条文の定義
暗号資産を売っても消費税はかかりません。ただ、その根拠を条文で探すと少し手間がかかります。暗号資産の譲渡を非課税とすると正面から書いた条文が、消費税法の本文にはないからです。根拠は、消費税法の別表第二と消費税法施行令9条4項の2か所に分かれています。まず、別表第二の第2号を見ます。
「二金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第一項(定義)に規定する有価証券その他これに類するものとして政令で定めるもの(ゴルフ場その他の施設の利用に関する権利に係るものとして政令で定めるものを除く。)及び外国為替及び外国貿易法第六条第一項第七号(定義)に規定する支払手段(収集品その他の政令で定めるものを除く。)その他これに類するものとして政令で定めるもの(別表第二の二において「有価証券等」という。)の譲渡」
別表第二は、消費税を課さない取引を並べた表です。ところが、この第2号のどこを読んでも「暗号資産」という語は出てきません。出てくるのは「支払手段(収集品その他の政令で定めるものを除く。)その他これに類するものとして政令で定めるもの」という書き方だけです。その「政令で定めるもの」の中身は施行令へ飛ばされています。飛んだ先が、消費税法施行令9条4項です。
「4法別表第二第二号に規定する支払手段に類するものとして政令で定めるものは、電子決済手段、資金決済に関する法律第二条第十四項に規定する暗号資産及び国際通貨基金協定第十五条に規定する特別引出権とする。」
ここで初めて「暗号資産」が現れます。つまり、暗号資産の譲渡が非課税になる筋道は、別表第二第2号の「支払手段に類するものとして政令で定めるもの」という枠に施行令9条4項が暗号資産を投げ込む、という二段構えです。法律と政令を並べないと根拠が完成しません。
そして、その「暗号資産」が何を指すのかも、消費税法が自前で決めているわけではありません。資金決済に関する法律の定義を、そのまま借りています。
「この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法第二十九条の二第一項第八号に規定する権利を表示するものを除く。一物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨、通貨建資産並びに電子決済手段(通貨建資産に該当するものを除く。)を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの二不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」
この定義は、代価の弁済のために不特定の者に対して使用できること、つまり支払に使えることを第一の要素に置いています。消費税がこれを支払手段の側に寄せたことと、定義の作りは無関係ではありません。
骨格
| Issue | 条文の定め |
|---|---|
| 課税か非課税か | 非課税です。消費税を課さない取引を並べた別表第二の第2号に、支払手段「その他これに類するものとして政令で定めるもの」の譲渡が掲げられています。 |
| どの枠での非課税か | 有価証券の枠ではありません。消費税法施行令9条4項が「法別表第二第二号に規定する支払手段に類するものとして政令で定めるもの」として暗号資産を挙げています。 |
| 「暗号資産」の意味 | 資金決済に関する法律2条14項に規定する暗号資産をいいます。消費税法独自の定義は置かれていません。 |
| 同じ枠に並ぶもの | 電子決済手段と、国際通貨基金協定15条に規定する特別引出権です。いずれも決済のための手段という性格を持ちます。 |
| いつからか | 平成29年度税制改正の大綱により、平成29年7月1日以後に国内において事業者が行う資産の譲渡等及び課税仕入れについて適用されました。 |
| 経過措置 | 改正前に譲り受けた仮想通貨の仕入れ区分についての措置と、平成29年6月30日時点の保有増加分について仕入税額控除を認めない措置の2つが置かれました。 |
「有価証券」ではなく「支払手段に類するもの」
別表第二第2号は長い一文ですが、中身は2つの束でできています。ひとつは「金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第一項(定義)に規定する有価証券その他これに類するものとして政令で定めるもの」という有価証券の束。もうひとつは「外国為替及び外国貿易法第六条第一項第七号(定義)に規定する支払手段(収集品その他の政令で定めるものを除く。)その他これに類するものとして政令で定めるもの」という支払手段の束です。第2号はこの2つをまとめて「有価証券等」と呼び、その譲渡を非課税にしています。
