海外子会社に利益を残していても、日本で課税されることがあります。タックスヘイブン対策税制、現在一般に「外国子会社合算税制(CFC税制)」と呼ばれる制度です。1978年の導入から、その対象の捉え方は、指定された国・地域、会社ごとの税負担、そして事業や所得の実態へと変わってきました。
この歴史を知ると、「有名なタックスヘイブンに会社を作っていない」「現地の法人税率は20%以上だ」という説明だけでは、なぜ結論を出せないのかが分かります。本稿は主として日本法人が海外子会社を持つ場合を念頭に、2026年9月20日までに確認した公的資料に基づき、主要な改正を振り返ります。
制度の骨格を変えた主な改正
| 改正年度 | 変更の要点 |
|---|---|
| 1978年度(昭和53年度) | 軽課税国・地域の指定方式で制度創設。 |
| 1992年度(平成4年度) | 指定方式を廃止し、会社ごとの租税負担割合25%以下で判定。 |
| 2009年度(平成21年度) | 外国子会社配当益金不算入制度の導入に伴い、合算所得等を見直し。 |
| 2010年度(平成22年度) | 25%以下から20%以下へ。一定の統括会社の扱いを見直し、資産性所得の部分合算を導入。 |
| 2015年度(平成27年度) | 20%以下から20%未満へ変更。 |
| 2017年度(平成29年度) | 会社・所得の実態を重視する仕組みへ抜本改正。主要な新制度は外国関係会社の2018年4月1日以後開始事業年度から。 |
表の左欄は改正年度です。1978~2015年度の経緯は政府税制調査会資料(5頁)、2017年度改正と適用時期は国税庁の申告書確認表に対応しています。
1978年の導入――海外に利益を留保することへの対応
日本の制度は1978年度(昭和53年度)に創設されました。当初は、大蔵大臣が軽課税国・地域を指定する方式です。税負担の軽い外国子会社に所得を留保し、日本側での課税を繰り延べることに対応するため、一定の所得を日本の株主側に合算する仕組みが設けられました。海外子会社自身に日本の法人税を直接かける、という構造ではありません。
ここでいう「留保」は、単に海外の銀行に預金があるという意味ではありません。別法人である海外子会社に所得が帰属し、配当などで日本側に戻るまで課税が及ばない状況が制度の背景にあります。政府税制調査会の資料(5頁)は、その出発点と、その後の位置付けの変化を年表にまとめています。
1992年――国のリストから、会社ごとの税負担へ
1992年度(平成4年度)の改正では、軽課税国の指定制度を廃止し、外国子会社の租税負担割合が25%以下かどうかで対象を判定する方式に移りました。一般に「トリガー税率」と呼ばれる基準です。同じ国にある会社でも、受ける税制優遇や所得の内容によって税負担は違うため、国名だけで対象を区切る制度ではなくなったのです。
ただし、基準以下なら直ちにすべての所得が合算される、という意味ではありません。2017年度の抜本改正前の制度では、事業内容、事務所等の実体、現地での管理支配、取引先や事業の場所を確かめる「適用除外基準」が重要でした。低い税負担と、会社単位での合算課税の結論は、区別する必要があります。同資料の旧制度図(6頁)にも、この二段階の判定が示されています。
2009年と2010年――配当課税の転換と、所得の種類への着目
2009年度(平成21年度)には、一定の外国子会社から受け取る配当について、原則95%を益金不算入とする制度が導入されました。日本への配当時に課税することを前提とした仕組みが変わったため、CFC税制も、課税の先送りへの対応という説明だけでは捉えられなくなります。外国子会社で所得が発生する段階の租税回避に対応する役割が、より明確になりました。合算対象所得の計算でも、子会社が支払う配当を控除しない等の調整が行われています。国税庁70年史「国際課税」が、この改正の経緯を説明しています。
2010年度(平成22年度)は、緩和と課税の精緻化が同時に進んだ年です。トリガー税率は25%以下から20%以下に下がり、実体のある一定の事業持株会社・物流統括会社について適用除外基準を見直しました。一方、適用除外基準を満たす会社であっても、一定の配当、利子、使用料などの資産性所得を合算する仕組みが導入されました。「事業をしている会社だから、その会社の所得はすべて対象外」とは言えなくなったことが大きな転換です。
これらは、平成22年度税制改正大綱で外国子会社側の2010年4月1日以後開始事業年度からの適用として示され、国税庁の制度史でも改正内容を確認できます。現在の受動的所得合算の考え方には、この時期からの積み重ねがあります。
2015年――「20%以下」から「20%未満」へ
2015年度(平成27年度)の改正では、トリガー税率の対象が20%以下から20%未満へ変わりました。数値は同じ20でも、ちょうど20%の場合の扱いが違います。この改正を「20%に引き下げた」とだけ書くと、2010年度改正との違いを見失います。政府税制調査会の改正年表(5頁)も、二つの変更を区別しています。
なお、比較するのは現地の法定税率そのものではありません。例えば、法定税率が20%でも、税制優遇があれば、制度上の租税負担割合が20%になるとは限りません。国別税率の一覧は検討の入口になっても、CFC税制の判定資料の代わりにはなりません。
2017年度の抜本改正――2018年から事業・所得の実態を重視
2015年に公表されたOECDのBEPS行動3最終報告書は、CFCの定義、対象所得、所得計算、二重課税の排除など、制度設計のための提言を示しました。世界共通の単一のCFC税率を定めたものではなく、各国の税制に応じた設計の余地を認めています。
日本は、この国際的な議論も踏まえて2017年度(平成29年度)に抜本改正を行いました。主要な新制度の適用は、外国関係会社の2018年4月1日以後に開始する事業年度からです。改正年と、外国子会社のどの年度から使うかは一致しません。国税庁の当時の申告書確認表にも、その適用区分が明示されています。
