
まず数えてみた
税法が読みにくい理由として、まっさきに挙がるのが括弧書きです。では実際にどれくらい入っているのか。法人税法・法人税法施行令・租税特別措置法の3つについて、条文の全文を e-Gov 法令検索から取得し、括弧の外の句点で文を区切って数えました。対象は8,875文です。
| 括弧の入れ子の深さ | 文の数 | 割合 |
|---|---|---|
| 括弧なし | 3,577 | 40.3パーセント |
| 1重 | 3,688 | 41.6パーセント |
| 2重 | 1,388 | 15.6パーセント |
| 3重 | 169 | 1.9パーセント |
| 4重 | 22 | 0.2パーセント |
| 5重以上 | 31 | 0.3パーセント |
いちばん深かったのは法人税法施行令第184条(恒久的施設帰属所得に係る所得の金額の計算)で、18重でした。この1文は6,471字あります。いちばん長い1文は法人税法施行令第8条(資本金等の額)の13,853字で、こちらは3重です。
括弧の中身も数えました。3つの法令に括弧は20,534個あり、内訳はこうなっています。
| 括弧が担っている役割 | 個数 | 割合 |
|---|---|---|
| 言葉の定義(〜をいう。/〜という。) | 6,147 | 29.9パーセント |
| 条名・見出しの注記 | 3,594 | 17.5パーセント |
| 除外(〜を除く。) | 2,418 | 11.8パーセント |
| 限定(〜に限る。) | 1,900 | 9.3パーセント |
| 適用範囲の指定(以下〜において同じ。) | 1,391 | 6.8パーセント |
| その他 | 5,084 | 24.8パーセント |
読み手にとって効くのは、除外と限定を合わせた4,318個(21.0パーセント)です。ここを読み落とすと、結論がひっくり返ります。
民法と比べてみる
この重さは税法だけのものなのか、それとも法律全般がこうなのか。同じ数え方で20の法令を比べました。指標は1文あたりに括弧がいくつ入っているかです。少ない順に並べます。
| 法令 | 区分 | 1文あたりの括弧 | 1文の平均字数 | 最も深い入れ子 |
|---|---|---|---|---|
| 行政事件訴訟法 | 行政法の一般法 | 0.39 | 85字 | 2重 |
| 民事訴訟法 | 手続 | 0.50 | 82字 | 3重 |
| 民法 | 私法 | 0.51 | 73字 | 2重 |
| 労働基準法 | 行政法(規制) | 0.56 | 109字 | 2重 |
| 商法 | 私法 | 0.60 | 77字 | 2重 |
| 行政不服審査法 | 行政法の一般法 | 0.68 | 98字 | 2重 |
| 刑法 | 刑事 | 0.71 | 73字 | 1重 |
| 会社法 | 私法(技術的) | 0.72 | 113字 | 6重 |
| 行政手続法 | 行政法の一般法 | 0.75 | 119字 | 2重 |
| 国家公務員法 | 行政法(組織) | 0.75 | 107字 | 3重 |
| 建築基準法 | 行政法(規制) | 0.87 | 140字 | 3重 |
| 道路交通法 | 行政法(規制) | 1.00 | 130字 | 4重 |
| 金融商品取引法 | 行政法(金融規制) | 1.17 | 161字 | 4重 |
| 相続税法 | 税法(実体) | 1.22 | 174字 | 2重 |
| 消費税法 | 税法(実体) | 1.48 | 199字 | 3重 |
| 国税通則法 | 税法(手続) | 1.51 | 146字 | 3重 |
| 租税特別措置法 | 税法(特例) | 2.01 | 272字 | 12重 |
| 所得税法 | 税法(実体) | 2.41 | 233字 | 13重 |
| 法人税法 | 税法(実体) | 2.68 | 265字 | 9重 |
| 法人税法施行令 | 税法(政令) | 3.48 | 319字 | 18重 |
民法は0.51、法人税法施行令は3.48。約7倍の開きがあります。1文の長さも73字に対して319字で、4倍を超えます。
ここまでは予想どおりでした。意外だったのは次です。
「行政法だから」ではなかった
