会社を売ろうとすると、日本M&Aセンター、M&Aキャピタルパートナーズ、ストライク、M&A総合研究所などの名前を目にします。上場企業グループの知名度や成約実績は、相談先を探す手掛かりになります。
ただし、M&Aアドバイザーは上場企業グループだけではありません。独立系のM&Aブティック、金融機関、会計事務所など、さまざまな支援者がいます。この記事で取り上げる4社は、その一部です。相談先を選ぶ際には、上場・非上場にかかわらず、支援内容と担当者を比較することが大切です。
しかし、あなたにとって重要なのは、その会社の売上高そのものではありません。誰が担当し、どの買い手を探し、どこまであなたの事情を理解して条件を詰めてくれるのか。最終的に、いくら手元に残り、どのような責任が残るのか。 そこまで見て選ぶ必要があります。
当社が主に扱う1億〜20億円程度のM&Aを念頭に、主要4社の公開料金と業績を比較します。そのうえで、会社の規模や料金表だけでは分からない、担当者選びを考えます。
料金・資料の確認基準日:2026年9月9日。標準の公開料金を比較したもので、個別見積りではありません。業績は基準日までに公表された直近の通期実績です。
最初に見るべきは「何に対して何%か」
M&Aの成功報酬では、金額の区分ごとに料率を掛ける「レーマン方式」がよく使われます。例えば、5億円以下の部分には5%、5億円を超えて10億円以下の部分には4%という計算です。
ただし、同じ5%でも、掛ける相手が違います。株式の売却代金を基準にする会社もあれば、負債に対応する分も含む総資産を基準にする会社もあります。退職金などを加えたオーナーの受取額を基準にする場合もあります。
| 売り手向けの公開料金 | 成功・成約報酬の計算基準 | 着手金 | 中間段階の報酬 | 最低額・固定額 |
|---|---|---|---|---|
| 日本M&Aセンター | 営業権を含む時価総資産 | 簿価総資産により100万〜500万円。50億円超は0.1% | 売り手向け表に独立した中間報酬の記載なし | 最低成功報酬2,000万円 |
| M&Aキャピタルパートナーズ | 株式価額 | 無料 | 手数料総額の約10%。成約時に残り約90% | 確認した公式料金ページでは金額を確認できず |
| ストライク | 退職金等も含むオーナー受取額 | 無料 | 資産総額により100万・200万・300万円 | 算定基準額4億円以下の部分は2,000万円 |
| M&A総合研究所 | 負債を含めない譲渡価格 | 無料 | 売り手は中間金・月額報酬も無料 | 最低成功報酬2,500万円 |
出典:日本M&Aセンター・譲渡側料金、M&Aキャピタルパートナーズ・料金、ストライク・譲渡側料金、M&A総合研究所・譲渡側料金。日本M&Aセンターとストライクは税別の表示です。他2社は今回確認した料金ページで税区分の明示を確認できていないため、見積りで確認してください。「金額を確認できず」は最低報酬がないという意味ではありません。
ストライクのオーナー受取額には、譲渡対価のほか、役員退職金、オーナー等からの借入金、譲渡時の配当なども含まれます。単に「株価に対して計算する」と理解すると、見積りとずれる可能性があります。
また、日本M&Aセンターの着手金は成功報酬に充当されません。ストライクの基本合意報酬については、今回確認した公開表だけで成約報酬への充当や返還の条件を確定できませんでした。途中で払うお金が、最終報酬の内金なのか、別に加算されるのかを確かめてください。
同じ案件でも、計算の土台でこれだけ違う
以下は、方式の違いを見るための仮定計算です。実際の各社の見積額ではありません。株式価額3億円、営業権を含む時価総資産7億円とし、料率を「5億円以下5%、5億円超10億円以下4%」にそろえます。最低報酬、着手金、中間報酬、消費税は、この計算から除きます。
| 計算基準 | 計算 | 報酬 |
|---|---|---|
| 株式価額3億円 | 3億円 × 5% | 1,500万円 |
| 時価総資産7億円 | 5億円 × 5% + 2億円 × 4% | 3,300万円 |
| 差額 | 同じ料率でも基準額が違う | 1,800万円 |
実際には最低報酬が適用されることもあります。例えば売却代金1億円に対して最低報酬2,000万円が適用されれば、報酬だけで代金の20%です。料率だけを見て「5%程度」と考えると、手取りの予想が大きく変わります。
見積りは「成功報酬はいくらか」だけでなく、想定売却代金を1億円、3億円、5億円などに置いた場合の総支払額で出してもらうと比較しやすくなります。
買い手側の料金も、売り手に無関係ではない
