海外法人の日本支店について税額を計算するとき、最初に必要なのは「日本支店の帳簿にいくら利益があるか」という確認だけではありません。その利益のうち、税務上どこまでが日本支店に帰属するのかを判断します。2014年度(平成26年度)税制改正では、この考え方を国内法の中心に据えることになりました。本日、2016年4月1日以後に開始する事業年度から、法人税の新しいルールが適用されます。各社の適用開始年度を確認し、支店の利益計算と社内資料を整える必要があります。
本稿では、外国法人の日本支店と、日本企業の海外支店について、今回の改正が利益計算にどう影響するかを説明します。主として法人税の改正を扱います。
法人税の適用は2016年4月以後の開始事業年度から
法人税については、原則として本日、2016年4月1日以後に開始する事業年度から新制度の適用が始まります。3月決算の会社なら2016年4月から2017年3月までの事業年度が最初です。12月決算の会社では、通常、2017年1月開始年度からとなります。2016年4月1日より前に始まった事業年度は、この適用開始の区切りをまたいでも原則として改正前の取扱いです。改正法自体の公布・施行と、各社への適用開始年度を分けて確認しましょう。
国税庁の改正のあらまし(2015年10月)は、法人税の適用時期と主な改正内容を説明しています。この適用時期は、財務省の平成26年度改正関係参考資料に示されています。個人の所得税については2017年分以後という別の区切りがあります。
総合主義は、外国法人の全世界所得を課税する制度ではない
改正前の国内法の説明で使われる「総合主義」は、しばしば「日本に支店があれば、その外国法人の世界中の利益に課税する」と誤解されます。典型的な日本支店を持つ外国法人について問題になるのは、支店に帰属するかどうかを問わず、日本の国内源泉所得を申告対象に取り込む仕組みです。世界中の所得を無条件に取り込むという意味ではありません。
例えば、外国法人に日本支店があり、海外本店が日本支店を介さずに日本から利息を受け取っていた場合を考えます。改正前の国内法は、支店の営業利益と、支店に関係しない国内源泉所得を併せて捉える構造でした。ただし、租税条約によって既に帰属主義が適用される場合があります。今回の改正は、国内法でも「日本との関係」と「日本支店への帰属」を分けて考える方向への転換です。金融庁の2014年度改正大綱に関する説明も、国内法の総合主義と租税条約の帰属主義の違いを取り上げています。
日本支店に帰属するなら、第三国で生じた所得も対象になる
改正後の帰属主義では、日本支店を独立した会社のように考えて、その支店が得るべき所得を求めます。その結果、支店と関係のない国内源泉所得が支店の所得から外れる一方、日本支店の事業として第三国から得た所得が、日本の課税対象に含まれることがあります。
たとえば、海外本店のあるA国、日本支店のある日本、取引先のあるB国を想定します。B国の取引先との事業を実際に管理しているのが日本支店で、その事業に必要な資産やリスクも日本支店に帰属するなら、代金の支払元がB国というだけで日本の課税対象外とはいえません。この意味で、帰属主義への移行を単純な課税範囲の縮小と説明することもできません。
改正では、このような第三国所得に第三国でも税がかかる場合に対応するため、外国法人の日本のPEに係る外国税額控除の仕組みも設けられました。所得を取り込む仕組みと二重課税を調整する仕組みを、併せて読む必要があります。
AOAで変わるのは、社内の利益の置き方
AOAは、OECDが承認したアプローチを意味する略称です。2010年改訂後のOECDモデル租税条約第7条の考え方に沿って、PEが担う機能、使う資産、引き受けるリスクなどから所得を帰属させます。日本の支店が別法人になるわけではありません。税額計算のために、独立した事業者ならどのような利益を得るかを考えます。
商品販売なら、誰が仕入先を選び、販売条件を決め、在庫や貸倒れのリスクを管理しているかが手がかりになります。契約書に本店名が書かれているという一点だけでも、日本支店に売上を記帳したという一点だけでも、結論は出ません。意思決定と業務の実態をたどる作業が必要です。
同じ法人の本支店間でも、商品の移転や役務の提供などについて、税務上の「内部取引」を認識することがあります。その対価も、社内で自由に決めた数字をそのまま採用するのではなく、独立企業間価格の考え方で検討します。もっとも、社内の資金移動や費用配賦が何でも同じ内部取引になるわけではありません。本店配賦経費など、別の取扱いもあります。
さらに、日本支店を独立した企業とみなした場合に必要となる資本を計算し、その資本に対応する負債利子の損金算入を制限する仕組みも適用されます。本店からの資金を借入金として記帳しているだけで、利子の全額を経費にできるとは限りません。金融機関では資本計算に必要なデータの入手も準備事項になります。
日本企業の海外支店にも関係する
この改正は、外資系企業だけの話ではありません。日本企業が海外支店を持つ場合も、外国税額控除の計算で用いる国外所得の把握に関わります。国外PEに帰属する所得を捉え、本店との内部取引も考慮する仕組みが整備されました。2014年の改正法案要綱では、外国法人への課税と外国税額控除などを関連する改正として確認できます。
海外支店の利益が増えたとき、日本側の税務計算でも同じ金額をそのまま国外所得とできるとは限りません。現地の申告書、支店の管理会計、日本の外国税額控除で使う数字について、どの前提が共通で、どこに差があるのかを確認します。外国で納めた税額が増えれば、日本で常に全額控除できるわけでもありません。
経営者が確認するのは、帳簿と仕事の実態がつながっているか
例えば日本支店を「販売支援だけを行う拠点」と説明しながら、実際には日本側の責任者が価格、在庫、取引の可否を決めているとします。この場合、説明と実態のずれを先に解消しないと、利益率の比較をどれほど精密にしても、出発点が不確かになります。
確認する資料は、組織図、職務権限、契約締結の手順、資産の管理状況、本支店間のやり取り、費用配賦の根拠などです。社内取引には外部取引のような契約書が当然には存在しないため、改正では帰属や内部取引を示す文書の作成・提示が求められることになりました。新制度が適用される事業年度の開始時点で、現在の帳簿と資料によってどこまで説明できるかを点検し、不足する情報を本店と共有しておきたいところです。
なお、租税条約の内容は国ごとに異なり、OECDモデル租税条約の2010年改訂が各国との条約を自動的に変更するわけではありません。既に条約で帰属主義を適用している会社でも、内部取引や文書化などの影響を確認する必要があります。対象事業年度の国内法と適用される租税条約を踏まえ、PEの有無と帰属所得を順に検討します。
参考:KPMG税理士法人・小林研太氏「外国法人課税原則の見直しの影響」(KPMG Insight Vol.8、2014年9月、31~45頁)。
本稿は2026年9月24日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
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