最初の一歩
暗号資産の税金の話は、たいてい所得税から始まります。ところが税制改正の大綱をさかのぼると、最初に決まったのはそこではありませんでした。
大綱は、翌年度の税制をどう変えるかを政府が閣議決定した文書で、条文になる前の設計図です。「仮想通貨」の語が初めて現れたのは平成29年度税制改正の大綱(平成28年12月22日 閣議決定)で、章は「四 消費課税」でした。
「① 資金決済に関する法律に規定する仮想通貨の譲渡について、消費税を非課税とする。」
ここが出発点です。この記事では平成22年度から令和8年度までの大綱の原文をたどります。
年表
| 年度 | 公表日 | 何が決まったか |
|---|---|---|
| 平成22年度〜平成28年度 | ― | 「仮想通貨」「暗号資産」の語がありません。 |
| 平成29年度 | 平成28年12月22日 | 仮想通貨の譲渡が消費税で非課税になりました。平成29年7月1日以後に国内において事業者が行う資産の譲渡等及び課税仕入れに適用されます。 |
| 平成30年度 | ― | 「仮想通貨」「暗号資産」の語がありません。 |
| 平成31年度 | 平成30年12月21日 | 個人は移動平均法又は総平均法で評価します。法人は時価法の導入、譲渡損益の計上時期、信用取引等のみなし決済が定められました。法人税は平成31年4月1日以後に終了する事業年度分から適用されます。 |
| 令和2年度 | 令和元年12月20日 | 大綱に「暗号資産」という語が初めて現れました。暗号資産デリバティブ取引を先物取引の課税の特例から除外し、支払調書制度が設けられました。 |
| 令和3年度 | ― | 「仮想通貨」「暗号資産」の語がありません。 |
| 令和4年度 | ― | 「仮想通貨」「暗号資産」の語がありません。 |
| 令和5年度 | 令和4年12月23日 | 自己が発行して継続して保有する譲渡制限付きの暗号資産が、法人の期末の時価評価から外れました。 |
| 令和6年度 | ― | 市場暗号資産に該当する譲渡制限付きの暗号資産について、原価法と時価法の選定制が定められました。 |
| 令和7年度 | 令和6年12月27日 | 確認した2章には暗号資産の記載がありません。他の章は確認していません。 |
| 令和8年度 | 令和7年12月26日 | 個人の暗号資産の所得を申告分離課税へ移す方向が示されました。 |
公表日の「―」は、閣議決定日を確認していないことを表します。令和6年度は、財務省のホームページの本文に日付の記載がなく確認できていません。令和7年度は「一 個人所得課税」と「七 納税環境整備」の2章だけを見ています。
語が現れないと書いた年度は、大綱の原文を全文テキスト化したうえで「仮想通貨」と「暗号資産」の2語を検索し、該当がないことを確かめました。母集団は本文の全ページです。
最初に登場したのは消費税だった
年表を上から読むと、平成28年度まで空白が続きます。国内で取引所が動き始めていた時期ですが、大綱には一行も出てきません。
最初の記載が消費税だったことには、理由があると思います。消費税で問われるのは、その取引に税を課すかどうかという入口の問題で、取引がある以上、先送りできません。所得税や法人税で問われるのはいくらの所得になるかという計算の問題で、専用のルールがなくても申告は成り立ちます。入口が先に決着した、という順番です。
「非課税とする」と書かれている以上、それ以前は課税の対象でした。切替日が決まれば境目の問題が出ます。大綱は注3で次の措置を置きました。
「(注3)事業者が、平成29年6月30日に100万円(税抜き)以上の仮想通貨(国内において譲り受けたものに限る。)を保有する場合において、同日の仮想通貨の保有数量が平成29年6月1日から平成29年6月30日までの間の各日の仮想通貨の保有数量の平均保有数量に対して増加したときは、その増加した部分の課税仕入れに係る消費税につき、仕入税額控除制度の適用を認めないこととする。」