この改正では、従来の「特定外国子会社等」を税負担で絞る入口を改め、会社の実態と所得の性質に応じた区分を設けました。制度適用を免除する租税負担割合は残されているので、「トリガー税率の廃止」は、税負担の判定そのものがなくなったという意味ではありません。国税庁の2017年度改正の説明は、対象会社と部分合算の見直しを整理しています。
- 特定外国関係会社:ペーパー・カンパニー、事実上のキャッシュ・ボックス、情報交換への協力が著しく不十分として財務大臣が指定する国・地域に所在する会社など。会社単位の合算課税を検討し、改正当初の適用免除基準は租税負担割合30%以上でした。
- 対象外国関係会社:上記以外で、経済活動基準のいずれかを満たさない会社。会社単位の合算課税を検討し、租税負担割合20%以上なら適用免除となる構造です。
- 部分対象外国関係会社:経済活動基準をすべて満たす会社。一定の受動的所得について部分合算を検討します。こちらも原則20%以上なら適用免除となる構造です。
ペーパー・カンパニーの判定は、単に従業員が少ないという印象では決まりません。主たる事業に必要な固定施設を有するか、所在地国で事業を自ら管理・支配・運営しているかなどを、法定の要件に沿って確認します。キャッシュ・ボックスも、預金残高が大きいというだけの呼称ではなく、一定の所得と資産の割合に基づく区分です。また、この時期の情報交換に関する指定と、1992年に廃止された軽課税国の指定制度は別のものです。当時の国税庁資料で、三つの区分と判定要素を確認できます。
経済活動基準は、事業基準、実体基準、管理支配基準と、業種に応じた所在地国基準または非関連者基準からなります。従来の適用除外基準を引き継いだ面がありますが、部分合算の対象所得も見直されました。実体ある事業に由来する所得をどう除外するかという調整を伴っており、利子や配当なら例外なく合算する制度ではありません。
2018年以降――実務上の調整と、最近の改正
抜本改正後も調整は続きます。2018年度には、一定の要件の下で買収後に行う特定外国関係会社等の整理に伴う株式譲渡益の免除特例が設けられ、2019年度には、一定の持株会社等をペーパー・カンパニーから除く見直しが行われました。国税庁のQ&A(2019年6月20日現在)はこれらを扱っていますが、その説明を1978年の制度にさかのぼって当てはめることはできません。
| 改正年度 | 主要な変更 | 適用時期・確認資料 |
|---|---|---|
| 2023年度 | 特定外国関係会社の適用免除基準を30%以上から27%以上へ。書類添付の負担も軽減。 | 内国法人の2024年4月1日以後開始事業年度に係る課税対象金額等の計算に適用。国税庁・改正のあらまし |
| 2024年度 | ペーパー・カンパニー特例の収入割合要件について、収入等がない年度の判定を不要に。 | 内国法人の2024年4月1日以後開始事業年度に係る課税対象金額等の計算に適用。財務省・改正解説(689~695頁) |
| 2025年度 | 合算する年度を決める基準を、外国関係会社の年度終了日の翌日から「2月経過」から「4月経過」へ変更。添付・保存書類の範囲も縮小。 | 原則、内国法人の2025年4月1日以後開始事業年度に係るもののうち、外国関係会社の同年2月1日以後終了事業年度分。経過措置あり。国税庁・改正概要(25~26頁) |
| 2026年度 | 解散した一定の会社に係る清算特例、総資産ゼロの場合の資産割合判定の見直し、累進税率の最高税率を用いる特例の適用制限。 | 外国関係会社の2026年4月1日以後開始事業年度分。国税庁・改正概要(25頁) |
2025年度改正は、どの日本側事業年度に合算するかを変えるもので、外国子会社のすべての決算について一律に申告期限を2か月延ばす改正ではありません。外国関係会社の2024年12月1日から2025年1月31日までの間に終了する事業年度分には、一定の場合に新しい合算時期を選べる経過措置があります。日本側と外国側の決算期を並べて確認する必要があります。
27%・20%と、グローバル・ミニマム課税の15%を混同しない
現在のCFC税制で使う27%・20%は、財務省の制度概要にあるとおり、合算課税の適用を免除するための租税負担割合の基準です。日本が追加で27%や20%の税金をかける、という意味ではありません。
租税負担割合は、CFC税制の定めに従って所得と外国法人税を調整して求めます。現地の表面税率とも、会計上の税金費用を税引前利益で割った実効税率とも、常に一致するものではありません。財務省の改正解説(694~695頁)では、グローバル・ミニマム課税に係る税の取扱いも整理され、外国の国内ミニマム課税(QDMTT)を租税負担割合の計算から除くことが示されています。
一方、グローバル・ミニマム課税は、原則として年間総収入金額7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループを対象に、国ごとに一定の所得への最低15%の課税を確保する別制度です。CFC税制には、これと同じ売上規模による一律の対象外枠はありません。日本で所得合算ルール(IIR)が2024年4月1日以後開始の対象会計年度から、軽課税所得ルール(UTPR)と国内ミニマム課税(QDMTT)が2026年4月1日以後開始の対象会計年度から適用されても、CFC税制が置き換えられるわけではありません。財務省「グローバル・ミニマム課税の法制化について」は、両制度を区別して解説しています。
歴史を通じて変わらないのは、海外に別法人を設けるという形式だけで日本課税の扱いは決まらない、という点です。海外進出や再編を検討するときは、持株関係、現地で誰が何を決めるか、会社がどのような所得を得るかを整理し、その年度に適用される制度と照合することが必要です。
本稿は2026年9月24日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