括弧が多いのは行政法の特徴だ、という見方があります。数字はこれを支持しませんでした。
行政法の一般法とされる3つを見てください。行政事件訴訟法は0.39、行政不服審査法は0.68、行政手続法は0.75です。民法の0.51とほぼ同じ水準で、刑法(0.71)や会社法(0.72)とも変わりません。行政法だからといって括弧が増えているわけではないのです。
並べ方を変えると、もっとはっきりします。
| グループ | 1文あたりの括弧 |
|---|---|
| 私法・刑事法・手続法(民法・商法・刑法・民事訴訟法) | 0.50〜0.71 |
| 行政法の一般法(行政事件訴訟法・行政不服審査法・行政手続法) | 0.39〜0.75 |
| 行政法のうち規制法(労働基準法・建築基準法・道路交通法・金融商品取引法) | 0.56〜1.17 |
| 税法 | 1.22〜3.48 |
括弧の多さは「行政法かどうか」ではなく、金額を計算する条文かどうかに沿って並んでいます。税法の中でも、税額の計算そのものを定める実体法(所得税法2.41、法人税法2.68)が、手続を定める国税通則法(1.51)より重い。そして法律(2.68)より政令(3.48)が重い。細かい計算に下りるほど、括弧が増えています。
極端な例で比べる
それぞれの法令で「1つの文に括弧がいちばん多く入っているもの」を探しました。
| 法令 | 1文に入っている括弧の数 | その文の字数 |
|---|---|---|
| 民法(第264条の2・所有者不明土地管理命令) | 4個 | 253字 |
| 法人税法(第82条の3) | 55個 | 3,950字 |
民法にも括弧が入れ子になっている文はあります。ただし民法全体で6つだけです。第13条(仲裁合意)、第264条の8、第264条の14、第398条の2、第404条、第819条。深さはいずれも2重で、3重はありません。
しかもこの6つは、条文が引用している法律を見ると、仲裁法(平成15年法律第138号)、電子記録債権法(平成19年法律第102号)、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(平成16年法律第151号)です。入れ子になっているのは、いずれも後から差し込まれた技術的な規定のほうです。民法の本体である債権や物権の規定は、括弧がほとんどありません。
括弧が難しいのは、深いからではない
先に結論を書きます。5重、10重という深い括弧は、実は全体の0.3パーセントしかありません。そして実務で読み間違いが起きるのは、たいてい2重か3重のところです。
難しさの正体は深さではなく距離です。括弧が開いてから、それを受ける「〜を除く。」「〜に限る。」までが何百字も離れている。その間ずっと「これは除外の話だ」と覚えたまま読み進めなければならない。人が落ちるのはここです。
税理士が条文を読むときに蛍光ペンで括弧ごとに色を分けるのは、この距離を目で見えるようにするためです。以下、実際に色を付けてみます。
まず1つ、色を付けて読んでみる
住宅ローン控除(租税特別措置法第41条)の冒頭です。227字、括弧は2重です。色は1階層目を黄、2階層目を緑にしています。
個人が、国内において、居住用家屋の新築等(居住用家屋(住宅の用に供する家屋で政令で定めるものをいう。以下第三十一項までにおいて同じ。)の新築又は居住用家屋で建築後使用されたことのないものの取得(配偶者その他その者と特別の関係がある者からの取得で政令で定めるもの及び贈与によるものを除く。以下この項、第十項、第二十項、第二十一項、第二十七項及び第三十五項において同じ。)をいう。以下この項及び第三項、次条第三項第四号並びに第四十一条の二の二において同じ。)
色が付くと、この文の骨格が見えます。
| 階層 | 読み方 |
|---|---|
| 骨格 | 個人が、国内において、居住用家屋の新築等〔 〕 |
| 黄(1階層目) | 「新築等」とは何かの定義。中身は「居住用家屋〔 〕の新築」または「建築後使用されたことのないものの取得〔 〕」の2つ |
| 緑(2階層目・前) | 「居住用家屋」とは何かの定義。「住宅の用に供する家屋で政令で定めるもの」 |
| 緑(2階層目・後) | 取得から外れるものの指定。「配偶者その他その者と特別の関係がある者からの取得で政令で定めるもの及び贈与によるもの」 |