暗号資産が入っているのは、後ろの束です。施行令9条4項の書き出しは「法別表第二第二号に規定する支払手段に類するものとして政令で定めるものは」です。有価証券に類するものとして定められているのではありません。ここは条文の読みどころだと思います。
取扱いはどちらの束に入っても、譲渡は非課税で同じです。それでも、どちらに入っているかは無視できません。改正があったときに見るべき条文が変わりますし、税法が暗号資産をどう位置づけているかが、この一点に表れているからです。
同じことは、所得税や法人税の側からも確かめられます。法人税法61条1項は、暗号資産を「短期売買商品等」という括りの中に入れていますが、その括弧書きは「短期的な価格の変動を利用して利益を得る目的で取得した資産として政令で定めるもの(有価証券を除く。)及び資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第二条第十四項(定義)に規定する暗号資産」と書かれていて、有価証券をわざわざ除いたうえで暗号資産を並べています。所得税法48条の2も、暗号資産の必要経費算入を「事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上」の話として組み立てていて、有価証券の譲渡としては作られていません。
消費税、所得税、法人税のどれを見ても、暗号資産は有価証券として扱われていません。消費税では、有価証券の隣にある支払手段の側に置かれました。施行令9条4項で暗号資産と肩を並べているのが電子決済手段と特別引出権であることも、その性格を示しています。
いつから非課税になったのか
平成29年7月1日からです。決めたのは、平成29年度税制改正の大綱(平成28年12月22日 閣議決定)です。「四 消費課税」の章に、次のように書かれています。
「(2)仮想通貨に係る課税関係の見直し」
「① 資金決済に関する法律に規定する仮想通貨の譲渡について、消費税を非課税とする。」
「② その他所要の措置を講ずる。」
「(注1)上記の改正は、平成29年7月1日以後に国内において事業者が行う資産の譲渡等及び課税仕入れについて適用する。」
これだけです。この短い記述が、いま私たちが消費税法施行令9条4項として読んでいるものの出発点になりました。
「非課税とする」と書かれているということは、それ以前は課税の対象だったということです。あとで見る経過措置が、改正前に譲り受けた仮想通貨の課税仕入れや仕入税額控除を前提に組み立てられていることからも、そう読めます。国内で暗号資産を買えば代金に消費税が乗り、売れば課税売上が立つ世界が平成29年6月30日まで続き、7月1日を境に切り替わりました。
駆け込みを封じる経過措置が置かれた
切替日が決まると、必ず境目の問題が出ます。平成29年度の大綱は、注として2つの措置を置きました。
「(注2)上記の改正前に譲り受けた仮想通貨について、個別対応方式により仕入控除税額を計算する場合の仕入れ区分は、「課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ」に該当するものとする。」
これは、改正前に買った分の救済にあたります。7月1日以後は暗号資産の売却が非課税売上になりますから、素直に考えると、その売却に対応する仕入れは個別対応方式では控除できない側に落ちてしまいます。それを、改正前に譲り受けたものについては「課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ」として扱うと決めた、という筋道です。
ただ、この救済をそのまま置くと抜け道が生まれます。6月30日までに大量に買っておけば仕入税額控除が取れて、7月1日以後に非課税で売れるからです。そこで置かれたのが注3です。
「(注3)事業者が、平成29年6月30日に100万円(税抜き)以上の仮想通貨(国内において譲り受けたものに限る。)を保有する場合において、同日の仮想通貨の保有数量が平成29年6月1日から平成29年6月30日までの間の各日の仮想通貨の保有数量の平均保有数量に対して増加したときは、その増加した部分の課税仕入れに係る消費税につき、仕入税額控除制度の適用を認めないこととする。」
言い回しは硬いのですが、やっていることは単純です。切替日の直前1か月の平均と当日の残高を比べ、増えていたら、その分は控除を認めません。駆け込みの取得を封じる線引きです。要件は3つに分けて読めます。
| 要件 | 大綱の定め |
|---|---|
