
会社を育て、資産を築いた。その次に考えるのは、「どこで暮らし、どこで次の事業を始め、子どもに何を残すか」という問題です。
その選択肢の1つが、シンガポールです。税負担の違いは、もちろん大きな理由になります。しかし、税率だけで移住先を決めると、住むための資格が取れない、想定以上の生活費がかかる、日本の課税が残る、といった問題にぶつかります。
シンガポールの魅力は、資産運用、事業、家族の生活を、国際的な拠点でまとめて考えられることです。移住を成功させるには、この3つと税務を一緒に設計する必要があります。
本稿では、日本に暮らす富裕層・オーナー経営者がシンガポールへ移住するケースを中心に、選ばれる理由と実際の進め方を説明します。スイス・香港との違いも比較します。
なぜシンガポールなのか――お金だけでなく、人と仕事が集まる
シンガポール経済開発庁(EDB)は、国内に2,000を超えるシングル・ファミリーオフィスが設立されていると紹介しています。ファミリーオフィスとは、ある一族の資産運用や承継などを支える組織です。
この数字は、移住した日本人の人数ではありません。富裕層の移住人数とファミリーオフィスの数を混同することはできません。ただ、シンガポールに資産管理の拠点と専門家が集積していることは分かります。
資産が大きくなると、必要なのは銀行口座だけではなくなります。複数の国への投資、会社の売却、次の起業、子どもへの承継。それぞれに税務、法律、金融の専門家が必要になります。EDBも、資産運用から税務・法律、信託、慈善活動までを支える専門サービスの集積を説明しています。
富裕層にとっての価値は、「税率が低い場所」に住むことだけではありません。資産と事業の選択肢が広がる場所で、次の人生を組み立てられることです。
ただし、「いま富裕層の全員がシンガポールを選んでいる」という意味ではありません。どの国が適しているかは、収入の種類、事業の場所、家族構成によって変わります。
税金は何が違うのか――給与と投資益を分けて考える
「シンガポールは税金が安い」という説明では、判断材料として不十分です。何に課税され、何が課税されないのかを分けてみましょう。
| 項目 | シンガポールの基本的な扱い | 移住を考えるときの意味 |
|---|---|---|
| 個人の給与・事業所得など | 税務上の居住者には累進税率。最高税率は24% | 働いて得る所得まで無税になるわけではない |
| 個人投資としての株式などの売却益 | 原則として非課税 | 給与中心の人と、資産運用中心の人では移住の効果が違う |
| 個人が受け取る国外所得 | 一般に免税となるが例外あり | 送金元だけでなく、所得がどこで、どの活動から生じたかを見る |
| シンガポール居住法人からの配当 | ワンティア制度の対象配当は、原則として株主段階で非課税 | 法人段階の課税と個人段階の課税を通して考える |
| 遺産税(Estate Duty) | 2008年2月15日以後の死亡について廃止 | 日本の相続税までなくなるという意味ではない |
| 法人税 | 基本税率17% | 個人の移住と、会社の利益への課税は別の問題 |
| GST(日本の消費税に相当) | 標準税率9% | 日常の消費にも税負担はある |
税率・課税範囲は、それぞれシンガポール内国歳入庁(IRAS)の個人所得税率、投資資産の売却益、国外所得、配当、遺産税、法人税率、GST税率に基づきます。個人の税務上の居住者を基本とする整理で、投資先の国で課される税金は別途検討します。
最高税率24%は、すべての所得に24%かかる意味ではない
所得が増えるにつれて、上の部分に高い税率がかかる累進課税です。日本でも所得税の税率は5%から45%の段階制ですが、シンガポールでは税率の段階や控除が異なります。
日本では住民税や復興特別所得税も別に考慮する必要があります。比較すべきなのは最高税率だけではなく、あなたの所得・控除を入れて計算した年間の税額です。
富裕層に大きいのは、資産を売ったときの違い
同じ資産10億円でも、毎年の収入が給与なのか、配当なのか、株式の売却益なのかで、税負担は変わります。
シンガポールでは、個人投資としての株式や金融商品の売却益は原則として非課税です。そのため、今後の資産運用をどこで行うかは、富裕層にとって重要なテーマになります。
ただし、自分の資産を投資して得た利益と、事業として得た利益は同じではありません。 暗号資産についても、IRASは事業としての売買や報酬受領には通常の所得課税ルールが適用されると説明しています。「シンガポールなら暗号資産に関係する収入は全部無税」と一括りにはできません。
