「日本は生活の本拠で居住者を判定するから分かりにくい。海外なら183日という明確な線があるのではないか」。海外移住や二拠点生活を考えると、まずこの疑問に行き着きます。
日数だけで居住者・非居住者を分けない国は、日本以外にもあります。特にオランダ、ベルギー、フランスは、一般的な判定枠組みを「年間183日」の一つの数字では説明できません。しかも、日本にも「現在まで引き続いて1年以上の居所」という期間基準があります。「日本だけ日数規定がない」という問いは、何を日数規定と呼ぶかを分けないと、出発点からずれてしまいます。
本稿では、2026年9月20日に確認した法令・税務当局資料を基に、個人の所得税上の居住者判定を13か国で比較します。一般的な国内法の入口に対象を絞り、国籍・在留資格、法人の居住地、相続税・贈与税、特別な移住者向け課税制度は別の問題として扱います。法文に書かれた条件と、当局が法文の解釈や実務上の目安として示す数字も区別します。
まず、「日数基準がない」の意味を三つに分ける
第一は、一般的な居住者定義に、固定の滞在日数や月数を置いていないという意味です。オランダは事情に応じて居住地を判断し、ベルギーも住所や財産管理の中心という事実関係を使います。フランスの所得税法上の定義にも「183日」という数字はありません。ただしフランスでは主たる滞在地の認定に期間が関わるため、時間を一切見ない制度とはいえません。
第二は、日数・期間の規定はあるが、それ以外の独立した基準でも居住者になるという意味です。日本、ドイツ、米国、英国、カナダなどはこちらに入ります。「183日未満なら非居住者」と逆向きに読むことができないのは、この独立した入口があるためです。
第三は、法文が183日と書かず、「課税期間の大半」「所得年度の半分超」という期間条件を置く場合です。イタリアやオーストラリアの一部の基準が該当します。数字の文字列が見つからないことを理由に「日数規定なし」と分類してはなりません。逆に、行政の説明に183日と書かれていることだけをもって、法文にも同じ数字があると決めつけることもできません。
以下の分類は各国の公式分類ではなく、資料を比較するための本稿の整理です。「日数規定なし」は一般的な入口についての説明であり、その国の税法全体に日数を用いる条文が一つもない、と主張するものではありません。
13か国を一覧で比べる
| 国 | 代表的な日数・期間条件 | 日数以外の入口・注意点 |
|---|---|---|
| 日本 | 引き続き1年以上の国内の居所 | 国内の住所が独立の入口。183日を境に一律に切り替わらない |
| オランダ | 一般的な居住地条項に固定日数なし | 事情判断。国内との継続的な人的関係を見る |
| ベルギー | 当局が示す一般的定義に固定日数なし | 住所・財産管理の中心。住民登録には反証可能な推定がある |
| フランス | CGI4Bに183日の明記なし | 家庭の拠点、主たる滞在地、職業、経済的利益。滞在期間の解釈がある |
| ドイツ | 通常の滞在について原則連続6か月超 | 維持・使用する住居という別の入口がある |
| フィンランド | 連続6か月超 | 主たる住まい・家庭が別の入口。国民の出国には特則 |
| 米国 | 当年31日以上+3年間の加重合計183日以上 | 外国人について永住権基準もある。除外日・例外を確認 |
| 英国 | 課税年度183日以上など | 自動国外判定、自動英国判定、結び付き判定を組み合わせる |
| カナダ | 一時滞在の合計183日以上によるみなし | 住居・配偶者・扶養家族等に基づく事実上の居住が先に問題となる |
| オーストラリア | 一つの基準は所得年度の半分超 | 通常の居住、domicile等も独立した基準。期間基準にも例外 |
| イタリア | 課税期間の大半にわたり要件を満たす | 民法上のresidenza、税法上のdomicilio、実際の所在等 |
| 韓国 | 183日以上の居所 | 国内の住所という別の入口。家族・財産等を考慮 |
| シンガポール | 外国人について暦年183日以上等 | 連続する複数年の行政上の取扱い、通常居住等も確認 |
根拠は各国の節に示します。この表は滞在可能日数の一覧ではありません。「以上」と「超」、暦年と課税年度、実際の在国日と居所の継続期間を区別するための一覧です。
日本――住所と、1年以上の居所は別の入口
