スタートアップの税務

外形標準課税の歴史と減資規制――増資後に資本金を1億円へ減らすとどうなる?

第三者割当増資で資金を調達した結果、資本金が1,000万円から2億円、3億円へ増えた。そこで資本金を1億円に減らせば、外形標準課税の対象から外れるのでしょうか。

2024年度税制改正後も、対象外になり得るケースはあります。ただし「資本金が1億円以下なら大丈夫」とは、もう言い切れません。資本剰余金まで含めた金額、前事業年度の課税区分、株主との完全支配関係、そして増資・減資がどの事業年度に行われたかで結論が変わります。

先に結論

通常の株式会社が、資本金3億円のうち2億円をその他資本剰余金へ振り替え、資本金1億円・資本剰余金2億円となった場合、合計は3億円です。一定の大法人の100%子法人等にも当たらず、他の資本剰余金もなければ、改正後の追加基準には該当せず、期末までに減資が有効に成立した事業年度は外形標準課税の対象外となり得ます。

一方、合計が10億円を超え、前期に外形標準課税の対象だった場合などは、資本金だけ1億円にしても対象に残ります。

本記事は、一般的な所得課税事業を営む普通法人である株式会社を想定します。電気・ガス等の収入金額課税事業や特殊な法人区分、組織再編には別の検討が必要です。

1.外形標準課税とは――利益だけでは測らない法人事業税

外形標準課税は、都道府県が課す法人事業税の仕組みです。一般的な対象法人では、所得に対する「所得割」に加えて、事業活動の規模を表す付加価値と資本に対して課税します。

区分 何に課税するか 理解のポイント
所得割 各事業年度の所得 税務上の所得に応じた負担。
付加価値割 報酬給与額+純支払利子+純支払賃借料±単年度損益を基礎とする付加価値額 雇用安定控除等の調整がある。会計上赤字でも、課税標準が生じることがある。
資本割 税法上の調整をした「資本金等の額」等 登記上の資本金だけに税率を掛ける仕組みではない。

背景にあるのは、利益が出ていない企業も道路や行政サービスなどの便益を受けている、という応益課税の考え方です。所得への依存を減らし、地方の税収を安定させる狙いもありました。赤字のスタートアップにとっては、利益が出る前から税負担が生じ得る点が資金繰りに関わります。愛知県の制度概要、政府税制調査会の答申に、仕組みと導入の考え方が示されています。

2.外形標準課税の歴史――税率の拡大から、対象法人の見直しへ

2000〜2001年旧自治省・総務省が具体案を提示。所得と外形的な基準を併用する議論が進む。
2003〜2004年2003年度改正で創設。2004年4月1日以後開始事業年度から、資本金1億円超の法人を中心に導入。
2015〜2016年法人税改革に合わせて付加価値割・資本割の割合を拡大。所得から外形へ課税の比重を移す。
2024年資本金1億円超の基準を維持しつつ、減資と大法人の100%子法人等に対応する追加基準を法制化。
2025年4月〜同日以後開始事業年度から、前期対象法人で払込資本10億円超などの要件を満たす会社を対象に追加。
2026年4月〜同日以後開始事業年度から、一定の大法人の100%子法人等で払込資本2億円超の会社を対象に追加。

2004年:まず大法人に、外形部分を4分の1導入

2003年の国会審議では、資本金1億円超の法人について、法人事業税のうち4分の1を外形基準とする設計が説明されています。実際の適用は2004年4月1日以後に開始する事業年度からです。これは「すべての会社の利益の25%に課税する」という意味ではなく、制度設計上、所得課税と外形課税をどう組み合わせるかという割合でした。2003年2月18日の衆議院本会議録、茨城県の解説参照。

2015・2016年:利益にかかる税率を下げ、外形部分を拡大

法人実効税率を引き下げる改革の一方で、課税ベースを広げる取り組みが進みました。外形部分の割合は、導入時の8分の2から2015年度に8分の3、2016年度には8分の5へ拡大しました。

適用開始の時期 付加価値割の標準税率 資本割の標準税率
2004年度から 0.48% 0.2%
2015年度から 0.72% 0.3%
2016年度から 1.2% 0.5%

