法人が関係会社の株式を売却したり、オーナー個人から自社グループの株式を買い取ったりする場面では、契約書の価格を会計処理するだけでは税務の検討が完了しません。価格が時価から離れていると、売主側に寄附金、買主側に受贈益などの問題が生じます。同じ取引を、支払う側と受け取る側の双方から確認する必要があります。
未上場株式の評価では、法人税基本通達9-1-13、9-1-14がよく参照されます。ただし、これらは本来、有価証券の評価損についての通達です。実際の売買に適用する際は、課税の根拠と評価通達の接続を確認しなければなりません。本稿では通常の株式売買を中心に整理し、組織再編や自己株式取得の固有の取扱いは対象外とします。
安く売った法人と、安く買った法人の問題を分けます
法人税では、無償の資産譲渡や無償による資産の取得も、原則として収益の計算に関係します。株式を低い価格で売る場合には、通常得べき対価と実際の対価の差額について、実質的な贈与に当たる部分を寄附金として検討します。寄附金には損金算入の限度があるため、売却損を計上したつもりでも、税務ではその全額が損金になるとは限りません。国税庁「寄附金の範囲と損金不算入額の計算」
買主法人側では、低い対価で取得した経済的利益について、受贈益の検討が必要です。したがって、売主の税負担だけを抑えようとして価格を下げても、買主で別の課税問題が起こり得ます。また、相手が役員である場合には役員給与等の問題となることがあり、すべての差額を寄附金と呼ぶのも正確ではありません。国税庁「役員等に対する経済的利益」
9-1-13・14を、そのまま売買の通達として読まない
法人税基本通達2-3-4は、無償又は低い価額で有価証券を譲渡した場合の通常得べき対価について、4-1-4、4-1-5、4-1-6の取扱いを準用すると定めています。市場相場のない株式の売却では、4-1-5と4-1-6が直接の参照先になります。
| 場面 | 参照する通達 | 役割 |
|---|---|---|
| 無償・低廉な株式譲渡 | 2-3-4 → 4-1-5・6 | 通常得べき譲渡対価を算定するための接続 |
| 期末の有価証券評価損 | 9-1-13・14 | 評価損の判定で用いる株式価額の算定 |
| 低額取得による受贈益 | 益金の規定と取得時の時価の検討 | 取得対価との差額を検討。売主側の規定と同一視しません |
4-1-5・6と9-1-13・14には同趣旨の評価方法・条件が置かれています。しかし、前者が後者の番号を機械的に引用しているという関係ではありません。売買評価なのに「事業年度末の時価」と記載するなどの誤りを防ぐには、何の取引について、いつの価額を算定するのかを先に確定する必要があります。法人税基本通達2-3-4、4-1-5・6
売買実例の確認を飛ばして相続税評価を選べるわけではありません
4-1-5は、適正な売買実例のある株式、公開途上の株式、類似する他社の株式価額がある株式、それ以外の株式という区分を置いています。最近の売買価格が見つかった場合にも、その取引が独立した当事者間の合理的な交渉で成立したのか、対象となる権利や持分が今回と比較できるのかを確認します。
一方、4-1-6は、一定の株式について、課税上弊害がない限り、所定の条件で財産評価基本通達の例による価額を認めるものです。売買実例のあるものと公開途上のものは対象から除かれています。「相続税評価の方が低いのでこちらを選ぶ」という無条件の選択制度ではありません。
主な条件は、中心的な同族株主に該当する一定の場合の小会社扱い、純資産価額の計算における土地等・上場有価証券の時価への修正、評価差額に対する法人税額等相当額を控除しないことです。評価損に関する9-1-14にも、同趣旨の条件があります。法人税基本通達9-1-13・14
時価1,000万円、売買価格600万円の例
売主A社が、税務上の帳簿価額200万円、時価1,000万円の株式をB社へ600万円で譲渡し、差額400万円が実質的な贈与に当たると仮定します。A社とB社にグループ法人税制などの特別な取扱いがなく、役員給与等にも該当しない単純な例です。
A社側では、通常得べき対価1,000万円を基礎とする譲渡利益800万円と、B社への寄附金400万円を区別して検討します。寄附金400万円のすべてが損金になるとは限りません。B社側では、600万円の支出で時価1,000万円の株式を取得した差額400万円について受贈益が問題となります。契約書上の600万円だけを両社で処理しても、課税関係が完結しない理由がここにあります。
この例の取引価格は時価の60%ですが、それを理由として寄附金・受贈益の検討が不要になることはありません。個人が法人へ譲渡する際の所得税の2分の1基準を、法人税の一般的な安全基準として使うことはできません。
グループ内でも、税務が自動的に消えるわけではありません
法人による完全支配関係がある内国法人間では、所定の寄附金・受贈益について特別の取扱いがあります。もっとも、会社同士の資本関係があるというだけで適用されるわけではありません。誰が完全支配しているのか、受贈益と対応する寄附金なのか、ほかに譲渡損益の繰延べ等の規定が関係しないかを別途確認します。
また、売主が個人、買主が法人の場合には、売主の所得税と買主の法人税で評価を検討することになります。売主について作成した所得税基本通達59-6の評価書を、説明なく買主法人の評価根拠として流用することは避けるべきです。株主区分や評価時点の問題を含め、双方の立場から評価の合理性を確かめます。
価格の根拠は、決算書の外にもあります
評価資料には、決算書・申告書、資産の明細、株主構成に加え、直近の売買契約、投資契約、経営権の移転の有無などを含めます。会社の事業価値を評価した金額と、各種類の株式や特定の持分の価額との関係も整理します。買収交渉で提示された企業価値を、そのまま全株主共通の1株価額とすることはできません。
法人間の株式売買で必要なのは、一つの計算式を当てはめることではなく、取引価格を採用した理由と、それぞれの当事者の税務処理を一貫して説明することです。契約締結前に評価の前提と差額の取扱いをそろえておくと、決算や申告の段階で価格設定を説明し直す負担を減らせます。
なお、法人税基本通達4-1-5(1)は、売買実例について前6月間という期間を定めています。2-3-4を通じて譲渡価額の算定に用いる際は、譲渡時点を基準に適正な実例を検討します。
主な参考資料
法令・制度の基準日:2026年09月02日。個別の事実関係によって結論が変わるため、具体的な取扱いは資料を確認してご検討ください。
ご家族と財産の状況に応じた検討を
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