所得税法2条1項3号は、国内に住所を有する個人、または現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人を居住者と定めています。同項5号の非居住者は、それ以外の個人です。国税庁は住所を生活の本拠と説明し、客観的事実によって判定するとしています。つまり「日本には期間基準がない」ではなく、住所という独立した基準があるため、年間の在国日数だけでは決まらないのです。所得税法2条、国税庁「居住者と非居住者の区分」
住所が国内にあるなら、1年が経過するまで居住者にならないわけではありません。他方、「年間の日本滞在を182日以下にする」「海外に183日以上滞在する」といった日程だけで、日本の住所がなくなったことにもなりません。住まい、職業、生計を一にする家族、資産などから、生活の本拠を検討します。
所得税法施行令14条・15条には、国内または国外に住所があると推定する規定もあります。例えば通常1年以上の居住を必要とする職業という将来の事情は、単に過去の宿泊日数を足す作業と異なります。「1年」という同じ言葉でも、法律の居所の継続期間と、施行令の住所の推定に関する条件は分けて読む必要があります。国税庁の解説と根拠法令
住所の出発点は民法22条。ただし23条を所得税に機械的に持ち込まない
民法22条は、各人の「生活の本拠」をその人の住所と定めています。住民票の届出先だけでなく、生活の中心が実際にどこにあるかを考えるための出発点です。所得税基本通達2-1も、住所を生活の本拠とし、客観的事実によって判定すると説明しています。
一方、民法23条は居所を住所とみなす規定です。1項は住所が知れない場合に居所を住所とみなし、2項は日本に住所を有しない人について、国籍を問わず日本における居所を住所とみなすと定めています。2項には、準拠法を定める法律に従って住所地法によるべき場合の例外もあります。民法22条・23条
ここで、民法上の住所のみなし規定と、所得税法上の居住者の範囲を混同しないことが大切です。所得税法2条1項3号は「国内の住所」と「現在まで引き続く1年以上の国内の居所」を明確に区別しています。民法23条だけを取り出し、外国に生活の本拠がある人でも日本に短期間の居所を設ければ直ちに所得税の居住者になる、と読むことはできません。
例えば旅行者の日本のホテルが一時的な滞在先であることと、その人の生活の本拠が日本に移ったことは別の事実です。また、出張で日本を離れている間も日本の生活の本拠が維持される場合は、物理的に不在であることだけでは説明が終わりません。住所の認定、居所の継続、住所の推定という三つの検討を分けると、民法と所得税法を混同せずに考えられます。所得税基本通達2-1・2-3
オランダ――「事情に応じて判断する」と法文が定める
日本以外の反例として分かりやすいのがオランダです。一般国税法(AWR)4条1項は、どこに住んでいるかを諸事情に基づいて判断する構造を採ります。同項の一般的な居住地判定には、年間183日という固定の滞在日数はありません。法文は、オランダ財務省が2025年3月31日に公表した居住地判定の評価資料にも引用されています。AWR4条、財務省「居住地判定の評価」2~3頁
この財務省資料は、判例上、オランダとの継続的な人的関係が問題となると説明します。日常の買い物、住民登録、家族の滞在、宿泊の状況などを例示し、一つの事情だけで結論を出さず、全体を見るとしています。したがって、登録の抹消や出国航空券だけで、判断が完結する制度ではありません。
さらに見落としやすいのは、その人的関係が、他国との関係より強い必要まではないという点です。オランダとの関係が十分に残る人について「外国の方が生活の中心だから、国内法上も当然に非居住者」とは限りません。まず国内法上の居住地を判断し、二重居住になれば条約で調整するという順序が重要になります。ここは日本の「生活の本拠」と似た言葉で済ませず、オランダの基準として理解すべき部分です。同資料3頁
ベルギー――住所と財産管理の中心を見て、登録には推定を置く
ベルギー当局がOECDに提出した居住地資料は、所得税法典(CIR92)2条1項1号を根拠として、住所または財産管理の中心がベルギーにある個人を説明しています。住所は実際の居住・生活の場という事実関係であり、財産管理の中心は財産を管理する場所です。ベルギー政府の一般向け説明も同じ枠組みを示しています。ベルギー当局提出「Tax residency」、ベルギー政府「Impôts」
この一般的定義に「年間183日」という条件は示されていません。国内の不動産を持っていることと、そこが生活の場であることは別です。また、財産管理の中心という表現を、財産が物理的に所在する国や、単に預金口座がある国と同一視するのも適切ではありません。
