条文の定義
法人が期末に持つ暗号資産は、時価で評価して含み益や含み損を所得に取り込むのが原則です。売っていなくても、値上がりした分だけ課税されます。ところが、自分の会社が発行したトークンを発行のときから持ち続けている場合には、この原則の外に置かれる道があります。それが「特定自己発行暗号資産」です。
「ロ特定自己発行暗号資産(当該内国法人が発行し、かつ、その発行の時から継続して有する暗号資産(次号において「自己発行暗号資産」という。)であつてその時から継続して譲渡についての制限その他の条件が付されているものとして政令で定めるものをいう。第六項において同じ。)」
要件は3つです。自分が発行したこと、発行の時から継続して有すること、そして発行の時から継続して譲渡についての制限その他の条件が付されていることです。前の2つを満たすものを条文は「自己発行暗号資産」と呼び、そこに譲渡制限が加わって、はじめて「特定自己発行暗号資産」になります。自分で発行しただけでは足りず、動かせない状態にしてあることがセットで求められます。
この定義が効くのは、同じ61条2項1号の本体です。
「一短期売買商品等(暗号資産にあつては、市場暗号資産(活発な市場が存在する暗号資産として政令で定めるものをいう。次号において同じ。)に限るものとし、次に掲げるものを除く。)時価法」
期末に時価法で評価するのは市場暗号資産に限られ、そこからさらに「次に掲げるもの」が除かれます。それがイの特定譲渡制限付暗号資産と、ロの特定自己発行暗号資産です。時価法で評価しないとは、期末に含み益が立たないということです。
骨格
| Issue | 条文の定め |
|---|---|
| どの条文か | 法人税法61条2項1号ロです。時価法で評価する範囲から、イの特定譲渡制限付暗号資産と並べて除かれます。 |
| 3つの要件 | 内国法人自身が発行したこと、発行の時から継続して有すること、その時から継続して譲渡制限が付されていることです。 |
| 譲渡制限の中身 | 法人税法施行令118条の7第3項です。1号の技術的措置か2号の信託か、いずれかで足ります。 |
| 効果 | 時価法の対象から外れます。61条3項の評価益・評価損は、時価法で評価するものにだけ生じます。 |
| 取得価額 | 法人税法施行令118条の5第1項2号により、発行のために要した費用の額です。 |
| 外れたとき | 法人税法61条6項と法人税法施行令118条の11第1項1号により、譲渡し、かつ、取得したものとみなされます。 |
なぜ時価法の対象から外されたのか
改正前の姿を追います。買った暗号資産の取得価額は購入の代価ですが、自分で発行したものに代価はありません。法人税法施行令118条の5第1項2号は、その取得価額を「その発行のために要した費用の額」と定めています。発行の実費はわずかです。帳簿価額は、限りなく小さい金額から始まります。
一方、法人税法61条3項は、時価評価金額が帳簿価額を超える部分を評価益とし、「その期末時の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する。」と定めています。取得価額がほぼゼロのトークンに市場価格が付けば、時価のほとんどがまるごと益金になります。現金は入っていません。それでも法人税は課されます。
手当てをしたのが、令和5年度税制改正の大綱(令和4年12月23日 閣議決定)の「三 法人課税」です。
「(5)暗号資産の評価方法等について、次の見直しを行う(次の②の見直しは、所得税についても同様とする。)。」
「① 法人が事業年度末において有する暗号資産のうち時価評価により評価損益を計上するものの範囲から、次の要件に該当する暗号資産を除外する。」
「イ 自己が発行した暗号資産でその発行の時から継続して保有しているものであること。」
「ロ その暗号資産の発行の時から継続して次のいずれかにより譲渡制限が行われているものであること。」
「(イ)他の者に移転することができないようにする技術的措置がとられていること。」
「(ロ)一定の要件を満たす信託の信託財産としていること。」
「② 自己が発行した暗号資産について、その取得価額を発行に要した費用の額とする。」
大綱のイとロが、そのまま法人税法61条2項1号ロと法人税法施行令118条の7第3項の1号・2号になりました。②は柱書のとおり所得税にも及び、所得税法施行令119条の6第1項2号の「二自己が発行することにより取得した暗号資産その発行のために要した費用の額」がこれです(個人が持つ暗号資産の取得価額は、どう決まるのか)。①は所得税に及びません。個人には期末時価評価がないためです。
要件① 他の者に移転できないようにする技術的措置
3つめの「政令で定めるもの」の中身は、法人税法施行令118条の7第3項です。
「法第六十一条第二項第一号ロに規定する政令で定めるものは、その発行の時から継続して次に掲げる要件のいずれかに該当する暗号資産とする。」
1号と2号の両方を満たす必要はありません。ただし柱書の「その発行の時から継続して」は、1号にも2号にも等しくかかります。あとから制限をかけた、という順序では要件を満たしません。
「一当該暗号資産につき、他の者に移転することができないようにする技術的措置として財務省令で定める措置がとられていること。」
契約書で譲渡しないと約束するだけでは足りません。求められているのは「他の者に移転することができないようにする技術的措置」、つまり仕組みとして移転できない状態です。その中身は「財務省令で定める措置」に委ねられています。この記事では省令の原文を確認していないため、立ち入りません。