また、日本の会社の株式を売る場合には、日本側の課税、租税条約、後述する国外転出時課税を併せて確認します。大きな売却益が出る直前に引っ越せば解決する、という話ではありません。
日本から送金される給与なら非課税、というわけではない
シンガポールで実際に働き、日本の会社から報酬を受け取る。そのお金が日本の口座に入るからといって、シンガポールで非課税になるわけではありません。
IRASは、外国の雇用主のためにシンガポールで働く場合を、課税されるケースとして挙げています。送金経路と所得の発生場所は別です。
会社の経営者なら、本人の税金に加えて、シンガポールで行う活動が会社側の課税関係にも影響しないかを検討します。個人だけを見て計画を立てると、この問題が抜けやすくなります。
プライベートバンクとは、口座開設後の付き合いも大切
移住後の資産管理では、プライベートバンクも相談先の候補になります。富裕層向けに、担当者が資産運用や資産承継などを継続して相談する窓口となるサービスです。例えば、UBSのシンガポール拠点では、資産運用に加えて家族の将来を見据えたウェルス・プランニングを案内しています。
大切なのは、有名な銀行に口座を持つことだけでなく、あなたの目的を理解する担当者と付き合えるかどうかです。 生活費としていつ、どの通貨でお金を使うのか。事業のためにどれだけ資金を残すのか。どの程度の値下がりなら受け入れられるのか。こうした条件を共有し、提案される商品の仕組み・リスク・手数料を確認していきます。銀行への運用相談と、日本・シンガポール双方の税務確認も連携させたいところです。
シンガポール、スイス、香港などのプライベートバンクをどう比較するかは、別記事「世界のプライベートバンク比較――最低預入額・手数料・サービスでどう選ぶか」で詳しく取り上げる予定です。
家族で暮らせること、事業を続けられることにも価値がある
子どもにどの言語で教育を受けさせるか。日本の事業との往来をどうするか。配偶者も働くのか。親の介護が必要になったらどうするか。
これらは税率表には載っていませんが、移住が続くかどうかを左右する条件です。教育環境や専門サービスを利用できても、自分の家族に合うとは限りません。
教育では、希望する学校の空席、授業言語、入学要件、通学距離、学費を先に確認します。現地校、インターナショナルスクール、日本人学校では選び方が変わります。シンガポールの公立校への外国人の入学には専用の選考制度もあり、引っ越せば希望校へ自動的に入れる、という前提にはできません。
家族の生活が成り立たなければ、税務上は合理的な移住でも長続きしません。 住居だけを先に決めるより、学校や仕事との位置関係を確認し、その後に住む場所を絞る方が計画を立てやすくなります。
富裕層でも、住むための資格が必要になる
ここは、移住計画の最初に確認したい点です。
資産を持っていること、銀行口座を開くこと、会社を設立すること、長期滞在して働けることは、それぞれ別です。ACRA(会計企業規制庁)も、外国人がシンガポールへ移って事業を運営するには就労資格が必要と説明しています。
外国法人を作っただけで、経営者本人が自由に住み続けられるわけではありません。仕事を引退し、資産運用だけで暮らすことを希望する人も、自分に利用可能な在留資格から確認する必要があります。
主な移住ルートを比較する
| ルート | どのような人が検討するか | 主な条件と注意点 |
|---|---|---|
| Employment Pass(EP) | 現地で経営・専門職などの仕事をする人 | 年齢に応じた給与基準と、原則COMPASSによる審査。雇用主側の条件も見る |
| EntrePass | 革新的技術や一定の投資家の支援を伴う事業を起こす人 | 通常の会社設立だけでは足りず、起業家・事業の適格要件がある |
| ONE Pass | 高い給与水準や顕著な専門実績を持つ人 | 給与ルートでは原則固定月給3万シンガポールドル以上など。勤務先等の条件もある |
| Global Investor Programme(GIP) | 大きな投資と十分な事業実績を持つ人 | 永住権を申請する制度。投資額だけでなく申請者の実績も審査される |
根拠はMOM(人材開発省)のEP、EntrePass、ONE Pass、EDBのGIPです。表は代表的なルートの比較で、家族関係などによる資格をすべて列挙したものではありません。
自分の会社で働くなら、まずEPの条件を見る
オーナー経営者にとっては、現地法人で実際に経営・事業活動を行い、その職務に対応するEPを検討するという進め方が考えられます。ただし、株主であることは許可の保証になりません。