6月30日の残高を直前1か月の平均と比べ、増えていればその分の仕入税額控除を認めません。切替前に買い込んで控除を取り、切替後に非課税で売る動きを封じています。物差しが金額ではなく「保有数量」であるところに狙いが表れています。条文の作りは暗号資産を売っても消費税はかからない ── その根拠と経緯で扱っています。
個人と法人の扱いが決まった年
所得税と法人税に固有の定めが入るのは2年後です。平成31年度税制改正の大綱(平成30年12月21日 閣議決定)が、個人と法人をまとめて手当てしました。個人はこうです。
「期末において有する仮想通貨の価額は、移動平均法又は総平均法により算出した取得価額をもって評価した金額とする」
いま所得税法48条の2として読んでいる仕組みの出発点です。法人は「三 法人課税」に5つの項目が並びました。
「① 法人が事業年度末に有する仮想通貨のうち、活発な市場が存在する仮想通貨については、時価評価により評価損益を計上する。」
「② 法人が仮想通貨の譲渡をした場合の譲渡損益については、その譲渡に係る契約をした日の属する事業年度に計上する。」
「④ 法人が事業年度末に有する未決済の仮想通貨の信用取引等については、事業年度末に決済したものとみなして計算した損益相当額を計上する。」
性質の違う3つです。期末の評価、譲渡損益を拾う時期、未決済ポジションの扱いです。適用の開始も注で示されました。
「上記の改正は、平成31年4月1日以後に終了する事業年度分の法人税について適用する。」
同じ注は、同日前に開始して同日以後に終了する事業年度について、会計上時価評価していなければ①と④を適用しないでおける経過措置も置きました。初年度だけの逃げ道です。
名前が変わった年
令和2年度税制改正の大綱(令和元年12月20日 閣議決定)に、初めて「暗号資産」という語が現れます。資金決済に関する法律などの改正に伴うもので、中身が変わったからではありません。ただし、この大綱の中には「仮想通貨」という語も残っており、この年に大綱の用語がすべて置き換わったわけではありません。この記事の引用に「仮想通貨」とあるのは原文のままだからです。
この年に決まったのは、暗号資産そのものではなくデリバティブ取引の扱いでした。
「① 先物取引に係る雑所得等の課税の特例及び先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除の適用対象から、暗号資産デリバティブ取引に係る雑所得等を除外する。」
先物取引の特例は、申告分離課税と損失の繰越しを認める仕組みです。そこから暗号資産のデリバティブ取引を外した、というのがこの一文です。令和8年度とは裏返しの関係になります。
「イ 暗号資産デリバティブ取引の委託を受けた金融商品取引業者等の営業所の長は、その年中の暗号資産デリバティブ取引の差金等決済により確定した利益又は損失の額の合計額等を記載した支払調書を、その差金等決済があった日の翌年1月31日までに、税務署長に提出しなければならないこととする。」
納税者ではなく業者が何を出すかを定めた規定です。課税のルールを作ったあとで、その前提になる情報の集め方が手当てされました。
自分で出したトークンが外れた年
法人の時価評価は、期末に持っているだけで損益が立つ仕組みです。重くのしかかったのは、自分でトークンを発行した法人です。事実上売れないものにまで及べば、資金の裏づけのない所得に税がかかります。令和5年度税制改正の大綱(令和4年12月23日 閣議決定)が手を入れました。
「① 法人が事業年度末において有する暗号資産のうち時価評価により評価損益を計上するものの範囲から、次の要件に該当する暗号資産を除外する。」
要件は「イ 自己が発行した暗号資産でその発行の時から継続して保有しているものであること。」と「ロ その暗号資産の発行の時から継続して次のいずれかにより譲渡制限が行われているものであること。」の2つです。ロの譲渡制限は、移転を防ぐ技術的措置と、一定の要件を満たす信託の信託財産とすることの2通りです。
「② 自己が発行した暗号資産について、その取得価額を発行に要した費用の額とする。」
自分で発行したものには買った値段がありません。この②には柱書きに「次の②の見直しは、所得税についても同様とする。」とあり、法人税だけの話では終わっていません。