| Amount | 平成29年6月30日に100万円(税抜き)以上の仮想通貨を保有していることが入口です。これに満たなければ、この措置の対象になりません。 |
| 取得の場所 | 「国内において譲り受けたものに限る。」とされています。そもそも国内の課税仕入れでなければ仕入税額控除の問題が起きないためです。 |
| 数量の比較 | 6月30日の保有数量を、6月1日から6月30日までの各日の平均保有数量と比べます。増加していれば、その増加した部分が対象になります。 |
比べているのが金額ではなく「保有数量」であるところが、この措置の特徴です。相場が上がって評価額が膨らんだだけの人は対象にならず、実際に量を積み増した人だけが対象になります。何を封じたかったのかが、比較の物差しの選び方に表れています。
税法に最初に現れたのは消費税だった
いまでこそ暗号資産は、所得税法48条の2、法人税法61条、消費税法施行令9条4項と、複数の税目にまたがって条文を持っています。しかし、税制改正の大綱の本文をさかのぼって読むと、順番がはっきりしています。
平成22年度から平成28年度までの大綱には、「仮想通貨」の語がひとつも出てきません。最初に現れるのが、平成29年度税制改正の大綱の「四 消費課税」です。つまり、税法がこの資産を最初に扱ったのは、所得税でも法人税でもなく、消費税でした。
所得税と法人税に固有の条文が入ってくるのは、その2年後です。平成31年度税制改正の大綱(平成30年12月21日 閣議決定)が、個人については期末に有する仮想通貨の評価を移動平均法または総平均法によるものとし、法人については時価法の導入などを定めました。
「(2)法人税における仮想通貨の評価方法等について、次のとおり時価法を導入する等の措置を講ずる。」
「① 法人が事業年度末に有する仮想通貨のうち、活発な市場が存在する仮想通貨については、時価評価により評価損益を計上する。」
この順番には意味があります。消費税で問われたのは、その取引に税を課すのかという入口の話でした。所得税や法人税で問われたのは、いくらの所得になるのかという計算の話です。入口が先に決着し、計算が後から整備された、と読めます。
なお、大綱の用語が「仮想通貨」から「暗号資産」に変わるのは令和2年度税制改正の大綱からで、資金決済法等の改正の施行に伴うものです。この記事の平成29年度と平成31年度の引用に「仮想通貨」とあるのは、当時の原文のままだからです。その後も改正は続き、令和8年度税制改正の大綱では個人の暗号資産の所得について申告分離課税への移行などが挙げられています(令和8年度税制改正大綱のポイント)。令和8年度改正では、消費税でも暗号資産を「支払手段に類するもの」の側から「有価証券に類するもの」の側へ移す改正が置かれました。本稿で見てきたのはその適用前の構造であり、改正の適用後も譲渡が非課税である点は続きますが、課税売上割合の計算は変わります。
実務で迷いが生じるところ
- 暗号資産どうしを交換したとき、手放した側の暗号資産について非課税の譲渡が生じたと考えるのか、という場面です。条文は「譲渡」を非課税としており、交換をどう位置づけるかが出発点になります。
- 課税売上割合の計算です。支払手段等として扱う改正前の制度では、暗号資産の譲渡対価は、課税売上割合の分母にも分子にも算入しません。非課税の譲渡だからといって、売却額の全額を分母に入れるわけではありません。令和8年度改正では、譲渡対価の5%を分母に算入する扱いへ変わります。適用は、金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律の施行日の属する年の翌年1月1日からです。具体的な適用年は、この改正法の施行日を基に判定します。
- 暗号資産の売買に伴って取引所に支払う手数料の扱いです。国内で行われる売買の仲介に係る手数料は、原則として課税の対象です。売買目的で購入する暗号資産に係るこの手数料は、個別対応方式では非課税売上げにのみ要する課税仕入れに区分します。暗号資産そのものの譲渡の扱いと分けて考える必要があります。
- マイニングやステーキングなどで暗号資産を取得した場面です。別表第二第2号が非課税としているのは「譲渡」であり、取得の場面とは分けて検討することになります。
- 事業者が商品の代金として暗号資産を受け取ったときです。本体の売上とは別に非課税の譲渡が立つのか、それとも代金の支払方法にすぎないのか、という整理の問題が出ます。
- 別表第二第2号の支払手段には「収集品その他の政令で定めるものを除く。」という除外が付いています。この除外が、施行令9条4項で「支払手段に類するもの」とされた暗号資産にも及ぶのか、という読み方の問題があります。
