何が、いつ、誰の手で決まったのか
令和6年度税制改正の大綱は、令和5年12月22日に閣議決定された政府の大綱です。優先順位は冒頭に表れています。
賃金上昇が物価高に追いついていない国民の負担を緩和し、物価上昇を十分に超える持続的な賃上げが行われる経済の実現を目指す観点から、所得税・個人住民税の定額減税の実施や、賃上げ促進税制の強化等を行う。また、資本蓄積の推進や生産性の向上により、供給力を強化するため、戦略分野国内生産促進税制やイノベーションボックス税制を創設し、スタートアップ・エコシステムの抜本的強化のための措置を講ずる。
本体のⅠのほかに、Ⅱ「扶養控除等の見直し」とⅢ「防衛力強化に係る財源確保のための税制措置」が置かれています。大綱の読み方は令和8年度税制改正大綱のポイントをご覧ください。
大綱の柱
Ⅰは七つの章に分かれ、Ⅱ、Ⅲが続きます。
| 章 | その章で決まったこと |
|---|---|
| 個人所得課税 | 定額減税が実施され、子育て世帯の住宅ローン控除が拡充されます。 |
| 資産課税 | 固定資産税等の負担調整措置が続き、事業承継税制の計画の提出期限が2年延長されます。 |
| 法人課税 | 賃上げ促進税制が組み替えられ、二つの税制が創設されます。市場暗号資産の期末評価も変わります。 |
| consumption tax | 国外事業者の取引にプラットフォーム課税が導入され、外国人旅行者向け免税制度の見直しが示されます。 |
| 国際課税 | 国際最低課税額に対する法人税等が見直され、非居住者の暗号資産等取引情報の報告制度が整備されます。 |
| 納税環境整備 | GビズIDとの連携によるe-Taxの利便性向上と、処分通知等の電子交付の拡充が行われます。 |
| 関税 | 暫定税率411品目等の適用期限が令和7年3月31日まで延長されます。 |
| 扶養控除等の見直し | 扶養控除とひとり親控除を見直す方向が示され、結論は令和7年度税制改正に委ねられます。 |
| 防衛力強化に係る財源確保のための税制措置 | たばこ税について、3円/1本相当の財源を確保することとされます。 |
大綱に添えられた「令和6年度の税制改正(内国税関係)による増減収見込額」の合計は、平年度2兆9,010億円の減収、初年度2兆3,530億円の減収です。前後の年度は令和5年度and令和7年度をご覧ください。
一人につき所得税3万円、個人住民税1万円を差し引く
令和6年分の所得税について、定額による所得税額の特別控除が実施されます。合計所得金額1,805万円以下の居住者が対象で、控除額は本人3万円と、同一生計配偶者又は扶養親族1人につき3万円の合計額です。所得税額を超える場合は所得税額が限度です。
差し引き方は分かれます。給与所得者は、令和6年6月1日以後最初に支払を受ける給与等の源泉徴収税額から控除し、残りを以後の給与等から順次控除します。事業所得者等は第1期分予定納税額(7月)から控除し、残りを第2期分(11月)から控除します。
個人住民税も同じ年度に動きます。令和6年度分について、本人1万円と、控除対象配偶者又は扶養親族1人につき1万円が所得割の額から控除されます。給与の特別徴収では、令和6年6月は徴収を行わず、控除後の額の11分の1を令和6年7月から令和7年5月まで毎月徴収します。減収は国税で2兆3,020億円、個人住民税等と合わせて3兆2,840億円程度です。
賃上げの税額控除を、規模ごとに組み替える
法人課税の最初の柱は「構造的な賃上げの実現」です。全法人向けの措置は、適用期限が3年延長される一方で、原則の税額控除率が10%(現行:15%)に引き下げられます。上乗せは、継続雇用者給与等支給額の増加割合が4%以上で5%、5%以上で10%、7%以上で15%の加算です。教育訓練費の要件を満たせば5%、プラチナくるみん認定又はプラチナえるぼし認定でさらに5%が加わります。
常時使用する従業員が2,000人以下の法人には、新しい措置が加わります。令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度において、増加割合が3%以上であれば控除対象雇用者給与等支給増加額の10%、4%以上であればさらに15%を加算した税額控除ができます。控除税額は当期の法人税額の20%が上限です。中小企業向けの措置は3年延長され、控除限度超過額を5年間繰り越せることとされます。減収は平年度3,460億円です。
外形標準課税の対象法人を見直す
同じ章の地方税に外形標準課税の見直しがあります。現行基準(資本金1億円超)は維持されますが、当分の間、前事業年度に対象であった法人で、資本金1億円以下かつ資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超えるものは対象とされます。また、その合計額が50億円を超える法人等の100%子法人等のうち、資本金1億円以下で合計額が2億円を超えるものも加わります。施行は令和7年4月1日と令和8年4月1日です。
国内での生産と、特許からの所得に税制を差し向ける