要件② 一定の要件を満たす信託の信託財産とすること
もう一方が、2号の信託です。
「二当該暗号資産が信託で次に掲げる要件の全てに該当するもの」
この号は括弧書きで、法人税法12条1項により受益者等がその信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなされる信託に絞っています。そのうえで、次のイ・ロ・ハの「全てに該当する」ことが必要です。1号と違い、選択ではありません。
「イ当該信託の受託者が信託会社(金融機関の信託業務の兼営等に関する法律により同法第一条第一項(兼営の認可)に規定する信託業務を営む同項に規定する金融機関を含む。)のみであり、かつ、当該信託の受益者等が当該内国法人のみであること。」
「ロ当該信託に係る信託契約において、当該信託の受託者がその信託財産に属する資産及び負債を受託者等(当該信託の受託者及び受益者等をいう。)以外の者に譲渡しない旨が定められていること。」
「ハ当該信託に係る信託契約において、当該内国法人によつて、当該信託の受益権の譲渡及び当該信託の受益者等の変更をすることができない旨が定められていること。」
イは、身内を受託者にして自由に動かす形を、ロは、トークンが外に出る経路をふさぎます。ハは、信託に置いたまま受益権を売る迂回をふさぎます。出口と裏口を閉じ、鍵を信託会社に預けさせる構造です。1号が技術で動かせなくするのに対し、2号は法律関係で動かせなくします。
該当しなくなった瞬間に、譲渡があったとみなされる
ロックアップはいつか解けます。そのとき何が起きるかを定めるのが、法人税法61条6項です。
「その暗号資産が特定自己発行暗号資産に該当しないこととなつたことその他の政令で定める事実が生じたときは、政令で定めるところにより、その暗号資産を譲渡し、かつ、その暗号資産を取得したものとみなして、その内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する。」
売ってもいないし、買ってもいません。それでも譲渡し、かつ、取得したものとみなして所得を計算します。その「政令で定める事実」を並べるのが法人税法施行令118条の11第1項で、その1号が、有する暗号資産が特定自己発行暗号資産に該当しないこととなったことです。問題は、いくらで譲渡したものとみなされるかで、同条2項が定めています。
「その事実が生じた時において、その暗号資産をその時の直前の帳簿価額により譲渡し、かつ、その暗号資産をその帳簿価額により取得したものとみなして、その内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する。」
時価ではありません。直前の帳簿価額で売って同じ帳簿価額で買い直したことになるので、この時点では譲渡損益は出ません。みなし譲渡と聞くと時価で課税されるように読めますが、1号の場合はそうではありません。
では何のためのみなし譲渡なのか。ひとつは、一単位当たりの帳簿価額を計算するときの区分が変わるためです。法人税法施行令118条の6第2項は暗号資産を4つに区分し、特定自己発行暗号資産をその3号に置いています。譲渡して取得し直したとみなせば、区分の移動を帳簿で処理できます。
もうひとつが本題です。特定自己発行暗号資産でなくなれば、そのトークンは61条2項1号の除外リストから抜け、市場暗号資産に該当し特定譲渡制限付暗号資産にも当たらないのであれば、時価法の対象に戻ります。含み益への課税は、制限が外れた瞬間ではなく、その事業年度の期末に、通常のルートで起きます。解除の日より、それがどの事業年度に属するかが効いてきます。
なお、法人税法施行令118条の7第4項は、要件を満たす自己発行暗号資産でも、「当該暗号資産が同号イに規定する特定譲渡制限付暗号資産に該当する又は該当していたものであるときは」特定自己発行暗号資産に該当しないものとみなすと定めています。「該当していた」という過去形が要点で、一度でもそちらの枠に入れば戻れません。
実務で迷いが生じるところ
- 発行したトークンの一部を売却や配布した場合に、残る分が「その発行の時から継続して有する」ものといえるのか、という場面です。
- 技術的措置を外したときに、「該当しないこととなつた」のがいつかという判定です。解除の日が事業年度の末日に近いと、同じ事業年度の期末から時価法の対象になるのか翌事業年度からなのかで、含み益を取り込む時期が1年ずれます。
- 信託を使う場合に、受益者等が「当該内国法人のみ」であることが求められる点です。複数の法人が共同で発行に関わる形や、グループ内で受益権を移す形は、イとハとの関係を確かめる必要があります。
- 技術的措置の中身は「財務省令で定める措置」に委ねられています。採用している仕組みがそれに当たるかは、省令の原文にあたって確かめることになります。
- 適格合併や適格分割でトークンの移転を受けた場合です。法人税法施行令118条の7は5項と6項に判定を置き、自己発行暗号資産と特定自己発行暗号資産とで、みなす時点の定め方が異なります。
- 「発行のために要した費用の額」にどこまで含めるかという範囲の問題です。どれが発行に要した費用かは、事実関係によります。
いずれも条文の文言だけでは決まらず、発行の仕組みと契約の中身を見て判断する場面です。実際の申告では、個別の事情を踏まえて確認してください。定義については税法は「暗号資産」をどう定義しているのかもあわせてご覧ください。
根拠条文
