条文の定義
「(暗号資産の取得価額)第百十九条の六第百十九条の二第一項(暗号資産の評価の方法)の規定による暗号資産の評価額の計算の基礎となる暗号資産の取得価額は、別段の定めがあるものを除き、次の各号に掲げる暗号資産の区分に応じ当該各号に定める金額とする。一購入した暗号資産その購入の代価(購入手数料その他その暗号資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)二自己が発行することにより取得した暗号資産その発行のために要した費用の額三前二号に掲げる暗号資産以外の暗号資産その取得の時におけるその暗号資産の取得のために通常要する価額」
個人が持つ暗号資産の取得価額を定めた、所得税法施行令第119条の6第1項です。この記事で読むのは、そのうちの第3号です。対象は「前二号に掲げる暗号資産以外の暗号資産」、その取得価額は「その取得の時におけるその暗号資産の取得のために通常要する価額」とされています。買ったのでもなく、自分で発行したのでもない取得を、まとめて受け止める号です。
第1項の全体像と、第2項が定める贈与・相続・遺贈による取得については、個人が持つ暗号資産の取得価額は、どう決まるのかで扱っています。ここでは第3号だけを取り出します。
骨格
| Issue | 条文の定め |
|---|---|
| 条文の位置 | 所得税法施行令第119条の6第1項第3号です。第1号(購入)、第2号(自己発行)に続く号です。 |
| 第3号の対象 | 「前二号に掲げる暗号資産以外の暗号資産」です。取得のしかたを書くのではなく、第1号と第2号に当たらないもの、という書き方をしています。 |
| 第3号の取得価額 | 「その取得の時におけるその暗号資産の取得のために通常要する価額」です。 |
| 金額を測る時点 | 「その取得の時における」と書かれています。取得の時点で測る、という定め方です。取得の後の値動きで取得価額が動くとは書かれていません。 |
| 何のための金額か | 同令第119条の2第1項による「暗号資産の評価額の計算の基礎となる」金額です。 |
| 法人の場合 | 法人税法施行令第118条の5に同じ3区分の枠組みが置かれています。 |
| 条文が書いていないこと | マイニング、ステーキング、エアドロップといった用語は出てきません。どの価格を見るのか、取得の時がいつなのかも書かれていません。 |
条文は取得を3つに分けている
第119条の6第1項は、柱書で「次の各号に掲げる暗号資産の区分に応じ当該各号に定める金額とする」と述べ、そのうえで3つの号を並べています。区分の切り口は、どうやってその暗号資産を手に入れたか、です。
第1号は「購入した暗号資産」で、金額は「その購入の代価」に購入のために要した費用を加算した金額です。第2号は「自己が発行することにより取得した暗号資産」で、金額は「その発行のために要した費用の額」です。どちらも、実際にいくらかかったか、が金額になっています。
第3号は「前二号に掲げる暗号資産以外の暗号資産」です。ここだけ書き方が違います。第1号と第2号は「購入した」「自己が発行することにより取得した」と、取得のしかたを名指ししています。これに対して第3号は、取得のしかたを名指しせず、前の2つに当たらないもの、とだけ書いています。
この書き方の効果は2つあります。1つは、取得のしかたが条文に列挙されていなくても、第1号にも第2号にも当たらなければ第3号に落ちる、ということです。新しい取得のかたちが出てきても、条文の側は動かずに済みます。もう1つは、金額の決め方が変わることです。第1号と第2号が実際の支出額を金額にしているのに対し、第3号だけは支出額ではなく「通常要する価額」を金額にしています。買ったのでも自分で作ったのでもない取得には、対価としての支出額がないか、あっても取得したものの値打ちと結び付いていないからです。
3号に入るのはどんな場合か
ここが、この記事で最も注意して読んでいただきたいところです。まず条文の側から確認します。第119条の6第1項第3号は「前二号に掲げる暗号資産以外の暗号資産」としか書いていません。マイニングという語も、ステーキングという語も、レンディングという語も、エアドロップという語も、ハードフォークという語も、この条文には出てきません。条文がこれらを名指しして第3号に入れていると書いているわけではない、という点は、はっきり押さえておく必要があります。
そのうえで、条文の作りから当てはめると、次のようになります。
