条文の定義
「(暗号資産の取得価額)第百十九条の六第百十九条の二第一項(暗号資産の評価の方法)の規定による暗号資産の評価額の計算の基礎となる暗号資産の取得価額は、別段の定めがあるものを除き、次の各号に掲げる暗号資産の区分に応じ当該各号に定める金額とする。一購入した暗号資産その購入の代価(購入手数料その他その暗号資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)二自己が発行することにより取得した暗号資産その発行のために要した費用の額三前二号に掲げる暗号資産以外の暗号資産その取得の時におけるその暗号資産の取得のために通常要する価額」
「2次の各号に掲げる暗号資産の前項に規定する取得価額は、当該各号に定める金額とする。一贈与、相続又は遺贈により取得した暗号資産(法第四十条第一項第一号(棚卸資産の贈与等の場合の総収入金額算入)に掲げる贈与又は遺贈により取得したものを除く。)被相続人の死亡の時において、当該被相続人がその暗号資産につきよるべきものとされていた評価の方法により評価した金額二法第四十条第一項第二号に掲げる譲渡により取得した暗号資産当該譲渡の対価の額と同号に定める金額との合計額」
所得税法施行令第119条の6が、個人の持つ暗号資産の取得価額を定めた条文です。第1項が3つの区分を、第2項がさらに2つの区分を置いています。読みにくく見えますが、構造は単純です。どういう取得のしかたをしたものにどの金額を当てるか、という対応表が並んでいるだけです。
ここでいう取得価額は、所得税法施行令第119条の2第1項による「暗号資産の評価額の計算の基礎となる」金額です。同項の総平均法も移動平均法も、取得価額を集計して1単位当たりの金額を出す計算ですから、1つひとつの取得についての取得価額が決まらないと、その先の計算は始まりません。
なお、ここでの暗号資産は、所得税法第48条の2第1項が「資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第二条第十四項(定義)に規定する暗号資産」と定めるものです。税法が独自に範囲を決めているわけではありません。
骨格
| Issue | 条文の定め |
|---|---|
| 何を定めた条文か | 所得税法施行令第119条の6です。第1項が購入・自己発行・それ以外の3区分、第2項が贈与等による取得と一定の譲渡による取得の2区分を置いています。 |
| 何のための金額か | 同令第119条の2第1項による「暗号資産の評価額の計算の基礎となる」金額です。総平均法でも移動平均法でも、この金額が計算の出発点です。 |
| 例外の置き方 | 柱書に「別段の定めがあるものを除き」とあります。別の定めがあれば、そちらが優先します。 |
| 購入した暗号資産 | 「その購入の代価(購入手数料その他その暗号資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)」です。 |
| 自己が発行することにより取得した暗号資産 | 「その発行のために要した費用の額」です。 |
| 前二号に掲げる暗号資産以外の暗号資産 | 「その取得の時におけるその暗号資産の取得のために通常要する価額」です。 |
| 贈与・相続・遺贈により取得した暗号資産 | 相続人に対する死因贈与、相続、包括遺贈、相続人に対する特定遺贈は、被相続人の死亡時にその方がよるべき評価方法で評価した金額です。これら以外の贈与・遺贈は、贈与・遺贈時の時価によります(所得税法40条、同令119条の6第2項)。 |
| 所得税法第40条第1項第2号に掲げる譲渡により取得した暗号資産 | 「当該譲渡の対価の額と同号に定める金額との合計額」です。 |
買った暗号資産の取得価額はどう決まるのか
第1項第1号です。取得価額は「その購入の代価(購入手数料その他その暗号資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)」とされています。
読み方の要点は、括弧の中にあります。購入手数料その他の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額が取得価額になる、という書き方です。加算するかどうかを選べる、とは書かれていません。費用があるなら加算する、という定め方です。
逆にいえば、その費用は購入時の経費として別に落とすのではなく、取得価額に取り込む形になります。買った時点でお金は出ていきますが、その分が計算に効いてくるのは、売ったときや使ったとき、あるいは年末の評価を通じてです。
では、何が「購入のために要した費用」なのか。条文は「購入手数料その他その暗号資産の購入のために要した費用」とだけ書いていて、費目を並べてはいません。法人について定めた法人税法施行令第118条の5第1号が「引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税(関税法第二条第一項第四号の二(定義)に規定する附帯税を除く。)その他当該短期売買商品等の購入のために要した費用」と費目を挙げているのとは、書きぶりが違います。どこまで拾うかは、その支出が「その暗号資産の購入のために要した」ものといえるかどうかで考えることになります。