EPの現行の最低固定月給は、一般業種で5,600シンガポールドル、金融業種で6,200シンガポールドルです。これは23歳以下の水準で、年齢とともに必要額が上がります。45歳以上では、それぞれ10,700、11,800シンガポールドルです。
さらに、原則としてCOMPASSで40点以上が必要です。COMPASSは本人の給与・資格だけでなく、会社の人材構成なども評価する仕組みです。高額給与などによる免除もありますが、「自分で会社を作り、自分の給与を最低額に設定すれば通る」という制度ではありません。
なお、2027年1月1日以後の新規申請では最低給与基準が引き上げられます。一般業種の23歳以下では6,000シンガポールドルとなり、年齢別の基準も変わります。更新についても2028年1月1日以後に期限が来るパスから新基準が適用されるため、申請時だけでなく更新まで見て事業計画を作ります。
投資家向け永住権は、金額も条件も大きい
GIPについての2026年2月の政府答弁では、事業への1,000万シンガポールドル以上の投資、指定ファンドへの2,500万シンガポールドルの投資、運用資産2億シンガポールドル以上のファミリーオフィスを設け、そのうち5,000万シンガポールドル以上を指定された投資に充てる方法が示されています。
これは、誰でもその金額を用意すれば永住権を購入できるという意味ではありません。本人の事業実績や制度ごとの要件があり、投資・運営を続ける条件も確認が必要です。
また、一般的なファミリーオフィスの設立、ファンドに対する税優遇、経営者の就労資格、GIPによる永住権はそれぞれ別の制度です。これらをひとまとめにして「ファミリーオフィスを作れば移住できる」と理解すると、実際の条件が見えなくなります。
家族の移住にはDP(Dependant’s Pass)を検討する
本人だけでなく、配偶者や子どもも一緒に暮らすための資格が必要です。DP(Dependant’s Pass/ディペンデント・パス)は、一定の就労パスを持つ人の家族がシンガポールに滞在するためのパスです。
EP保有者の家族についてMOMが示すDPの主な要件は、次のとおりです。
| 確認すること | 主な要件 |
|---|---|
| 帯同する家族 | 法律上の配偶者、21歳未満の未婚の子(法律上の養子を含む) |
| 本人の給与 | 固定月給6,000シンガポールドル以上。夫婦の収入の合計ではなく、本人の給与で判定 |
| スポンサー | シンガポールに登録された会社によるスポンサーが必要。通常は本人の雇用主 |
本人のEPが取れる給与額と、家族のDPを申請できる給与額は、同じとは限りません。EntrePassやONE Passの家族には別の要件があるため、本人のルートと組み合わせて確認します。
親の帯同はDPではなく、Long-Term Visit Pass(LTVP)を検討し、EP保有者の場合は本人の固定月給12,000シンガポールドル以上などの条件があります。
また、DPを取得しただけで、配偶者が現地企業で自由に働けるわけではありません。 雇用される場合にはEP、S Pass、DP保有者向けWork Permitなど、働き方に対応した就労資格・許可を確認します。自分の事業を営む場合には、条件に応じてLetter of Consent(LOC)を申請する制度もあります。
永住権を検討する場合には、子どもの将来まで見ておく必要があります。ICAは、親のスポンサー等で永住権を取得する男子について、兵役の義務が生じることも説明しています。
日本を出るときに、先に整理すべき税務がある
住民票を抜くことと、税務上の非居住者になることは同じではない
国税庁は「住所」を個人の生活の本拠とし、客観的事実によって判定すると説明しています。
シンガポールの在留資格を取得した。日本で国外転出届を出した。その2つだけで、日本の所得税法上の非居住者になったと断定することはできません。住居、家族、職業など、実際の生活がどこにあるのかを確認します。
「海外に183日いれば、日本では課税されない」という単純なルールでもありません。 シンガポールの税務上の居住者判定と、日本の居住者判定は別です。両国で居住者とされる場合には、租税条約による調整も検討します。
対象資産が1億円以上なら、国外転出時課税を確認する
日本には国外転出時課税があります。一定の居住者が国外転出する際、対象資産を売っていなくても、売却したものとみなして含み益に課税する制度です。
基本となるのは、対象となる有価証券等の価額が1億円以上であることと、原則として出国前10年以内に日本に住所・居所があった期間の合計が5年を超えることです。
