条文の定義
「この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法第二十九条の二第一項第八号に規定する権利を表示するものを除く。一物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨、通貨建資産並びに電子決済手段(通貨建資産に該当するものを除く。)を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの二不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」
資金決済に関する法律2条14項です。冒頭に「この法律において」とあるとおり、これは資金決済法という法律の中の定義です。ところが、暗号資産の税金を考えるときに最初に読むべき条文も、これです。所得税法でも法人税法でもありません。
読みにくい条文ですが、組み立ては単純です。柱書きに続くただし書きが一つの除外を置き、そのうえで1号と2号という二種類の財産的価値を挙げ、1号のかっこ書きの中にもう一組の除外を入れています。
骨格
| Issue | 条文の定め |
|---|---|
| 定義の置き場所 | 定義は資金決済に関する法律2条14項に置かれています。税法はこの条文を参照します。 |
| 1号の要件 | 代価の弁済のために「不特定の者に対して使用することができ」、「かつ」「不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる」ことが求められます。 |
| 2号の要件 | 「不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値」であることが求められます。 |
| 両号に共通する要件 | いずれも「電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」であることを求めています。 |
| 除かれるもの(かっこ書き) | 「本邦通貨及び外国通貨、通貨建資産並びに電子決済手段(通貨建資産に該当するものを除く。)」は除かれます。「次号において同じ」とあり、2号にも及びます。 |
| 除かれるもの(ただし書き) | 「金融商品取引法第二十九条の二第一項第八号に規定する権利を表示するもの」は除かれます。 |
| 所得税法 | 48条の2が、暗号資産とは資金決済に関する法律2条14項に規定する暗号資産をいう、と定めています。 |
| 法人税法 | 61条1項が、同じ文言で資金決済法2条14項を参照しています。 |
| 消費税法 | 施行令9条4項が、別表第二第2号の「支払手段に類するもの」として「資金決済に関する法律第二条第十四項に規定する暗号資産」を挙げています。 |
二つの号は何を分けているのか
1号は、支払いに使えるものです。「物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために」使えること、というのが入口の要件です。そのうえで1号は、二つの「できる」を重ねます。「不特定の者に対して使用することができ」ること、そして「かつ」で結んで「不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる」ことです。使えるだけでも、売買できるだけでも足りません。
2号は、1号に当たるものと交換できる財産的価値です。「前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる」とあるとおり、参照先は1号です。買い物の代金として直接使える場面がなくても、1号に当たるものと交換できるのであれば、2号として暗号資産に含まれます。支払手段としての性格が薄いものまで、網が届いている、ということです。
両方の号に共通して、末尾に「電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」という要件が付いています。1号のかっこ書きも、対象を「電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り」と限定しています。
「不特定の者」という要件は何を求めているのか
この定義でいちばん効いている言葉は「不特定の者」です。1号に二回、2号に一回、あわせて三回出てきます。要件の大半がこの一語にぶら下がっています。
裏返すと、相手が特定されているものは、定義から外れる方向に働きます。発行した会社の店舗でしか使えないもの、限られた会員の間でしか回らないもの。こうしたものは「不特定の者に対して使用することができ」という文言に当てはめにくくなります。
もう一つ、条文が、現に使用しているかどうかではなく「することができる」と書いている点にご注意ください。実際に決済に使ったかどうかではなく、そうできる状態にあるかどうかを問うています。一度も買い物に使っていなくても、それだけで定義から外れるわけではありません。逆に、譲渡制限が付いたり外れたりすれば、当てはまり方も動き得ます。
税法は独自の定義を持っているのか
持っていません。所得税法も法人税法も、暗号資産の定義を自前では書かず、資金決済法の条文を名指しで引いています。所得税法48条の2の書き出しです。
「……居住者の暗号資産(資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第二条第十四項(定義)に規定する暗号資産をいう。以下この条において同じ。)」
法人税法61条1項も同じです。短期売買商品等の範囲を定める中で、次のように書いています。
「……資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第二条第十四項(定義)に規定する暗号資産(以下この条において「暗号資産」という。)」
どちらも「第二条第十四項(定義)に規定する暗号資産」と書くだけで、要件を書き直していません。「不特定の者」も「電子情報処理組織」も、税法の条文には一度も現れません。税法上の「暗号資産」に当たるかどうかは、税法を読んでも決まりません。資金決済法2条14項に当てはまるかどうかで決まります。
この作りには、はっきりした帰結があります。参照先である資金決済法の定義が動けば、税法の適用範囲も一緒に動きます。税法の条文が一字も変わらなくても、結論が変わり得るということです。暗号資産の税務の第一段階は、税法の解釈ではなく、資金決済法の定義への当てはめです。
何が除かれているのか
除外は二か所にあります。ただし書きに一つ、1号のかっこ書きに一組です。ただし書きは「金融商品取引法第二十九条の二第一項第八号に規定する権利を表示するものを除く」と定めています。この除外の中身は資金決済法の中には書かれておらず、何が除かれるのかを知るには金融商品取引法の条文まで戻る必要があります。暗号資産の定義には金融商品取引法の側から一つ穴が開けられている、という構造を押さえておいてください。