2階層目の後ろ、緑の中に大事なことが書かれています。身内から買った家は、住宅ローン控除の対象から外れることがあるという話です。骨格だけ読んでいたら、絶対に気づきません。
ただし、ここでもう一段の注意が要ります。条文は「配偶者その他その者と特別の関係がある者からの取得で政令で定めるもの」と書いています。外れるのは政令が定めたものだけであって、身内からの取得が全部外れるとは書いていません。どこまでが外れるのかは、政令を見なければ決まりません。括弧の中に、さらに限定が入っているわけです。
深さより距離が事故を起こす、という実例
次は法人税法第2条第12号の14、適格現物出資の定義です。1文で896字あります。深さは3重で、統計上は上位2.4パーセントに入る程度、特別に深いわけではありません。色は1階層目を黄、2階層目を緑、3階層目を桃です。
次のいずれかに該当する現物出資(被現物出資法人である外国法人に国内にある不動産その他の政令で定める資産(以下この号において「国内不動産等」という。)、国内事業所等(内国法人にあつては第六十九条第四項第一号(外国税額の控除)に規定する本店等をいい、外国法人にあつては恒久的施設をいう。)を通じて行う事業に係る資産(外国法人の発行済株式等の総数又は総額の百分の二十五以上に相当する数又は金額の株式を有する場合におけるその外国法人の株式を除く。)若しくは負債(以下この号において「国内資産等」という。)又は内国法人の工業所有権、著作権その他の政令で定める資産(以下この号において「無形資産等」という。)の移転を行うもの(当該国内不動産等、国内資産等及び無形資産等の全部が当該移転により当該被現物出資法人である外国法人の恒久的施設を通じて行う事業に係る資産又は負債となるものとして政令で定めるものを除く。)、外国法人が内国法人又は他の外国法人に第百三十八条第一項第一号(国内源泉所得)に規定する本店等(以下この号において「本店等」という。)を通じて行う事業に係る資産(国内不動産等を除く。)又は負債(以下この号において「外国法人国外資産等」という。)の移転を行うもの(当該他の外国法人に外国法人国外資産等の移転を行うものにあつては、当該外国法人国外資産等の全部又は一部が当該移転により当該他の外国法人の恒久的施設を通じて行う事業に係る資産又は負債となるものに限る。)及び内国法人が外国法人に第六十九条第四項第一号に規定する国外事業所等を通じて行う事業に係る資産又は負債(以下この号において「内国法人国外資産等」という。)の移転を行うもので当該内国法人国外資産等の全部又は一部が当該移転により当該外国法人の本店等を通じて行う事業に係る資産又は負債となるもの(国内資産等の移転を行うものに準ずるものとして政令で定めるものに限る。)並びに新株予約権付社債に付された新株予約権の行使に伴う当該新株予約権付社債についての社債の給付を除き、現物出資法人に被現物出資法人の株式のみが交付されるものに限る。)をいう。
黄色が1つしかないことに気づかれたと思います。この文は、1階層目の括弧がたった1つで、その中身が875字あります。そして、その括弧が開いてから、それを受ける「を除き」という言葉が現れるまでの距離が856字です。
骨格だけを取り出すと、これだけの文です。
次のいずれかに該当する現物出資〔 〕をいう。
そして黄色の中身875字を、その階層の読点で割ると、5つに分かれます。
| 括弧の位置 | 役割と、ほかの文言との関係 |
|---|---|
| 国内不動産等の定義 | 除外対象となる国内資産の1類型を定義します。この定義だけで独立した除外条件になるわけではありません。 |
| 国内資産等の定義 | 国内事業に係る資産等という、同じ除外規定に属する別の類型を定義します。 |
| 無形資産等の定義 | 内国法人が有する無形資産等の範囲を定義します。上の2類型とともに国内資産側の除外対象を構成します。 |
| 外国法人等が関係する取引の除外 | 国内資産側には、資産の全部が外国法人の恒久的施設に属する資産となる場合として政令で定める場合の例外があります。さらに、国外資産の移転等の別の除外類型を並べています。各類型と例外を分けて読みます。 |