他社のトークンも選べるようになった年
令和5年度で救われたのは、自分で発行したものだけでした。他社の発行したトークンを条件付きで引き受けた法人は、時価評価の対象のままです。令和6年度税制改正の大綱が、この範囲を広げました。
「(4)法人が有する市場暗号資産に該当する暗号資産で譲渡についての制限その他の条件が付されている暗号資産の期末における評価額は、次のいずれかの評価方法のうちその法人が選定した評価方法(自己の発行する暗号資産でその発行の時から継続して保有するものにあっては、①の評価方法)により計算した金額とする」
選べるのは「① 原価法」と「② 時価法」です。自己が発行して継続して保有するものは括弧書きで原価法に固定され、他社発行のものは法人が選びます。対象になる要件は注1に2つあり、ひとつは移転できないようにする措置、もうひとつがこの年に新しく入ったものです。
「② 上記①の制限が付されていることを認定資金決済事業者協会において公表させるため、その暗号資産を有する者等が上記①の制限が付されている旨の暗号資産交換業者に対する通知等をしていること。」
技術的に動かせないだけでは足りず、その事実が外から見える状態であることを求めています。他社発行にまで広げるなら、制限の有無を第三者が確認できなければならない、という組み立てです。選定は種類ごとに行い、取得した日の属する事業年度の確定申告書の提出期限までに届け出ます。届け出なければ原価法です。
これから
年表の最後は令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日 閣議決定)です。打ち出されたのは、個人の暗号資産の所得を申告分離課税へ移す方向でした。令和2年度に先物取引の特例から暗号資産デリバティブ取引を外したこととは、向きが逆です。内容は令和8年度税制改正大綱のポイントにゆずります。
大綱は法律そのものではありません。適用されるのは、国会で法律が成立し、政令が整い、施行日が来てからです。年表に書いた適用の開始時期は大綱の注にあるものだけで、注にない年度の適用時期は書いていません。
実務で迷いが生じるところ
- 適用開始の数え方です。平成31年度の法人課税は開始日ではなく終了日で切られており、決算月によって最初に適用される事業年度が変わります。
- 令和5年度と令和6年度で、時価評価から外れる範囲が変わっています。過去の期末評価を見直すときは、その事業年度にどちらの定めが働いていたかを確かめる必要があります。
- 令和6年度の選定制で、期限までに届出をしたかどうかです。届け出ていなければ原価法によりますから、時価法で計算していれば前提が崩れます。
- 大綱に記載がない年度を、何も変わらなかった年と読んでよいかどうかです。大綱に語が現れないことと、通達などの水準で取扱いが示されていないこととは別の話です。
いずれも、どの時点のルールで判断するかが起点になります。実際の申告にあたっては、対象となる年分や事業年度を特定したうえで確認してください。
出所
- 平成29年度税制改正の大綱(平成28年12月22日 閣議決定)四 消費課税/引用した文言:「(2)仮想通貨に係る課税関係の見直し」「① 資金決済に関する法律に規定する仮想通貨の譲渡について、消費税を非課税とする。」「上記の改正は、平成29年7月1日以後に国内において事業者が行う資産の譲渡等及び課税仕入れについて適用する。」
- 平成29年度税制改正の大綱 四 消費課税(注3)/引用した文言:「事業者が、平成29年6月30日に100万円(税抜き)以上の仮想通貨(国内において譲り受けたものに限る。)を保有する場合において、同日の仮想通貨の保有数量が平成29年6月1日から平成29年6月30日までの間の各日の仮想通貨の保有数量の平均保有数量に対して増加したときは、その増加した部分の課税仕入れに係る消費税につき、仕入税額控除制度の適用を認めないこととする。」
- 平成31年度税制改正の大綱(平成30年12月21日 閣議決定)一 個人所得課税/引用した文言:「期末において有する仮想通貨の価額は、移動平均法又は総平均法により算出した取得価額をもって評価した金額とする」