自分で発行した暗号資産はどう扱われるのか
第1項第2号です。「自己が発行することにより取得した暗号資産」の取得価額は「その発行のために要した費用の額」とされています。
ここで注意したいのは、発行した時点の値打ちを取得価額にするのではない、という点です。市場でいくらの値が付いていようと、条文が取得価額として指しているのは、発行のために要した費用の額です。したがって、発行にかかった費用が少なければ、取得価額もその金額にとどまります。
そして、この費用の額が、そのまま第119条の2第1項の計算に入っていきます。売却したときの原価も、年末の評価も、この金額を出発点として計算されることになります。
買ったのでも発行したのでもない暗号資産はどこに入るのか
第1項第3号です。対象は「前二号に掲げる暗号資産以外の暗号資産」とされ、取得価額は「その取得の時におけるその暗号資産の取得のために通常要する価額」とされています。
第1号が購入、第2号が自己発行を受け持っているので、第3号は残りをすべて受け止める受け皿の号になっています。この号の書き方からは、購入でも自己発行でもない取得は、ここに入ることになります。マイニングやステーキングで受け取ったもの、いわゆるエアドロップで配られたものも、買ったわけでも自分で発行したわけでもない取得です。ただし、条文がマイニングやエアドロップという言葉を使って、それらをこの号に入れると書いているわけではありません。あくまで「前二号に掲げる暗号資産以外」という受け皿の書き方から、そう読めるということです。
金額の側も、条文が示しているのは「その取得の時におけるその暗号資産の取得のために通常要する価額」という一文だけです。どの取引所の、どの価格を見るのかまでは書かれていません。
相続や贈与でもらった暗号資産はどう評価するのか
第2項第1号です。相続人に対する死因贈与、相続、包括遺贈、相続人に対する特定遺贈については、「被相続人の死亡の時において、当該被相続人がその暗号資産につきよるべきものとされていた評価の方法により評価した金額」とされています。通常の生前贈与などは、同号の括弧書きによりここから除かれ、贈与・遺贈時の時価で取得する扱いです。
この相続等の4つの類型では、受け取った時の時価で取得価額を付け直しません。渡した側が「よるべきものとされていた評価の方法」で評価した金額を引き継ぐ形になっています。通常の生前贈与についての説明ではない点に注意が必要です。
その「よるべきものとされていた評価の方法」は、別の条文が決めています。所得税法施行令第119条の3第2項は、暗号資産を取得した居住者は確定申告期限までに「前条第一項に規定する評価の方法のうちそのよるべき方法を書面により納税地の所轄税務署長に届け出なければならない」と定めています。届け出なかった場合は、同令第119条の5第1項が法定の評価方法を「総平均法により算出した取得価額による評価の方法とする」と定めています。届け出ていればその方法、届け出ていなければ総平均法、という関係です。
なお第2項第1号は、括弧書きで「法第四十条第一項第一号(棚卸資産の贈与等の場合の総収入金額算入)に掲げる贈与又は遺贈により取得したもの」を除いています。また第2項第2号は「法第四十条第一項第二号に掲げる譲渡により取得した暗号資産」の取得価額を「当該譲渡の対価の額と同号に定める金額との合計額」と定めています。所得税法第40条第1項第1号・第2項は、通常の贈与等について、贈与者等の総収入金額と受け取った側の取得価額を贈与等の時の価額で捉える規定です。同令第87条により暗号資産も対象になります。同項第2号は著しく低い価額での譲渡を扱い、同令第119条の6第2項第2号では、実際の対価に実質的な贈与額を加えた金額が取得価額になります。
「別段の定め」はどこにあるのか
第119条の6の柱書は「別段の定めがあるものを除き」と断っています。つまり、ここまでの5つの区分がすべてではありません。
その一例が暗号資産信用取引です。所得税法施行令第119条の7は、売付けと買付けにより決済した場合に必要経費に算入する金額を「第百十九条の二から前条までの規定にかかわらず、当該暗号資産信用取引において当該買付けに係る暗号資産を取得するために要した金額とする」と定めています。「前条」とは第119条の6のことです。信用取引の決済については、この条文が優先します。
実務で迷いが生じるところ
- 取引所に支払った手数料や送金の手数料のうち、どこまでが「その暗号資産の購入のために要した費用」に当たるのか。条文は費目を並べていません。
- 他の暗号資産と交換して取得した場合は、第1項第3号に対応する取得時の時価を使います。国税庁FAQ1-5も交換取得を「その他」の取得として説明しています。交換比率だけでなく、取得時の円建て時価が分かる記録を残すことが必要です。