各年度4月1日以後開始事業年度の標準税率。都道府県の超過税率等は別途確認が必要です。出典:総務省「平成28年度税制改正等について(地方税)」、奈良県の税率表。

この局面では「誰を対象にするか」という資本金基準は基本的に維持されました。2024年度改正は、そこからさらに踏み込み、資本金を小さくしても実質的な資本規模が大きい法人をどう扱うかという、対象範囲の見直しです。

3.なぜ「資本金1億円への減資」が問題になったのか

従来の入口は、原則として事業年度末の「資本金が1億円を超えるか」でした。1億円ちょうどは「超える」に含まれません。そのため、資本金を1億円以下に減らすことで、翌期だけでなく、減資が有効に成立した期の期末判定から対象外になる場合がありました。

ここで重要なのが、株主へお金を払い戻さず、資本金をその他資本剰余金へ振り替える減資です。会社の預金や純資産が減らないのに、外形標準課税の入口となる資本金だけが下がることがあります。

2024年度改正の政府資料では、資本金1億円以下への減資などによって対象法人数が導入時に比べ約3分の2まで減ったことや、単なる項目間の振替で対象から外れる事例が問題として挙げられています。財務省掲載の2024年度税制改正解説(874〜875頁)参照。

もっとも、減資そのものが違法になったわけではありません。損失の処理、資本構成の整理など、減資にはさまざまな目的があります。今回の改正は、すべての減資を禁止する制度ではなく、減資後も外形標準課税の対象に含める法人の範囲を追加するものです。2024年度税制改正の解説「地方税法等の改正」で、その背景が説明されています。

混同しやすい3つの「資本」

用語 主な意味 どこで使うか
資本金 会社の登記・貸借対照表にある資本金。 従来からの「1億円超」の対象判定。
払込資本の額 この追加基準では、会計上の資本金+資本剰余金。資本準備金だけでなくその他資本剰余金も含む。 10億円・50億円・2億円の追加基準。利益剰余金を含めた純資産総額とは異なる。
資本金等の額 法人税法上の金額を基礎に、地方税法上の調整等をした金額。 資本割の税額計算。資本金+資本準備金との比較などがあり、対象判定の払込資本とは別。

対象かどうかの判定と、対象になった後の税額計算は分けて考えます。資本割については2015年度から、調整後の資本金等の額が資本金と資本準備金の合計額を下回るときの下限も設けられています。滋賀県の解説参照。

4.2025・2026年からは、3つの入口で判定する

① 従来の基準

期末の資本金が
1億円超

② 減資への対応

前期が外形標準課税の対象
+期末資本金1億円以下
+期末払込資本10億円超
2025年4月以後開始事業年度〜

③ 100%子法人等

一定の大法人との完全支配関係等
+期末資本金1億円以下
+期末払込資本2億円超
2026年4月以後開始事業年度〜

普通の株式会社では、このいずれかに該当するかを確認します。②と③には経過措置・特例があります。法律上の根拠は地方税法第72条の2・附則第8条の3の3等、実務上の確認には東京都主税局の改正解説が参考になります。

2025年開始の追加基準:10億円を「超える」ことが必要

減資対応では、前事業年度が外形標準課税の対象だったことに加えて、当期末の資本金が1億円以下、払込資本が10億円超であることが要件です。前期に対象だったというだけで、以後ずっと課税されるわけではありません。また、払込資本10億円ちょうどと10億円超では結論が異なります。

最初の適用事業年度には、2024年3月30日の公布日を含む事業年度の前事業年度からの課税履歴を見る経過措置があります。一方、公布日前日の2024年3月29日までに資本金1億円以下となっていた場合には、一定の要件の下で対象から除かれます。「2025年の施行前に減資すればよかった」と一括りにはできません。大阪府の経過措置の説明参照。

2026年開始の追加基準:大法人の100%子法人等は2億円の線も見る

こちらは減資の履歴がなくても対象になり得ます。払込資本50億円超の法人等との完全支配関係がある会社などで、期末資本金が1億円以下でも、払込資本が2億円を超える場合に適用されます。