ここでいう1億円は、含み益の金額ではありません。また、すべての財産を一括して判定するわけでもありません。上場株式だけでなく、オーナー経営者が保有する非上場株式も見落とせない対象です。
例えば、自社株の価値が大きく上がっている人は、売却の前に移住する場合でも、出国時の課税を先に調べる必要があります。納税猶予には担保や届出などの条件があり、単に「税金を後払いにできる」と考えるべきではありません。
日本の不動産収入や相続税は、移住後も残り得る
移住しても、日本の不動産から生じる所得など、日本で課税される国内源泉所得は残ります。収入ごとに、どの国に申告し、どの国で税金が差し引かれるかを整理します。
相続は、さらに別の判定です。シンガポールに遺産税がないからといって、日本の相続税もなくなるわけではありません。日本の相続税は、相続人・被相続人の住所、国籍、過去の居住歴などにより、国外財産まで課税対象にする場合があります。
「親子で移住すればすぐに相続税がゼロ」「10年たてば誰でも全部非課税」という説明は、条件を省きすぎています。 財産の所在を含め、家族ごとに整理する必要があります。
税負担だけでなく、移住後の手残りで比較する
シンガポールで暮らすなら、住宅、教育、医療保険、一時帰国、会社の維持などにいくらかかるのかを具体化します。「所得税が下がる」という1項目だけでは、移住の採算は分かりません。
| 費用・資金 | 事前に確認すること |
|---|---|
| 住居 | 家賃、保証金、契約期間、通学・通勤との関係 |
| 教育 | 授業料だけでなく、入学金、施設費、スクールバス、兄弟分の費用 |
| 医療 | 保険料、免責額、既往症の扱い、日本での受診との関係 |
| 事業 | 人件費、事務所、会計・税務、会社維持、在留資格の更新 |
| 日本との往来 | 家族の航空運賃、日本の住居・事業を維持する費用 |
| 移住時の税金 | 国外転出時課税など、一度に必要になる資金 |
| 為替 | 円収入でシンガポールドルの支出を続けられるか |
住宅を買う場合は、とくに注意が必要です。IRASの追加買主印紙税(ABSD)では、永住者ではない外国人による住宅購入の税率は原則60%です。国籍等による免除・軽減があるため個別確認が必要ですが、「移住先ではまず自宅を買おう」と安易に決められる税負担ではありません。
例えば、購入価格と市場価額がともに300万シンガポールドル、適用税率60%の場合、ABSDだけで180万シンガポールドルになります。課税標準は購入価格と市場価額の高い方です。通常の買主印紙税などは別です。これは計算例であり、住宅価格の相場を示したものではありません。
移住先を比較するときの物差しは、税引後の収入から、その国で暮らし続ける費用を差し引いた手残りです。 さらに、税額には表れない教育、事業機会、家族の満足度も併せて判断します。
スイス・香港と比べると、何が違うのか
シンガポールだけを見ると、投資益への課税の違いが際立ちます。しかし、スイスや香港にも、個人の資本性の利益を原則非課税とする仕組みがあります。したがって、投資益の非課税だけでは、シンガポールを選ぶ決め手になりません。
| 比較する項目 | シンガポール | スイス | 香港 |
|---|---|---|---|
| 働いて得る所得 | 居住者の個人所得税は最高24% | 連邦・州・自治体で課税。住む州・自治体等で負担が変わる | 給与税は累進2〜17%と、標準税率15%・16%による計算を比較して低い税額 |
| 個人の株式等の売却益 | 個人投資としての利益は原則非課税 | 私有動産の売却益は原則非課税。職業的な取引等は別 | 資本性の売却益は原則非課税。事業としての利益は別 |
| 相続時の課税 | 遺産税は廃止 | 州ごとに異なる。配偶者は免税で、直系卑属も大半の州で免税 | 遺産税は廃止 |
| 大きな資産を持つ人の着眼点 | 所得の性質、日本に残る課税、在留・生活費 | 所得税に加え、州・自治体の純資産税も試算する | 給与・事業・投資益の区分、投資先の課税を整理する |
| 在留資格の主な検討対象 | EP、EntrePass、ONE Pass、GIP等 | 日本人など非EU/EFTA国籍者の就労・非就労滞在は条件審査がある | 就労・起業の資格のほか、New CIESという投資家向け制度 |
スイスの税制は連邦税務庁の解説、相続税は政府案内、香港は給与税率表、利得税の課税範囲、遺産税の廃止に基づきます。いずれも日本の課税が消えることを意味せず、不動産などは表の株式等と別に検討します。
香港の標準給与税率は、人的控除前の純所得のうち500万香港ドルまで15%、超過部分16%です。控除後の所得に累進税率を適用した額と比較するため、「最高税率15%」とだけ紹介するのは正確ではありません。
