条文の定義
「……その年十二月三十一日において有する暗号資産の価額は、その者が暗号資産について選定した評価の方法により評価した金額(評価の方法を選定しなかつた場合又は選定した評価の方法により評価しなかつた場合には、評価の方法のうち政令で定める方法により評価した金額)とする。」(所得税法第48条の2第1項)
暗号資産を売ったときの利益は、売った金額から取得にかかった金額を差し引いて計算します。その差し引く側の金額を決めているのが、この条文です。
読みどころは二つあります。ひとつは、金額が自動的に決まるのではなく「その者が暗号資産について選定した評価の方法」によるとされている点です。納税者が方法を選ぶことが前提になっています。もうひとつはかっこ書きで、「評価の方法を選定しなかつた場合」と「選定した評価の方法により評価しなかつた場合」には、「政令で定める方法」によることになります。
選べる方法は何か、どう選ぶのか、選ばなかったときの方法は何か。同条第2項が「前項の選定をすることができる評価の方法の種類、その選定の手続その他暗号資産の評価に関し必要な事項は、政令で定める。」としているとおり、答えはすべて所得税法施行令に置かれています。
骨格
| Issue | 条文の定め |
|---|---|
| 何を評価するのか | その年12月31日に有する暗号資産の価額です。年の中途で死亡または出国した場合は、その時が基準になります(所得税法施行令119条の2第1項)。 |
| 選べる方法 | 総平均法と移動平均法の2つです。ほかの方法は挙げられていません(同令119条の2第1項各号)。 |
| 選ぶ単位 | 暗号資産の種類ごとに選定しなければなりません(同令119条の3第1項)。 |
| 届出の期限と相手 | 取得をした日の属する年分の確定申告期限までに、書面で納税地の所轄税務署長に届け出ます(同令119条の3第2項)。 |
| 届け出なかった場合 | 総平均法により算出した取得価額による評価の方法によります(同令119条の5第1項)。 |
| 方法を変えたいとき | 納税地の所轄税務署長の承認を受けなければなりません(同令119条の4第1項)。 |
| 選んだ方法で評価しなかったとき | 税務署長は、一定の要件を満たすと認めるときは、その行った方法により計算した金額を基礎として更正または決定をすることができます(同令119条の5第2項)。 |
総平均法とは何か
「総平均法(暗号資産(法第四十八条の二第一項に規定する暗号資産をいう。以下この款において同じ。)をその種類の異なるごとに区別し、その種類の同じものについて、その年一月一日において有していた種類を同じくする暗号資産の取得価額の総額とその年中に取得をした種類を同じくする暗号資産の取得価額の総額との合計額をこれらの暗号資産の総数量で除して計算した価額をその一単位当たりの取得価額とする方法をいう。)」(所得税法施行令第119条の2第1項第1号)
計算の材料は3つです。年初から持っていた分の取得価額の総額、その年中に取得した分の取得価額の総額、そして「これらの暗号資産の総数量」。前の2つを足して総数量で割った金額が、その年の1単位当たりの取得価額になります。分母は年末に残っている数量ではなく、年の途中で売った分も含めた数量です。
この方法は、その年が終わらないと単価が確定しません。12月に大きく買い足せば、1月に売った分の単価まで動きます。一方で、1年分の取得価額と数量の合計さえ集計できればよいため、記録の負担は軽くなります。
移動平均法とは何か
「移動平均法(暗号資産をその種類の異なるごとに区別し、その種類の同じものについて、当初の一単位当たりの取得価額が、再び種類を同じくする暗号資産の取得をした場合にはその取得の時において有する当該暗号資産とその取得をした暗号資産との数量及び取得価額を基礎として算出した平均単価によつて改定されたものとみなし、以後種類を同じくする暗号資産の取得をする都度同様の方法により一単位当たりの取得価額が改定されたものとみなし、その年十二月三十一日から最も近い日において改定されたものとみなされた一単位当たりの取得価額をその一単位当たりの取得価額とする方法をいう。)」(所得税法施行令第119条の2第1項第2号)
条文は「改定」という言葉を三度使います。同じ種類を再び取得したときに、その時点で持っている分と新たに取得した分の「数量及び取得価額を基礎として算出した平均単価」に改定されたものとみなし、以後、取得の都度これを繰り返す。そして「その年十二月三十一日から最も近い日において改定されたものとみなされた一単位当たりの取得価額」が、その年の単価になります。
平たく言えば、買い足すたびに平均単価を計算し直し、その最新の単価を使う方法です。総平均法との違いは、単価が確定する時点にあります。取得のたびに単価が決まるので、年の途中でも、いま売ればいくらの原価になるのかがわかります。12月に取得がなければ、その年の最後の取得の日の単価が年末の単価になります。
何が「取得」に当たるのか