| 交付対価の限定 | 原則として被現物出資法人の株式のみが交付されるものに限るという条件です。その後のイ・ロ・ハの要件と併せて判定します。 |
5行に分けると、長い括弧書きを追いやすくなります。ただし、読点で区切った行が、それぞれ独立した要件になるわけではありません。国内不動産等・国内資産等・無形資産等は一つの除外類型の対象の列挙で、その全部が移転先の外国法人の恒久的施設に係る資産・負債となる一定の場合は、さらに除外から外れます。行同士の関係と、除外の例外を原文で確認する必要があります。ところが1文のまま読むと、最後の「〜に限る。」が、直前の除外を狭めているのか、それとも全体にかかる要件なのかが、瞬時には判断できないのです。
正解は後者です。「〜を除き、〜に限る。」という形で、除外と限定が並んでいます。しかし856字の距離を挟むと、ここを取り違えます。深さ3重、距離856字。この2つが揃うと、条文を読み慣れた者でも読み違えます。
蛍光ペンでやっていることを、手順にする
色分けは目的ではなく、次の手順を実行するための道具です。条文を読むときは、この順で進めます。
| 手順 | やること |
|---|---|
| 1 | 括弧を全部たたんで、骨格だけを読む。まず主語と述語をつかむ |
| 2 | 1階層目の括弧を1つずつ開ける。開けたら、その括弧が「定義」なのか「除外」なのか「限定」なのかを先に決める |
| 3 | 除外と限定は、必ず何を受けているかを線で結ぶ。距離が離れているものほど、ここで間違える |
| 4 | 「政令で定める」「財務省令で定める」が出てきたら、そこで止める。中身は条文には書かれていない |
| 5 | 最後にもう一度、骨格に戻って通しで読む。除外と限定を入れた状態で、結論が同じかを確かめる |
手順3が要です。税理士は、条文を読む際によく蛍光ペンを使います。印を付けて条文の構造を整理し、括弧の中身や「〜を除く。」「〜に限る。」がどこにかかるのかを確かめます。
実務で迷いが生じるところ
- 括弧の中の「政令で定めるもの」は、条文だけでは範囲が決まりません。政令・省令まで下りて初めて、対象になるか外れるかが決まります。
- 「〜を除く。」と「〜に限る。」が同じ括弧の中に並んでいるとき、どちらがどこにかかるのかは、読点の位置で決まります。読点を1つ読み飛ばすと、結論が反対になります。
- 「以下この項において同じ。」は、その定義がどこまで生きるかの指定です。項が変われば同じ言葉でも別の意味になることがあります。
- 枝番号は、既存の条番号を変えずに規定を追加する際などに使われます。枝番号の有無だけで現行文章の作成時期は判断できません。前後の条と同じ構造だと決めつけずに読みます。
- 条文を引用するときは、括弧書きを省略しないでください。「(〜を除く。)」を落とした引用は、引用ではなく別の条文になります。
- 深い括弧より、長い括弧のほうが危険です。深さは目で見えますが、距離は見えません。
出典と、この記事の作り方
- 条文はすべて e-Gov 法令検索の法令API から取得した原文です(取得日 2026年9月6日)。法人税法、法人税法施行令、租税特別措置法の3法令を対象にしました。
- 色分けと分解表は、括弧の対応を数えるプログラムで機械的に作っています。手作業では入れていません。
- 引用した条文は、租税特別措置法第41条第1項(住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除)と、法人税法第2条第12号の14(適格現物出資)です。
- 統計の対象は、法人税法・法人税法施行令・租税特別措置法の8,875文、括弧20,534個です。文の区切りは、括弧の外にある句点としました。
- 他法令との比較は、民法・商法・刑法・会社法・民事訴訟法・行政手続法・行政不服審査法・行政事件訴訟法・労働基準法・国家公務員法・建築基準法・道路交通法・金融商品取引法・国税通則法・所得税法・相続税法・消費税法の全文を同じ方法で数えたものです。いずれも e-Gov 法令検索の法令API から2026年9月に取得しました。
本稿は2026年9月12日時点の法令に基づく一般的な解説です。実行の前に必ず個別にご相談ください。
記載には注意を払っていますが、誤りにお気づきの際はお問い合わせよりご一報いただけると幸いです。

