スタートアップの税務

共同創業者が辞めるとき、株はどうする?――安く譲る・会社が買い戻す場合の税務

共同創業者が事業を離れるとき、「設立時に払った金額で株を返してもらう」「会社が買えば丸く収まる」と考えることがあります。しかし、退職と株式の保有は別の問題です。価格の合意ができても、税務上その価格がそのまま認められるとは限りません。まず、誰が売り、誰が買うのかを決め、その取引に合った株価と手取りを確認します。

本稿は、日本居住の個人創業者が、国内の非上場株式会社の保有株式を手放す一般的な場面を対象とします。ストックオプションの失効や海外移住時の課税とは分けて考えます。

1.「辞めた人の株」を、誰が買うのか

取締役を辞任したり雇用関係が終わったりしても、それだけで保有株式が自動的に消滅するわけではありません。創業者間契約に買戻しの約束があっても、誰が、どの条件で、どの手続を経て取得するかを確認します。譲渡制限株式の承認や会社による自己株式取得には会社法上のルールもあるため、契約の有効性・履行・紛争対応は弁護士と整理します。会社法(株式の譲渡・自己株式取得)

○ 退任する共同創業者(売主)

├─ 株式 → ○ 残る創業者:個人間の売買

├─ 株式 → □ 別の法人:個人から法人への売買

└─ 株式 → □ 株式を発行した会社:自己株式の取得

○は個人、□は法人。代金はそれぞれ買主から売主へ逆向きに流れます。

買主 売主側の主な論点 買主・会社側の主な論点
残る創業者個人 譲渡所得の計算 著しく安い取得による贈与税
発行会社以外の法人 低額譲渡で時価による課税となるか 低額取得による受贈益など
発行会社自身 みなし配当と譲渡所得の区分、低額譲渡 会社法の取得手続・財源規制、源泉徴収

「残る創業者のお金が足りないから、その人の資産管理会社で買う」という変更でも、納税する人や計算方法は変わります。代金だけ同じにして買主を入れ替える前に、三者それぞれの税負担と資金の出所を並べて検討しましょう。

2.個人から個人へ安く売ると、買主に贈与税の論点

個人が別の個人から著しく低い価額で財産を取得すると、時価と対価との差額が贈与とみなされる場合があります。共同創業者同士が親族でなくても、この論点は消えません。そして「時価の半分以上なら安全」という線引きは、個人間の贈与税にはありません。著しく低いかどうかは具体的事情に基づいて判断します。国税庁・個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき

独自例:取得原価と現在の株価を混同しない

退任者が設立時に100万円で取得した株式を、残る創業者へ100万円で売るとします。今回の贈与税の判定に用いる時価を1,000万円と仮定し、この売買が著しく低い価額に当たると判断されるなら、差額900万円が買主の贈与税の対象として問題になります。

時価1,000万円 − 支払額100万円 = 差額900万円

900万円は税額ではありません。実際の贈与税は、その年のほかの贈与や適用される課税方式等を踏まえて計算します。会社の設立価格を使うことと、税務上の時価を使うことは別です。

売主側は、通常の株式売却であれば譲渡収入から取得費や譲渡費用等を差し引いて譲渡所得等を計算します。非上場株式は一般株式等として申告分離課税の対象です。上場株式と一般株式等の損益は原則として別枠なので、上場株の含み損を売却すれば相殺できると決めつけないでください。国税庁・株式等を譲渡したときの課税

3.個人から別の法人へ売ると、売主にも時価課税

個人が法人へ譲渡所得の基因となる資産を時価の2分の1未満で譲渡すると、所得税法59条の仕組みにより、売主は時価で譲渡したものとして計算することがあります。実際の受取額を超える収入が税務上認識され得るため、手元資金とのずれが重要です。国税庁・譲渡所得の対象資産と課税方法

例えば、所得税の判定に用いる時価1,000万円、売却額400万円、取得費100万円、譲渡費用なしと仮定すると、400万円は時価の半分未満です。発行会社以外の法人への通常の売却として、売主の譲渡益は原則として1,000万円−100万円=900万円を基に考えます。受け取った現金400万円から取得費を引いた300万円だけで考えると、納税準備を誤ります。

逆に、時価の半分以上なら、あらゆる課税問題がなくなるわけでもありません。同族会社等との取引には行為計算否認の問題が残り、買主法人の低額取得による受贈益も別に検討します。契約価格をちょうど半分に設定することを、一般的な節税方法として勧めることはできません。国税庁・所得税基本通達59-3、国税不服審判所・平成14年5月21日裁決(株式の低額取得)

