韓国の税務を調べると、所得税、法人税、付加価値税、居住者・非居住者といった、日本でも使う考え方が並びます。日本の税務を知る経営者にとって、理解の入口が見つけやすい国といえるでしょう。ただし、共通する用語があることと、同じ結論に至ることは別です。
似ている背景には、所得税・法人税の制度形成における日本法との歴史的なつながりがあります。そこに戦後の韓国独自の改革が重なって、現在の税制ができています。本稿では、2026年9月17日に確認した公的資料と租税法研究者の分析から、共通する骨格と現行制度の違いを整理します。
似ているのは、所得を分けて課税する枠組み
会社と個人を別の納税主体として扱い、個人では所得の性質や居住状況によって課税関係を考える。この枠組みは、日本の実務経験を韓国の制度理解に生かせる部分です。一方、所得税と法人税を持つ国は他にも多く、共通点だけでは日本特有の影響を証明できません。
| 比較する項目 | 共通する理解の入口 | 同じと考えてはいけない点 |
|---|---|---|
| 個人の所得 | 所得の種類と納税者の属性を分ける | 合算する範囲、控除、申告方法は国ごとに確認 |
| 会社とオーナー | 会社の利益と個人の受取りを区別する | 給与・配当を通じた最終負担は別途計算 |
| 居住者の判定 | 住所・居所という考え方を使う | 韓国の居所は183日以上、日本は継続1年以上 |
| 消費課税 | 付加価値に着目する広い消費課税を持つ | 導入時期、免税・控除・請求書の要件は同じではない |
| 国際取引 | 国内法だけでなく租税条約も検討する | 税目・所得区分・条約の要件を個別に照合 |
居住者判定は、似た用語の中に大きな違いがある
韓国国税庁は、国内に住所を置く人、または183日以上の居所を置く人を居住者と説明しています。住所については、生計を共にする家族や国内資産など、生活関係の客観的事実を確認します。したがって「韓国は183日だけを数えればよい」という理解も正確ではありません。韓国国税庁「非居住者の源泉徴収・居住者の区分」
日本も住所と居所を使いますが、所得税法上の居所の基準は現在まで引き続き1年以上です。住所は生活の本拠を客観的事実で判断します。似ているのは判定の組み立て方であり、期間を含む要件そのものではありません。日本で作った出入国日数表を使うことはできても、日本の判定式をそのまま韓国に移すことはできません。国税庁「居住者と非居住者の区分」
例えば、オーナーが韓国で会社を運営し、日本にも住まいを残す場合を考えてみます。両国を往復した日数だけでなく、どちらの住居が実際に使われ、家族がどこで生活し、日常の仕事をどこで行うかを整理する必要があります。二国の国内法で同時に居住者になる可能性もあるため、国内法の判定の次に条約上の扱いを調べる順番になります。
日本を経由した制度の受け入れと、戦後の再構成
韓国の租税法研究者・黄南碩(Nam-Seok Hwang)は、韓国の所得税制が日本統治期の朝鮮所得税令に根を持ち、その源流を1899年改正の日本の所得税法にたどれると説明しています。法人所得を益金から損金を引いて計算する構造も、共通する骨格の例として挙げています。黄南碩「日本の1899年所得税法改正に関する研究」(著者抄録)
同研究は、日本の所得税法自体に英国とプロイセンの双方の影響があったと指摘しています。日韓の類似の背景には、日本を経由して受け入れられた税の仕組みがある、と整理できます。これは研究者による制度形成の分析であり、現在の税率や控除まで同じ由来・内容だという意味ではありません。
韓国国家記録院の解説は、植民地期の制度を出発点の一つとしつつ、解放後の米軍政による整理、韓国政府成立後の改革、朝鮮戦争期の財源確保、戦後の復興・経済開発という複数の段階を記しています。1959年の米国租税顧問団による提言も取り上げています。現代の制度を説明するには、日本との関係に加え、これらの政策目的と外部の影響を合わせて考える必要があります。これは公的な歴史解説に基づく整理であり、個々の現行条文の直接の由来を認定するものではありません。韓国国家記録院「租税」
韓国国税庁の1970年代の沿革では、1975年の税制改革について、総合所得課税の本格導入、国税基本法の制定などが挙げられています。続いて1977年7月1日に付加価値税と特別消費税を導入したと記されています。この記録から確認できるのは、戦後の韓国が税目と徴税の仕組みを継続的に再構成してきたことです。韓国国税庁「1970年代の沿革」
日本の消費税の実施は1989年4月1日です。韓国の付加価値税導入のほうが先だったという時系列は、「現在の韓国税制は、日本の制度をそのまま後から取り入れたもの」という説明では足りないことを示します。ただし、導入時期が先というだけで、逆方向の影響があったともいえません。財務省『平成財政史』消費税関係統計
このように、所得課税の骨格には歴史的な連続性がある一方、消費課税や徴税制度は戦後の政策課題に応じて再構成されました。継承された部分と変えられた部分を合わせて見ると、「日本と似ている」という印象と、実務上の違いが同時に存在する理由を理解できます。
共通する経済課題は、制度を似せることがある
会社の利益をどう測るか、給与からどう徴収するか、国境を越える取引の二重課税をどう調整するか。こうした課題は日韓に限りません。OECDの消費課税比較でも、VATは加盟国に広く採用されていることが確認できます。広く使われる税の技術が共通することと、特定の国からの継受は分けて考える必要があります。OECD『Consumption Tax Trends 2024』
これは、歴史が重要でないという意味ではありません。歴史は、何を目的として制度が作られたかを理解する手掛かりになります。しかし、現在の取引に適用する要件は、現在の法令と解釈資料で確認します。歴史の説明と申告の判断は、必要な証拠が異なるのです。
韓国進出では、日本との「差分」を取引ごとに確かめる
実務では、まず同じ取引を一つ置くと比較が進みます。現地法人が商品を販売し、役員報酬を払い、残った利益を配当する。各段階で、誰が申告するか、何を所得とするか、支払側に源泉徴収があるか、消費課税の書類が何かを両国で確認します。
この方法なら、日本と共通する会計資料を活用しながら、韓国で追加すべき資料と判断を見つけられます。反対に、日本では費用にできる、日本では申告不要だった、という経験だけで処理すると、似た制度ほど違いを見落としやすくなります。
日韓の税制は、理解の足場を共有できる部分があります。その足場を使って早く全体像をつかみ、居住者判定や所得区分、現地の手続は一つずつ確認する。オーナー経営者にとって有用なのは、似ているかどうかを二択で決めることよりも、どこまで日本の経験を使え、どこから現地の確認が必要かを見分けることです。
本稿は比較のための一般的解説で、韓国税制の全史や個別取引の税務判断を示すものではありません。
本稿は2026年9月24日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