「前項各号に規定する取得には、暗号資産を購入し、若しくは売却し、又は種類の異なる暗号資産に交換しようとする際に一時的に必要なこれらの暗号資産以外の暗号資産を取得する場合におけるその取得を含まないものとする。」(所得税法施行令第119条の2第2項)
総平均法も移動平均法も、「取得」を数えることで単価が動く方法です。何を取得と数えるかが決まっていなければ、計算が定まりません。
想定されているのは、目的の暗号資産を直接には買えず、いったん別の暗号資産を経由する場面です。経由のために通り過ぎただけの取得は、総平均法と移動平均法の計算でいう「取得」には含まれません。
この取扱いは届出の場面にも及びます。同令119条の3第3項が「前条第二項の規定は、前項に規定する取得について準用する。」としているためです。
いつまでに、誰に届け出るのか
「暗号資産の評価の方法は、その種類ごとに選定しなければならない。」(所得税法施行令第119条の3第1項)
「……同日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに、その暗号資産と種類を同じくする暗号資産につき、前条第一項に規定する評価の方法のうちそのよるべき方法を書面により納税地の所轄税務署長に届け出なければならない。」(所得税法施行令第119条の3第2項)
この2つから、届出の要素が4つ読み取れます。単位は種類ごと、期限は取得をした日の属する年分の所得税に係る確定申告期限まで、相手は納税地の所轄税務署長、形式は書面です。取得の日から起算するのではなく、その取得の年の申告期限が締切です。
第2項のかっこ書きも見ます。「その取得をした日の属する年の前年以前においてその暗号資産と種類を同じくする暗号資産につきこの項の規定による届出をすべき場合を除く」。前年以前に同じ種類について届出をすべきだったのなら、この義務からは外れます。同じ種類を買い足すたびに出し直す構造ではありません。
裏を返せば、それまで持っていなかった種類を新たに取得した年が、届出を検討する年だということになります。
届け出をしないとどうなるのか
「法第四十八条の二第一項(暗号資産の譲渡原価等の計算及びその評価の方法)に規定する政令で定める方法は、第百十九条の二第一項第一号(暗号資産の評価の方法)に掲げる総平均法により算出した取得価額による評価の方法とする。」(所得税法施行令第119条の5第1項)
所得税法48条の2第1項のかっこ書きにあった「政令で定める方法」の中身が、ここで示されます。総平均法It is.
届出をしなかったからといって、計算ができなくなるわけでも、何かの特典を失うわけでもありません。総平均法によることに決まる、というだけです。逆に、移動平均法によりたいのであれば届出が要る、ということでもあります。
そのうえで、同条第2項です。税務署長は、選定した評価の方法により評価しなかった場合において、その居住者が行った方法が総平均法か移動平均法のいずれかに該当し、かつ、その方法によっても「各年分の事業所得の金額又は雑所得の金額の計算を適正に行うことができると認めるとき」は、「更正又は決定をすることができる。」とされています。届出をしなかった居住者がよるべきこととされている総平均法も、かっこ書きによってここに含まれます。
ただし、主語は「税務署長は」であり、末尾は「することができる」です。納税者の側が方法を自由に選び直せることを認めた規定ではありません。
選んだ方法を変えるにはどうするのか
「居住者は、暗号資産につき選定した評価の方法(その評価の方法を届け出なかつた者がよるべきこととされている次条第一項に規定する評価の方法を含む。)を変更しようとする場合には、納税地の所轄税務署長の承認を受けなければならない。」(所得税法施行令第119条の4第1項)
変更は、届出ではなく承認です。選定のときは「届け出なければならない」でしたが、変更のときは「承認を受けなければならない」となっています。
かっこ書きの「次条第一項に規定する評価の方法」とは、総平均法のことです。これまで届出をしてこなかった方が、これから移動平均法によりたいと考える場合も「変更しようとする場合」に当たり、承認の対象になります。
同条第2項は、棚卸資産の評価の方法の変更手続の規定を準用し、「事業所得の金額」とあるのを「事業所得の金額又は雑所得の金額」と読み替える旨を定めています。
実務で迷いが生じるところ
- 同じ銘柄を複数の取引所やウォレットに分けて持っている場合です。条文は「その種類の異なるごとに区別し」としており、保管場所ごとに区別せよという文言は置かれていません。
- 目的の暗号資産を買うために、いったん別の暗号資産を経由した場合です。同令119条の2第2項により計算上の「取得」に含まれず、同令119条の3第3項によって、この取扱いが届出の場面にも準用されます。
- 取得価額に何を含めるかです。購入した暗号資産について、同令119条の6第1項第1号は「その購入の代価(購入手数料その他その暗号資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)」と定めています。