- マイニングによって受け取った暗号資産。買ったわけではありませんから、第1号の「購入した暗号資産」ではありません。自分が発行したものでもありませんから、第2号にも当たりません。
- ステーキングの報酬として受け取った暗号資産。これも、購入でも自己発行でもありません。
- レンディング(貸付け)の対価として受け取った暗号資産。これも同じです。
- いわゆるエアドロップで配られた暗号資産。代価を払っていませんから購入ではなく、自分が発行したものでもありません。
- ハードフォークによって新たに持つことになった暗号資産。買った覚えも発行した覚えもない取得です。
いずれも、条文の作りからは第3号に落ちます。ただしそれは、条文がそう名指ししているからではなく、第1号と第2号のどちらにも当てはまらないからです。第3号に入るかどうかを直接判定するのではなく、第1号に当たるか、第2号に当たるかを先に見て、どちらでもなければ第3号、という順序になります。
なお、受け取った暗号資産がどの所得に入るのかは、第119条の6が定めていることではありません。取得価額の話と所得区分の話は、別の条文が受け持っています。所得区分についてはWhich category of income do individual cryptoasset earnings fall under?をご覧ください。
「通常要する価額」はいつの時点で測るのか
第3号の金額は「その取得の時におけるその暗号資産の取得のために通常要する価額」です。一文ですが、3つの部分に分けて読めます。
| 文言 | How to read |
|---|---|
| その取得の時における | いつの価額かを限定しています。取得の時点です。 |
| その暗号資産の取得のために | 何を手に入れるための価額かを限定しています。現に取得したその暗号資産です。 |
| 通常要する価額 | その時点でその暗号資産を取得しようとすれば通常いくら必要か、という金額です。実際にいくら払ったか、ではありません。 |
重要なのは最初の「その取得の時における」です。条文は価額を測る時点を、取得の時に固定しています。取得した後に価額が上がっても下がっても、いったん決まった取得価額が書き換わるとは、この号には書かれていません。受け取った時点で取得価額が決まり、その後の値動きは取得価額に影響しないというのが、条文の作りです。第1号の「その購入の代価」も、第2号の「その発行のために要した費用の額」も後から動く金額ではありませんので、この点は3つの号で揃っています。
もう1つ、条文が「時価」という語を使っていないことにも触れておきます。第3号の文言は「取得のために通常要する価額」です。実際の場面では市場価格を手がかりにすることになりますが、条文がどの取引所の、どの時刻の、どの価格を見よと書いているわけではありません。
決まった取得価額は、その後どこで効いてくるのか
第119条の6が定めているのは、第119条の2第1項による「暗号資産の評価額の計算の基礎となる」金額です。取得価額はそれ自体が税額を決めるのではなく、その先の計算の材料になります。
第119条の2第1項第1号の総平均法は、年初に持っていた分と「その年中に取得をした種類を同じくする暗号資産の取得価額の総額」との合計額を総数量で除して1単位当たりの取得価額を出す方法です。第3号によって決まった金額は、この総額に入っていきます。移動平均法を選んでいる場合も、取得のつど平均単価を改定する計算の材料になります。
その先は、所得税法第48条の2第1項です。同項は、暗号資産につき「第三十七条第一項(必要経費)の規定によりその者の事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額を算定する場合」の基礎となる年末の価額について定めています。そして所得税法第37条第1項は、必要経費に算入すべき金額を「これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額」などと定めています。
第3号で1つひとつの取得価額が決まり、第119条の2でそれを集計して1単位当たりの金額が出て、第48条の2と第37条第1項の計算に入っていく、という順序です。
法人の場合
法人には、同じ形の条文が別に置かれています。法人税法施行令第118条の5です。
「三前二号に掲げる短期売買商品等以外の短期売買商品等(適格分社型分割、適格現物出資又は適格現物分配により分割法人、現物出資法人又は現物分配法人から取得したものを除く。)その取得の時におけるその短期売買商品等の取得のために通常要する価額」