住民登録についても日本と同じ感覚で読めません。当局資料は、国家登録簿に登録された個人は、反証がない限り居住者と扱うと説明しています。登録を重視する仕組みですが、登録の有無だけで事実関係の検討が不要になるという意味ではありません。一時的な国外不在だけでは住所は変わらないとも説明されています。
ベルギーの本節は政府・当局の説明資料による確認です。CIR92の現行統合条文そのものを全文取得して照合できていないため、特別な身分・家族関係を含めた条文上の細部まで確認済みとはしていません。
フランス――法文の「主たる滞在地」と、行政説明の183日を分ける
フランス租税一般法典(CGI)4B条は、家庭の拠点または主たる滞在地、付随的ではない職業活動、経済的利益の中心という複数の基準を定めています。この条文自体に183日という数字はありません。職業活動や経済的利益の基準もあるため、そもそも滞在日数だけを使う制度ではありません。CGI4B条(2025年2月16日施行版)
ここで、フランス政府の一般向けページを見ると、主たる滞在地を「年間少なくとも183日」と説明する箇所があります。この説明を見て「フランスには183日基準がある」と理解すること自体には背景があります。ただし、法文上の定義と行政による説明を同じものとして紹介すると、結論を誤ります。Service Public「税務上の住所の決め方」
税務当局の詳細解説BOFiPは、通常は年の6か月超の滞在を主たる滞在地とする一方、6か月超は絶対的な基準ではないと説明します。他の複数国での滞在と比べ、フランスでの滞在が明らかに長い事情を考慮した例も挙げています。また、家庭の拠点を判断する問題を飛ばして、初めから日数比較だけを行うのも適切ではありません。BOFiP、特に120~150項、税務当局「非居住者に当たるか」
したがってフランスは、「法定の一律183日ラインがない国」の例として適切ですが、「滞在期間は判断に使わない国」の例にはなりません。さらに2025年改正後の4B条は、国内の各基準を満たしても、租税条約によってフランス居住者とされない人を税務上の住所がある者としない旨を本文に定めています。国内法と条約の関係まで含めて読む必要があります。CGI4B条1末尾
ドイツとフィンランド――「6か月超」と住まいの基準を併用する
ドイツ所得税法1条1項は、国内の住居または通常の滞在を無制限納税義務の入口にします。租税通則法8条の住居は、維持・使用すると推認される事情の下で確保する住居です。単に不動産を所有するという表現より、利用できる住まいとその実態に着目しています。ドイツ所得税法1条、租税通則法8条
同9条は、通常の滞在について、原則として連続6か月を超える滞在をその開始時から捉え、短い中断は考慮しないと定めています。ただし訪問・保養・治療等の私的目的だけで、1年を超えない滞在について、この6か月の規定を適用しないという例外もあります。したがって「183泊で切り替わる」「6か月以下なら住居があっても非居住者」という説明はいずれも不正確です。租税通則法9条
フィンランドも、主たる住まい・家庭が国内にある場合と、連続6か月超滞在する場合を区別します。税務当局は所得税法9条・11条を根拠として、一時的な不在は連続性を必ずしも断たず、6か月の期間は暦年の境界と関係しないと説明しています。ちょうど6か月と6か月超も区別されます。さらにフィンランド国民の出国には原則として出国年とその後3年に関する特則があり、外国人の入国と同じ物差しだけでは処理できません。フィンランド税務当局、2.3・2.5・3.2節
米国――当年の日数と、3年間の加重日数は別
米国でここで比較するのは、主として米国市民ではない個人の連邦所得税上の区分です。IRSは永住権基準と実質滞在基準を示しています。米国市民の課税を、外国人が日数で判定される仕組みと混同してはなりません。IRS「個人の税務上の居住地」
実質滞在基準は、当年に31日以上滞在し、当年の全日数、前年の日数の3分の1、前々年の日数の6分の1を足して183日以上となることが基本です。例えば各年150日ずつなら、当年150+前年50+前々年25=225日です。当年は183日未満でも、基本計算を満たします。IRS「Substantial presence test」
この計算例は、算入除外日がなく、他の例外も考慮しない場合です。一定の学生・教員等についての除外日や、外国とのより密接な関係に関する例外、条約の適用を検討すると結論は変わり得ます。「当年183日未満」と「3年間の加重183日未満」は、同じ主張ではありません。
英国――数字の多さは、単純さを意味しない