- 法人税法 第六十一条(短期売買商品等の譲渡損益及び時価評価損益)第二項第一号ロ/引用した文言:「ロ特定自己発行暗号資産(当該内国法人が発行し、かつ、その発行の時から継続して有する暗号資産(次号において「自己発行暗号資産」という。)であつてその時から継続して譲渡についての制限その他の条件が付されているものとして政令で定めるものをいう。第六項において同じ。)」
- 法人税法 第六十一条第二項第一号/引用した文言:「一短期売買商品等(暗号資産にあつては、市場暗号資産(活発な市場が存在する暗号資産として政令で定めるものをいう。次号において同じ。)に限るものとし、次に掲げるものを除く。)時価法」
- 法人税法 第六十一条第三項/引用した文言:「その期末時の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する。」
- 法人税法 第六十一条第六項/引用した文言:「その暗号資産が特定自己発行暗号資産に該当しないこととなつたことその他の政令で定める事実が生じたときは、政令で定めるところにより、その暗号資産を譲渡し、かつ、その暗号資産を取得したものとみなして、その内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する。」
- 法人税法施行令 第百十八条の七(市場暗号資産等の範囲)第三項/引用した文言:「法第六十一条第二項第一号ロに規定する政令で定めるものは、その発行の時から継続して次に掲げる要件のいずれかに該当する暗号資産とする。」
- 法人税法施行令 第百十八条の七第三項第一号/引用した文言:「一当該暗号資産につき、他の者に移転することができないようにする技術的措置として財務省令で定める措置がとられていること。」
- 法人税法施行令 第百十八条の七第三項第二号/引用した文言:「二当該暗号資産が信託で次に掲げる要件の全てに該当するもの」
- 法人税法施行令 第百十八条の七第三項第二号イ/引用した文言:「イ当該信託の受託者が信託会社(金融機関の信託業務の兼営等に関する法律により同法第一条第一項(兼営の認可)に規定する信託業務を営む同項に規定する金融機関を含む。)のみであり、かつ、当該信託の受益者等が当該内国法人のみであること。」
- 法人税法施行令 第百十八条の七第三項第二号ロ/引用した文言:「ロ当該信託に係る信託契約において、当該信託の受託者がその信託財産に属する資産及び負債を受託者等(当該信託の受託者及び受益者等をいう。)以外の者に譲渡しない旨が定められていること。」
- 法人税法施行令 第百十八条の七第三項第二号ハ/引用した文言:「ハ当該信託に係る信託契約において、当該内国法人によつて、当該信託の受益権の譲渡及び当該信託の受益者等の変更をすることができない旨が定められていること。」
- 法人税法施行令 第百十八条の七第四項/引用した文言:「当該暗号資産が同号イに規定する特定譲渡制限付暗号資産に該当する又は該当していたものであるときは」
- 法人税法施行令 第百十八条の五(短期売買商品等の取得価額)第一項第二号/引用した文言:「二自己が発行することにより取得した短期売買商品等(暗号資産(法第六十一条第一項に規定する暗号資産をいう。以下この目において同じ。)に限る。)その発行のために要した費用の額」
- 法人税法施行令 第百十八条の六(短期売買商品等の一単位当たりの帳簿価額の算出の方法及びその選定の手続等)第二項第三号/引用した文言:「三法第六十一条第二項第一号ロに規定する特定自己発行暗号資産に該当する暗号資産」
- 法人税法施行令 第百十八条の十一(暗号資産の区分変更等によるみなし譲渡)第一項第一号/引用した文言:「一法第六十一条第六項の内国法人の有する暗号資産が特定自己発行暗号資産(同条第二項第一号ロに規定する特定自己発行暗号資産をいう。以下この項において同じ。)に該当しないこととなつたこと。」
- 法人税法施行令 第百十八条の十一第二項/引用した文言:「その事実が生じた時において、その暗号資産をその時の直前の帳簿価額により譲渡し、かつ、その暗号資産をその帳簿価額により取得したものとみなして、その内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する。」
- 所得税法施行令 第百十九条の六(暗号資産の取得価額)第一項第二号/引用した文言:「二自己が発行することにより取得した暗号資産その発行のために要した費用の額」
- 令和5年度税制改正の大綱(令和4年12月23日 閣議決定)三 法人課税(5)/引用した文言:「(5)暗号資産の評価方法等について、次の見直しを行う(次の②の見直しは、所得税についても同様とする。)。」「① 法人が事業年度末において有する暗号資産のうち時価評価により評価損益を計上するものの範囲から、次の要件に該当する暗号資産を除外する。」「イ 自己が発行した暗号資産でその発行の時から継続して保有しているものであること。」「ロ その暗号資産の発行の時から継続して次のいずれかにより譲渡制限が行われているものであること。」「(イ)他の者に移転することができないようにする技術的措置がとられていること。」「(ロ)一定の要件を満たす信託の信託財産としていること。」「② 自己が発行した暗号資産について、その取得価額を発行に要した費用の額とする。」
本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
While we pay close attention to the information provided, if you notice any errorsContact UsI would appreciate it if you could let me know.

