2024年1月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した一定の分譲マンションには、新しい評価の取扱いが適用されています。いわゆる「タワーマンション節税」の見直しとして知られていますが、対象は高層マンションに限られません。また、改正後の評価額が実際の売買価格の60%に必ずなるわけでもありません。
この見直しは、相続税法の税率や基礎控除を改めたものではなく、国税庁が2023年9月28日付で発遣した「居住用の区分所有財産の評価について」という法令解釈通達によるものです。相続税法上の時価という原則と、その具体的な評価方法を定める通達を分けて理解すると、変更の範囲が分かりやすくなります。
最高裁判決は、単に「時価と乖離したら否認」としたのではありません
2022年4月19日の最高裁第三小法廷判決〔令和2年(行ヒ)第283号〕では、不動産を通達評価額より高い鑑定評価額で評価した課税処分が適法とされ、上告が棄却されました。最高裁は、相続税法22条の時価を客観的な交換価値と理解した上で、通達評価額を上回るだけで直ちに同条違反になるわけではないとしました。
同時に、特定の納税者だけ通達より高く評価することには、平等原則の問題があるとも述べています。同判決は大きな価格乖離だけで例外的評価を認めたものではありません。借入れによる不動産購入で相続税負担が著しく軽減され、それを期待して企画・実行したという事情等を踏まえ、他の納税者との看過し難い不均衡を判断しています。判決の詳しい検討は、「相続財産を通達より高く評価することは平等原則に違反するか」をご覧ください。
この判決が分譲マンション一室の新しい算式を定めたわけではありません。個別事件で通達による画一的な評価から離れることが認められるかという問題と、多数のマンションに共通する評価方法を見直す問題は、関連はあっても区別が必要です。最高裁判決全文
新通達は、市場価格との乖離を統計的に補正するものです
国税庁は、市場売買価格と相続税評価額の大きな乖離が生じる事例を踏まえ、2023年に有識者会議を開催しました。そこでの検討などを経て、築年数、総階数、所在階、敷地持分の大きさといった価格形成要因を使う補正方法が設けられました。従来の土地・建物の評価を全面的に捨てるのではなく、まず従来の方法で求めた価額へ区分所有補正率を掛ける仕組みです。国税庁・有識者会議に関する公表資料
自用のマンションでは、建物部分について固定資産税評価額等に基づく価額を、土地部分について路線価方式等による敷地全体の価額に持分割合を掛けた価額を出し、それぞれを補正します。賃貸している場合の貸家・貸家建付地の評価や、小規模宅地等の特例の適用は、補正後の価額を基礎として別途検討します。
高層階だけが対象ではありません
対象の中心は、居住用の専有部分一室に係る区分所有権と敷地利用権です。地階を除く総階数が2以下の建物や、居住用の専有部分が3室以下で、そのすべてを区分所有者又は親族の居住用とするものなどは対象外です。事業用のテナント物件や、区分所有に該当しない一棟所有の賃貸マンションも同じようには扱いません。
ここでいう「3室」は、住戸の中の部屋数ではありません。また、登記の状態や構造・用途に応じた判断が必要です。「小規模だから対象外」「低い階だから対象外」といった印象だけで決めず、登記事項証明書などで建物全体と各専有部分の状況を確認します。国税庁・新通達の趣旨説明
区分所有補正率の仕組み
評価乖離率は、築年数等から求める四つの値に3.220を加えて算定します。築年数にマイナス0.033、総階数指数に0.239、所在階に0.018、敷地持分狭小度にマイナス1.195をそれぞれ掛けます。総階数指数は地階を除く総階数を33で割った値を基にし、上限は1です。敷地持分狭小度は、その住戸の敷地利用権の面積を専有部分の面積で割った値です。
次に、1を評価乖離率で割って評価水準を求めます。評価乖離率が正である通常の場合の補正は、次のようになります。端数処理、敷地を含む一棟全体を単独所有する場合の土地部分の補正率の下限等には、別途の定めがあります。
| 評価水準 | 区分所有補正率 | 一般的な結果 |
|---|---|---|
| 0.6未満 | 評価乖離率×0.6 | 従来評価額を引き上げる |
| 0.6以上1以下 | 1 | この補正による増減なし |
| 1超 | 評価乖離率 | 従来評価額を引き下げる |
60%という水準は、算式から推計した市場価格との関係で用いるものです。売買契約書の購入価格や、不動産会社の査定価格へ単純に60%を掛ける制度ではありません。「居住用の区分所有財産の評価について」
補正の計算例
説明用に、築10年、地上33階建ての20階、専有面積60平方メートル、敷地利用権の面積12平方メートルの自用住戸を仮定します。従来の土地部分の評価額を2,000万円、建物部分を1,000万円とし、貸付けによる減額や特例は考慮しません。端数が複雑にならない条件を置いた例です。
総階数指数は33÷33=1、敷地持分狭小度は12÷60=0.2です。評価乖離率は、10×(-0.033)+1×0.239+20×0.018+0.2×(-1.195)+3.220=3.250となります。評価水準は1÷3.250≒0.308で0.6未満ですから、区分所有補正率は3.250×0.6=1.950です。
土地部分は2,000万円×1.950=3,900万円、建物部分は1,000万円×1.950=1,950万円です。合計評価額は従来の3,000万円から5,850万円になります。この例でも、マンションの実際の売値を5,850万円と判断したわけではありません。また、評価額が1.95倍になったから相続税額も1.95倍になるとは限りません。税額には他の財産、債務、基礎控除、取得者、特例等が影響します。
新通達を使えば総則6項の問題はなくなるのでしょうか
新通達による補正は、総則6項の取扱いを廃止するものではありません。国税庁のQ&Aも、新たな方法による評価が著しく不適当な場合等の取扱いを説明しています。購入と借入れの経緯、相続までの期間、税負担の変化などに特異な事情がある場合には、新しい算式の計算が正しいかという確認だけでは足りません。国税庁・居住用の区分所有財産の評価に関するQ&A
相続税の試算では、固定資産税の課税明細書、登記事項証明書、敷地権割合、建築年月、利用状況をそろえます。配偶者が取得する場合は、その後の二次相続の負担も含めて比較すると、一度目の相続税だけに偏らない判断につながります。購入による節税額を先に決めるのではなく、現在の評価方法と実際の保有目的を踏まえた試算が必要です。
主な参考資料
法令・制度の基準日:2026年09月28日。個別の事実関係によって結論が変わるため、具体的な取扱いは資料を確認してご検討ください。
ご家族と財産の状況に応じた検討を
制度の一般論から、ご自身のケースの確認へ。相談内容とお申し込み方法をご案内します。
相続・贈与・事業承継のご相談はこちら →本稿は2026年10月10日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