親側の「特定法人」には、払込資本50億円超の一定の法人のほか、相互会社・外国相互会社も含まれます。非課税法人等の除外があり、直接保有だけでなく間接保有や同じ100%グループ内の保有も確認します。親側の判定には、原則として子法人の期末以前に最後に終了した親法人の事業年度末の状況を用います。「大企業やVCが少数株主になった」というだけで、直ちにこの基準に該当するわけではありません。

2024年3月30日以後の一定の資本剰余金配当・出資払戻しを払込資本に加算する取扱いや、認定された一定のM&Aに関する特例もあります。新たにこの基準で対象となる法人には、従来方式に比べた負担増の一部を軽減する2年間の措置があります。単に「50億円の親会社があるか」だけで結論を出さず、所有関係と特例を一緒に調べる必要があります。東京都主税局「100%子法人等への対応」参照。

5.資本金1,000万円→第三者割当増資→1億円へ減資したら?

例1:増資で資本金3億円、減資後は資本金1億円・資本剰余金2億円

創業時の資本金1,000万円、資本剰余金ゼロの会社が、第三者割当で2億9,000万円の払込みを受け、すべて資本金に計上したとします。その後、2億円をその他資本剰余金へ振り替える無償減資を行います。

増資後:1,000万円+2億9,000万円=資本金3億円
減資後:資本金1億円+資本剰余金2億円=払込資本3億円

減資後の払込資本は10億円を超えません。したがって、一定の大法人の100%子法人等に当たらない前提なら、減資が期末までに有効となった年度について、①資本金1億円超、②前期対象・払込資本10億円超、③100%子法人等、のいずれにも該当しません。この条件では、対象外になり得るというのが結論です。

資本金2億円から1億円へ減資し、他の資本剰余金がなく、払込資本が合計2億円となる場合も、②の10億円超には該当しません。③についても金額要件は2億円「超」であり、2億円ちょうどを含みません。ただし配当加算等がある場合は別途計算が必要です。

例2:資本金は3億円でも、資本剰余金が12億円あったら

過去の資金調達で資本剰余金が積み上がっている会社では、話が変わります。資本金3億円・資本剰余金12億円の会社が資本金を1億円に減らしても、単なる振替なら減資後の資本剰余金は14億円で、払込資本は合計15億円です。

前事業年度に外形標準課税の対象であれば、②の追加基準に該当します。「今回の増資で資本金が3億円になった」という情報だけでは不十分で、増資前から存在する資本剰余金も含めて見る必要があるのです。

例3:同じ合計3億円でも、大法人の100%子法人等なら

例1と同じ資本金1億円・資本剰余金2億円であっても、払込資本50億円超の特定法人が直接・間接に100%保有しているなどの要件を満たすと、2026年4月1日以後開始事業年度では③により対象になり得ます。10億円以下であることだけでは判定を終えられません。

「いつ減資したか」で、課税される事業年度が変わる

次は3月決算、前期まで対象外、他の資本剰余金ゼロ、一定の大法人との100%関係なしという同じ会社の比較です。増資後の資本金を3億円、減資後を資本金1億円・資本剰余金2億円とします。

増資・減資の時期 2027年3月期 2028年3月期
2026年9月に増資、2027年2月に減資が効力発生 期末資本金1億円。前期対象外で、100%子法人等にも当たらないため対象外。 条件が変わらなければ対象外。
2026年9月に増資、2027年4月に減資が効力発生 期末資本金3億円なので対象。翌月の減資でこの期の判定は変わらない。 期末資本金1億円、払込資本3億円。前期対象でも10億円超ではなく、他の追加基準にも該当しないため対象外。

「一瞬でも資本金1億円を超えたら必ずその期は対象」という制度ではありません。東京都主税局のQ&Aも、前期対象外の会社が期中に増資し、同じ期中に減資した例を扱っています。判定は原則として期末の現況で行いますが、前期の課税履歴や新しい子法人基準の確認を省いてよいという意味ではありません。東京都主税局Q&A「15 外形標準課税の対象法人の見直し」参照。

6.増資額と資本金は別――資金調達の設計段階で考える

第三者割当による払込額が、そのまま全額資本金になるとは限りません。会社法第445条では、払込額の2分の1を超えない額を資本金に計上せず、資本準備金とすることができます。