4.会社が自分の株を買うと、代金の一部が配当になることも

発行会社による相対での自己株式取得では、受取額のうち、その株式に対応する税務上の資本金等の額を超える部分が、原則として「みなし配当」になります。残りが株式の譲渡収入となります。登記上の資本金や退任者本人の取得費を、そのままみなし配当の計算に使うことはできません。国税庁・令和8年版源泉徴収のあらまし(配当所得)

独自例:同じ1,000万円でも、所得の内訳が違う

買戻し代金が適正時価の1,000万円、その株式に対応する税務上の資本金等の額が200万円、退任者の取得費が100万円と仮定します。特例や費用は考慮しません。

みなし配当:1,000万円 − 200万円 = 800万円
株式の譲渡収入:1,000万円 − 800万円 = 200万円
株式の譲渡益:200万円 − 100万円 = 100万円

取得費100万円は、上の譲渡益の計算で差し引きます。みなし配当800万円から同じ取得費をもう一度引くことはできません。

非上場株式の配当は、原則として総合課税です。2026年に国内で居住者へ支払う場合の源泉徴収税率は20.42%(地方税の源泉徴収なし)ですが、源泉徴収で最終税額が確定するという意味ではありません。上例では会社が800万円×20.42%=163万3,600円を源泉徴収し、売主への送金額は836万6,400円となる計算です。最終負担は他の所得や控除等で変わります。国税庁・配当所得の源泉徴収と課税方法

自己株式なら低額譲渡の問題を回避できるわけではありません。所得税法59条の判定も必要であり、該当する場合の譲渡収入は時価からみなし配当額を除いて計算する取扱いです。上の計算例は時価買戻しの例なので、そのまま低額買戻しへ流用しないでください。国税庁・措置法通達37の10・37の11共-22

5.株価と契約を、署名前に同じ資料で確認する

未上場だから株価は1円、赤字だから価値はゼロ、という判断はできません。反対に、直近のVC調達で優先株が1株10万円だったから創業者の普通株も必ず10万円、ということでもありません。配当・残余財産・転換などの権利が異なれば、その差を検討する必要があります。資金調達価格は重要な資料ですが、税務評価の結論そのものではありません。

贈与税の非上場株式評価では会社規模や株主区分等を確認し、所得税法59条の評価には別途の読替えがあります。同じ会社でも、税目・当事者・評価時点を揃えずに「税理士が出した株価」を使い回さないことが重要です。国税庁・取引相場のない株式の評価、所得税基本通達59-6

検討資料は、最新の株主名簿と議決権、定款、創業者間契約・投資契約、直近の決算書と資金調達資料、過去の株式取得費が分かる払込記録です。会社が買う案では、税務上の資本金等の額と種類別の内訳、買戻し資金、分配可能額の検討資料も必要になります。

弁護士には、退任に伴う売買義務や価格条項、譲渡承認、自己株式取得の手続を確認してもらいます。税理士はその条件を前提に、株価評価、売主・買主の税負担、源泉徴収と手取りを検討します。税務の試算を契約へ反映できるよう、合意・署名・送金の前に両者をつなぐと、後の修正を減らせます。国内税務相談では、具体的な買主と契約案を踏まえて検討します。

創業者間契約に「退職時は取得価額で売る」とあれば、それで税務も決まりますか?

契約上の義務と税務上の評価は別に確認します。価格条項があるという事実は資料の一つですが、低額譲渡や贈与税の問題が自動的になくなるわけではありません。契約の有効性や履行は弁護士に確認してください。

会社に現金があるなら、会社が買う方が簡単ですか?

資金の用意だけでは比較できません。自己株式取得の手続や財源の制約に加え、みなし配当と源泉徴収が生じ得ます。個人が買う案と、売主の税引後手取りまで比較します。

第三者の評価書があれば、税務署にも必ず通りますか?

保証にはなりません。評価目的、基準日、対象の株式の権利、用いた財務情報と手法を確認します。評価書の結論だけでなく、その前提を説明できる資料を保存することが大切です。

税理士 柳澤賢仁|資料は2026年10月31日時点で確認。数値例はすべて仮定で、具体的な株価・税額の保証ではありません。非居住者、相続株式の特例、組織再編等は個別検討が必要です。

本稿は2026年10月27日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。

記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

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