- 相続等で取得した場合です。相続人に対する死因贈与、相続、包括遺贈、相続人に対する特定遺贈では、同令119条の6第2項第1号により、死亡時に被相続人がよるべき評価方法で評価した金額を引き継ぎます。通常の生前贈与など、それ以外の贈与・遺贈では、贈与・遺贈時の時価が取得価額です。引き継ぐ取得価額と、受け取った側が選定する評価方法は分けて確認します。
- 過去に届出書を出したかどうかの記録が残っていない場合です。届出がなければ総平均法によることになりますので、控えの保管が後年の計算の前提になります。
- 制度そのものが動いている点です。令和8年度税制改正大綱のポイントでは、個人が保有する暗号資産の課税の枠組みについて見直しが示されています。大綱は法律そのものではありませんので、確定した内容は改正後の条文で確かめる必要があります。
根拠条文
- 所得税法 第48条の2第1項(暗号資産の譲渡原価等の計算及びその評価の方法)/引用した文言:「その年十二月三十一日において有する暗号資産の価額は、その者が暗号資産について選定した評価の方法により評価した金額(評価の方法を選定しなかつた場合又は選定した評価の方法により評価しなかつた場合には、評価の方法のうち政令で定める方法により評価した金額)とする。」
- 所得税法 第48条の2第2項(同上)/引用した文言:「前項の選定をすることができる評価の方法の種類、その選定の手続その他暗号資産の評価に関し必要な事項は、政令で定める。」
- 所得税法施行令 第119条の2第1項第1号(暗号資産の評価の方法)/引用した文言:「その年一月一日において有していた種類を同じくする暗号資産の取得価額の総額とその年中に取得をした種類を同じくする暗号資産の取得価額の総額との合計額をこれらの暗号資産の総数量で除して計算した価額をその一単位当たりの取得価額とする方法をいう。」
- 所得税法施行令 第119条の2第1項第2号(同上)/引用した文言:「以後種類を同じくする暗号資産の取得をする都度同様の方法により一単位当たりの取得価額が改定されたものとみなし、その年十二月三十一日から最も近い日において改定されたものとみなされた一単位当たりの取得価額をその一単位当たりの取得価額とする方法をいう。」
- 所得税法施行令 第119条の2第2項(同上)/引用した文言:「前項各号に規定する取得には、暗号資産を購入し、若しくは売却し、又は種類の異なる暗号資産に交換しようとする際に一時的に必要なこれらの暗号資産以外の暗号資産を取得する場合におけるその取得を含まないものとする。」
- 所得税法施行令 第119条の3第1項(暗号資産の評価の方法の選定)/引用した文言:「暗号資産の評価の方法は、その種類ごとに選定しなければならない。」
- 所得税法施行令 第119条の3第2項(同上)/引用した文言:「同日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに、その暗号資産と種類を同じくする暗号資産につき、前条第一項に規定する評価の方法のうちそのよるべき方法を書面により納税地の所轄税務署長に届け出なければならない。」
- 所得税法施行令 第119条の3第3項(同上)/引用した文言:「前条第二項の規定は、前項に規定する取得について準用する。」
- 所得税法施行令 第119条の4第1項(暗号資産の評価の方法の変更手続)/引用した文言:「居住者は、暗号資産につき選定した評価の方法(その評価の方法を届け出なかつた者がよるべきこととされている次条第一項に規定する評価の方法を含む。)を変更しようとする場合には、納税地の所轄税務署長の承認を受けなければならない。」
- 所得税法施行令 第119条の5第1項(暗号資産の法定評価方法)/引用した文言:「法第四十八条の二第一項(暗号資産の譲渡原価等の計算及びその評価の方法)に規定する政令で定める方法は、第百十九条の二第一項第一号(暗号資産の評価の方法)に掲げる総平均法により算出した取得価額による評価の方法とする。」
- 所得税法施行令 第119条の5第2項(同上)/引用した文言:「その行つた評価の方法により計算した各年分の事業所得の金額又は雑所得の金額を基礎として更正又は決定をすることができる。」
- 所得税法施行令 第119条の6第1項第1号(暗号資産の取得価額)/引用した文言:「その購入の代価(購入手数料その他その暗号資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)」
- 所得税法施行令 第119条の6第2項第1号(同上)/引用した文言:「被相続人の死亡の時において、当該被相続人がその暗号資産につきよるべきものとされていた評価の方法により評価した金額」
補足の根拠・出典
上記資料の確認日:2026年9月7日。
本稿は2026年9月7日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
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