英国の法定居住者判定は、国外の自動判定、英国の自動判定、それでも決まらない場合の十分な結び付きの判定を組み合わせます。課税年度内183日以上は明確な入口ですが、それより少ない日数でも、住居、仕事、家族等の条件によって居住者になります。過去の居住状況も結び付き判定に関係します。HMRC「Statutory Residence Test」
英国は4月6日から翌年4月5日までを課税年度としているため、日本の暦年の予定表をそのまま使えません。また「日数」は原則として一日の終わりに英国にいるかを基礎にする一方、通過や例外的事情等の取扱いがあります。日本から英国に移る人について、暦年の日数を二つに分けただけで英国の判定が完成するわけではありません。英国政府「Residence」、HMRCの判定手順
カナダ――183日のみなしと、生活上の結び付きによる居住
カナダ税務当局は、居住の判定で、住居、配偶者・パートナー、扶養家族などの重要な生活上の結び付きを重視します。国外滞在の長さだけでなく、目的、継続性、国内との関係を考慮します。この事実上の居住の問題と、183日以上の一時滞在によるみなし居住を区別する必要があります。CRA「居住者区分の判定」
CRAの詳細解説は、十分な生活上の結び付きがなくても、暦年に合計183日以上一時滞在した場合、所得税法250条1項(a)によって年全体の居住者とみなされると説明します。逆に、183日に届かなければ、すでに存在する住居・家族との関係まで無視されるわけではありません。条約上他国の居住者となる場合のみなし非居住者の規定も、別途確認します。CRAの居住地判定資料
オーストラリアとイタリア――「183日」の文字がなくても期間条件はある
オーストラリア税務当局のTR2023/1は、1936年所得税賦課法6条1項を引用し、通常の意味での居住、domicile、いわゆる183日基準、特定の公務員年金制度に関する基準という四つの入口を説明します。いずれかを満たすかを検討するので、一つの日数基準を満たさないだけでは判断は終わりません。ATO「TR2023/1」10~15項
法文の期間条件は「所得年度の半分超」という構造です。さらに、通常の住まいが国外にあり、オーストラリアに居住する意図もないと当局が認める場合の例外があります。「183日基準」という通称だけでは、年度の長さや例外を表せません。ここでのdomicileも、豪州法の概念として読む必要があり、日本の住所という訳語だけで同一視するのは危険です。
イタリアでは2024年からの改正が重要です。所得税統合法2条2項を改めた2023年立法命令209号は、課税期間の大半にわたり、民法上のresidenza、国内のdomicilio、または実際の国内所在のいずれかを満たすことを定め、日の一部も考慮します。domicilioについては、人的・家族関係が主として展開される場所という税法上の定義を設けています。立法命令209号1条
この仕組みでは、実際の在国だけが入口ではありませんが、生活関係に関する入口にも「課税期間の大半」という時間条件がかかります。したがって「住所を見る国だから期間要件なし」とまとめるのも誤りです。日数のある国・ない国という二分法で落ちる、この中間的な構造を押さえる必要があります。
韓国とシンガポール――アジアにも一つの183日ルールはない
韓国の所得税法1条の2に関する当局資料は、国内に住所がある人、または183日以上の居所を維持する人を居住者と説明しています。住所は、生計を共にする家族や国内財産など、生活関係の客観的事実によって判定します。日数という面では日本の1年以上の居所と異なりますが、住所と居所を分けるという構造には共通点があります。韓国当局提出資料、所得税法1条の2・施行令2条の説明
シンガポールのIRASは、外国人について前年の暦年に183日以上滞在・就労する場合に加え、連続する3年間や、二つの暦年にまたがる一定の連続就労について行政上の取扱いを示しています。後者は滞在が合計183日以上であることなどの条件があり、取締役・公演者・一定の専門職等について対象範囲も確認が必要です。市民・永住者で通常居住している人の説明とも分けて読む必要があります。IRAS「Working out my tax residency」
例えば年末に入国して翌年まで働く場合、各暦年を別々に見れば183日未満でも、複数年にまたがる取扱いを確認する余地があります。ただし、この例から「二年間で183日なら誰でもよい」と一般化はできません。判定対象者と就労の連続性を、当局の条件に照らすことが先です。
同じ183日でも、何のための数字かが違う