- 自分で発行した場合に、何を「その発行のために要した費用の額」として集計するのかが問題になります。
- マイニングやエアドロップのように、買ったのでも自己発行でもない取得について、「その取得の時におけるその暗号資産の取得のために通常要する価額」をどの価格で捉えるのか。取得の時点をどこに置くかでも金額が動きます。
- 通常の生前贈与で取得した場合は、贈与時の時価を確かめること。相続等の取得価額と混同せず、贈与者側にも原則として時価での総収入金額算入と譲渡原価の必要経費算入があることを確認します。
- 相続で引き継いだ場合に、亡くなった方が評価の方法を届け出ていたかどうかを相続人の側で確認できるか。届け出の有無で計算方法が変わります。
- 暗号資産を購入し、売却し、又は種類の異なる暗号資産に交換しようとする際に一時的に必要となる別の暗号資産の取得について、第119条の2第2項が、第1項各号の取得に「含まないものとする」と定めていること。取得として数えるかどうかで、平均単価の計算が変わります。
- 令和8年度の税制改正では、個人が保有する暗号資産の課税のしかたについて見直しが示されています。取得価額の定めがどう扱われるかは、条文で確かめる必要があります。大綱の内容は令和8年度税制改正大綱のポイントにまとめています。
根拠条文
- 所得税法施行令 第119条の6第1項(暗号資産の取得価額)/引用した文言:「第百十九条の二第一項(暗号資産の評価の方法)の規定による暗号資産の評価額の計算の基礎となる暗号資産の取得価額は、別段の定めがあるものを除き、次の各号に掲げる暗号資産の区分に応じ当該各号に定める金額とする。一購入した暗号資産その購入の代価(購入手数料その他その暗号資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)二自己が発行することにより取得した暗号資産その発行のために要した費用の額三前二号に掲げる暗号資産以外の暗号資産その取得の時におけるその暗号資産の取得のために通常要する価額」
- 所得税法施行令 第119条の6第2項(暗号資産の取得価額)/引用した文言:「次の各号に掲げる暗号資産の前項に規定する取得価額は、当該各号に定める金額とする。一贈与、相続又は遺贈により取得した暗号資産(法第四十条第一項第一号(棚卸資産の贈与等の場合の総収入金額算入)に掲げる贈与又は遺贈により取得したものを除く。)被相続人の死亡の時において、当該被相続人がその暗号資産につきよるべきものとされていた評価の方法により評価した金額二法第四十条第一項第二号に掲げる譲渡により取得した暗号資産当該譲渡の対価の額と同号に定める金額との合計額」
- 所得税法施行令 第119条の2第2項(暗号資産の評価の方法)/引用した文言:「前項各号に規定する取得には、暗号資産を購入し、若しくは売却し、又は種類の異なる暗号資産に交換しようとする際に一時的に必要なこれらの暗号資産以外の暗号資産を取得する場合におけるその取得を含まないものとする。」
- 所得税法施行令 第119条の3第2項(暗号資産の評価の方法の選定)/引用した文言:「その暗号資産と種類を同じくする暗号資産につき、前条第一項に規定する評価の方法のうちそのよるべき方法を書面により納税地の所轄税務署長に届け出なければならない。」
- 所得税法施行令 第119条の5第1項(暗号資産の法定評価方法)/引用した文言:「第百十九条の二第一項第一号(暗号資産の評価の方法)に掲げる総平均法により算出した取得価額による評価の方法とする。」
- 所得税法施行令 第119条の7(信用取引による暗号資産の取得価額)/引用した文言:「第百十九条の二から前条までの規定にかかわらず、当該暗号資産信用取引において当該買付けに係る暗号資産を取得するために要した金額とする。」
- 所得税法 第48条の2第1項(暗号資産の譲渡原価等の計算及びその評価の方法)/引用した文言:「資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第二条第十四項(定義)に規定する暗号資産」
- 資金決済に関する法律 第2条第14項(定義)/引用した文言:「不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値」
- 法人税法施行令 第118条の5第1号(短期売買商品等の取得価額)/引用した文言:「引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税(関税法第二条第一項第四号の二(定義)に規定する附帯税を除く。)その他当該短期売買商品等の購入のために要した費用」
補足の根拠・出典
上記資料の確認日:2026年9月7日。
本稿は2026年9月7日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
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