M&Aの基礎知識

PEファンドは、会社を買ってどう利益を出すのか

PEファンドから買収の提案を受けたら、価格と一緒に「この買い手は、どこで利益を出そうとしているのか」を考えたいところです。経営を改善するのか、借入金を返して株式の価値を高めるのか、次の買い手に高い評価で売るのか。その計画は、売却後の経営者の仕事にもつながります。

PEはPrivate Equityの略です。ここでは、主に未上場企業を買い、経営に関与しながら投資を回収するファンドを扱います。PE投資には少数持分への投資などもあり、すべてが会社を丸ごと買う方式ではありません。

ファンド、運用会社、買収会社は同じものではない

ファンドは投資家の資金を集める器、運用会社は投資判断や運用を担う組織です。実際の買収では、株式を保有するための会社が設けられることもあります。交渉担当者の名刺にある会社と、売買契約や再出資契約の相手が同じとは限りません。

米国SECのPEファンドの説明も、資金を集める仕組み、投資先への関与、長期性や換金の難しさを整理しています。ただし、ファンドの出資者になることと、売却後の会社や買収用の持株会社へ再出資することは別の投資です。

ファンドの投資損益は、投資先から受け取る配当や売却代金と、投じた資金などによって決まります。一方、運用会社には契約に基づく管理報酬や成功報酬があります。投資先、ファンド、運用会社の利益を一つにまとめると、誰がどの費用を負担するのかが見えなくなります。

投資から回収まで

投資家の出資 → ファンド → 買収・経営への関与

事業の改善 → 配当や次の買い手への売却 → 投資の回収

借入と運用報酬は別に確認

買収等に借入を使う場合:金融機関等への返済・利息

運用会社:契約で定める管理報酬・成功報酬

回収した総額と投資家の手取りは同じとは限らない

株式の価値を動かす3つの要因

企業価値の詳しい計算は第4回で扱いますが、ここでは「事業価値から純有利子負債を引くと株式価値になる」という簡略化した関係を使います。純有利子負債は、ここでは有利子負債から現預金を引いた金額です。実際の取引では、何を借金・現金として調整するかを契約で定めます。

EBITDAは、利払い・税金・減価償却などを差し引く前の利益です。次の表では、この利益と評価倍率から事業価値を求めます。

次は仕組みを示す独立した仮例です。倍率は相場の提示ではありません。追加出資、途中配当、手数料、税金、優先分配はないものとします。

項目 買収時 改善した場合の売却時
EBITDA 8000万円 1億円
評価倍率 5倍 5倍
事業価値 4億円 5億円
純有利子負債 2億4000万円 1億5000万円
株式価値 1億6000万円 3億5000万円

株式価値は1億9000万円増えます。この例では、利益の拡大による事業価値の増加が1億円、純有利子負債の減少が9000万円です。倍率が上がらなくても、株式価値は高まります。

ただし、EBITDAは自由に使える現金そのものではありません。税金、利息、運転資金、設備更新などに資金が必要です。また、手元の現金を使って借金を返すだけなら、借金と現金が同額減り、純有利子負債は変わりません。事業が現金を生み、それを残すか返済に回すことと、手元資金を動かすことを区別します。

3つ目の要因は評価倍率です。同じ利益でも、成長の持続性や顧客基盤への評価、金利や買い手の資金事情などによって価格は変わります。しかし、買収時より高い倍率で売ることを前提にしすぎると、事業が計画どおりでも投資回収が崩れます。

借入は、損失も大きくする

同じ買収時点から、売却時のEBITDAが6000万円、倍率が4倍、純有利子負債が2億円になったと仮定します。

項目 買収時 悪化した場合の売却時
EBITDA 8000万円 6000万円
評価倍率 5倍 4倍
事業価値 4億円 2億4000万円
純有利子負債 2億4000万円 2億円
株式価値 1億6000万円 4000万円

買収時の株式価値1億6000万円と比べると、1億2000万円、75%の減少です。借入を使えば少ない自己資金で大きな事業を買えますが、事業価値が下がったとき、株主に残る部分は急速に小さくなります。さらに悪化すれば株式の価値が失われる可能性もあります。

返済を急いで必要な設備更新や人材投資を削れば、目先の資金収支が改善しても、次に売る事業の力が弱くなりかねません。売り手が経営に残るなら、利益計画だけでなく、投資予算と資金繰りも合わせて確認したいところです。

売却額だけでは、ファンドの利益は分からない

独立した仮例として、ファンドがある会社の株式を2億円で取得し、数年後に事業会社へ3億円で売却したとします。株式の取得・売却対価だけの差額は1億円です。

しかし、途中で5000万円を追加出資していれば、投じた資金は2億5000万円です。さらに受取配当、売買に伴う費用、投資期間なども考慮して、投資の成果を評価します。運用会社の報酬を引いた後に出資者へ残る利益も別に確認します。

事業会社への売却、別のファンドへの売却、上場など、回収方法によって必要な条件は違います。次の買い手が評価する事業を育てる計画と、その計画が実現しなかった場合の選択肢を、取得時から考えておく必要があります。

売却後の再出資は、もう一度リスクを取る判断

売却代金の一部を、売却後の会社や買収用の持株会社へ再出資し、次の売却時の値上がりを狙う提案があります。ロールオーバーなどと呼ばれますが、具体的な方法は取引ごとに異なります。

ここで考えたいのは、「売却代金が増えるおまけ」ではなく、改めて投資するかどうかです。生活や納税に必要な資金を確保したうえで、その投資を単独で勧められても買いたいかを検討します。再出資という呼び名だけで、課税が繰り延べられるとも判断できません。

経営者として働き続ける場合、報酬も、再出資した資産の価値も、同じ事業の成否に左右されます。会社を売って資産を現金化したはずなのに、再び資産と仕事が一つの会社に集中する面があります。

確認するのは、どの法人の、どの種類の株式を、いくらで持つのかです。ファンド側と同じ普通株なのか、優先分配があるのか、追加調達で持分が薄まるのか、途中で売れるのか。持分10%だから、次の売却代金の10%が無条件に入るとは限りません。

ファンドの期限は、自分の換金保証ではない

ファンドに運用期間や回収計画があっても、特定の日に、特定の価格で、自分の株式まで必ず買い取ってもらえるという意味ではありません。回収方法の変更や売却の遅れがあれば、自分の換金時期も影響を受けます。

買い取りを請求する権利が契約にあっても、行使できる条件、価格の計算、支払期限、義務を負う相手を読みます。相手が資金を持つ主体なのか、保証や担保があるのかも重要です。有名な運用会社の名前だけで、別法人の支払いまで保証されるわけではありません。

退任時の株式処理、売却への同意・参加の権利など、詳しい用語は第13回の契約用語集にまとめます。売却後の引継ぎや補償は第9回も合わせて確認してください。

再出資の判断には「計画どおり」「利益が伸びない」「売却が遅れる」の3通りを置きます。そのうえで、株式価値、実際の分配額、換金時期を別々に計算します。買い手の成功計画を理解するとともに、その計画が外れた場合の自分の負担を受け入れられるかを検討します。

本稿は2026年9月9日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

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