海外に拠点を置こうとすると、現地法人、支店、駐在員事務所という三つの選択肢が出てきます。設立費用の比較から入りがちですが、先に決めたいのは、現地で何をするのか、誰の名前で契約するのか、事業の責任をどこまで日本本社が負うのかです。市場調査だけの拠点と、在庫を持って顧客に販売する拠点では、必要な仕組みが違います。
本稿は、日本法人が海外に進出する場合の一般的な整理です。子会社は、親会社とは別の法人格を持つ、株主の責任が原則として出資の範囲に限られる会社を想定します。会社形態、外資規制、許認可、税務の扱いは進出先によって異なります。具体例にはシンガポールの公的資料を使いますが、その取扱いを他国にそのまま当てはめることはできません。
三つの形態を、契約と責任から比べる
| 比較する点 | 現地子会社 | 支店 | 駐在員事務所 |
|---|---|---|---|
| 法人格 | 日本親会社とは別法人 | 日本本社と同じ法人の一部 | 通常は日本本社と別の法人ではない |
| 営業・売上 | 認められた事業を自社名で行う | 認められた事業を日本法人の拠点として行う | 市場調査・連絡等に限定され、通常は営業不可 |
| 責任の所在 | 子会社が債務を負い、親会社の株主責任は原則有限 | 日本法人が直接負う | 通常、日本法人が負う |
| 利益課税の入口 | 子会社自身の所得を現地で計算 | PEに帰属する利益などを現地で計算 | 実際の活動と現地法・租税条約から判定 |
| 本社との資金移動 | 出資、貸付、配当、取引代金等を区別 | 同一法人内の資金移動 | 通常は本社から運営費を供給 |
| 撤退時 | 株式売却や会社清算等を検討 | 支店閉鎖と残務・税務を整理 | 登録終了と雇用・賃貸借等を整理 |
シンガポールのACRAによる進出形態の案内も、子会社を別法人、支店を外国会社の延長、駐在員事務所を収益活動のできない一時的な拠点として区別しています。「小さく始めるから駐在員事務所」というだけでは足りず、予定する活動が認められる範囲に入るかが出発点です。
子会社を作っても、本社のリスクがすべて切れるわけではない
現地子会社が商品を仕入れ、顧客に売り、従業員を雇うのであれば、その契約の当事者は基本的に子会社です。支店の場合は、日本法人自身が契約の当事者になります。顧客から損害賠償を求められたり、代金を回収できず資金繰りが悪化したりした場合に、誰が債務を負うかが異なります。
ただし、子会社の銀行借入れや賃貸借について日本親会社が保証すれば、親会社はその保証に基づく責任を負います。また、日本本社自身が販売契約を結ぶなど、直接負担した義務は別です。有限責任という会社形態の説明と、実際に締結する保証・契約の内容は分けて考える必要があります。
駐在員事務所は「営業前の拠点」として使えるかを見る
例えば、日本の製造業が現地の需要や規制を調べるために担当者を置き、顧客候補への聞き取りをする段階なら、駐在員事務所が候補になります。一方、現地で注文を取り、価格を決め、販売契約を締結し、有料の保守サービスまで行う計画なら、その業務を駐在員事務所で扱えるとは考えない方がよいでしょう。
JETROのシンガポール会社設立資料では、駐在員事務所の活動範囲と禁止業務が示されています。存続も原則として最長3年を見据えた制度であり、営業拠点への移行か撤退を考える必要があります。さらに、Enterprise Singaporeの申請基準には、本社の売上高・設立後の年数・事務所の人数に関する条件があります。どの会社でも自由に選べる形態ではありません。
税務は、法人格と実際の活動を分けて確認する
支店の税務では、PE(恒久的施設)が重要になります。これは、その国で事業を行う一定の場所など、外国企業の事業利益に課税する際の基準となる概念です。営業を行う支店は通常PEに該当し、そのPEに帰属する利益について現地課税を検討します。ただし、支店の帳簿に載せた利益がそのまま税務上の利益になるとは限らず、本社との機能分担や費用の配分も問題になります。
駐在員事務所という名称や登録があっても、それだけで非課税と確定するわけではありません。日・シンガポール租税協定も、事業を行う場所や代理人の契約権限などからPEを判断し、一定の情報収集や準備的・補助的活動について除外を定めています。例えば、調査拠点の担当者が本社名義の販売契約を反復して締結するようになれば、活動範囲とPEの再検討が必要です。確認には財務省公表の統合条文が参考になりますが、適用の法的根拠は協定等の正文です。
子会社は独立した法人として課税されます。親子会社という関係だけで親会社のPEになるものではありませんが、親会社のために行う活動によっては別途PEが問題になります。また、親子間の商品代金やサービス料は、別法人間の取引として移転価格の検討が必要です。
日本での課税と、資金を戻す方法も違う
日本法人の海外支店の損益は、原則として日本法人の所得計算に含まれます。利益を現地に置いているか、日本へ送金したかだけで、日本での課税時期が決まるものではありません。現地で負担した法人税等については外国税額控除を検討しますが、対象となる税の範囲や控除限度額があり、外国で払った税金が必ず全額戻る制度ではありません。
子会社から日本親会社への配当には、一定の持株割合と保有期間等の要件を満たせば、配当額の95%を益金不算入とする制度があります。財務省の二重課税排除方式の説明は、支店の外国税額控除と子会社配当の制度を区別しています。配当については、現地の源泉税や租税条約も確認します。
また、子会社に利益を残せば常に日本課税を先送りできるわけではありません。一定の場合には外国子会社合算税制(CFC税制)により日本側で所得を合算します。持株関係、実際の事業・管理の状況、租税負担割合、所得の種類等を確認する制度であり、現地の表面税率だけでは判断できません。
資金管理でも、子会社の預金を日本本社の預金と同じように動かすことはできません。配当なのか、貸付金の返済なのか、取引代金なのかを整理し、必要な決議や契約、課税関係を確認します。本支店間の資金移動は同一法人内ですが、外国為替規制や送金手続、支店利益への追加課税の有無などは国ごとに確認が必要です。
売上が立つ場面と、撤退する場面を先に描く
例えば、当初は市場調査だけでも、半年後には現地に在庫を持ち、現地名義で納品・請求する予定なら、最初から子会社や支店を検討する理由があります。逆に、事業化の見込みを調べる段階なら、駐在員事務所の活動範囲と設置条件を確かめることになります。これは説明用の例であり、特定の国での設立判断を示すものではありません。
撤退時にも、子会社なら会社の清算や株式売却、支店なら支店の閉鎖という違いがあります。ただし、どの形態でも従業員との契約、事務所の解約、債権回収、納税や登録の終了は残ります。「支店ならすぐ撤退できる」と一括りにはできません。
比較の際は、予定する商流に沿って、契約者、請求者、在庫の所有者、雇用主、本社保証の有無、利益の戻し方を書き出します。そのうえで現地の規制と日・現地双方の税務を照合すると、設立費用だけでは見えなかった違いが明確になります。
本稿は2026年9月24日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