居住者を判定する国内法の日数と、租税条約の短期滞在者の給与に関する183日要件は、別の問題です。前者は誰を居住者として扱うか、後者は一定の給与について勤務が行われた国の課税を制限できるかという問題です。給与条項では滞在期間以外に雇用主や報酬負担の条件もあり、対象期間の数え方も条約ごとに確認します。
また、日本の所得税法上の「非永住者」は居住者の一類型です。入管法上の永住者・非永住者という区分をそのまま移したものではありません。居住者に当たるか、居住者のうちどの範囲の所得が課税されるか、条約でどこまで課税を制限するかは、順番の異なる論点です。所得税法2条・7条、財務省「租税条約等の一覧」
二国で居住者になったら――条約のタイブレーカーを順に使う
各国が独自の入口を持つ以上、一人が複数国の居住者要件を満たすことは起こり得ます。日仏租税条約4条の個人の振分けは、使用できる恒久的住居、人的・経済的関係のより密接な国、常用の住居、国籍、当局間の合意という順に検討する構造です。最初から「滞在が長い国」や「国籍の国」を選ぶ仕組みではありません。日仏租税条約4条
| 検討段階 | 確認する事実 | 混同しやすい点 |
|---|---|---|
| 恒久的住居 | 継続して使用できる住まいがどちらにあるか | 所有不動産の所在地だけで決めない |
| 重要な利害関係の中心 | 人的・経済的関係がより密接なのはどちらか | 預金額や家族の一事情だけで自動判定しない |
| 常用の住居 | 前段階で決まらない場合に生活・滞在の状況を検討 | 各国の国内法の183日をそのまま代入しない |
| 国籍・当局間の合意 | 前の段階で決まらない場合の条約上の条件 | 最初に国籍から判定しない |
以下は制度理解のための架空例であり、特定の移住方法を勧めるものではありません。日本とフランスの双方の居住者要件が問題になる人が、両国で継続使用できる住まいを持ち、家族との生活は日本、職業活動はフランスにあるとします。この場合、住居が両国にあることだけでは決まらず、人的・経済的関係をさらに検討します。「フランス200日・日本165日」という予定表だけで、条約上の結論まで出すことはできません。
別の架空例で、一方の住まいは第三者に長期賃貸され本人が使用できず、他方にだけ継続して使用できる住まいがあるなら、最初の恒久的住居の段階で結論を左右する事情になります。これは不動産を何件持っているかと、本人がどこを住まいとして利用できるかの違いです。実際には契約内容と利用実態を確認します。
条約の振分けの国内法への作用も国によって確認が必要です。フランスの4B条のように国内法に条約との調整を織り込む例があります。条約上の居住地が決まっても、源泉地国の課税や届出・情報申告まで一律になくなるわけではありません。関係する二国の条約を確認し、その結果を所得の種類ごとの課税と手続に落とし込みます。
実務では「日数表」と「生活の時系列」を重ねる
確認資料を作る際は、初めに各国の課税年度をそろえ、入出国日、宿泊地、就労地、一時帰国の目的を日付で並べます。その上に、住まいを使える期間、実際の入居、家族の転居、子どもの通学、職務や事業運営の変化を重ねます。予定と実績が異なった場合は、実績に合わせて判定を見直します。
証拠の役割も分けます。航空券や出入国記録は移動を示しますが、それだけで生活の本拠は確定しません。賃貸借契約は利用できる住居を示しますが、それだけで毎日の生活を示すものではありません。転出届は行政上の届出であり、各国の所得税法上の結論を一斉に切り替える書類ではありません。
「何日まで滞在できるか」を考える前に、①どの国のどの居住者要件を問題にしているか、②その要件は滞在日数・居所の継続・生活関係のどれか、③もう一方の国でも要件を満たすか、④条約でどう調整するかを確認します。この順で考えると、日数の調整だけでは解決しない論点が見えてきます。
日本だけが生活の実態を見ているわけではありません。オランダ、ベルギー、フランスは固定日数だけでは説明できず、明確な数字を置く米国・英国などにも別の入口や例外があります。国際比較で大切なのは183日の有無を数えることより、各国が「人と国の結び付き」を、どの事実とどの期間で捉えているかを読むことです。
資料確認日:2026年9月20日。一般的な個人所得税の判定枠組みを比較した解説であり、各国のすべての例外、将来施行の改正、個別の条約、申告手続を網羅するものではありません。当局解説と法令は区別して表示し、ベルギーの法文照合の限界は該当節に記載しました。
本稿は2026年9月24日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