二つ目の柱は「生産性向上・供給力強化に向けた国内投資の促進」で、二つの制度が創設されます。戦略分野国内生産促進税制は、産業競争力強化法の改正を前提に、同法の改正法の施行の日から令和9年3月31日までに事業適応計画の認定を受けた法人が、「産業競争力基盤強化商品」を生産する設備を新設又は増設し、国内の事業の用に供したときに使えます。認定の日以後10年以内の各事業年度において、販売された商品の数量等に応じた金額と、資産の取得価額を基礎とした金額とのうち少ない金額を税額控除できます。
控除には枠があり、デジタルトランスフォーメーション投資促進税制等の控除税額との合計で、当期の法人税額の40%(半導体生産用資産は20%)が上限です。減収は平年度2,190億円です。
イノベーションボックス税制は、令和7年4月1日から令和14年3月31日までの間に開始する各事業年度において、関連者以外への「特定特許権等」の譲渡又は貸付けを行った場合に、一定の計算による金額の30%を損金算入できるものです。特定特許権等とは、令和6年4月1日以後に取得又は製作をした特許権及び人工知能関連技術を活用したプログラムの著作権で、一定のものをいいます。減収は平年度230億円です。
譲渡制限が付いた市場暗号資産は、原価法と時価法から選ぶ
同じ柱に、法人が持つ暗号資産の期末評価の項目があります。対象は「市場暗号資産に該当する暗号資産で譲渡についての制限その他の条件が付されている暗号資産」です。
この暗号資産の期末の評価額は、原価法と時価法のいずれかのうち、その法人が選定した評価方法により計算した金額とされます。ただし、自己の発行する暗号資産でその発行の時から継続して保有するものは、原価法によります。市場暗号資産であっても、譲渡についての制限が付されていれば、期末に時価で評価するかどうかを法人が選べる形です。
これに当たるかは、次の二つの要件で判定されます。
- 他の者に移転できないようにする技術的措置がとられていること等、その暗号資産の譲渡についての一定の制限が付されていることが必要です。
- その制限が付されていることを認定資金決済事業者協会において公表させるため、その暗号資産を有する者等が、制限が付されている旨の暗号資産交換業者に対する通知等をしていることが必要です。
選ぶ手続も決まっています。
上記の評価方法は、譲渡についての制限その他の条件が付されている暗号資産の種類ごとに選定し、その暗号資産を取得した日の属する事業年度に係る確定申告書の提出期限までに納税地の所轄税務署長に届け出なければならないこととする。
評価方法を選定しなかった場合は、原価法により計算した金額が期末の評価額とされます。譲渡制限と期末評価の関係は譲渡制限があれば時価評価を外せるで、暗号資産の税制がどう積み上がってきたかは暗号資産税制はこうしてできたでご覧いただけます。
暗号資産は国際課税の章にも登場します。「非居住者に係る暗号資産等取引情報の自動的交換のための報告制度の整備等」がそれで、令和8年1月1日以後に暗号資産等取引を行う者は、氏名、住所、居住地国等を記載した届出書の提出を求められます。
国外事業者の消費税を、プラットフォーム事業者から取る
消費課税の章の最初は「国外事業者に係る消費税の課税の適正化」で、中心はプラットフォーム課税の導入です。
国外事業者がデジタルプラットフォームを介して行う電気通信利用役務の提供(事業者向け電気通信利用役務の提供に該当するものを除く。以下同じ。)のうち、下記の指定を受けたプラットフォーム事業者(以下「特定プラットフォーム事業者」という。)を介してその対価を収受するものについては、特定プラットフォーム事業者が行ったものとみなす。
指定の基準は金額で、国税庁長官は、対象となる役務の提供に係る対価の額の合計額がその課税期間に50億円を超えるプラットフォーム事業者を指定します。この改正は令和7年4月1日以後の提供に適用されます。
国外事業者の免税や簡易課税の入口も狭められます。特定期間の課税売上高による納税義務の免除の特例では、給与支払額による判定の対象から国外事業者が除かれます。恒久的施設を有しない国外事業者には、簡易課税制度の適用が認められません。いずれも令和6年10月1日以後に開始する課税期間からです。
ご自身に関係があるかを見分けるには
- 給与や年金を受け取る方は、個人所得課税の「所得税・個人住民税の定額減税」をご覧ください。
- 給与や教育訓練費を増やした法人は、法人課税の「構造的な賃上げの実現」をご覧ください。
- 資本金を1億円以下に減らした法人、大きな法人の100%子法人は、法人課税の外形標準課税の項目をご覧ください。
- 譲渡制限が付いた市場暗号資産を持つ法人、暗号資産を発行した法人は、法人課税の「生産性向上・供給力強化に向けた国内投資の促進」の期末評価の項目をご覧ください。
- 国外から配信サービス等を売っている方は、消費課税の「国外事業者に係る消費税の課税の適正化」をご覧ください。
- 19歳未満のお子さんがいる方などで、令和6年中に住宅を取得・改修する方は、個人所得課税の「子育て支援に関する政策税制」をご覧ください。
- 非上場株式や事業用資産の納税猶予を考えている方は、資産課税の計画の提出期限の延長をご覧ください。
出所
- 「令和6年度税制改正の大綱」(令和5年12月22日 閣議決定) 財務省(目次)
本稿は2026年9月6日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
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