- 平成31年度税制改正の大綱 三 法人課税/引用した文言:「法人税における仮想通貨の評価方法等について、次のとおり時価法を導入する等の措置を講ずる。」「① 法人が事業年度末に有する仮想通貨のうち、活発な市場が存在する仮想通貨については、時価評価により評価損益を計上する。」「② 法人が仮想通貨の譲渡をした場合の譲渡損益については、その譲渡に係る契約をした日の属する事業年度に計上する。」「④ 法人が事業年度末に有する未決済の仮想通貨の信用取引等については、事業年度末に決済したものとみなして計算した損益相当額を計上する。」
- 平成31年度税制改正の大綱 三 法人課税(注)/引用した文言:「上記の改正は、平成31年4月1日以後に終了する事業年度分の法人税について適用する。」「同日前に開始し、かつ、同日以後に終了する事業年度については、会計上仮想通貨につき時価評価していない場合には、上記①及び④を適用しないことができる経過措置を講ずる。」
- 令和2年度税制改正の大綱(令和元年12月20日 閣議決定)/引用した文言:「① 先物取引に係る雑所得等の課税の特例及び先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除の適用対象から、暗号資産デリバティブ取引に係る雑所得等を除外する。」「イ 暗号資産デリバティブ取引の委託を受けた金融商品取引業者等の営業所の長は、その年中の暗号資産デリバティブ取引の差金等決済により確定した利益又は損失の額の合計額等を記載した支払調書を、その差金等決済があった日の翌年1月31日までに、税務署長に提出しなければならないこととする。」
- 令和5年度税制改正の大綱(令和4年12月23日 閣議決定)三 法人課税/引用した文言:「次の②の見直しは、所得税についても同様とする。」「① 法人が事業年度末において有する暗号資産のうち時価評価により評価損益を計上するものの範囲から、次の要件に該当する暗号資産を除外する。」「イ 自己が発行した暗号資産でその発行の時から継続して保有しているものであること。」「ロ その暗号資産の発行の時から継続して次のいずれかにより譲渡制限が行われているものであること。」「② 自己が発行した暗号資産について、その取得価額を発行に要した費用の額とする。」
- 令和6年度税制改正の大綱 三 法人課税〔拡充等〕/引用した文言:「(4)法人が有する市場暗号資産に該当する暗号資産で譲渡についての制限その他の条件が付されている暗号資産の期末における評価額は、次のいずれかの評価方法のうちその法人が選定した評価方法(自己の発行する暗号資産でその発行の時から継続して保有するものにあっては、①の評価方法)により計算した金額とする」「① 原価法」「② 時価法」「② 上記①の制限が付されていることを認定資金決済事業者協会において公表させるため、その暗号資産を有する者等が上記①の制限が付されている旨の暗号資産交換業者に対する通知等をしていること。」「その暗号資産を取得した日の属する事業年度に係る確定申告書の提出期限までに納税地の所轄税務署長に届け出なければならない」
- 令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日 閣議決定)/申告分離課税への移行など。詳細は令和8年度税制改正大綱のポイントを参照。
- 記載がなかった年度/平成22年度から平成28年度まで、平成30年度、令和3年度、令和4年度の大綱について、原文を全文テキスト化したうえで「仮想通貨」「暗号資産」を検索し、該当がないことを確認しました。令和7年度税制改正の大綱(令和6年12月27日 閣議決定)は「一 個人所得課税」と「七 納税環境整備」の2章のみを確認しており、他の章は確認していません。
- 参照した条文/所得税法 第四十八条の二(暗号資産の譲渡原価等の計算及びその評価の方法)
本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
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