スイスでは、私有財産としての株式の売却益が原則非課税でも、保有する純資産に州・自治体の税がかかります。所得税だけを比べて「スイスも同じ」と考えると、資産家の年間負担を見誤ります。実際に住む州・自治体まで決めて試算する必要があります。
在留資格も同じではありません。香港のNew CIESは、所定の対象への3,000万香港ドル以上の投資などを条件とする制度です。日本国籍者も対象になり得ますが、資産の保有期間や投資の維持などの条件があり、投資だけで永住権が自動的に得られるわけではありません。
スイスの日本人向け就労は、非EU/EFTA国籍者として高度な資格などが求められる制度です。非就労滞在にも条件があり、例えばチューリヒ州が案内する退職者のルートでは、55歳以上、スイスとの特別な個人的関係、十分な資力などが必要です。他のルートを含む可否は個別に確認します。
比較の順序は、「税率が低い国を選び、後から住み方を探す」ではなく、「実際に住める国で、資産・事業・家族の条件を比べる」です。 シンガポールを選ぶ理由も、この比較の中で初めて明確になります。
余談――親はシンガポール、子どもはスイスの寄宿学校という選択
超富裕層の教育を考えると、スイスのボーディングスクールも選択肢に入ります。ボーディングスクールとは、子どもが寮で生活しながら学ぶ寄宿学校のことです。親の居住地と、子どもの教育の場を別々に考える選択です。
では、いくらかかるのでしょうか。代表例として2校の公式料金を見てみます。
| 学校・対象 | 公表年度 | 年間の授業料・寄宿費 | 円換算の目安 |
|---|---|---|---|
| Le Rosey(ル・ロゼ)のCadets〜Seniors | 2027/28年度 | 164,400スイスフラン | 約3,288万円 |
| Beau Soleil(ボー・ソレイユ)のGrades 6〜10 | 2026/27年度 | 137,040スイスフラン | 約2,741万円 |
| Beau SoleilのGrades 11〜12 | 2026/27年度 | 148,440スイスフラン | 約2,969万円 |
料金はLe Roseyの公式条件書とBeau Soleilの公式学費案内によります。Le Roseyは確認できた最新公表版が2027/28年度のため、年度をそろえた比較ではありません。円換算は規模感を示すため1スイスフラン=200円と仮定したもので、現在の為替相場ではありません。
しかも、表の金額ですべて済むわけではありません。Beau SoleilのGrades 6〜10では、これに年間その他費用26,460スイスフランと旅行費8,490スイスフランが加わり、公表されたこの3項目だけで年間171,990スイスフラン、同じ仮定レートで約3,440万円になります。新入生の出願料や制服代、個別の追加費用はさらに別です。
Le Roseyも登録料、制服、保険、課程による追加費用などを別に見込みます。両校とも保証金がありますが、精算後に返還される性質の預け金は、年間費用とは分けて資金計画に入れます。
子ども1人の教育に年間3,000万円を超える支出もあり得る。これが、この種の学校を検討する場合の規模感です。 学費の高さだけで学校の価値や子どもとの相性を判断することはできませんが、富裕層の移住では、税率と同じくらい教育に大きな意思決定が伴います。
親がシンガポールに住み、子どもはスイスで学ぶ場合は、休暇中の滞在先、保護者との連絡、往来費用も考えます。子どもの入学は、親のスイス居住許可を自動的に意味するものでもありません。
シンガポール移住は、この順番で進める
1. 資産と収入を棚卸しする
現金、上場株式、自社株、不動産、暗号資産を分け、保有者、取得価額、現在価値、含み益を整理します。併せて、給与、役員報酬、配当、家賃、売却予定を並べます。
資産額だけではなく、今後どの収入が生じるかが重要です。数年以内に会社を売る人と、長期保有資産で暮らす人では、検討の順序も変わります。
2. 在留資格と仕事の実態を確認する
現地企業で働くのか、自分の会社の事業を現地で運営するのか、投資家向け制度を検討するのか。自分と家族が使えるルートを確認します。
会社を作る場合は、顧客、提供サービス、経営者の職務、売上、給与の支払原資を説明できる計画にします。登記上の会社を用意する作業と、事業を成立させる作業を混同しないことです。
3. 家族の生活費と、日本側の税負担を同時に試算する
学校・住居の候補を絞り、年間予算を作ります。同時に、国外転出時課税、出国前後の申告、日本に残る所得、相続・贈与を整理します。