買い手は、買収代金だけでなく、仲介報酬、調査費用、買収後に必要な資金も含めて投資判断をします。そのため、買い手側の料金体系も取引を理解する材料です。ただし、買い手報酬がそのまま同額だけ売却価格から差し引かれるとは限りません。
| 会社 | 買い手向けの公開体系で注意する点 |
|---|---|
| 日本M&Aセンター | 時価総資産基準。2億円以下の部分は2,000万円の固定額。着手金のほか、基本合意時に成功報酬の20%、最低500万円の中間報酬。中間報酬は成功報酬に充当 |
| M&Aキャピタルパートナーズ | 原則として売り手・買い手で同じ手数料体系、同じ支払時期 |
| ストライク | 売り手のオーナー受取額基準と異なり、買い手はのれんを含む時価総資産基準 |
| M&A総合研究所 | 「譲渡対象資産額」が基準。2億円以下の部分は2,500万円の固定額。基本合意時に成功報酬の10%の中間報酬 |
出典:日本M&Aセンター・譲受側料金、M&Aキャピタルパートナーズ・料金、ストライク・譲受側料金、M&A総合研究所・譲受側料金。各社の基準額の定義、税区分、費用の充当・返還条件は個別契約で確認が必要です。
仲介会社が双方から報酬を受ける場合、どちらの立場で何を助言するのかも重要です。この構造は「M&A『仲介方式』は利益相反か?」で詳しく扱っています。
上場4社の業績を比べる
次に、支援会社側の事業規模を見てみます。料金表は仲介業務を行う事業会社のものですが、業績は原則として上場会社の連結数値です。両者の範囲は必ずしも一致しません。
| 上場会社・対象期 | 売上高・売上収益 | 営業利益 | 営業利益率 | 集計範囲・会計基準 |
|---|---|---|---|---|
| 日本M&Aセンターホールディングス/2026年3月期 | 502.57億円 | 187.61億円 | 37.3% | 連結・日本基準 |
| M&Aキャピタルパートナーズ/2025年9月期 | 224.48億円 | 71.26億円 | 31.7% | 連結・IFRS |
| ストライク/2025年9月期 | 203.14億円 | 63.32億円 | 31.2% | 当時の単体・日本基準 |
| クオンツ総研ホールディングス/2025年9月期 | 166.02億円 | 47.78億円 | 28.8% | 連結・IFRS |
出典:日本M&AセンターHD・2026年3月期説明資料、M&Aキャピタルパートナーズ・2025年9月期IFRS決算短信、ストライク・2025年9月期説明資料、クオンツ総研HD・2025年9月期IFRS決算短信および翌期説明資料の前期通期実績欄。
ストライクの現上場会社名はストライクグループです。クオンツ総研HDはM&A総合研究所の親会社で、表の期はM&A総研HDの名称でした。後者の連結業績にはコンサルティングなども含まれます。対象期間や事業の範囲が違うため、同じ条件の業績ランキングではありません。
営業利益率とは、売上に対して営業利益がどれだけ残ったかを表す割合です。上記4社では約29〜37%となっています。ただし、利益率だけから手数料が割高だとも、依頼者へのサービスが優れているとも判断できません。売却価格や契約条件をどれだけ改善したかは、この表には出ていないからです。
「成約件数が多い」の読み方にも注意
各社は成約実績も公表していますが、集計単位が違います。
| 会社・上表と同じ対象期 | 公表された成約指標 |
|---|---|
| 日本M&AセンターHD | 1,061件 |
| M&Aキャピタルパートナーズ | 248件 |
| ストライク | 275組(取引単位) |
| クオンツ総研HD | 仲介234件(FA案件を除く) |
出典:上記の各社説明資料、M&Aキャピタルパートナーズ・2025年9月期説明資料、M&A総研HD・2025年9月期説明資料。
「件」と「組」を同じものとして順位を付けたり、グループ売上をこの数字で割って「あなたが払う平均手数料」としたりすることはできません。相談時には、会社全体の数字に加えて、担当者自身が、あなたと近い業種・規模の案件をどのように支援したかを聞くほうが判断に役立ちます。
上場大手の強みと、会社の看板だけでは分からないこと
大手にも専門家や売却後の支援体制があります。日本M&Aセンターは売買別の担当制などを説明し、グループのネクストナビは財産承継等を支援しています。M&Aキャピタルパートナーズも、公認会計士、弁護士、税理士等による専門部署を紹介しています。日本M&Aセンターの支援体制、ネクストナビの支援内容、M&Aキャピタルパートナーズの専門部署。