もう一組は、1号のかっこ書きの中です。「本邦通貨及び外国通貨、通貨建資産並びに電子決済手段(通貨建資産に該当するものを除く。)を除く」と書かれています。円もドルも、通貨建資産も、電子決済手段も、暗号資産ではありません。このかっこ書きの末尾には「次号において同じ」とあり、2号にもそのまま効きます。1号で除かれたものが2号で拾われることはありません。
実務で効いてくるのは、ここに電子決済手段が並んでいることです。それが具体的に何を指すかは資金決済法の別の条項で定義されており、本記事が根拠とした条文には含まれていないため、内容には立ち入りません。構造としてはっきりしているのは、電子決済手段に当たるものは資金決済法2条14項の暗号資産ではないということです。税法はその2条14項を借りていますから、電子決済手段には所得税法48条の2も法人税法61条も及びません。日常の言葉づかいではコインと名の付くものが一括りに「暗号資産」と呼ばれがちですが、税法の入口は呼び名ではなく条文の文言です。
所得税・法人税・消費税で定義は同じなのか
同じです。三つとも参照先は資金決済法2条14項です。所得税法48条の2と法人税法61条1項は先に見ました。消費税は道筋が違います。消費税法の別表第二第2号が、非課税となる譲渡として次のものを挙げています。
「……外国為替及び外国貿易法第六条第一項第七号(定義)に規定する支払手段(収集品その他の政令で定めるものを除く。)その他これに類するものとして政令で定めるもの」
この「その他これに類するものとして政令で定めるもの」の中身を書いているのが、消費税法施行令9条4項です。
「法別表第二第二号に規定する支払手段に類するものとして政令で定めるものは、電子決済手段、資金決済に関する法律第二条第十四項に規定する暗号資産及び国際通貨基金協定第十五条に規定する特別引出権とする。」
ここでも「第二条第十四項に規定する暗号資産」です。指している先は所得税法・法人税法と同じ条文です。
この施行令からは、もう一つ読み取れることがあります。電子決済手段と暗号資産と特別引出権の三つが、横並びで書かれている点です。並べて書いてあるということは、電子決済手段と暗号資産を別のものとして扱っている、ということです。資金決済法2条14項が電子決済手段を暗号資産から除いていることと平仄が合っています。もっとも、その結果、消費税の非課税という結論の側では両者は同じところに落ち着きます。定義が別であることと、結論が別であることは、別の話です。
三つの税目で定義が共通している以上、所得税では暗号資産に当たるが法人税では当たらない、という状態は、定義のレベルでは起きません。違いが出るのは定義から先、評価の方法や課税の仕方の部分です。その見直しについては、令和8年度税制改正大綱のポイントもあわせてご覧ください。
実務で迷いが生じるところ
- お持ちのトークンが暗号資産に当たるかどうかを、取引所に上場しているかどうかだけで判断してしまう場面です。条文が求めているのは上場の有無ではなく、「不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる」かです。
- 譲渡制限が付いたトークンをお持ちの場面です。「不特定の者」という要件に直接触れますので、制限の内容と、それがいつ付され、いつ外れたのかの確認が要ります。
- いわゆるステーブルコインをお持ちの場面です。それが電子決済手段に当たるのであれば、資金決済法2条14項の定義から明文で除かれていますので、税法上の暗号資産ではありません。
- ゲームやサービスの中だけで使えるポイントやアイテムの場面です。使える相手が発行者に限られていれば、1号の「不特定の者に対して使用することができ」という要件から離れていきます。
- 同じトークンという言葉で呼ばれていても、1号にも2号にも当てはまらないものがある、という場面です。暗号資産に当たらないのであれば、所得税法48条の2も法人税法61条も適用されず、代わりにどの規定によるのかを別途たどることになります。
- 海外で発行されたトークンをお持ちの場面です。資金決済法2条14項の文言には、発行された国や発行者の所在地を要件とする記述はありません。判断の軸は条文の要件そのものです。
根拠条文
- 資金決済に関する法律 第2条第14項(定義)/引用した文言:「この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法第二十九条の二第一項第八号に規定する権利を表示するものを除く。」
- 資金決済に関する法律 第2条第14項第1号(定義)/引用した文言:「物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値」
- 資金決済に関する法律 第2条第14項第1号かっこ書き(定義)/引用した文言:「電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨、通貨建資産並びに電子決済手段(通貨建資産に該当するものを除く。)を除く。次号において同じ。」
- 資金決済に関する法律 第2条第14項第2号(定義)/引用した文言:「不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」
- 所得税法 第48条の2第1項(暗号資産の譲渡原価等の計算及びその評価の方法)/引用した文言:「居住者の暗号資産(資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第二条第十四項(定義)に規定する暗号資産をいう。以下この条において同じ。)」
- 法人税法 第61条第1項(短期売買商品等の譲渡損益及び時価評価損益)/引用した文言:「資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第二条第十四項(定義)に規定する暗号資産(以下この条において「暗号資産」という。)」
- 消費税法 別表第二 第2号/引用した文言:「外国為替及び外国貿易法第六条第一項第七号(定義)に規定する支払手段(収集品その他の政令で定めるものを除く。)その他これに類するものとして政令で定めるもの」
- 消費税法施行令 第9条第4項/引用した文言:「法別表第二第二号に規定する支払手段に類するものとして政令で定めるものは、電子決済手段、資金決済に関する法律第二条第十四項に規定する暗号資産及び国際通貨基金協定第十五条に規定する特別引出権とする。」
- 金融商品取引法 第29条の2第1項第8号/資金決済に関する法律第2条第14項ただし書きが、除外の対象として参照している条文です。本記事では、その内容には立ち入っていません。
本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
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