並びは所得税法施行令第119条の6第1項と同じです。第1号が購入したもの、第2号が「自己が発行することにより取得した短期売買商品等」、第3号が前2号以外のもの、という3区分で、柱書に「別段の定めがあるものを除き」と置かれている点も共通します。第3号の金額の書き方も、対象の呼び名が違うだけで、時点の取り方もものさしの取り方も個人と同じです。
違いもあります。法人の第3号には括弧書きがあり、適格分社型分割、適格現物出資、適格現物分配により移ってきたものが除かれています。個人の第119条の6第1項第3号には、この括弧書きはありません。
実務で迷いが生じるところ
- 「その取得の時」がいつなのかが、条文に書かれていません。報酬が確定した時なのか、ウォレットに着いた時なのか、引き出せるようになった時なのかで、当てはめる価額が変わります。
- 「通常要する価額」をどの価格で捉えるのかが、条文に書かれていません。どの取引所の、どの時刻の価格を見るのかは、文言からは決まりません。
- 日本円で価格が付いていない暗号資産を受け取った場合。条文は換算の方法を定めていません。
- 受け取った時点で市場がなく、その後に取引が始まった場合の扱い。条文は取得の時点だけを指しています。
- 受け取るために電気代や機材の費用がかかっている場合の扱い。第3号の文言は「通常要する価額」であって、要した費用の額ではありません。
- 他の暗号資産と交換して取得した場合に、第1号の「購入した暗号資産」として読むのか、第3号として読むのか。条文はどちらとも書き分けていません。
- 受け取ったものが資金決済に関する法律第2条第14項の暗号資産に当たるかどうか。当たらなければ、そもそも第119条の6の対象になりません。
- 令和8年度の税制改正では、個人が保有する暗号資産の課税のしかたについて見直しが示されています。取得価額の定めがどう扱われるかは、条文で確かめる必要があります。大綱の内容は令和8年度税制改正大綱のポイントにまとめています。
根拠条文
- 所得税法施行令 第119条の6第1項(暗号資産の取得価額)/引用した文言:「第百十九条の二第一項(暗号資産の評価の方法)の規定による暗号資産の評価額の計算の基礎となる暗号資産の取得価額は、別段の定めがあるものを除き、次の各号に掲げる暗号資産の区分に応じ当該各号に定める金額とする。一購入した暗号資産その購入の代価(購入手数料その他その暗号資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)二自己が発行することにより取得した暗号資産その発行のために要した費用の額三前二号に掲げる暗号資産以外の暗号資産その取得の時におけるその暗号資産の取得のために通常要する価額」
- 所得税法施行令 第119条の2第1項第1号(暗号資産の評価の方法)/引用した文言:「その年中に取得をした種類を同じくする暗号資産の取得価額の総額」
- 所得税法 第48条の2第1項(暗号資産の譲渡原価等の計算及びその評価の方法)/引用した文言:「第三十七条第一項(必要経費)の規定によりその者の事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額を算定する場合」
- 所得税法 第37条第1項(必要経費)/引用した文言:「これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額」
- 法人税法施行令 第118条の5第3号(短期売買商品等の取得価額)/引用した文言:「前二号に掲げる短期売買商品等以外の短期売買商品等(適格分社型分割、適格現物出資又は適格現物分配により分割法人、現物出資法人又は現物分配法人から取得したものを除く。)その取得の時におけるその短期売買商品等の取得のために通常要する価額」
- 法人税法施行令 第118条の5第2号(短期売買商品等の取得価額)/引用した文言:「自己が発行することにより取得した短期売買商品等」
- 資金決済に関する法律 第2条第14項(定義)/引用した文言:「不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値」
本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
While we pay close attention to the information provided, if you notice any errorsContact UsI would appreciate it if you could let me know.