たとえば資本金1,000万円の会社が2億円の払込みを受け、その半分ずつを資本金・資本準備金に計上すると、資本金は1億1,000万円、資本準備金は1億円です。「半分を資本準備金にすれば、資本金は1億円以内」とは限らず、既存の1,000万円を足す必要があります。さらに、新しい対象判定では資本準備金も払込資本に含まれます。

赤字でも負担が生じるイメージ

仮に、雇用安定控除等を反映した後の付加価値割の課税標準が1億円、資本割の課税標準が3億円である12か月の事業年度を考えます。標準税率を使った外形部分の単純計算は次のとおりです。

付加価値割:1億円 × 1.2% = 120万円
資本割:3億円 × 0.5% = 150万円
外形部分の合計:270万円

課税標準を所与とした説明用の仮定計算です。所得割・特別法人事業税・法人住民税等は含まず、超過税率、分割基準、特例・税額控除等も反映していません。この270万円が、そのまま減資による節税額になるわけではありません。

対象外になれば所得割の税率区分等も変わります。黒字会社と赤字会社では効果が異なるため、減資のメリットは税負担全体で比較すべきです。また、欠損填補を伴う場合は払込資本そのものが変わることがあり、単なる資本金から資本剰余金への振替とは分けて計算します。

減資には会社法上の決議、原則として1か月以上の異議申述期間を設ける債権者保護手続などが関係します。決議をしただけでは足りず、効力発生日と手続完了が決算日に間に合うかを確認します。投資契約上の同意、金融機関との約定、将来の増資や上場準備への影響も含め、税務と資本政策を一緒に設計することが大切です。会社法第447条・第449条参照。

7.よくある質問

資本金を1億円ぴったりにすれば対象外ですか?

従来の「1億円超」には該当しません。ただし2025年以後の減資対応、2026年以後の100%子法人等の追加基準を確認する必要があります。

一度対象になった会社は、ずっと対象のままですか?

いいえ。前期対象という履歴だけでは決まりません。減資対応には当期末の払込資本10億円超などの要件があり、当期の金額や株主関係によって結論は変わります。

資本剰余金が10億円以下なら安心ですか?

10億円の判定は資本剰余金単独ではなく、資本金との合計です。さらに、一定の100%子法人等では2億円超の基準があるため、合計10億円以下という理由だけでは対象外と判断できません。

VCや事業会社から第三者割当を受けると、新しい子法人基準に該当しますか?

出資を受けたというだけでは該当しません。完全支配関係等の要件を確認します。独立した複数の投資家から少数持分で出資を受けるケースと、特定の100%グループ傘下に入るケースは区別します。

外形標準課税の対象外なら、すべての中小企業向け税制が使えますか?

いいえ。法人税の軽減税率、交際費、設備投資税制などは、それぞれ対象法人の定義や大法人支配等の除外条件を持っています。外形標準課税の対象外という結論を、他の税制へそのまま当てはめることはできません。

2026年4月から、すべての会社に新基準が適用されますか?

100%子法人等への追加基準は、2026年4月1日以後に「開始する」事業年度からです。例えば通常の3月決算法人では2027年3月期が最初になります。日付だけでなく事業年度の開始日を確認します。

8.「資本金をいくらにするか」の前に、会社全体を見る

外形標準課税の歴史は、利益だけに依存しない課税を導入し、その比重を増やし、さらに資本金だけでは捉えきれない大法人へ対象を広げてきた歴史です。

第三者割当増資の際には、調達額、資本金と資本準備金への配分、決算日、減資の効力発生日、資本剰余金の累積額、株主構成を並べて検討する必要があります。「1億円にすれば外れる」とも「規制されたのでもう外れない」とも、一律にはいえません。

資金調達の考え方については「エクイティストーリーとは何か」もご覧ください。増資・減資に伴う税務の検討は、国内税務相談で承っています。

記事日付:2026年10月22日。制度・公開資料の確認日:2026年10月31日。2024年度税制改正による対象拡大と、2026年10月22日時点で適用される制度を中心に解説しています。具体例は実在企業の事例ではなく、記載した条件による仮定計算です。

本稿は2026年10月22日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

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