育資金の一括贈与に係る非課税措置は適用期限が3年延長され、結婚・子育て資金の一括贈与に係る非課税措置は2年延長されます。教育資金については、贈与者の死亡に係る相続税の課税価格の合計額が5億円を超えるときは、受贈者が23歳未満である場合等であっても、残額を相続等により取得したものとみなすこととされます。
極めて高い水準の所得に、最低限の負担を求める
その年分の基準所得金額から3億3,000万円を控除した金額に22.5%の税率を乗じた金額が、その年分の基準所得税額を超える場合には、その超える金額に相当する所得税を課する措置が講じられます。
言葉の意味は注で定められています。「基準所得金額」とは、その年分の所得税について申告不要制度を適用しないで計算した合計所得金額をいいます。ここでの「申告不要制度」とは、確定申告を要しない配当所得等の特例と、確定申告を要しない上場株式等の譲渡による所得の特例の二つです。
この合計所得金額には、源泉分離課税の対象となる所得金額を含めないこととされています。この改正は、令和7年分以後の所得税について適用されます。
自己が発行した暗号資産を、期末の時価評価から外す
法人が事業年度末に有する暗号資産には、時価評価により評価損益を計上するものがあります。この大綱では、その範囲から一定の暗号資産を除外することが決まりました。原文の法人課税の章にはこうあります。
法人が事業年度末において有する暗号資産のうち時価評価により評価損益を計上するものの範囲から、次の要件に該当する暗号資産を除外する。
要件は二つで、両方を満たすことが必要です。
- 自己が発行した暗号資産で、その発行の時から継続して保有しているものであることが必要です。
- その暗号資産の発行の時から継続して、他の者に移転することができないようにする技術的措置がとられていること、又は一定の要件を満たす信託の信託財産としていることのいずれかにより、譲渡制限が行われているものであることが必要です。
あわせて、自己が発行した暗号資産については、その取得価額を発行に要した費用の額とすることとされます。この見直しは、所得税についても同様とされています。また、法人が暗号資産交換業者以外の者から借り入れた暗号資産を譲渡し、その事業年度終了の時までに種類を同じくする暗号資産の買戻しをしていないときは、その時に買戻しをしたものとみなして計算した損益相当額を計上することとされます。
自分で発行したトークンの扱いは自分で発行したトークンに、含み益課税はかかるのかで、暗号資産の税制がどう積み上がってきたかは暗号資産税制はこうしてできたでご覧いただけます。
インボイスの負担を和らげる三つの措置
一つ目は、小規模事業者に係る税額控除の経過措置です。免税事業者が適格請求書発行事業者となった場合には、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間について、課税標準額に対する消費税額から控除する金額をその消費税額に8割を乗じた額とすることにより、納付税額をその消費税額の2割とすることができることとされます。
二つ目は、帳簿のみの保存による仕入税額控除です。基準期間における課税売上高が1億円以下、又は特定期間における課税売上高が5,000万円以下である事業者が、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に国内において行う課税仕入れについて、支払対価の額が1万円未満である場合が対象です。
三つ目は、返品や値引きです。売上げに係る対価の返還等に係る税込価額が1万円未満である場合には、適格返還請求書の交付義務が免除されます。
防衛力強化の財源を、三つの税から取る
Ⅱは、防衛力の抜本的な強化を行うに当たり、歳出・歳入両面から安定的な財源を確保するとしています。税制部分については、令和9年度に向けて複数年かけて段階的に実施することとし、令和9年度において1兆円強を確保するとされています。対象は次の三つの税です。
| tax item | 講ずる措置 |
|---|---|
| corporate tax | 法人税額に対し、税率4〜4.5%の新たな付加税を課します。中小法人に配慮する観点から、課税標準となる法人税額から500万円を控除します。 |
| 所得税 | 所得税額に対し、当分の間、税率1%の新たな付加税を課します。あわせて復興特別所得税の税率を1%引き下げ、その課税期間を延長します。 |
| たばこ税 | 3円/1本相当の引上げを、国産葉たばこ農家への影響に十分配慮しつつ、段階的に実施します。 |
施行時期については、以上の措置の施行時期は令和6年以降の適切な時期とする、とあるだけで、具体的な年月日までは書かれていません。
ご自身に関係があるかを見分けるには
- 証券口座で積立てをしている方、これから始める方は、個人所得課税のNISAの項目をご覧ください。
- お子さんやお孫さんへ生前に贈与をしている方、相続時精算課税を選んでいる方は、資産課税の「資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築」をご覧ください。
- 教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与を使っている方、これから使う方は、資産課税の非課税措置の項目をご覧ください。
- 申告不要としてきた配当や上場株式等の譲渡益が大きい方は、個人所得課税の「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化」をご覧ください。
- 暗号資産を自ら発行した法人、暗号資産を保有する法人は、法人課税の暗号資産の評価方法等の項目をご覧ください。
- 免税事業者から適格請求書発行事業者になる方、少額の仕入れが多い方は、消費課税の「適格請求書等保存方式に係る見直し」をご覧ください。
- 総収入金額が7億5,000万ユーロ相当額以上の企業グループに属する法人は、国際課税の「グローバル・ミニマム課税への対応」をご覧ください。
出所
- 「令和5年度税制改正の大綱」(令和4年12月23日 閣議決定)
本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
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