- 電子決済手段との境目です。資金決済に関する法律2条14項は、暗号資産から「通貨建資産並びに電子決済手段(通貨建資産に該当するものを除く。)」を除いています。どちらに当たるかで、参照すべき条文の枝が変わります。
- 国外の取引所を通じた売却が「国内において事業者が行う資産の譲渡等」に当たるかどうかという、内外判定の場面です。
いずれも条文の文言だけでは決まらず、取引の実態を見て判断する場面です。実際の申告にあたっては、個別の事情を踏まえて確認してください。
根拠条文
- 消費税法 別表第二 第二号/引用した文言:「金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第一項(定義)に規定する有価証券その他これに類するものとして政令で定めるもの(ゴルフ場その他の施設の利用に関する権利に係るものとして政令で定めるものを除く。)及び外国為替及び外国貿易法第六条第一項第七号(定義)に規定する支払手段(収集品その他の政令で定めるものを除く。)その他これに類するものとして政令で定めるもの(別表第二の二において「有価証券等」という。)の譲渡」
- 消費税法施行令 第九条第四項/引用した文言:「法別表第二第二号に規定する支払手段に類するものとして政令で定めるものは、電子決済手段、資金決済に関する法律第二条第十四項に規定する暗号資産及び国際通貨基金協定第十五条に規定する特別引出権とする。」
- 資金決済に関する法律 第二条第十四項(定義)/引用した文言:「この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法第二十九条の二第一項第八号に規定する権利を表示するものを除く。」
- 法人税法 第六十一条(短期売買商品等の譲渡損益及び時価評価損益)第一項/引用した文言:「短期的な価格の変動を利用して利益を得る目的で取得した資産として政令で定めるもの(有価証券を除く。)及び資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第二条第十四項(定義)に規定する暗号資産」
- 所得税法 第四十八条の二(暗号資産の譲渡原価等の計算及びその評価の方法)第一項/引用した文言:「居住者の暗号資産(資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第二条第十四項(定義)に規定する暗号資産をいう。以下この条において同じ。)につき第三十七条第一項(必要経費)の規定によりその者の事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額を算定する場合」
- 平成29年度税制改正の大綱(平成28年12月22日 閣議決定)四 消費課税/引用した文言:「資金決済に関する法律に規定する仮想通貨の譲渡について、消費税を非課税とする。」「上記の改正は、平成29年7月1日以後に国内において事業者が行う資産の譲渡等及び課税仕入れについて適用する。」
- 平成29年度税制改正の大綱 四 消費課税(注2)/引用した文言:「上記の改正前に譲り受けた仮想通貨について、個別対応方式により仕入控除税額を計算する場合の仕入れ区分は、「課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ」に該当するものとする。」
- 平成29年度税制改正の大綱 四 消費課税(注3)/引用した文言:「事業者が、平成29年6月30日に100万円(税抜き)以上の仮想通貨(国内において譲り受けたものに限る。)を保有する場合において、同日の仮想通貨の保有数量が平成29年6月1日から平成29年6月30日までの間の各日の仮想通貨の保有数量の平均保有数量に対して増加したときは、その増加した部分の課税仕入れに係る消費税につき、仕入税額控除制度の適用を認めないこととする。」
- 平成31年度税制改正の大綱(平成30年12月21日 閣議決定)三 法人課税/引用した文言:「法人税における仮想通貨の評価方法等について、次のとおり時価法を導入する等の措置を講ずる。」
補足の根拠・出典
- 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」令和7年12月26日
- 国税庁「令和8年度税制改正に係る消費税法改正のお知らせ」4頁
- 財務省・令和8年政令第96号新旧対照条文(附則1条3号・5号、3条)
上記資料の確認日:2026年9月7日。
本稿は2026年9月7日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
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