税金の試算が済まないまま大きな資産を売却したり、家族の在留資格が見えないまま長期の住居契約を結んだりすると、選択肢が狭くなります。
4. 必要な法人設立・申請・契約を進める
選んだルートに沿って、法人設立、就労資格の申請、家族の申請、学校・住居の手続を進めます。どの書類が先に必要かはルートによって違うため、一律の順番にせず、相互の条件を確認します。
銀行への説明に備え、資産形成の経緯や資金の出所を示す資料も用意します。会社売却なら契約書や入金記録、投資なら取引履歴などです。暗号資産を保有する人は、取得・売買・送金の履歴を遡れる状態にしておきます。
5. 実際の生活と仕事を移し、継続して管理する
移住した後も、在留資格の更新、本人・会社の申告、家族の状況の変化、日本での活動を管理します。日本への帰国が増えたり、事業の実態が変わったりした場合は、当初の税務判断も見直します。
移住は、ビザが下りた日や飛行機に乗った日で完成するものではありません。その後の暮らしと仕事を続けられることまで含めて、初めて成立します。
結論――移住で得るのは、税金の差と、これからの選択肢
シンガポールは、資産運用と事業、家族の将来を国際的に考える富裕層にとって、有力な移住先です。投資益の扱いは魅力であり、それを支える金融・専門サービスの集積にも意味があります。
ただし、そのメリットを受け取るには、在留資格を満たし、生活の本拠を移し、事業と税務を実態に合わせて整える必要があります。書類上の住所や外国法人だけを作れば済む話ではありません。
あなたにとって重要なのは、「シンガポールは得か」という一般論ではなく、あなたの資産・収入・家族・次の事業を置いたときに、移住後の人生がよりよくなるかという判断です。
100人を超える移住支援実績を、日本とシンガポールの両側から
当事務所では、これまで100人を超える方のシンガポール移住を支援してきました。 移住は、現地の会社やビザを用意すれば完了するものではありません。シンガポールで暮らし、事業を営む準備と、日本を離れる際の税務を、一体で進める必要があります。
シンガポール側:まず取り組む3つの手続き
自分の会社をシンガポールで運営する移住では、まず取り組むべきことは、①法人設立、②就労ビザ取得、③銀行口座開設の3つです。当事務所では、これらをワンストップでサービス提供しています。
| シンガポール側の手続き | 整えること |
|---|---|
| ①法人設立 | 現地で事業を営むための会社を設立し、事業内容・運営体制を整える |
| ②就労ビザ取得 | 本人が現地で経営・仕事をするためのEP等の取得を支援。ご家族についてはDP等も併せて検討 |
| ③銀行口座開設 | 事業・生活に必要な口座について、法人・個人それぞれの目的に応じた開設を支援 |
この3つはシンガポール側の準備です。実際には並行して進める部分もあり、申請・開設の順序は利用する制度や銀行の要件に合わせて調整します。ビザの発給と口座開設には、それぞれ当局・銀行の審査があります。
日本側:非居住者判定のコンサルティングと納税管理人業務
当事務所は、日本の税務上「非居住者」に該当するためのコンサルティングも行います。 ご本人とご家族の住居、仕事、日本との往来、国内に残す事業などを整理し、移住後の生活・事業の実態に即して、非居住者該当性を検討します。
ここでいう「非居住者認定」は、特定の届出だけで資格を取得する手続きではありません。日本の居住者・非居住者の区分は、生活の本拠などの客観的事実に基づいて判断されます。その判断を支える事実や資料の整理も、移住前から支援します。
さらに、当事務所は納税管理人として、移住後に残る日本の税務手続にも対応します。 納税管理人は、国外に暮らす本人に代わって、確定申告書の提出、税務署からの書類の受領、納付などの国税に関する事項を処理する役割を担います。日本の不動産収入など、移住後も日本で申告が必要な所得がある場合にも、継続して支援します。
シンガポール側の「法人・ビザ・口座」と、日本側の「非居住者判定・納税管理」を、ひとつの窓口で相談できること。 それが当事務所の移住支援です。
まずは、現在の資産構成、収入源、ご家族の状況、移住時期、今後の売却・起業の予定をお聞かせください。あなたの移住計画に合わせて、日本とシンガポールの両側から具体的な手続きを組み立てます。
本稿は2026年9月12日時点で確認した公表情報に基づく一般的な解説です。税務・在留資格の適用は個別事情によって異なります。実行前に最新の制度と要件をご確認ください。
本稿は2026年9月12日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