大手の限界を考えるなら、こうした体制を認めたうえで、組織全体に備わっている機能と、あなたが今回依頼する業務の範囲は別だと整理する必要があります。
例えば、日本M&Aセンターの公開料金では、会計士・税理士・弁護士等の費用は報酬に含まれない旨が示されています。専門家がいるという説明だけで、自分側の税務申告や契約審査まで料金内だと考えず、担当範囲を確認してください。
| 会社の説明から分かること | あなたの案件について別に確認すること |
|---|---|
| 成約実績が多い | 担当者自身の経験と、現在並行して抱えている案件 |
| 買い手を探す仕組みがある | あなたの会社について、どの候補を、なぜ選ぶのか |
| 社内に専門家がいる | その専門家があなたの案件に関与する条件、役割、追加料金 |
| 売却後のサービスがある | 別会社・別契約か、引継ぎ後に誰が責任を持つか |
| 成功報酬制である | 不成立時の費用と、成立を見送る判断も説明してくれるか |
成功報酬の仕組みでは、取引が成立することが支援者の収入につながります。依頼者が成立を望んでいても、条件によっては見送るほうがよい場面があります。この利害のずれは、上場会社に固有の問題ではなく、独立したアドバイザーにも当てはまります。
「上場しているから安心」で判断を終えず、また「小さい会社だから親身」とも決めつけず、契約と担当者の説明を具体的に比較することが必要です。
最後は、あなたの決断に向き合う担当者を選ぶ
M&Aのプロセスでは、相手の提案や新たに分かった事実に応じて、その場での判断や交渉の切り返しが求められます。そのため、実は担当者個人の経験や判断力に左右される、かなり属人的な一面もあるのです。
M&Aを支援する担当者にとっては職業上の仕事でも、会社を譲るあなたにとっては、経営者として積み重ねてきた人生の一大イベントです。価格だけで割り切れないこともあるはずです。
従業員の雇用、取引先との関係、家族の理解、個人保証、売却後に仕事を続けるかどうか。これらを整理せず、成約だけを目指しても、あなたの望む結果になるとは限りません。
当社では、代表取締役の柳澤賢仁自らがM&Aアドバイザーを務めています。自身もあなたと同じように事業を営むオーナー経営者として、オーナー経営者が会社を譲る決断に向き合うことを大切にしています。 会社の株式を売る手続だけでなく、その決断が経営者自身の人生に何をもたらすのかを、一緒に考える。それが当社の支援の姿勢です。
もちろん、雇用されている担当者にも経営者への理解が深い人はいます。自営業者であることだけで、交渉力や専門性が証明されるわけでもありません。実際の面談で、次のような点を確かめてください。
| 担当者に聞くこと | 確かめたいこと |
|---|---|
| この規模・業種で、どの工程を自分で担当してきましたか | 会社の実績と本人の経験を分ける |
| 相談からクロージングまで、誰が主担当ですか | 営業時の説明者と実務担当者の違い、交代時の体制 |
| 今の条件なら売らないほうがよい、という判断もありますか | 成約以外の選択肢を説明できるか |
| 価格以外に、先に決めておくべきことは何ですか | 従業員・保証・残存責任・売却後の生活への理解 |
| 税務と法律の判断は、誰にどこまで依頼しますか | 専門性の範囲と、外部専門家との役割分担 |
手数料、税引後の手取り、売却後の責任を一枚にする
比較の最後には、各社の説明を、あなた自身の条件に引き直します。
株式代金・退職金等を分ける
仲介報酬・専門家費用・税金
保証・補償・引継ぎ義務
仕事・家族・財産の計画
安い手数料でも、買い手の選定や契約条件で大きく不利になれば意味がありません。逆に、高い手数料であれば十分な支援が含まれるとも限りません。費用と支援内容を並べ、その担当者に任せる理由を言葉にできるかどうかが大切です。
当社は、業界としても、料金の算定基準、費用の総額、担当者の経験、専門家の関与範囲を、経営者が比較できる形で開示することが必要だと考えます。同じ「成功報酬」という言葉だけでは、依頼者が実質的な違いを判断しにくいためです。
株式会社柳澤総合研究所ではM&Aの相談を受け付けています。税務の論点は、グループの柳澤国際税務会計事務所の専門領域です。まずは、会社を譲って何を実現したいのか、何を失いたくないのかをお聞かせください。必要な業務と担当範囲を整理することから始めます。
本稿は2026年9月9日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。
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